王子から結婚してくれと言われた。異世界に転移した私は日本では醜いと言われ仮面を付けさせられた。こんな私に求婚していいの?
加筆修正してカクヨムに載せています。
私は麻丘麻耶、反美高校2年生、初夏の太陽が眩しい。今日も学校に行くのが辛い。電車から見えるビル群は畑に変わり2時間をかけて田舎の公立高校に通う。超進学校で古い校風のこの学校は今でもセーラー服でリボンも自分で結ぶ。ここでも私は入学初日に有名になった。電車の中でまたこそこそ話し声がする。もう慣れた反応だ。
~入学式~
「ねえ、あの子仮面を被っているわ」
「知ってるわ。あの子有名よ」
「昨日の伯爵仮面とかぶるわ」
「あの番組は昨日最終回だったわよ。王子が『本当に醜かったのか。ドブス』と言って別れるシーンは感動したわ」
「そうよね。最後のシーンは圧巻だったわ」
「わかるわ。王子の手にあった本よね。『醜いアヒルの子』でしょ」
「本当にいい話だったわ。ある意味裏切られたわ。醜い子だから仮面を付けて育てられたのだけど仮面の下は本当に酷く醜い子だったのよ」
私の両親と私には血の繋がりはない。私は特別養子縁組でもらわれた。もう家に帰るのも嫌になる。両親は毎日のように喧嘩をしている。きっと今日も喧嘩をしているんだろう。
「あなたがあんな子を貰ってくるからこんな辛い目にあってるのよ」
「お前だって賛成しただろ」
「こうなるとは思わなかったのよ」
「二人で面接してもらったんだから仕方ないだろう」
「あのときは赤ん坊で他の子と同じように猿顔だったのよ」
「あたりまえだろう。赤ん坊のときはみんな猿顔だ」
「でも、そのまま私達のように綺麗に変化しなかったわ」
「だから、仮面をつけさせているだろう」
「あの子が帰ってくるわ。もうあの子に出て行ってもらわない!!!」
「そうだな!!二人の幸せのために今度こそ醜くない子をもらってこよう!!!」
“キンコンカンコーン、キンコンカンコーーーーン”
『はー。また2時間電車か……』
「ねえ、あの子……」
電車の中でまたこそこそ話し声がする。
人目を気にしなくて済むどこか違う世界に行きたい。
このまま飛び降りたら行けるかなー?
『帰りは……疲れが……眠い』
「あ!寝過ぎた!」
ここは何処の駅?
廻りを見渡せば中世ヨーロッパのような服装をしている人たちが?
「ドン」
「痛い!」
「お嬢さん馬車に乗るときは厚手の生地を尻に敷かないと痛いよ」
正面の中年の紳士が声をかけてくれた。
廻りをよく見ると赤レンガの建物が並ぶ。
電車ではなく乗り合い馬車のようだ。でも不思議と違和感はない。どうせ家に帰る気はなかったから。
「あのう、すみません、私はいつからこの馬車に乗っていましたか?」
「そういえば、お嬢さんはどこから乗ったかな?」
誰も私がどこから乗ったのか憶えていない。
カバンは……あった。
中味は……今日の授業で使った教科書が入っている。スカートもリボンそのままだ。スマホもあるけど電池切れだ。
「あ、仮面が!!!」
中年の紳士が笑いながら、答えてくれた。
「君の服装は見たことがないし、面白い仮面を付けていたから悪いと思ったけど仮面が外れていたので、素顔を見てしまったよ」
「それはすみません。醜いものを見せてしまいました。ほんとすみません」
「仮面はどこにありますか」
「頭の上にあるよ」
私はすぐに仮面を被った。
「そんなにあわてて仮面をしなくてもいいよ。それに君はそんな面白い仮面をつけなくても人の気を引くことはできるよ」
どこかの駅に着いた。終点のようだ。馬車は駅員に前払をしないと乗れないらしく、私は払っていることになっていた。何処にも行くあてもなくウロウロしていると先程の中年の紳士が声をかけてきた。
「お嬢さんはどこにも行くところがないのかい?」
「はい、初めて来たので勝手が分かりません」
「そうであれば私の屋敷に来ないかい?」
「いいのですか?」
「ぜひとも来て欲しい」
迎えが来るというので中年の紳士と待っていると、乗合馬車とは大違いの豪華な馬車がきた。
「旦那様、お待たせしました」
「ゴルドン急なことですまない」
「いいえ、これが私の務めですから」
「国際会議が1日早く済んだから予定より早く帰ってきてしまった」
「共の者はどうしたのですか」
「ああ、置いて帰った。あいつらはいちいち五月蠅いからな」
「今頃コビッチは怒ってますぞ」
「たまにはやつにも刺激が必要だからな。会議中鼻提灯だったぞ」
「申し訳ありません。不肖の息子でして鍛え直しておきます。ところでそちらの面白い仮面のお嬢様は?」
「こちらの方は馬車で一緒だった人だ。我家に来てもらうことになった」
「仮面を外してもらったほうがいいのではないですか?」
「いや、いい。恥ずかしいそうだ。素顔は知っている。問題ない」
「そうですか。旦那様がいいのであればかまいません」
馬車の中で、カバンには何が入っているのか尋ねられたから、教科書と筆記用具を出して見せたら、
「これは便利なものですな。見たこともない。あらためて見せていただけますか。
私の工房で作ってみたい。それとこの本の字は何語ですかな。初めて見る言語ですな」
「え、これは日本語ですけど?」
「それはどこの国の言葉ですかな?」
「いえ、私が話している言葉と同じですよ」
「いいえ、あなたの言葉は正当キロハル語ですよ」
「え、ここはなんという国ですか」
「キロハル王国ですよ」
「……」
「その本を少し読んでいただけますかな」
「面白くないですよ、古典のさわりですが……」
『祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、 盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もつひにはほろびぬ、ひとへに風 の前の塵に同じ……』
「どういう意味ですか」
「簡単に言うと『世に栄え得意になっている者も、それは長く続かず、いずれ衰え滅びる』みたいな感じです。すみません古典はあまり得意ではないのです」
「いや、感動したし、考えさせられました。私も自分の地位にあぐらをかいていてはいけませんな」
なんだかんだと教科書とノートを見せることになった。数学に関しては数字と記号は同じだったので理解をしてもらった。
そういえば、乗合馬車にいた人たちといい、駅にいた人たちといい、不自然に感じなかったのは私と近い顔立ちだったからだろう。
私のいた2151年の日本はどこもかしこも豚顔だらけだった。両親も黒豚と白豚だった。私は美的感覚がおかしいのだと思っていた。
「あの~。後ろから馬に乗った変な人達がついて来てますよ」
「ああ、彼らか。あれは私の護衛だ。怪しい者ではない」
前方にも騎士のコスプレをした人がいる。
馬車が止まった。
「旦那様、セレスト奥様がお迎えになっています」
「あなたーおかえりなさい。国際会議はどうでしたか?」
「ああ、またカリメア興国が決議案に反対した。これで世界情勢はまた不安定になった」
「また、カリメアですか……」
「お父さんお帰りなさい」
「おお!きちんと勉強していたか」
「もちろんだよ。これでも学年一位だよ」
私は馬車の中で外をみている。どでかいお城とずらっと並んだメイドたち。入口には騎士さんが立っている。
「ところで、その面白い仮面をしたお嬢さんはどうなさったの。まさか新しい……ではありませんよね」
「まさか!私にはセレストだけだよ」
「そうですわよね。で、その子は?」
「ああ、我家で働いてもらうことになったが、君専用についてもらおうと思う」
「いいですけど、その仮面は?はずさないのですか」
「ああ、恥ずかしいそうだ。素顔は知っているからかまわない」
「あなたがいいのであれば構いません」
「お父さん、その面白いおもちゃを僕にいただけないのですか?」
「お前はお嬢さんとは釣り合わない。知識も器量も全く足りてない!!」
「そんなことないよ。学年一位更新中だし、これでもファンクラブもあるんだよ」
「それはお前の勘違いだ。ここで話しても仕方ない!」
私はゴルドンさんに案内されて広い部屋を与えられた。とても憶えられそうにないくらい沢山の部屋がある。王宮という表現がふさわしい。
「食事はこの部屋の正面前のローカの突き当たりの部屋でございます。18時になったら来てください」
「はい、前の部屋ですね」
時計も立派な鳩時計だ。
ゴルドンさんが質問してきた。
「お名前を伺っておりませんでした」
「あ、そうですね。急展開で慌ててました。麻丘麻耶といいます」
「マヤ様ですか。かわった名字ですな」
「マヤが名前でアサオカが名字です」
「マヤ・アサオカ様ですか。よいお名前だ」
「恥ずかしいです」
「それはそうとこちらにお着替えください」
「あのー。これはメイド服ではありませんよ」
「はい、旦那様がこちらに着替えていただきお食事に来ていただくよう申し使っております」
「あのー。仮面を着けたままで失礼ではないでしょうか」
「旦那様がいいと言われてます。環境に慣れて外す気になったら外されたらいいですよ。お疲れでしょう。時間がありますからお風呂に入られて休憩されるといいでしょう」
「あー。疲れた。なんか急展開過ぎて頭が混乱したわ。でもみなさん優しい人でよかった」
私は油断してしまった。セーラー服のままベットに横になったらそのまま寝入ってしまった。
「あら、食事の時間になりましたけどマヤ様が来られませんね」
「そうだな様子を見に行くか」
「私も行きますわ。女性の部屋に殿方が一人で伺ってはいけませんわ」
「かあさん。仮面女なんか誰も襲わないよ。ははは」
「あなたは黙って食事していなさい」
「はい」
ゴルドンは執事兼護衛なので一緒にいる。
「ギーーーーー」
ゴルドンがドアを開ける。
「あらら仮面がずれてるわよ」
「どうだ。すごいだろ」
「そうね。これは……見たことないわ。ユートリはどうするのかしら」
「それにこれを見てごらん。彼女のもっていた書籍とノートだ」
「これは読めませんわ。何語でしょうか。このノートに書いてあるのは微分と積分ですわ。簡単に解いてますね。
私はこれでも王立アカデミーを首席で卒業したのですよ。
私もよくわからないわ。これは教授レベルでないと解けない問題だわね。
この実験図は極秘に進めている植物からアルコールを抽出する方法よ。とんでもない子ね」
「あとでゴルドンに迎えさせましょうか」
「そうだな。我々が来たことを知ったら慌てるだろうからな」
「トントン」
ドアの向こうでゴルドン様の声がする。
「マヤ様お迎えに来ました」
「あー!!寝てた!!!」
仮面がずり下がっていた。見られなくて良かったわ。
「すぐ着替えます!!!」
白いドレスに着替え終わった頃にゴルドンさんが再び迎えに来た。広い廊下を渡る。ピカピカだ。すれ違うメイドがゴルドンさんに頭を下げる。
正面からどこかの貴族であろうか偉そうに真ん中を歩いて廻りには部下らしい者を引き連れていた人が端に寄り深々と頭を下げ
「これはゴルドン様どちらへ行かれるのでしょうか」
「これから食事です。あなたはもう少し自重したほうがいいですよ。悪い噂もありますよ」
「それは私へのネタミで悪い噂を流す悪いやつがいるのですよ。ところでそちらの面白い仮面をした者は誰ですかな?何かの余興ですかな?それともゴルドン様の新しいチョメチョメですかな」
「それをゲスの勘ぐりと言うのですよ。では急ぐので失礼」
「ふん、国王の信頼をいいことに引退したというのに未だにウロウロしやがって!」
扉を開けると雪国……ではなく……広い部屋に豪華な食事とメイドが何人いるの?数え切れない。
「マヤ・アサオカ様がいらっしゃいました」
「マヤ様ですか。いい名ですな。こちらへ案内してくれ」
私は広い部屋の真ん中で食事をしている家族の輪に案内される子羊だ。
「私の前にいらして」
セレスト様がおいでおいでをしている。
「まあ、よく似合ってますわ」
「かあさま、私はこんなお面女に興味はありません」
「あなたそんなこと言って失礼ですよ」
「おい女、お前は学生だったんだってな。何年生だ!!」
「あ、はい、2年生でした」
「俺と一緒だな。俺の学校は王立アカデミー附属高校だ。この国で一番頭がいい者が通う学校の中で俺が入学から1番を続けている」
「すごいですね。私はそこまでいい成績ではありませんでした」
「そうだろう。俺は賢い。まあ解らない問題があったら教えてやってもいいぞ」
「はい、ありがとうございます。でも私は学校には……」
「マヤ様には明日からアカデミー附属高校に編入してもらいましょうよ」
「おお、そうだな。それがいい。ゴルドン、制服の用意をしてくれ」
「そう言われると思いましてすでに準備しています」
「さすがゴルドンだな。お前現役復帰しないか?」
「ははは、コビッチに経験させないとこの国の将来が心配ですからこのまま執事をさせていただきます」
「そうか、残念だ」
「マヤ様わからないことばかりでしょうが、ゆっくり慣れてください」
「ありがとうございます。とても助かります。でも私は働かないといけないのでは?」
「この馬鹿息子と一緒に学校に通っていただければそれが給金です」
「そんなのでいいのですか?」
「いや、むしろお願いしたい」
訳がわからない理由だけど仕事が学校に行くこととはありがたい。本当にいいのだろうか?
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「マヤ様おはようございます」
「あ、はい、おはようございます」
「これにお着替えください」
「あの、あなたは?」
「マヤ様付きとなったメリナと申します」
「あ、はい、よろしくお願いします」
アカデミー附属高校に通うことになった。いつも通り仮面を付けて学校に行く。
私はユートリの後ろに付いて歩く。
「お前、仮面を外さないのか。そんな面をつけていたら人が見るだろう。目立ちたいのか?」
「いいえ、目立ちたくないのです」
「いや、むしろ目立ってるぞ」
「ユートリ様よ!!」
「いつ見てもかっこいいわね!」
「あの後ろにいる面白い仮面をつけてる子は誰?」
「なかなか愉快ですわね」
「いいのではないの個性があって」
「ここは変わった子が多いですからね」
私を見る人は多いけど、前の世界のように奇異な目で見られることはなかった。
「今日から転校してきたマヤ・アサオカさんです。マヤさんは極度の恥ずかしがり屋なので仮面について誹謗中傷をしないようジャバル様から通知がきています。みなさんもそのように対処願います」
「では、今日の1時限目は魔法学について学びます。危ないので外に出てください」
魔法学?聞いたことないよ。
ユートリとは同じクラスだった。
「ユートリさん何でもいいから魔法を使ってください。くれぐれも以前のように調子にのって校舎に向けて発射しないでください」
魔法?アニメでしか見たことないよ。私できないよ。
「魔力の清泉たる神よ我に与えよファイャー」
フワッと出た火の玉がゆるゆると目前3メートル落ち葉の塊に落ちた。当然ながら火がつく。
「ウオオオーーーー」
歓声があがる。
「キャーーーー。ユートリー。カッコイイーーーー」
「え、え、あれでおしまい。魔法ってあんなもの。ライターでいいんじゃない?」
「すばらしいですね。ユートリさんの魔法は今日もキレキレですね。皆さんも練習してください」
各生徒が落ち葉にさらにファイヤーを放つ。いやそれマッチと名前を変えた方がいいのでは?
この程度がこの世界の魔法であるのなら魔法が使えなくても私は火薬で代用しよう。火山があるから硫黄もあるだろう。
「では、そこでモジモジしているマヤさん、ユートリさんの指名です。やってみてください。初めてですからできなくても恥ずかしくありませんよ」
「気にするな。できなくてもいいぞ。あとで俺が教えてやる」
「え~と、なんだっけ。あがってしまってど忘れした。できるわけないよ。だって魔法のない世界から来たんだもの」
「頑張れ」
「ファイト、マヤちゃん」
前の世界とは違ってみんなが応援してくれる。もういいや。できなくても失うものは元々ないんだもの。
「……ファイヤー」
「ズドーーーーーーーーーーーーーーン」
枯れ葉の山がなくなって後ろの木が根こそぎ黒焦げに燃えた。
「あわわわ……先生……私どうしましょう。弁償でしょうか?」
「いい、いい、いいえ、大丈夫ですよ……こんなの初めて見ました。今日はもう終わりましょう。校長に相談してきますわ」
先生に謝っている間にみんなは教室に戻っていた。遅れて教室に戻ると
「マヤちゃんすごーい。すぐにでも宮廷魔道士になれるよ」
「どうやって覚えたの」
「詠唱してなかったよね?」
私の廻りは女生徒でいっぱいになった。
「俺少しさびしいな」
これまでクラスの人気者だったユートリは少しひねていた。
「コホン、では2時限目は数値学です。マヤさんの教科書は明日になりますから隣のクララさんに見せてもらってください」
「はーい。見ていいよ」
「ありがとうございます」
え、えええ、ええええ、これ中学校の教科書ではないの?
「はい、この問題を解ける人、手を挙げて」
誰も挙げてない。恥ずかしいものね。私も嫌だ。
「はい」
「はい、ユートリさん。前に出て解いてください」
ユートリが10問ある数式をどんどん解いていく。
10問目でユートリの手が止まった。
「先生これは習っていません。解けません。たぶん解ける人はいないのではないですか」
「待ってください。これは……そうですね。私も解けないわ。それが分かるとはさすがユートリさんですね」
私は5年前に見た問題ばかりで、ついコックリと舟を漕いでいた。
「はい」
クララが手を挙げた。
「クララさんどうしました」
「最後の問題は、もしかしたらマヤさんが解けるかもと言ってます」
「えーーー。言ってません」
「だって頷いてたよ」
「ごめんなさい。舟漕いでました」
「アハハハハハハ」
「マヤさん授業は面白くないかも知れませんが、寝たらダメですよ」
「すみません」
クララは笑っているが悪い笑いではない。クラスのみんなも笑っているけどいい感じだ。
「ごめんごめん。ちょっと仮面からはみ出た鼻ちょうちんがおかしくて。これからも仲良くしようよ」
クララは謝ってくれた。
「一応、聞いておきますよ。答えは分かりますか」
「え~と、ルート2です」
「公式は書かないのですか」
「暗算です」
「そうですか。私も答えがわからないのでその勇気に免じていいでしょう。お座りなさい」
「マヤすごいね。アドリブで先生を負かしたよ」
この学校は1時限が90分なので疲れる。当然眠い授業はなお長く感じる。
昼食時間になった。みんなは弁当持参だ。私はよく考えたらなにも持ってきてない。
昼食くらい食べなくても死にはしないや。ユートリも目をつぶって机に座っている。ユートリも昼食抜きなんだ!
「マヤ様お待たせしました」
「遅いぞ」
「申し訳ありません。メリサ今日はお前か!」
「はい、マヤさんの分は私が作りました」
「俺の分はないのか」
「お待たせしました。こちらでございます」
「なんだ。ゴルドンが来たのか。ナーナはどうした」
「彼女には別の仕事を与えています。今日は校長から呼出がありましてついでに私がもってきました」
「まあいい。腹が減った。早く出せ」
「これはうまい。さすがナーナは俺の好みがわかっている」
「マヤ様お待たせしました。どうぞ」
「これはすごい量ですね。全部食べられません。メリサさんは食べたのですか」
「いいえ。私達最下層メイドはマヤ様の食べ残したものをいただきます」
「残さなかったら?」
「昼ご飯はありません」
「それでいいの?」
「生まれたときからそうですから気になりません」
「一緒に食べようよ」
「いいえ、そういうわけにはいきません」
「確か主人の命令は絶対でしたね。では、命令します。一緒に食べなさい」
「はい」
「一緒に食べた方がおいしいもの。それに私そんなに食べないよ」
話しているとメリサは小学校までしか行ってないことがわかった。
「勉強よかったら一緒にしない?」
「いいのですか?」
「いいよ。私もこの世界のことを教えて欲しいから。お互いに教え合おうよ」
「はい」
「メリサは料理上手だね」
「まだまだです」
「ゴルドン様彼女は何者ですか。まず、あの木を見てください。詠唱もしないで魔法を発動して木が炭になってます。
それにこの数値学の問題ですけど、この教科書ですが間違って昨年の王立アカデミー特別クラスの超難関問題を載せたようです。数値学の教師も解けなかった問題です。それを式も書かないで答えを出したのです。それも正解ですよ。
極めつけは科学の教科書のこの計算式の答えの間違いを指摘したのです。
これを書いたのは我国の最高科学者のニートン教授ですよ。教授に問い合わせてみたら彼女の指摘通りプラスの答えはマイナスが正解だったようです」
「ほほう。それはそれは。さすがセレスト様はすばらしい子を連れてきたものだ」
「どんな子ですか」
「彼女は将来この国の柱になる方だ。丁寧な対応を頼むぞ」
「ええ、わかりました。で、彼女の素顔はどうなんですか?」
「見たらびっくりするぞ。そのときを楽しみにしておくがいい。ははははは愉快じゃ」
私がこの国に来て1月が経過した。ときどき元の世界に戻るのではないかと寝起きはビッショリ汗をかいていたが、最近はそれもなくなった。
やっと安心してこの世界で過ごすことができるようになった。
でもまだ仮面は外せない。
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「かあさま。いいですか?」
「ユートリどうしました」
「ちょっと相談があります」
「なんでしょう」
「マヤのことです」
「マヤさんで何か気になることがありますか?」
「いえ、その、彼女は宮廷魔道士になれるほどの魔法が使えて、先生が解けないような問題も簡単に解いてしまうのに、なぜあんなに普通にしているのですか」
「そうですか。そう思うようになりましたか。彼女のことが気になりますか?」
「はい、実は最近は一緒にいると楽しいのです。それに彼女の側にクラスの男子が近寄ると腹が立つのです」
「それが何かわかりますか?」
「いえ、これまで持ったことがないので」
「気になりますか?」
「はい、彼女のことが頭から離れません」
「彼女は仮面をしていますよ。顔は見てないでしょ」
「いままで顔で女性の善し悪しを判断してました。恥ずかしい限りです。これまでの私は我が儘放題でした。馬鹿でした」
「あなたはこれまで恵まれすぎてました。私はいつ気づいてくれるのか少し心配していました。ジャバルも私と出会う前はあなたにそっくりでした。
私は元々平民の子です。あなたは平民の子でもあるのですよ。あなたの身分はあなたの物ではありません。国民からいただいたものです。これからはそれをよく考えて行動しなさい。そうすれば彼女もきっと……」
「わかりました。彼女にふさわしい男になるようにします」
「それでいいです。がんばりなさい」
「なにか吹っ切れました。かあさま。ありがとうございました」
「ねえ、ジャバル最近のユートリは変わったと思いませんか」
「ああ、いい子になった。これもマヤ殿があの子の鼻っ柱を折ってくれたからだな」
「それだけではありませんよ」
「そうか。そうだな。うまくいくといいな」
「いまのあの子ならきっと……」
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「マヤさん、この問題はどうやって解くの?」
「これはですね。これをこの式に代入すると解けますよ」
「あーそうだね。マヤさんはすごいね」
「そんなことないですよ。この問題は解いたことがあるからですよ」
「また教えてくれないかな」
「いつでもいいですよ」
「ねえ、あの二人最近雰囲気がいいわね」
「そうね。ユートリさんも最近角が取れていい男になったしね」
「あんた狙ってたでしょ」
「あんただってそうでしょ」
「みんなそうよ」
「そうよね。でも諦めたわ。あの子ではかなわないわ」
「でも仮面よ。顔なら勝てるかもしれないじゃないの」
「ダメよ。最近のユートリは顔に興味ないみたいよ。マヤさんがどんなに醜くてもたぶんマヤさん以外に興味を示さないと思うよ」
「はー。私顔に自信あったんだけどな。というか顔しか自信ないんだけど」
この世界にはゴムがない。だから最近は仮面が緩んでずり落ちる。ゴムがないので紐を緩く組んでゴムのようにしている。
いつかゴムの木をみつけたい。これから人生が長いからゴムがないと仮面を被るのに困る。
「さあ、風呂に入ろう」
でも風呂にも仮面は忘れない。万が一があるもの。
~数ヶ月後~
「マヤさん時間を空けて欲しいのだけどいいかい」
「いいいですよ。何かわからない問題がありましたか?」
「いや、違う。違わないが、違う。昼休みに体育館まで来てくれないか」
「キャァーーーーーー」
何?女生徒が黄色い声を上げた。
「ここではダメですか?」
「う~ん。できるなら体育館がいいな」
「そうですか。わかりました」
「すまない」
「ねえクララ体育館に一緒に来てくれない」
「ダメよ」
「どうして?」
「あなたユートリから体育館に来てくれと言われたのでしょ」
「そうなの。でも一人で来てくれと言ってなかったわ」
「バカね。それは一人で来て欲しいに決まってるじゃないの」
「あれ、でもなぜあなた体育館だと知ってるの」
「みんな知ってるわよ」
「え!どうして?」
「女子の顔を見てみなさい。その日が来たと覚悟しているでしょ」
「わからないわ」
「あなたが鈍感なのよ。いいから早く体育館に行きなさい!!」
アカデミー附属高校では告白は体育館ですることが恒例になっているからユートリがマヤを体育館に誘ったことで女子は自分の芽がなくなったことを悟っていた。
「あの~なんでしょうか?」
「その、あの、つまり、それが、え~と」
「こら、ユートリ早く言え。お前が言わないと私が代わりに言うよ」
クララが大声で叫んだ。
あれ!
体育館の換気用の下窓からクラスの女子が覗いている。
男子は来ていない。私に興味は示す男子はいなかったものね。
「あの。マヤさん。付き合ってください。できれば結婚してください」
(え、なに、どうしたの、狂ったの?)
「あのー。相手を間違ってませんか?」
「間違ってません。マヤさんです。いかがですか?」
「私でいいのですか」
「マヤさんがいいのです」
「私の顔知らないですよね」
「顔なんて関係ありません。僕はあなたの内面に惚れたのです」
「醜いですよ。前に住んでいたところではあまりにも醜いので小さいときから仮面をしていたのですよ」
「関係ありません。あなたがどんな化け物であっても僕の気持ちは変わりません」
体育館の下窓には他のクラスからも生徒が集まって覗いている。同じクラスの男子も集まっている。
「おい、知ってるか。ユートリがマヤに告白しているらしいぞ」
「あの仮面女か?」
「ああ、俺はないな」
「俺だってないぞ」
「あれはないよな」
「豚の仮面だぞ」
「あいつがそんな趣味とはなあ」
「面白いから行こうぜ。今年の大ハプニングだな」
「おいおい、人がいっぱいだぞ」
「教師まで来てるぞ」
「全クラスから集まったみたいだぞ」
女子はマヤを応援していた。
自分が美しいと思っているナルシスト以外は自分に自信がないものだ。
男子は面白い余興と思って見ていた。
「ユートリ様本当に私でいいのですか。きっと後悔しますよ。それに他の男子にからかわれますよ」
「それでもいい。僕は真剣にあなたが好きだ」
「それほどおっしゃるのであればありがとうございます」
「それはOKということかい?」
「はい。よろしくお願いします」
私は嬉しくて泣いてしまった。
私もずっとユートリが気になっていた。でも私には人を好きになる資格がない。そんな私を化け物でもいいと言ってくれた彼を信じよう。
小窓から女子の声援する声がする。
「マヤよかったね」
「幸せになるんだよ」
「ユートリかっこいい。見直したよ」
男子生徒は
「あれはないよなあ」
「豚仮面はないよなあ」
「ユートリもバカだよなあ」
女子生徒が男子生徒に
「あんたらは、顔で人を判断するんかい」
「年取ったらみんなシワシワになるんだよ」
「男子っていやよねー。顔で人を判断するんだから」
「私誠実な人がいいわ」
体育館ではマヤが肩をふるわせて泣いていた。
ユートリがゆっくり歩いてマヤを抱き寄せる。
マヤの涙で緩んでいた紐ゴムがずり落ちた。
「ウオーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「ガーーーーーーーーーーーーーーーーーーン」
「俺、バカだった」
「お前だけじゃない。俺も大バカだ」
「ハーーーーー」
「俺はアホだーーーーーー」
男子生徒の叫び声のあとは落胆の声があちらこちらから出ている。
ショックでその場にへたれ込んだ男子も多い。
仮面の下には誰も見たことのない美人がいた。
この学校の誰も寄せ付けない気品に溢れ、しかも嫌みではないとびきりの美人がいた。
そんな超美人が涙を流している。
どうみても絵になる。
ユートリはまだ気づいていない。それは抱いたままだからまだ顔を見ていないのだ。
ユートリの反応は誰もがわかるだろが想像にまかせたい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1年後二人は結婚した。
世界中の来賓が新婦の美しさに見とれていた。
女性でさえ見とれてしまう美しさだった。
彼女の後方では宰相のゴビッチがまた鼻提灯でこっくりこっくりしている。
非難されるかもしれないが彼はこの結婚式の手配の全てを寝ずに行ったのだ。
知性を持ち合わせ数々の発明をし、宮廷魔道士に勝る魔力を持ち、驕ることもなく国民を大切にする女性、その美しさも相俟ってマヤ王妃はキロハルの女神と崇められた。
初めて投稿した作品でした。
読んでいただきありがとうございました。