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【閑話】あけましておめでとう


宗介side


「…どうすんだ、これ。やべぇな」

「銀がちゃんぽんさせるからだろ!」

 

「絶対旦那達に怒られるじゃんかぁ…」 

「桃、お口に出すと現実になってしまいますわよ。キキ…私たちは先にお布団にお暇しませんこと?」

 

「そんなことしたら余計怒られるだろ!女子がいないのは問題だ。諦めろ」

「蒼は酔っても可愛いとは恐れ入りますね」

 

「…俺も知らなかったんだよ流石に…こいつが酒飲むのは初めて見たからな」


 

「土間しゃん。酔っ払いまちた」

「蒼…大丈夫かよ…」


 

 俺の膝の上に乗って顔を真っ赤にした蒼。……完全に酔っ払ってるが、自覚はあるんだな。

 三十歳まではファクトリーの中で年越しをするから、全員で集まるのが決まりになって、早めに集合して用意も終わっちまったし。

 蒼が連れてきたチビ達が寝て、昴達が到着する前に飲み始めて…ご機嫌になったまではよかったんだが。


「それにしても良くこんなに飲んだな」

 

 空ビンがゴロゴロしてるんだが。こいつ何リットル飲んでんだ。



 

「そーすけ…寒いからちゃーんと抱っこしてよぉ」

「お、おう…」

「そうじゃないでしょぉ、こうでしょ〜?ねぇ?」

「おう…」


 両手を引っ張られて、胸の前にクロスさせられる。

ヘロヘロの状態になった蒼を見て全員がこれはまずいと気付いた。

蒼が酔っ払うのは初めて見る奴らばかりで正直こうなるとは思ってなかったからな。

 授乳が終わったとはいえ、まだボリュームが増してるメロンが当たってる。……デケェ。



  

「…お酒おいちぃねぇ、みんなで飲むのは初めて…ふふ…」

「そうかよ。家では飲んでねぇのか?」

「たまーーーに。…あんまり飲ませてくれないんだもぉん」

 

「…子作りしてるからか?」

「んーん、レース期間が終わるころまでは…つくらにゃ…噛んだ。えへへぇ」


「「ゔっ…」」

「蒼が可愛すぎるんですが…」

「元からだろ…」

「それはそう」

 

 おい、やめろ。お前がとろんとした目で喋るたびにみんな蹲ってんだ。勘弁してくれ。

 



  

「そうだ!銀…告白断ったの…なんでぇ?」

「うっ。なんで知ってんだ」

「ファクトリーではねぇ、なんでも報告義務があって…みーんなで共有するんだよぉ」

「宗介のせいだな。理解した」


 


 銀が恨めしそうに睨んでくる。

 

「しょーがねぇだろ。そう言うもんだ、軍隊ってのは。今は関係ねぇが、習慣で勝手にしてくるんだよ」

「聞いてんなら同じだろ…」

 

「銀には、幸せになって欲しいなぁ」

「俺はもう幸せだから良いんだよ。恋人なんかいらねぇ」

 

「そうなのぉ?でも、ちゅーとか…そう言う…」

「俺がしてぇやつは一人しかいねぇ。あいにく売り切れてるがそれはそれでいいんだ」

「むむぅ」


 銀がニヤニヤしながら蒼のほっぺを摘んで笑ってる。お前も達観してんな。

好きな女の、子供の面倒見て幸せだっつってんだから大人になったもんだ。



 

「スネークと桃は…けっこんしゅるんでしょぉ?」

「はい、まぁ、はい」

「…そう、なりましたね」


 スネークと桃を攻略した奴らから聞いてるからな。蒼のアドバイス通りやって逃げられなかったんだよな。



 

「私…うれしぃなぁ…みぃんなが幸せになって欲しい…」

「蒼が生きてりゃみんな幸せだ。銀が言うようにもうなってるだろ?アタシも幸せだよ」

 

「キキ…うっ、う…キキはもっと幸せにしたい…どうしたら良いの…わたしの大好きなキキ……ひっく、ぐすっ」

「ちょ、おい…泣き出したぞ!宗介何とかして!」



 

 絡み酒に泣き上戸か。バラエティ豊かだな。膝に抱えた蒼を横抱きにして、頭を撫でる。


「ん…宗介のなでなで…すき」

「ん゛っ…そうか」

「子供達も、私の同期も、みぃんな好きだよ。宗介の手はおっきくて、あったかくて…優しくて…でも…私が片方無くしちゃった」


 蒼が両手で顔を覆って、本格的に泣き出す。



  

「私のせい。あったかかったのに…私がちゃんとしてれば…ごめんね、宗介…」

 

「ばーか。お前のせいじゃねぇ。泣く必要なんかねぇだろ。旦那達に認めてもらってんだから、腕一本で済んでありがてぇこった」


 本気で泣いてる蒼の周りに全員集まって慌ててる。

泣かせたかったわけじゃねーんだが…困ったな。

 


 

「宗介、大変だったでしょぉ…初めて使うものだもん。一生懸命頑張って、イライラしたこともあったでしょ…」

「まーな。この歳になって初めての経験ってのも良いもんだ。若返るだろ」

 

 

 別にこんな事、何でもねぇ。苦労したって達成することなんか分かりきってんだ。

 蒼を守れて俺的には満足しちまってるし腕の一本くらい何ともねぇのにな?

普段何もいわねぇが、酔って弱った時にこう言うってことはいつもそう思ってたんだな。

 たまに無言で俺の右手をじっと見てるのはそう言うことだったのかと得心する。


 

「元の手より反応がいいくらいだ。慣れりゃ何てことねぇ。蒼がいつまでも気にしてる方が俺は嫌なんだがな」


「…宗介のそう言うとこ、すき。だいすき。」

 

 むぎゅっと抱きつかれて、理解した。

 なるほど、これはいいぞ。


 

 

「…酒、まだあるか?」


「「「やめとけ」」」

「チッ」

 

 銀とキキ、土間に睨まれる。

…もうちっと飲ませりゃキスくらい出来そうなもんだが。


「蒼が気にすることなんざ何もねぇ。お前がやる事なす事全部が結果幸せなんだ。わがまま放題俺に言って、もっと甘えろ」

「んぅ…ん…。いいの?」

「あぁ。お前だけの特権だ」


 


 もう一度手を頭に乗せて、前髪をかきあげる。

すっかり伸びた髪を一房摘んで、キスを落とす。


  

「うっわ…キザ…」

「…それいいな?」

「顔にキスしたら旦那どもの鉄拳制裁だからな。」

「…そうだな」


「私もしたいですわ」

「雪乃は蒼にチューされたんだろ?」

「ふふっ♡」 

「「「「なんだって」」」」


「んにゃ…むにゃ…」

 

 蒼が目を閉じて、眠りにつく。

相変わらず頭撫でりゃすぐ寝るな…可愛いヤツだ。


 


「旦那がいないうちにチューしようかな」

「キキ、そう致しましょう」

 

「ずるいよ!女の子だけ!」

「桃、発言には気をつけてください。あなたも私も、もう口に出してはならないんですよ」

「出さなきゃ良いってもんじゃねぇだろ…ここの奴らは本当に変わんねぇな」


 土間が蒼の涙をティッシュで吸い取り、頬を撫でる。



 

「俺はこいつが孫みてぇなもんだ。ひ孫まで産んでくれて、幸せだな。レースもやってくれて、夢が全部叶ったんだ。蒼のおかげだ」


「土間は結婚してんのか?」

「昔はな。俺はレーサー辞める時のいざこざで別れた。熟年離婚ってヤツだ。子供もいねぇし気楽なもんだ。相手は再婚したしな」

 

「へぇ…詐欺に引っかかったんだろ?」

「そうだ。あん時ぁ昴にたまたま助けられたから、こうして生きてるんだ。ありがてぇよ」


 

「詐欺かぁ。僕もそんな感じだったし…人を恨みもしたけど、千尋にスカウトされてここに来れてよかったな…」

「フン。あいつも変わったよな。殺戮マシーンだったのによ」

「確かに。千尋は悪魔と言われてましたしね。」

「昴もだろ。慧も昔はヤンチャしてたぞ。口も悪かったしな」


 ほー。そう言う過去があるのか。


 


「トップスリーはそんなにヤバかったのか?」

「宗介ほどじゃないよ。幹部のアタシ達が元いた組織は、全部壊滅させられてるくらいだ。でもまぁ、人の使い方は熟知してる。

 前のボスよりある意味では、芯から残酷だったかもな」

「そうですわねぇ。私もそう思いますわ。」


「それが今はあんなデレデレか」

「そうだな。蒼のせいだ。蒼がみんな溶かしちまう。…でもさ、その蒼の大元はあんただろ?」

「あ?」


 キキが蒼の頬を突きながら、ニヤッと笑う。


 


「本人も言ってたぞ。自分の性格は宗介譲りだって。悔やんでも1円にもならんってヤツ」

「あぁ、そんなこと言ったな…俺自身は戦争ばっかりしてたから、そう言うもんを抱えても意味がなかったんだ」


「宗介の気質で育ってんなら宗介も恩人だな」

「確かにそうなりますね。」

「蒼の前向きな根本が宗介かぁ…フクザツ」



  

「蒼自身の性格もあるだろ。俺はこんな生優しいヤツじゃなかった。ゲンコツばっかりしてたしな」


「それさぁ、肉体言語ってやつだろ?蒼もそうだけどチビ達も蒼の同期も本気で嫌がっては無いよな。不器用な愛情ってやつか」

「…俺はそっち方面にゃ 頭が悪い。俺自身がそうやって育ってるだけだ」

 

「最初から軍隊だったのですか?私は途中参入でしたし…傭兵のスタートでその辺りは疎くて」

「スネークも戦争傭兵してたんだったな。俺はもともと兵隊の遺した孤児ってやつだ。そのまま引き取られてエリートコースだ。俺は優秀だったからな」

「ほぉ…」


「親御さんは両方亡くなってるのか?」

「あぁ。母親は知らねぇが、父親はなんかお偉いさんだったらしいぜ。もう全員死んだが国のお偉いさんに知り合いが大勢いたらしい」



 

「そうだ、宗介氏…私の知り合いでも名前を知っている人がいたぞ。国の重鎮だ。知り合いだ、とフルネームで話をすると色々うまく行くので重宝している」

「俺の名前使ってんじゃねぇよ相良…ここを直した金もそれか?」

 

「そうだ。認可も簡単に降りた。…真っ当に働いきたいならいくらでも働き口があったろうに、なぜ戦争へ?」


「親友がいたから。それに死んだ親のことは何も知らねぇぞ。それに縋ったっていい事なんかねぇだろ?自分一人で生きていくなら、自分の足で立つしかねぇんだ。甘ったれてる暇なんかねぇよ」

 

「…仰る通りです…」



 

「こう言うのを聞くと、確かに蒼の根っこを感じるよな…かっこいいはずなのになぜか妙なフィルターがかかる」

「確かにぃ〜。僕の奥さんも言ってた。かっこいいはずなのに、なぜか突っ込みたくなるって」

「男からしたら素直に尊敬してますが。女性は何故かそうなるようです。何が違うのか分かりませんが」


 スネークと桃が揃って首を傾げてるが、そりゃそうだ。俺がそうしてんだから。


 

 

「んー、あー、気配の操作ってわかるか?認識阻害みてぇなもんだ。癖になってんだよな…スネークならわかるだろ?

 ちっと強けりゃ戦場じゃモテてしかたねえ。食料の確保に行く時くらいにしか役に立たん。

 現場に女自体が少ないとはいえ、そう言うのはめんどくせーだろ?」

 

「あっ…あー、はい、なるほど。若い時からの熟練した兵士で…少年時代から強いなら、それはモテますね。雑学も豊富ですし…女性には苦労されたんですね…」

 

「まぁな。相手をしてても疲れるだけだしつまんねぇよ。俺は蒼に出会うためにそうだったんだ。今ではそう思える」



 

「クサイっつーの。…でもその認識阻害ってのを無くせば蒼も惚れるんじゃ無いのか?」

「キキ…応援したくなるのは分かりますが…」

 

「雪乃もそう思ってんだろ?三人も四人も変わらん。宗介を見てるとなんかこう、可哀想になる」


「憐れんでじゃねぇ。俺は望んでこの位置に居るんだ。

 計画ってもんがあるんだよ。いきなり認識阻害なんか解いてみろ。耐性のない蒼はびっくりして逃げちまうだろ?旦那どもに『傍にいていい』と許可を得たあたりから俺はちっとずつ慣らしてる最中だ」



 

 キキも相良も雪乃も驚いた顔になる。

 人間だって動物なんだからそんなもん簡単に出来るんだよ。

 蒼は支配力の圧力操作なら少しはできるし、慧あたりに教えりゃ殆どできそうなもんだが。普段からうまく隠して蒼にだけ見せてるんだろ、どうせ。

 昴と千尋は惚れさせてぇって気配がダダ漏れだ。蒼に対してだけだが、それも立派な気配操作だ。



 

「そんなにすごいのか?気配の問題なのか?」

「気になりますわねぇ?」

「ちょっと解いてみてくれよ!宗介氏の本気を見てみたい!!」


「あぁ?相良は本当にお転婆だな。やめとけ…相手に対して愛情がなけりゃ当てられて怖い目見るぞ?」

 

「何その…アニメみたいなの!!すごい!僕も見たい!」

「わ、私もです!」

「俺も見てぇ!」

 

「俺ぁ嫌なんだが。」


「あー…土間、蒼とちょっと離れてろ。一瞬だけだぞ?どうなっても知らんからな」


 ワクワクした六人が俺を取り囲み、蒼を抱えた土間が離れる。


「…3、2、1…」


 


 一瞬だけ阻害を解き、気配を戻す。

 こんなモンでどうにかなる奴らでもねぇか?


 

「…やばっ」

 

 相良が青い顔で呟いた瞬間、キキと雪乃がバターン!と倒れ込む。しゃーねーな、こいつらは非戦闘員だ。


「「ヤバい」」

「冷や汗が出るじゃねぇか…お前本当にヤベぇ奴だったんだな。」

 

「ふん、それで済んでるなら銀はいい方だ。慧は教えりゃ出来そうだぜ」

「カッコいい…ボクも教えてください先生」

「わ、私もお願いします」

「俺も…教えろ」


 男どもに食いつかれても嬉しくはねぇな。絡みつく女も面倒だが、むさっ苦しいのも俺は嫌だ。



 

「気が向いたらな。土間…もういいぞ」

「何だかわからんが、キキと雪乃は大丈夫なのか?」


 蒼を抱えて戻ってきた土間が蒼を膝に乗せてくる。一瞬だけ目を開き、微笑んだ蒼が胸元に顔を擦り寄せた。

 心拍数が抑えられなくなるだろ!全く…。

 


 

「大丈夫だ。当てられただけだから」

「何だかわからんがすげーんだな?」

 

「動物の勘みてぇなもんだ。女は勘が鋭いって言うだろ?」

「そりゃ納得だな」

 

「わたしも女子だぞ!」

「相良、そりゃ無理がある。ピンピンしてるだろお前」

「くそぉ…」


 くつくつと笑い合ってると、エレベーターの上がってくる音。ようやく旦那達が登場か。



 

「すまん、遅くなった…何事なんだこれは」

「酒臭っ。…蒼潰れてる?もしかして」

「キキと雪乃もか?全く…」


 スーツ姿の三人がジャケットを脱ぎながら、追加の食い物をテーブルに広げる。

 

 年越しそばか。いいな。


「蒼、そばが来たぞ」

「うーん…」

 

 酔っ払った蒼が抱きついたまま唸って起きねぇ。


「「「宗介…」」」

「そんな顔すんなよ、何もしてねぇ。ちゃんぽんさせたのは銀だぞ」

 

「宗介!裏切り者!」

「「「ほぉ?」」」


 


「な、何も起きてねぇんだからそんな目で見るな!」

「なんか挙動がおかしいよね?ホントに何もしてない?」

 

 慧がヤンキー座りで銀を睨め付ける。

 こいつもいい仕上がりになったよなぁ…目が昏い。おもしれーやつだ。


 

「してねぇ!おかしいのは宗介のせいだ!」

「宗介なんかしたのか?」

 

 千尋が横に座って、蒼の頭を撫でる。


「蒼にはしてねぇぞ。こいつらがやれって言うからな」

 

「何したんだよ」

「認識阻害を解いただけだ。お前とやり合った時にしただろ?」

「あー、あれか…ご愁傷様としか言えんな」


 慧を奪還した夜に千尋と本気で殴り合いしたからな。千尋は知ってる。こいつはびくともしなかった。夫三人はそんなもんとっくに乗り越えてる奴だ。


 


「千尋だけ知ってるのか。宗介、俺にも教えろ」

「嫌だね、めんどくせぇ。小出しにするのなんざ疲れてしょうがねぇ」

「勿体ぶって…しかし、蒼が全然起きないな…」


 反対側に座った昴がほっぺを突いてる。慧は銀と睨めっこ続行か。


 


「んー、年越しは起こしてやりてぇよな?」

「ああ、もう10分くらいしかないが…新年の挨拶しないと結構拗ねるんだ」

「去年は大変だったな…」


 二人がそう言うなら仕方ねぇな。


 


「んっ…あー。んーんー」

 

 全員が呆然として見てるが、俺は喉の調整中だ。


『あー、よし。蒼、飯だ』

「はっ!?宗介!!」


 昔の声色を出して話すと、蒼が目を覚ます。みんな俺の美声に驚いてんな?ふふん。



 

「元の声それなのか?」

「隠し武器が多すぎるだろ」

「…あれ?旦那様達いつの間に来てたの?さっき宗介の綺麗な声が…はっ!お蕎麦!」

「フン。能ある鷹は爪を隠すんだ。もうすぐ年が明けるぞ、蒼」

 

「わー、だから起こしてくれたの?ありがとう」

「おう」


 蒼をすぐに寝かせられるのも、起こせるのも俺だけの筈だからな。旦那達の顔がおもしれぇ。



 

「年越し前にお蕎麦食べなきゃ!」

「そうだった」

「そうなの?何で?」

「慧は知らなかったのか?年を跨ぐと災厄の切り捨てができなくて、縁起悪いんだぞ」

「そうなの?じゃあ早く食べないとだね。蒼も食べれる?」

 

「うん!おそば♪おそば♪」

「鬼おろしもあるぞ」

 

「千尋先生!ありがとうございます!!」

「作ったの俺なんだが」

「昴もありがとう」

 

「今年は俺が出汁の担当だからね」

「慧もありがとう!麺類の出汁は得意だもんねぇ」




 伸びっぱなしのキキと雪乃の前にも蕎麦が置かれて、全員で手を合わせる。

いただきます、と声が揃い蕎麦を啜る。

 

「うまい!うまい!!」

「宗介のそれ、ずっとやるの?」

 

 膝下で下ろした大根をもりもり入れてる蒼が下から聞いてくる。


「うまいもんはうまいって言うのが礼儀だろ?出汁もいいし、蕎麦もうめぇ。ポットにあったけぇつゆを入れてくるとは流石だな」

「ふふ、うちの旦那様達は優秀だねぇ」


 蒼が呟くと、三人夫が覗き込んでくる。



 

「蒼、酔ってないのか?」

「潰れてたのに…頭痛くない?」

「かわいい酔っ払いが見れると思ったのに…」


「酒なんぞ寝るか出しゃ終わるだろ?」

「うんうん。二日酔いになった事ないもんね」


「恐ろしい師弟だな」

「ふ、そんな気はしてた…」

「それはそうとして、そろそろキキと雪乃も起こしたほうがいいんじゃないか?」


 

 

 銀と桃が二人をペチペチ叩いて目が開く。


  

「はっ…あれ?あ、蕎麦の匂いだ」

「あらぁ?旦那様達もいらっしゃいますわね?」

「宗介に当てられて伸びてたんだよ、二人とも」

 

「相良さん…その様子だと大丈夫だったんですの?」

「一応戦闘員だからね。ただありゃキツイよ。気絶したほうが楽だ」

 

「それならもう忘れよ…蕎麦いただきまーす」

「大変!年明けまであと一分しかありませんわ!キキ!急いで!!」


 二人が急いでそばを食べ出したが間に合うのか?あれは。



 

「宗介なんかしたの?」

「お前には秘密だ」

「なーんでよぉ…ケチ」

「ふふん。大根よこせ」

「あっ!もう。そこに沢山あるのに…んふふ…」


 蒼が含み笑いして、全員の視線が降り注ぐ。

 年越しも年明けも蒼と一緒にいられるなんて、幸せすぎるだろ。ここにいる全員がそう思ってる。視線で心の内がわかるようになる仲間が増えたのは、俺も気分がいい。


 


「三十歳過ぎても、こうやって集まりたいね。みんなで新しい年を迎えるなんて幸せだなぁ」

 

「お前が言うならそうしてやる」

 

 全員が頷き、微笑みが広がる。



 

「お、年が明けるぞ」

「むむむ…」

「キキ、諦めましょう…美味しくいただければいいんですわ、きっと」

「スネークにお祓いして貰えばいいんじゃなぁい?」

「初穂料を頂きます」

「「ケチ」」


 

 腕時計を蒼の前に差し出す。

俺の手に齧り付いてそれを見つめる蒼。


 今年もまた、お前もずっと一緒にいられたことが嬉しい。来年も、ずっと傍にいるからな。

 

 再来年も、その先も、ずっと。



 

「あっ!0時!あけましておめでとうございまーす!」

 

 蒼の声を皮切りにおめでとうと言葉が飛び交い、真ん中にでっけー日本酒がドン、と置かれる。はっ!その酒は!!!


 


「おい!十四代…しかも龍泉だと!?」

 

 日本酒の中でもなかなか手に入らないが美味い酒で有名な十四代。しかもこいつはとんでもねぇプレミアムものだぞ!?


 

「宗介は知ってるのか。市場価格は恐ろしいが俺の友人が蔵元を知ってる人でな。毎年くれるんだ」

 

「千尋、お前、長生きしろ。俺に毎年これを飲ませてくれ」

「気持ちはわかるぞ。これを持ってくるとひたすら同じことを言われるんだ」


「そんなに美味しいお酒なの?」

「蒼は飲んだことないか?ワインみたいにフルーティーな味がするよ。ほら」


 千尋が小さなワイングラスに注がれた酒を手渡し、蒼が匂いを嗅ぐ。


 

  

「わ、すごい…いい匂い」

「俺にもくれ」

「はいはい」


 大きめのグラスに注いだ千尋からそれを受け取る。わかってんじゃねーか。


 

 蒼と二人で口にして、ため息ひとつ。

 

「おいし…」

「あー、うまいな…」

 

 五臓六腑に染み渡るとはこの事だ。

安酒飲んでいた頃に戻れる気がしねぇ。


 

「毎年こんなうまいもん食って飲まされて…お前らは本当に長生きしろよ?年寄りの舌を肥えさせやがって」

 

「土間さん…そんなにですか」

「ここんちは贅沢すぎる。毎日こんなに幸せを煮詰めて、これ以上どうしろってんだ…全く」


 土間の呟きには同意するしかねぇな。

 蒼が長生きしてくれることを祈るしかねぇ。



 

 新年の祝い酒を飲みながら、蒼を抱えて…俺は世界で一番幸せな年明けを迎えた。


 

2024.06.19改稿

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