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病院のアイドル

看護師さんside



「ねぇねぇ!ちょっと前に帰られた白いロングヘアーのツンデレイケメンさん!蒼さんのところだったよ!」


「えっ!?また!!?あんなに美男美女ばっかり…凄いなぁ…」


「しかも皆んな蒼さんが好きみたいだよね」


「そうなの。凄いモテモテ…妊婦さんなのにね?」


「しかも病室はずっと特別室でしょ?あそこに長期滞在する人なんて政治家くらいだったのに…。この前着てたお洋服…なんだっけ?」


「昨日はロエベ。一昨日はフェラガモ、その前はシャネル」

「それそれ。見た事ない服ばっかりだし!何してる人なのかな?」


「看護師がそういうの良くないと思うなぁ」

「だって…お見舞いにイケメンばっかり来るじゃない…警察の人たちもムキムキイケメンばっかりだし」

「その全員が蒼さんに夢中だしね」


「まあねえ。蒼さん可愛いし、いい人だし。髪の毛もお肌もツヤッツヤだし…私もお色気にドキドキしちゃう」


「確かにぃ…いつもお礼言ってくれるし…気遣ってくれるし、嫌なこと絶対言わないし…あんな患者さんばっかりなら毎日ニコニコしていられるのにね」


「私、疲れてるでしょう?ってマッサージしてもらっちゃった!」

「ちょっと、看護師が癒されてんじゃないよ」


「だって、めちゃくちゃ上手だったよ。ネイリストさんなんでしょ?」




「えっ?私警察の人だと思ってた」


「えっ?私はヤのつくお仕事の人かと…」


「えっ?私危ない犯罪組織の人って聞いたけど…」


「「「「どういう事?」」」」




「すみません…」


 ハッとして、ナースステーションにやってきた男性に振り返る。

 この人は間違いなく旦那さんのはず。手続きもほとんどこの人がしてたし。

でもあと二人もお身内なんだよね…。


 最近よく現れるとんでもない美男美女達は全員蒼さんの関係者だ。

 警視総監も、警察の方も、外部の専属お医者さんも来るし…どうなってるんだろう?




 この人も例に漏れずイケメン。パリッとしたスーツに、濡れ羽色の髪の毛、青い瞳がエキゾチック。はぁー美しい…。


「夜中に毎回申し訳ない。面会を…」 


「大丈夫ですよ!さっき回診した時に書き物をしてらっしゃいましたし、起きてると思います」

「またか…まったく。ありがとう」


 すっ、と何かの箱を置いて、ニコッと微笑んで去っていく。



「ファっ!?見て!エシレだ!」

「すごい!初めて見た!バターケーキ!」


「はあぁ…明星さんのところに来る人達…どうしてこう、毎回高級スイーツ持ってきてくれるの?神なの?」




「あのー」


 はっ!また来た!

 今度は長い前髪の黒髪、灰色の目。

この人は目つきが冷たいけど、猫目が可愛くてクールビューティーって看護師の間では言われてる。

 純日本顔の美人系イケメンさんだ。



「遅くにすみません。明星の面会で…」

「はい!大丈夫ですよ!旦那さん?が先ほどいらっしゃいました」


「…アイツ。人に押し付けておいて…。ありがとう。これ、皆さんで食べてください」


 すっ、とまた箱が置いていかれる。

早足でさっていく彼は庭見さんっていうんだけど、もう一人同じ苗字の方が…。




「すみません!さっき身内が来ませんでしたか?」


  

 はっ!!三人目が来た!!


 長髪を後ろで一つにまとめた、見た目はヤンチャ、中身は優しいギャップが凄い系イケメンの人。この人も庭見さんのはず。


 クールビューティーさんはご兄弟じゃなくて、書類ではこの方の息子さんだったはずだけど。年齢が近くて謎だらけの人だ。

 耳にたくさんピアスの跡があるのに一つもしてなくて、いつもニコニコしてる。




「さ、先ほど旦那さんと灰色の目の…」

「やっぱりか。すみません、ありがとう!これ良かったら!」


 たん!と置かれる箱。三つの白い箱が並んでしまう。



「みて!ピエールエルメのマカロン!」

「まって!!こっちは千疋屋のプチフルーツタルト!!」




「…明星さん…ずっといてくれないかな…」


「「「ほんとにねぇー!!!」」」


 

 看護師同士、私たちはキラキラ光るスイーツを見つめてうっとりするのだった。


━━━━━━



 昴side


「あっ!慧も来たの?」

 乱暴に部屋のドアが開かれて、慧が顔を覗かせる。

 蒼がベッドの上でリンゴを齧りながら微笑んだ。……チッ。三人揃ってしまったか。



「ちょっと!二人とも!仕事残ってんのに!」

「昴に言え。こいつ人に押し付けて…」


「千尋は昨日当番だからって、朝までここにいただろ」

「それを言うなら慧だってこの前…」


「「「むむむ……」」」




 蒼がトントン、と机を叩く。


「喧嘩しないの。仲良くして。ねっ?」

「「「はい…」」」


 ふふ、と笑った蒼が俺の剥いたリンゴを齧る。



「甘酸っぱくて美味しい。昴も食べる?あーん」

「おぉ…あーん」


 蒼にリンゴを差し出されたら食べないわけにはいかない。

 サクっとした食感と、ジュワッと広がる果汁。甘酸っぱくて、いい匂いだ…。

…蒼の匂いに似てるな?




「千尋も、あーん」

「やった!あーん」


「慧は?はい」

「俺にも言ってよ」

「ふふ、かわいい…あーんして?」

「うん。あー…」


 三人して口にリンゴを突っ込まれ、ニヤニヤしてしまう。

 蒼は明日退院だ。仕事は終わってないが、朝まで二人でいようと思ってきたのに。



 

 慧は蒼がきちんと覚醒してから一番乗りでここに来て、俺が一番最後に来る羽目になった。

 みんなマッサージのついでに手を出してるから長時間滞在してる。大体夜中に来るが、ここの看護師さんが優しくて許してくれる。色んな意味で本当にいい病院だ。



「蒼、ここで赤ちゃん産むか?」

「産科もあるの?」


「あるぞ。ここの看護師さんは優しいだろう」

「たしかに、朝までいても文句言われた事一回もないな」

「それどころかごゆっくりーって言ってくれるよね」


 

「昼間も優しい人たちばっかりだよ。沢山お話ししてくれるし、誰が来てても嫌な顔しないの。

 いい病院だよねぇ。ここで産むことにしましょう。外部のお医者さんも入れてくれるみたいだし。キキが言ってたの」


「そうしよう。キキの医院は潰したし、医師免許も取れたからな。あとで手続きしてくるよ。

もう安定期に入るし、お腹も出てきたな…」


 蒼がリンゴを齧りながら、お腹をポン!と叩く。


 


「ひゃいひんうほくの」


「蒼…食べてから喋りなさい」

「お腹ポンポン叩かないの」


 千尋が口を拭いてやって、慧がお腹を撫でる。ふっくりと膨らんできたお腹は毎日のマッサージのおかげで艶々の肌のまま。

 お腹の皮膚がひび割れてしまわないように毎晩交代でマッサージしてるからな。




「えへへ…最近動くの」

「「「えっ!?」」」


「待てよ…五ヶ月だから…おかしくはないけど、やっぱりちょっと早いな」

「キキが明日家に来るから診てもらおう」

「そうだな。それがいい」


 三人で頷くと、蒼がびっくりした顔になる。



「家に来るってことは、私退院?!」


「あれ?聞いてないのか?」

「昴が言ったんじゃないの?」

「いや、普通病院の人が言うものかと…」

 

 これは誰も伝えてなかったな。


「遅くなってすまない。明日退院だよ。みんなで迎えにくる」


「わー!そうなの!?やっと帰れる…ぐすん。」


「長かったもんね。でも仕方ないよ。体が優先。」

「宗介が先に退院するとは思わなかったが」

「アイツは絶対おかしい。ターミネーターだろ…」

「あはは…そうかもね…」


 蒼は苦笑いしてるが全治一年を超えるはずなのに、入院してたった一ヶ月後にファクトリーに現れて、作業を手伝い出して…慌てた銀から電話が来たんだ。


 本人はケロッとした顔で「戦争中ならこんなの日常茶飯事だろ。動かねぇと鈍るんだよ」と言っていた。

 恐ろしい人だ。いや、人かどうかも怪しい。




「麻衣ちゃんの所は落ち着いた?」

「あぁ、つつがなく。総監の任命を正式に受けて、鬼軍曹と言われてるぞ。俺たちも晴れて退職したし、あいつに任せれば問題ない」

「あぁ。これで警察ともおさらばだ」


 蒼がへにょん、と眉を下げる。



「本当に辞めちゃったの?麻衣ちゃんが残念がってたのに」


「警察はブラック企業だ。徹夜もしなきゃならんし、蒼の会社でホワイト勤めになりたいんだ。子育ても参加したい。」


「そうだな。定時上がりでちゃんと長期休暇もあるし給料もいいし」


「俺は関係ないからどっちでもいいけどね」


「「クソっ」」

 

「それは…仕方ないけど。と言うか私が社長なのやだなぁ…」



 


 蒼がまだ眉を下げたままだ。本人はこう言ってるが、もう法人化してるし社員がみんな認めてるんだから逃げ場はないぞ。


「蒼のことを名前にした会社なんだから蒼が社長なんだよ」

「そ、その由来は千尋でしょ!またその…クサイ理由だったし」

「そうだよ。ちゃんと説明しただろ?喜んでたじゃないか」


 蒼が真っ赤になる。

 ん?ちょっと嫌な流れだぞ。




「だって…あんなふうにしてる時に言われたら…」

「可愛かったな…蒼…」


「「チッ」」


 やはりか。仕方がないと言えばないが。あの名前は千尋の感性によって引き出された物だからな。

 これは俺がまだ敵わない所だ。




「はー、でもやっと一区切りだね…蜜月まで長かったなぁ。しばらくお家で過ごすの?私はいつからお仕事?」

「蒼は産休中だから仕事しないの」


「えっ!?」 

「産休が終わったら育休に入ってまた産休に入るが」


「ええっ!?」

「ふ、まぁそうだな。一周で済むといいな」


「昴…不穏なこと言わないでよ…それじゃ社長のお仕事できないじゃない。」




「最近じゃ在宅ワークというものがあってだな」

「そうそう。蒼はしばらく監禁されるからね」

「そうだな。じゃじゃ馬だから靴がなくなる」


「ええぇ…?」


 呆れた顔になった蒼が笑い出して、三人とも釣られて笑ってしまう。

 馬鹿なこと言ってると思ってるだろ。

 本気と書いてマジだからな。

蒼は今後一人になる時間を1秒たりとも作りたくない。



「私…30の時までにどうなるかな…キキは絶対大丈夫って言ってたけど、ちょっと不安なの。バーサーカーになったらどうしよう」


「ファクトリーでその日を迎えるんだから大丈夫だ。神経も順調に増えてるんだろ?」

「うん…」


「仮死状態にする薬も出来たでしょ?」

「そうだね」


「蒼がもしそうなっても俺が殺してやる。一緒に死ねるなら本望だ」

「「昴…」」



「相変わらずヤンデレなんだから…もう。でも、そうしてくれる?道連れはいやだけど、他の人を殺すのはもっと嫌だもん。そう言ってもらえるなら私幸せだな…嬉しい」


 本当に幸せそうに微笑まれて、俺は胸の中がいっぱいになる。この世で一番好きな人の命を預けてもらえるなんて…。

 幸せで満ち溢れて、溶けそうだ。



 

「昴は幸せを感じてる部分が怖いんだよ」

「本当にな。そうならないように頑張ろう。慧、同盟を組まないか」

「そうだね。俺たち苗字一緒だし」


 二人ががっしり手を繋いで頷いてる。

 俺のヤンデレが止められるものなら止めてみるといい。ふっ。


 


「ん…眠たい…」


 蒼が瞼を下げて、とろんとした目になる。最近よく寝てるし、妊婦さんは眠くなるんだったな。


「いいよ、このまま寝て」

「でも…目が覚めたら旦那さんがいないのは寂しい」

「目が覚める前に迎えに来るよ」

「そうだな。そうしよう。安心しておやすみ、蒼…」


「うん…むにゃ…おやす…」 



 言い切る前にこてん、と首が下がる。

電動ベッドを水平に戻して、蒼の頭を枕に乗せた。


「…はぁ。うちの奥さんは気丈すぎて困る」

「そうだなぁ。頑固だし」

「色んな意味で強いしねぇ…」



 

 三人して口をつぐむ。

だから好きなんだが。と言う言葉を胸の中にしまう。

 好き好き言うのを聞かれるのは夫間では恥ずかしいんだ。


 

「はっ!?お腹が動かなかったか!?」

「「えっ!?」」


 千尋が叫んで、蒼のパジャマをそっとめくると、俺が贈ったボディーウォーマーが現れる。


「ほら…うごいた!」

「す、すごい…こんなにわかる物なのか」

「もう少ししたら足の形とか手の形がわかるよ。…かわいいな…」




 三人してお腹を撫でてしまう。

ポコポコ、わずかな振動が皮膚を通して伝わってくる。

 

 俺と蒼の子がここに居る。

湧き上がってくる幸せの律動が激しくて、思わず唇を噛み締める。


「…はちみつ…レモン…食べたい…」

「「「…なるほど」」」


 

 

 明日のおやつが決まったな。パジャマを戻して、布団をかける。


 蒼がむにゃむにゃする顔に一人ずつキスして、部屋を後にした。

2024.06.19改稿

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