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【完結】爪先にともる熱と恋 R15ver  作者: 只深


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I'll be back

蒼side



「蒼、相良が来たよ。報告聞けるか?」


 電動ベッドを起こしてもらって、頷く。まだ頭がポーッとしてる。

 何度か起きて、寝てを繰り返して…ようやくちゃんと起きられたのはついさっき。

 何日経ったのかな。キキがずっといてくれたけど、怖くて何も聞けないでいる。

朝、旦那さん達がキスしてった事だけは覚えてるんだけど…。


「うん…」




「蒼…具合はどうだい?」


 包帯だらけの麻衣ちゃんがゆっくり歩いてやって来る。顔を顰めつつ椅子に腰掛けた。…痛そう。


「麻衣ちゃんの方が重症でしょ?私が役に立てなかったから…ごめんね」


「そんな事ない。SATの隊員達が戻ってくれたのは蒼のおかげだ。みんな心配してるよ。回復したらお見舞いに来てもいいか?」


「うん。」


「長くなるだろ?水飲みながらやりな」

 

 キキがお水を汲んで、サイドボードに二つ置いてくれる。

 

「ありがとう…キキも無傷じゃないんだから、座っててくれ」

「はいはい」


 キキが私のベッドに腰掛ける。

 二人で手を繋いで、微笑み合う。

 キキの手があったかい。



 

「どこから話せばいいかな…事件が終わってからまだ一週間も経ってないんだ。

 その間何度か目が覚めて、昴達と話したことは覚えてるかい?」


「うん。割とすぐ目が覚めたと思うんだけど…ぼんやり覚えてるよ。キキが来るまで交代でそばにいてくれてたね」


「うん、それなら大丈夫だな。」

「ようやくしっかり目が覚めたなぁ…みんなは今どうしてる?」



「ん、じゃあ生き残った人たちから報告するよ。

 昴、千尋、慧は軽症。警察と組織(ゴールデンアワー)と行き来しながら後処理をしてる。

 銀達はほとんど怪我がなかったからもう退院してる。今はファクトリー内部の片付けをしていて、土間さんも手伝ってくれてるんだ。

 蒼の同期達も、子供達も、蒼のご両親も全員無事だ。ダスクの人たちも結局ファクトリーに残ってる。あそこは大所帯でワイワイ楽しそうだよ」


「そう…みんな頑張ってるんだね」


「うん。茜は休養が必要だ。病院は色々と問題があるからファクトリーにいる。

 それから、東条、田宮は死亡。二人とも国家反逆罪の罪は変わらないが。

 東条が作り替えた組織(ダスク)は解体、残っていた戦闘員達も全員逮捕された。

私が指揮を取って、必ずあいつらの罪を白日の元に晒してやる」


「でも…大丈夫なの?警察内部の問題になるでしょう?」


 

「大丈夫だよ。私が女だから、世間は同情的だし、蒼の会社はヒーロー扱いだ。初めて女でよかったと言えるな」

「そっか…でも、社長は私じゃなくて、昴でしょう?」


「いいや。蒼が長生きするんだから、蒼が社長だ。もう、そこは譲らないぞ」


 麻衣ちゃんがお水を飲みながら、ニヤリと嗤う。もう。困った子なんだから。

 ……聞かなきゃ。あの人の事を…。

麻衣ちゃんは、私から聞くのを待ってる。


 キキが握ってくれた手に力が籠る。そっと寄り添う小さな彼女が勇気をくれる。


 


「あの…それで…その…宗介は?」

「聞ける状態なんだな?」

「うん…」


 あの時、宗介の心臓は止まってた。

全身に爆破の衝撃を受けて、お腹からちょこっと内臓が出てたし、右手が無くなってたし…皮膚が真っ黒に焦げて重度の火傷を負っていた。ドクターヘリが来てくれたみたいだけど…。


 

「私も驚いたよ。あの反射神経は恐ろしい。さすがというべきか」

「そ、そうじゃなくて…」

「……すぐ、わかるよ。大丈夫だ」


 麻衣ちゃんが立ち上がり、ドアを開ける。カラカラ…と車輪の回る音。

 


「いよーう!黄泉の国から帰ってきたぜ?アイルビーバックってな?」

「せん…せ…」

「呼び方戻ってんぞ」


「宗介!!!」

「わっ!蒼!ダメダメ!二人とも絶対安静なんだから!」


 キキと麻衣ちゃんに抑えられて、体が震える。


 生きてた…生きてた!!

際限なく心拍数が上がって、頭の中までどくどくと音を響かせる。

死んじゃったと思ったのに。宗介のキラキラした瞳が私を見てる。


 


「オメーはちったー落ち着け。腹のガキンチョがびっくりしちまうだろ」

 

 キコキコ音を立てながら車椅子に乗った宗介がやってくる。

 看護師さんが車椅子をロックしてくれて、ニコニコしながらドアから出ていく。


 

「うぁ…あ…そうすけ…」

「うーん、俺はまだ動けねーんだ。こっちこい」

「ひっく…宗介…」


 ベッドの上でにじりよって、宗介の左手を引っ張る。

 麻衣ちゃんが車椅子を動かして、横向きにしてくれて、私はベッドの上からそうっと体に寄り添った。宗介の左手が動いて、優しく抱きしめてくれる。


 

「あったかい…生きてる…」

「いや、俺は死んだと思ったがな。ここまで来ると俺すげーよな?」


「医者も驚いてたよ。手術室で目玉かっぴらいて『蒼!』って起き上がったらしいな?」

「うわ…ドン引きするんだけど。怖っ。執刀したくない。絶対やだ」

「あんだよ。キキはひでえな?」


 

 宗介ならやりかねない。手術してくれたお医者さん達かわいそう。でも、嬉しい。ありがとう…神様。はじめてそう思えた。


 


「うぅ、うぅ。」

「蒼は泣き虫になったな。全治期間が長いがちゃんと動くぜ。右腕はあれだ。なんかつけてくれんだろ?」


 宗介が包帯だらけで口と鼻と目だけだして笑ってる。ミイラ男みたい…。



「義手な。今は発達してるから、蒼の子供も抱っこできる。…まさか夫は増えないだろうな…」

「生きてる間は狙うぜ」

「「うわ……」」


 麻衣ちゃんもキキも信じられない、という顔で宗介を見てる。




「旦那さんにはできないけど、一生傍に居て。私より先に死んじゃダメ。絶対ダメ。」

「…お前悪魔か?ひでぇプロポーズがあったもんだな」

「旦那さんじゃないから、プロポーズじゃないもん」



「ふん。死ぬまでそばにていいなら、ずっと口説いてやるから覚悟しろ」

「本当にバカ。もう…生きててよかった」


 包帯だらけの胸を撫でて、何度もため息が出る。内臓さん、戻してもらえたの?良かったね。



「はぁ…とりあえずこれで一件落着だ。ズタボロの終幕だが。

 蒼、これから先は蒼が望んだ通りの、ハッピーラブラブ激甘生活だぞ」

「ふふ…でも旦那さん達が来ないじゃないの」

「今日は厳しいかもな…なるべく帰すようにする。すまん…」



「アタシがずっと居てやる。蒼の事を独占できるのは今のうちだからな」

「キキったら…」


 キキがニコニコしながら抱きついてくる。かわいいかわいい、私の命の恩人のキキ。キキもこの先は、ずっと一緒だね。



 

「私もここにちょくちょくくるよ。宗介氏は安静にしててください」

「あん?俺だって蒼んとこに来るに決まってんだろ。気合いで怪我なんか治してやるよ。」


「本当にしそうで怖い。では、また後でな。私もこれから警察庁に缶詰だ」


 麻衣ちゃんがカバンを肩にかけて、去っていく。



「麻衣ちゃんも怪我してたよね?」

「アイツはメスでスッパリやられて足がちぎれそうだったはずだ。よく動けるな」

「切れ味がいいからな、メスは。くっつけるのも楽だ。バカな男だったがそこは褒めてやる」


 キキが瞳を閉じて、抱きついてきた。


 


「キキ、本当にありがとう。私の命の恩人さん」

「ふん。蒼に言われるのはとてもいいな」

「蒼、俺には?」

「宗介もありがとう。私を、みんなを守ってくれて…お帰りなさい…」


「お、おう」


 顔が見えないけど、照れてる感じがする。ちょっと、可愛いかも。


 暖かい二人にくっついて、頬が緩んだまま瞳を閉じる。

 やっと、終わったんだ。

 長かったなぁ…。




 ふわふわそよぐ風の中、私の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。


 ━━━━━━



「ん…」


 頬になにか、触ってる。

 ゴツゴツした大きな手…。慧?



「あっ…ごめん、起こしちゃった」

「ん…私いつの間に寝てたの?来たなら起こしてよ」

「寝顔が可愛いからもうちょっと見ていたかった。今日は俺が泊まるから、キキには帰ってもらったよ」


「そうなの?じゃあね、って言ってないのに」

「また明日来るよ、大丈夫」

「うん…」



 慧もまだ、傷だらけ。大きなガーゼがかっこいい顔を隠してしまってる。

 久しぶりに見る緩み切った微笑みに、胸がきゅんと甘く音を立てる。

あぁ…私の愛する人が、生きてる。




「顔の傷…残っちゃうかな…」

「男だし、残ったっていいよ。かっこいいでしょ」

「そうだけど…慧はもともとかっこいいもん」

「ほんと?」

「うん」


 慧が微笑みながら抱きしめてくれる。

 慧の匂い…嬉しい。ついつい、スンスン嗅いでしまう。


 

「あんまり嗅がないで…徹夜明けなんだ」

「そうなの?髭生えてないね?いい匂いするよ。臭くない」

「そりゃ、蒼に会うのに小汚い顔できないよ」

「うふふ…髭生えてても、きっとかっこいいよ」


 ベッドに腰掛けて、両手で頬を包まれる。


「キス…していい?」

「うん…」


 


 慧が自分の髪を解いて、手首に通す。

私と交換した髪ゴムがすっぽりおさまって…。


「よそ見しないで」

「んっ」


 噛みつかれるように唇が重なってくる。腰を引き寄せられて、体がくっついて。

 慧の温かさが舌に絡みついてくる。

 


「ん…慧…」


 頭と腰を抑えられて、上手く息ができない。

こんなキス久しぶりなの。ドキドキして胸が苦しい。




「ふは…」

「キスの仕方忘れた?」

「ちが…胸が…ドキドキして…」

「それだけ?」

「んんっ」


 何かいうたびにキスされる。これは意地悪な慧だ。



「言って、蒼…」

「いじわる」

「いいでしょ、久しぶりなんだから」

「うまく息ができないの。ドキドキして、胸がぎゅーってして、頭がぐるぐるしてる」

「そうなんだ。…俺もだよ」


 何度も繰り返されるキスに本当にクラクラしてくる。




「病み上がり?だからここまでにしておこうかな」

「ふぅ…ふぅ…だいぶ手加減…なしだと思うんだけど」

「そりゃ仕方ない。宗介には会ったんでしょ?」


 慧の胸元に頭を押しつけて、抱きつく。


「うん」

「すごいよ、宗介。あれは本気で無理だと思った」

「私も」

「でも、生き残ったからなぁ…蒼がプロポーズしたって言ってたけど」


 うっ。だから意地悪モードだったの?

 そろそろと慧の顔を覗くと、ちょこっと怒ってる。



 

「旦那さんじゃないからプロポーズじゃないし」

「一生そばにいろって言ったんでしょ?」

「そうだけど…そうだけど」

「キスもしたし」

「うぅ!」


「…でも、いいよ。蒼がそうしたいなら。あんな事されて、認めざるを得ないよ」

「んもう!本当に違うの」


 慧の両手を握って、じっと瞳を見つめる。真っ黒な目の中に、寂しさが見える。


 


「旦那さんは増えないよ」

「いいの?」

「うん。もう増やしません」

「……よかった」


 ぎゅーっと抱きしめられて、慧が深いため息をつく。

そんなに心配させたの…?ごめんなさい…。

 なんだか浮気を心配された男性の気持ちが今ならわかる気がする。浮気じゃない…と思うんだけど。



「せっかくだからマッサージしておこうかな」

「お泊まりするんでしょう?」

「なんか危険な気がするんだけどね」


「ふふ…またそれ?」

「蒼がかわいすぎるんだ…」


 もう一度唇を啄まれて、慧が微笑む。




「そう言えば…ファクトリーの子に告白された」

「んなっ!?098でしょ!」

「そうだよ。蒼のお姉さんだったよね」

「…そうだけど」


 思わず口がとんがってしまう。一度きちんと釘を刺しておくべきだった。

私の旦那さんなのに…。



「あの、その…それでどうしたの?」

「ん?」

「お返事とか…」

「ちゃんと返したよ、すごい真剣に言われたから」

「うぅ!うう!」


 そうじゃないの!聞きたいのはそこじゃなくて!


 


「ふふ、ごめん。断るに決まってるでしょ?俺には最愛の奥さんがいるんだから」

「…ほっ。うん…」


「すっごい鍛えてるから。昴を見習ってバリエーションも、増やしたし」

「え?鍛える?バリエーション?」


 ベッドの上に押し倒されて、黒髪の帷が落ちる。



「あ…あの、慧?」

「マッサージついでに、ちょっと試してみる?」


「えっ?ま、まって…ここ病院だし、慧は怪我してるし!」

「大丈夫。いちばーんいいお部屋だから。周りに病室はないよ。ちょっとくらい声出しても平気。俺の怪我がどうなったかも確認して?」


「えっ?えっ…慧?ちょっ…んむ!」


「蒼…愛してる…」


 優しくささやく慧の声が耳に響いて、私は瞳を閉じた。

2024.06.19改稿

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