I'll be back
蒼side
「蒼、相良が来たよ。報告聞けるか?」
電動ベッドを起こしてもらって、頷く。まだ頭がポーッとしてる。
何度か起きて、寝てを繰り返して…ようやくちゃんと起きられたのはついさっき。
何日経ったのかな。キキがずっといてくれたけど、怖くて何も聞けないでいる。
朝、旦那さん達がキスしてった事だけは覚えてるんだけど…。
「うん…」
「蒼…具合はどうだい?」
包帯だらけの麻衣ちゃんがゆっくり歩いてやって来る。顔を顰めつつ椅子に腰掛けた。…痛そう。
「麻衣ちゃんの方が重症でしょ?私が役に立てなかったから…ごめんね」
「そんな事ない。SATの隊員達が戻ってくれたのは蒼のおかげだ。みんな心配してるよ。回復したらお見舞いに来てもいいか?」
「うん。」
「長くなるだろ?水飲みながらやりな」
キキがお水を汲んで、サイドボードに二つ置いてくれる。
「ありがとう…キキも無傷じゃないんだから、座っててくれ」
「はいはい」
キキが私のベッドに腰掛ける。
二人で手を繋いで、微笑み合う。
キキの手があったかい。
「どこから話せばいいかな…事件が終わってからまだ一週間も経ってないんだ。
その間何度か目が覚めて、昴達と話したことは覚えてるかい?」
「うん。割とすぐ目が覚めたと思うんだけど…ぼんやり覚えてるよ。キキが来るまで交代でそばにいてくれてたね」
「うん、それなら大丈夫だな。」
「ようやくしっかり目が覚めたなぁ…みんなは今どうしてる?」
「ん、じゃあ生き残った人たちから報告するよ。
昴、千尋、慧は軽症。警察と組織と行き来しながら後処理をしてる。
銀達はほとんど怪我がなかったからもう退院してる。今はファクトリー内部の片付けをしていて、土間さんも手伝ってくれてるんだ。
蒼の同期達も、子供達も、蒼のご両親も全員無事だ。ダスクの人たちも結局ファクトリーに残ってる。あそこは大所帯でワイワイ楽しそうだよ」
「そう…みんな頑張ってるんだね」
「うん。茜は休養が必要だ。病院は色々と問題があるからファクトリーにいる。
それから、東条、田宮は死亡。二人とも国家反逆罪の罪は変わらないが。
東条が作り替えた組織は解体、残っていた戦闘員達も全員逮捕された。
私が指揮を取って、必ずあいつらの罪を白日の元に晒してやる」
「でも…大丈夫なの?警察内部の問題になるでしょう?」
「大丈夫だよ。私が女だから、世間は同情的だし、蒼の会社はヒーロー扱いだ。初めて女でよかったと言えるな」
「そっか…でも、社長は私じゃなくて、昴でしょう?」
「いいや。蒼が長生きするんだから、蒼が社長だ。もう、そこは譲らないぞ」
麻衣ちゃんがお水を飲みながら、ニヤリと嗤う。もう。困った子なんだから。
……聞かなきゃ。あの人の事を…。
麻衣ちゃんは、私から聞くのを待ってる。
キキが握ってくれた手に力が籠る。そっと寄り添う小さな彼女が勇気をくれる。
「あの…それで…その…宗介は?」
「聞ける状態なんだな?」
「うん…」
あの時、宗介の心臓は止まってた。
全身に爆破の衝撃を受けて、お腹からちょこっと内臓が出てたし、右手が無くなってたし…皮膚が真っ黒に焦げて重度の火傷を負っていた。ドクターヘリが来てくれたみたいだけど…。
「私も驚いたよ。あの反射神経は恐ろしい。さすがというべきか」
「そ、そうじゃなくて…」
「……すぐ、わかるよ。大丈夫だ」
麻衣ちゃんが立ち上がり、ドアを開ける。カラカラ…と車輪の回る音。
「いよーう!黄泉の国から帰ってきたぜ?アイルビーバックってな?」
「せん…せ…」
「呼び方戻ってんぞ」
「宗介!!!」
「わっ!蒼!ダメダメ!二人とも絶対安静なんだから!」
キキと麻衣ちゃんに抑えられて、体が震える。
生きてた…生きてた!!
際限なく心拍数が上がって、頭の中までどくどくと音を響かせる。
死んじゃったと思ったのに。宗介のキラキラした瞳が私を見てる。
「オメーはちったー落ち着け。腹のガキンチョがびっくりしちまうだろ」
キコキコ音を立てながら車椅子に乗った宗介がやってくる。
看護師さんが車椅子をロックしてくれて、ニコニコしながらドアから出ていく。
「うぁ…あ…そうすけ…」
「うーん、俺はまだ動けねーんだ。こっちこい」
「ひっく…宗介…」
ベッドの上でにじりよって、宗介の左手を引っ張る。
麻衣ちゃんが車椅子を動かして、横向きにしてくれて、私はベッドの上からそうっと体に寄り添った。宗介の左手が動いて、優しく抱きしめてくれる。
「あったかい…生きてる…」
「いや、俺は死んだと思ったがな。ここまで来ると俺すげーよな?」
「医者も驚いてたよ。手術室で目玉かっぴらいて『蒼!』って起き上がったらしいな?」
「うわ…ドン引きするんだけど。怖っ。執刀したくない。絶対やだ」
「あんだよ。キキはひでえな?」
宗介ならやりかねない。手術してくれたお医者さん達かわいそう。でも、嬉しい。ありがとう…神様。はじめてそう思えた。
「うぅ、うぅ。」
「蒼は泣き虫になったな。全治期間が長いがちゃんと動くぜ。右腕はあれだ。なんかつけてくれんだろ?」
宗介が包帯だらけで口と鼻と目だけだして笑ってる。ミイラ男みたい…。
「義手な。今は発達してるから、蒼の子供も抱っこできる。…まさか夫は増えないだろうな…」
「生きてる間は狙うぜ」
「「うわ……」」
麻衣ちゃんもキキも信じられない、という顔で宗介を見てる。
「旦那さんにはできないけど、一生傍に居て。私より先に死んじゃダメ。絶対ダメ。」
「…お前悪魔か?ひでぇプロポーズがあったもんだな」
「旦那さんじゃないから、プロポーズじゃないもん」
「ふん。死ぬまでそばにていいなら、ずっと口説いてやるから覚悟しろ」
「本当にバカ。もう…生きててよかった」
包帯だらけの胸を撫でて、何度もため息が出る。内臓さん、戻してもらえたの?良かったね。
「はぁ…とりあえずこれで一件落着だ。ズタボロの終幕だが。
蒼、これから先は蒼が望んだ通りの、ハッピーラブラブ激甘生活だぞ」
「ふふ…でも旦那さん達が来ないじゃないの」
「今日は厳しいかもな…なるべく帰すようにする。すまん…」
「アタシがずっと居てやる。蒼の事を独占できるのは今のうちだからな」
「キキったら…」
キキがニコニコしながら抱きついてくる。かわいいかわいい、私の命の恩人のキキ。キキもこの先は、ずっと一緒だね。
「私もここにちょくちょくくるよ。宗介氏は安静にしててください」
「あん?俺だって蒼んとこに来るに決まってんだろ。気合いで怪我なんか治してやるよ。」
「本当にしそうで怖い。では、また後でな。私もこれから警察庁に缶詰だ」
麻衣ちゃんがカバンを肩にかけて、去っていく。
「麻衣ちゃんも怪我してたよね?」
「アイツはメスでスッパリやられて足がちぎれそうだったはずだ。よく動けるな」
「切れ味がいいからな、メスは。くっつけるのも楽だ。バカな男だったがそこは褒めてやる」
キキが瞳を閉じて、抱きついてきた。
「キキ、本当にありがとう。私の命の恩人さん」
「ふん。蒼に言われるのはとてもいいな」
「蒼、俺には?」
「宗介もありがとう。私を、みんなを守ってくれて…お帰りなさい…」
「お、おう」
顔が見えないけど、照れてる感じがする。ちょっと、可愛いかも。
暖かい二人にくっついて、頬が緩んだまま瞳を閉じる。
やっと、終わったんだ。
長かったなぁ…。
ふわふわそよぐ風の中、私の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
━━━━━━
「ん…」
頬になにか、触ってる。
ゴツゴツした大きな手…。慧?
「あっ…ごめん、起こしちゃった」
「ん…私いつの間に寝てたの?来たなら起こしてよ」
「寝顔が可愛いからもうちょっと見ていたかった。今日は俺が泊まるから、キキには帰ってもらったよ」
「そうなの?じゃあね、って言ってないのに」
「また明日来るよ、大丈夫」
「うん…」
慧もまだ、傷だらけ。大きなガーゼがかっこいい顔を隠してしまってる。
久しぶりに見る緩み切った微笑みに、胸がきゅんと甘く音を立てる。
あぁ…私の愛する人が、生きてる。
「顔の傷…残っちゃうかな…」
「男だし、残ったっていいよ。かっこいいでしょ」
「そうだけど…慧はもともとかっこいいもん」
「ほんと?」
「うん」
慧が微笑みながら抱きしめてくれる。
慧の匂い…嬉しい。ついつい、スンスン嗅いでしまう。
「あんまり嗅がないで…徹夜明けなんだ」
「そうなの?髭生えてないね?いい匂いするよ。臭くない」
「そりゃ、蒼に会うのに小汚い顔できないよ」
「うふふ…髭生えてても、きっとかっこいいよ」
ベッドに腰掛けて、両手で頬を包まれる。
「キス…していい?」
「うん…」
慧が自分の髪を解いて、手首に通す。
私と交換した髪ゴムがすっぽりおさまって…。
「よそ見しないで」
「んっ」
噛みつかれるように唇が重なってくる。腰を引き寄せられて、体がくっついて。
慧の温かさが舌に絡みついてくる。
「ん…慧…」
頭と腰を抑えられて、上手く息ができない。
こんなキス久しぶりなの。ドキドキして胸が苦しい。
「ふは…」
「キスの仕方忘れた?」
「ちが…胸が…ドキドキして…」
「それだけ?」
「んんっ」
何かいうたびにキスされる。これは意地悪な慧だ。
「言って、蒼…」
「いじわる」
「いいでしょ、久しぶりなんだから」
「うまく息ができないの。ドキドキして、胸がぎゅーってして、頭がぐるぐるしてる」
「そうなんだ。…俺もだよ」
何度も繰り返されるキスに本当にクラクラしてくる。
「病み上がり?だからここまでにしておこうかな」
「ふぅ…ふぅ…だいぶ手加減…なしだと思うんだけど」
「そりゃ仕方ない。宗介には会ったんでしょ?」
慧の胸元に頭を押しつけて、抱きつく。
「うん」
「すごいよ、宗介。あれは本気で無理だと思った」
「私も」
「でも、生き残ったからなぁ…蒼がプロポーズしたって言ってたけど」
うっ。だから意地悪モードだったの?
そろそろと慧の顔を覗くと、ちょこっと怒ってる。
「旦那さんじゃないからプロポーズじゃないし」
「一生そばにいろって言ったんでしょ?」
「そうだけど…そうだけど」
「キスもしたし」
「うぅ!」
「…でも、いいよ。蒼がそうしたいなら。あんな事されて、認めざるを得ないよ」
「んもう!本当に違うの」
慧の両手を握って、じっと瞳を見つめる。真っ黒な目の中に、寂しさが見える。
「旦那さんは増えないよ」
「いいの?」
「うん。もう増やしません」
「……よかった」
ぎゅーっと抱きしめられて、慧が深いため息をつく。
そんなに心配させたの…?ごめんなさい…。
なんだか浮気を心配された男性の気持ちが今ならわかる気がする。浮気じゃない…と思うんだけど。
「せっかくだからマッサージしておこうかな」
「お泊まりするんでしょう?」
「なんか危険な気がするんだけどね」
「ふふ…またそれ?」
「蒼がかわいすぎるんだ…」
もう一度唇を啄まれて、慧が微笑む。
「そう言えば…ファクトリーの子に告白された」
「んなっ!?098でしょ!」
「そうだよ。蒼のお姉さんだったよね」
「…そうだけど」
思わず口がとんがってしまう。一度きちんと釘を刺しておくべきだった。
私の旦那さんなのに…。
「あの、その…それでどうしたの?」
「ん?」
「お返事とか…」
「ちゃんと返したよ、すごい真剣に言われたから」
「うぅ!うう!」
そうじゃないの!聞きたいのはそこじゃなくて!
「ふふ、ごめん。断るに決まってるでしょ?俺には最愛の奥さんがいるんだから」
「…ほっ。うん…」
「すっごい鍛えてるから。昴を見習ってバリエーションも、増やしたし」
「え?鍛える?バリエーション?」
ベッドの上に押し倒されて、黒髪の帷が落ちる。
「あ…あの、慧?」
「マッサージついでに、ちょっと試してみる?」
「えっ?ま、まって…ここ病院だし、慧は怪我してるし!」
「大丈夫。いちばーんいいお部屋だから。周りに病室はないよ。ちょっとくらい声出しても平気。俺の怪我がどうなったかも確認して?」
「えっ?えっ…慧?ちょっ…んむ!」
「蒼…愛してる…」
優しくささやく慧の声が耳に響いて、私は瞳を閉じた。
2024.06.19改稿




