最終決戦
慧side
『おーい。レールガンの照準はどうすんだ?』
『土間さん…すみません巻き込んで…空撃はないはずですから、戦車に向けてください』
『了解!気にすんな。蒼の声がしなくなったが大丈夫か?』
『あ、は、はい。ちょっと今インカムが使えない状態なので。大丈夫です』
昴が冷や汗をかきながら土間さんに返事してる。
蒼は昨日マッサージしてないから血行が悪くなって、体に痺れが出てしまった。
スーツを脱がして結局全身マッサージしてる。茜とキキは横のソファーで昴と千尋に耳を塞がれていた。
「んふ…んっ、土間さん?声聞きたい。インカム返して」
「だ、ダメ。あとちょっとで終わるから」
「なーんでなのぉ…土間さん…んぅっ」
「蒼、土間さんの名前呼ばないで」
「慧…?どうして怒ってるの?」
「怒ってないよ。反対の足伸ばして…」
「そぉ?ひゃっ!そこくすぐったい」
「ごめん…」
蒼の色っぽい声で男の名前を呼ぶのはダメ。いくら土間さんでも嫌なんだ。
俺は怪我して骨折してるけど、血の巡りが良くなって来てしまった。傷が熱を持って痛い。
「おい、お前らも若いな」
「ウルセェ!!俺は正真正銘20代だ!チクショウ…」
「宗介…ちょっとは隠しなよ…」
「あん?俺が若い証拠だ。生理反応がなんで恥ずかしいんだ?」
「クソっ」
桃も銀も縮こまってる。宗介は、うん。元気だな。
…俺の奪還作戦の時は大丈夫だったのかな。蒼にしたあれこれを思うと訓練と称してボコボコにした千尋が羨ましい。
「よし、終わり!」
「ありがとう、慧は怪我大丈夫?」
ベッドの上で伸びた蒼が俺の頬に手を伸ばして、大きなガーゼを摩る。
蒼に触られたところから、じんわり暖かさが染み込んできて、痛みがなくなっていく。プラシーボ効果とはいえ、ここまではっきり効果が出るとちょっと恥ずかしいけど…これはチャンスなのでは?
「うん…蒼が触ると痛くなくなる」
「本当?じゃあこっちも触ろうか」
「蒼!そこダメっ!アッ!」
「「抜け駆けすんな」」
「お前らいい加減にしろ。慧は痛み止めを飲め。バカ」
キキが赤い顔のまま薬を投げてよこす。……ちぇっ。
「無理しないでね…」
「うん」
蒼を抱きしめて、胸いっぱいに息を吸う。硝煙の匂いの中に、微かに蒼の匂いがした。
昴がインカムを蒼の耳に戻し、アサルトスーツを着込みながら、蒼が口を開く。
『各位状況を報告』
『スネーク、監視中。対象に動きなし。食事をしていますね』
『お、蒼!大丈夫か?』
『土間さん…』
蒼がベストを被って、手を止める。
眉を顰めて、しょんぼりしてる。
『そんな声出すなよ。俺はちゃんと安全なところにいる。レールガンの調整は完全に終わったぜ。ただな、威力を限界まで上げたからこんな近距離じゃ戦車ごと木っ端微塵だ。できれば使わんほうがいいな。お前達も危ねぇ』
『はい、ありがとうございます』
『ヘリから通信でーす。アサルトライフル装備して4人乗ってる。103は肉壁のところにいるよー』
『肉壁言わないの。みんなご飯食べた?』
『オートミール食べたよー』
『銀が言ってたチンして食べるやつ!』
『美味しかったなぁ』
『卵かけご飯みたいにしたら、とっても良かったよ!銀ありがとう』
『お、おう…』
『ちょっと!銀に色目使わないで』
『100やきもちー?』
『気が早いんじゃない?』
『あの、桃さんは?大丈夫ですか?』
『だい…じょうぶです』
『そう…よかった』
『昴さんはー?』
『慧さんの怪我大丈夫?』
『千尋さん、助けてくれて…ありがとうございました!』
『ねぇ!甘酸っぱいねー!』
『あはは!戦争中にする話なのー?』
『お前らそのへんにしとけ。いろんな方面にダメージが出る』
宗介が嗜めると、沈黙が返ってくる。
確かに甘酸っぱい…そして銀たちも俺たちもちょっといたたまれない。蒼も怖い顔してるし。
『100と103はいいけど、097と098、110は後で私とじっくり話しましょう』
『えっ、やだ』
『こわっ。正妻がキレた』
『蒼のケーチ』
「むむむむ…」
蒼が頬を膨らませて、手が完全に止まってる。
俺がベストのジッパーとボタンを止めながら、思わず笑ってしまう。
本当に蒼にみんなそっくりだ。どんな時でも変わらないんだな。
「俺は蒼だけだよ」
耳元で囁くと、蒼の手袋を持って来た千尋が拗ねたように呟く。
「俺もだ。蒼だけが好きなんだからな」
「ヤキモチ焼く必要なんかないだろ?蒼に惚れてる男が他の子を見れる訳ない」
昴が頭をポン、と抑える。
それはそうなんだけど。銀も宗介も含まれるよ、それ。桃は…どうだろうな。怪しい気もする。
三人でぎゅうぎゅう抱きしめると、蒼が渋々頷く。
「私のことだけ、見てて下さい」
「「「はい」」」
「いいなぁ。キキちゃん、羨ましいよねぇ」
「全くだな。私はさっさと因縁を断ち切りたいよ。いつまでもたもたしてんだ東条のバカ」
「あれ?キキちゃん…もしかして」
「アタシはもう好きじゃないよ。蒼達を見てると本当の愛情ってのがなんなのか思い知った」
「そうなのね…キキちゃんも一発殴りたいわね?」
「ボッコボコにしたいよ」
脇で茜とキキが笑ってる。
東条も動かないからなぁ…。
『大して役に立ってない雪乃ですわぁ~』
『雪乃!毒は大丈夫なの?そんな事ないでしょ』
『うぅ…優しさが沁みますわぁ…大丈夫です。
防衛庁の通信傍受をしましたの。総監の逮捕に向けてようやく動きそうですわ。それから、相良さん総監就任おめでとうございます~』
えっ、そうなの?そりゃびっくりだな…。色々やってたのはそれかな。
『雪乃…先に言われたな。ありがとう。そう言うことになった。防衛庁ももう動いてる。戦闘ヘリが先に来るだろうが、まだ出発してない。空から来るのは味方だけで確定だ』
『麻衣ちゃん…おめでとう!』
『はぁっ!蒼に言われるのはいいなぁー!!!もっと言って!私をこき使ってくれ!!』
『こきつかうって…もぉ…』
大丈夫なの?コレ。警察まで完全に蒼の手中に収まっちゃったけど。
昴と千尋は微妙な顔してるし。
『ん?あっ!敵側から通信ですわ!平和的解決のため話し合いを望む…だそうですわよ』
『今更…誰が来るのか聞いてくれる?』
『お待ちくださいまし~』
「平和的解決?」
「防衛庁の動きがバレたか?」
「援軍が来るまで時間稼ぎした方がよさそうだね」
『こちらスネーク、光信号確認。そちらに向かう、ボス、タミヤ、他2名との事です』
『話し合いましょう。話で終わらなければその人数を殺すだけで済むから』
「そうだな。ベッドを一番奥に動かそう」
一瞬にして緊張感が張り詰める。
桃たちがベッドを動かし、一番奥へ。ソファーでバリケードを作って、茜がベッドの上に乗ったまま、キキが脇に隠れる。ソファーの後ろに幹部達が陣取り、俺は蒼をつついた。
「蒼は茜の横にいてよ」
「いや」
ソファーの前に立った蒼がハンドガンと鞭を手に取る。両脇を俺たちで固めて、ため息をついた。
「しょーがねーなぁ…」
宗介もやってきた。
『スネークは戦車の動向、残りのSATの監視、レールガンは電力を充電しておいて。ヘリ組は北の塔上空で待機』
銀達が微妙な顔で蒼を見つめてる。
俺たちも同じ気持ちだよ。うん。
うちの大将は奥に引っ込んでくれないんだ。
「屋根を開けるぞ。上空からも撃てるようににな。ここは防音だが防弾じゃねえんだ」
宗介が壁のボタンを押すと、白い壁だったドームの蓋がゆっくりと開いていく。内側がガラス張りになってたのか…。
空は満天の星空。ヘリコプターが上空に待機して、蒼の同期達が手を振ってる。
「ここはもともと展望台だったんだぜ。蒼と二人で良く星を見に来ただろ」
「はー、そういえばそうだったねぇ。すっかり忘れてたなぁ…」
「小せぇおまえが目玉をひん剥くのが面白くてな。懐かしい」
「うん…」
蒼がほんのり赤くなる。
はーい、そこまでー。
「宗介、一番前ね」
「へいへい」
「えっ、ちょ、邪魔!」
「邪魔とか言うな。陣形としては普通だろ」
『お返事が来ましたわー。スネークと同じ内容です』
『了解。こちらも準備完了。総員戦闘配置!』
『了解ですわぁ~』
━━━━━━
『東条、田宮…蒼の父上とSATが一人です。戦車はこちらへ砲首をむけました』
『了解』
「やる気満々だな」
「でも、東条がよく来たね」
「アイツ素人だからな…戦力は?」
「昴知ってるか?」
「知らん」
「俺も知らないよ。キキ知ってる?」
後ろを振り向くと、嫌そうな顔したキキが答える。
「アイツナイフは使うぞ。メスを飛ばしてくる」
「厄介だね」
「要注意じゃねーか。田宮は?」
「あの人はSATの出身じゃ無い。諜報専門だ」
「東条より悪いな」
蒼が呆れた顔になる。
「総監だった人なのに…ダメじゃないの…」
『敵方、エレベーター前です。ご老人達と揉めています…』
「迎えに行って来てやるよ」
宗介が走って、エレベーターを降りていく。
『あっ…そ…宗介、103沈黙!ご老人達をかき分けて宗介とともにエレベーターを上がって来ます』
なんだって!?
エレベーターが上がってくる。蒼の目から光が消えて、銃を構えた。
「初手で撃っちゃダメだよ、蒼」
「わかった…」
エレベーターの上昇音、宗介を抱えたSATの隊員がどさり、と彼をおろす。この人の動きが良かったってことだ。宗介がやられたなら手練れだな。
「やーやー、人質が増えましたよ。昨日ぶりですね、蒼さん。お久しぶりです、ボス」
東条がにこやかな笑みを浮かべて現れる。…蒼にやられて包帯まみれのその姿…真っ白だな。
「貴様にボスと言われる理由はない」
「宗介をどうしたの」
「スタンガンです、生きてますよ。さて」
蒼の父親が前に出される。
後ろ手に縛られてるな…。
「人質交換と参りましょう。まずは…えっ。キキ?!」
「死ね」
「ちょっ、なんでキキがここに居るんです!?」
「死ね」
「botじゃないんですから…愛しいあなたのパートナーでしょう?」
「死ね」
…うん、二人とも落ち着きなよ…。
キキが俺の背中側からえらい殺気を放ってる。
死ねしか言わないし。
「東条さん、代わります」
「…し、仕方ないですね」
田宮が出て来た。随分悪どい顔になったな…クマができて、頰がこけてる。
「皆さん、お元気でしたか。まずは銃を下げていただきたい」
「下げる理由がないでしょう」
「人質の彼らを前にしていますよ。私も掲げていないのですから」
「……」
蒼が銃を下げる。トリガーに指をかけたままだ。
「さて、まずはお話を。今回の戦闘に関しては私の権力で不問としますので、平和的解決を望みます」
あぁ、田宮には伝わっていないんだな。まだ総監の地位があると思っているみたいだ。昴と千尋がふ、と笑いを落とす。
「条件は?」
「延命薬の完成版と、レシピを。私たちの命の保障もお願いします」
「SATの人たちは?傭兵は…残っていないみたいだけど」
「あれはどうとでも」
田宮の横にいるSAT隊員が目を見開く。
本当に変わらないな、この人も。結局昴や千尋に対しても使い捨ての駒だと、本気でそう思っていたんだ。
『雪乃、インカムの音声を外にも流して』
『了解ですわ』
『窓を閉めます』
雪乃とスネークが蒼の声に応答する。窓を閉め切ればここは防音だ。
やりとりを聞かせて、SATの寝返りを狙うんだろう。蒼の戦術には無駄がない。
『「あなたは総監としてSATの人たちを連れて来たのに、その命の保証をしないの?」』
「はっ、たかが駒に保証など…そもそも私の命令に素直に従わない犬などいりませんよ」
『「大切な部下を駒や犬扱いなの?延命薬はお金儲けのために欲しいってこと?」』
「それ以外に何が?私たちは延命薬で儲ける。あなた達は今まで通りに働いてくれればいい」
『「私たちに延命薬で世の中を混乱させて、あなたのお金儲けの道具になれって言うの?部下を見殺しにしようとしている人が信用できると思う?」』
「チッ…口やかましい女だ…」
銃口を蒼の父親の首に押し当てて、田宮が昏い顔を見せる。
「命がかかってるんだぞ」
『「もうとっくに、たくさんの命が奪われた。奪ったのは私だけど」』
「素晴らしい…腕でしたよ。超長距離スナイプが可能とは。恐れ入る」
『「私が殺したのは、真っ白な正義を持つ人たちだった。あなたと違って、あなたがする命令を…正義だと信じていたのに」』
「正義?そんなものハナから存在しない。世の中は金ですよ。金がなければ生きていけない。」
蒼の瞳に光が灯る。強い光が。
『「どうして、お金がそんなに大切なの?お金で人は救えない。幸せになれない。あなたは正義を持つ組織の頂点で、それを言ってはいけない立場でしょう」』
「金に困ったことがないからそう言えるんだ。金があれば全てが手に入る。愛情でさえもな」
『「愛は、お金では買えないの。命も、その中に宿る正義も」』
「何を甘ったれたことを…私には妻も子供もいるぞ!」
『「そう…今、ご家族はどうしてるの?」』
『田宮の子供は犯罪を犯して逮捕されている。他者を見下して、馬鹿にして札束で人を叩いて従えていたが…仲間に裏切られてな。子供とは縁を切って、奥さんともつい最近離婚済みだ』
相良さんが低い声で伝えてくる。田宮は全てを失ったんだな…。だからこうなったのか、前からなのかはわからないけど。
「…金があれば取り戻せる」
『「そうなるかな?お金があっても元には戻らない。お金で結ばれた縁はお金でしか持続できないし、一度途切れれば元には戻らない」』
「私が…必死で働いた金で暮らしていたのに、あいつらが裏切ったんだ!私はやるべきことをやっていた!!
息子は金を使い果たし、妻は貯金を持って逃げて…どう考えてもあいつらが悪い!愛情がなかったのはあいつらの方だ!」
『「やるべきことをやった結果が今なんでしょう?
お金なんてなくたって、本当の愛なら消えない。欲しがっているうちは愛じゃないの。
相手の命そのものが、心が好きで…何も持っていなくても愛し合える。
自分の全てを投げ打ってでもその人を満たしてあげたいと思うのが愛でしょう?犯罪を犯したって、裏切られたって、自分の手に入らない人だったとしても…それは無くならないの。」』
「そんな…理想のような話は存在しない」
『「愛は確かに存在する。私を見て」』
絶句する田宮。東条も蹲って、顔を落とす。
蒼を見て、愛が存在しないなんて…誰も言えない。言えやしない。
「か、金があればいい…私はそれだけがあればいい。それがすべてだ!お前が愛だと言うなら、消してやる。そんなもの、必要ないだろう!!
そうでなければ私は…私の価値がなくなってしまうんだよ!」
田宮の瞳は昏く濁り、何も映していない。
蒼の光さえ届かぬ暗闇で…全てを失った田宮が叫んでいる。
最後まで田宮を救おうとしていた…蒼が大きなため息をついた。
『「あなたのような…お金に魂を売った人が、尊い命を弄ぶことは許されない。許してはいけない。自分が何を失おうと、本来は失ってはいけない物だったのに。
昴や千尋が変わらなかったように…。
あなたにはもう、何も届かないね。
ねぇ、SATの隊員さん。あなたの正義はどこにあるの?こんな話を聞いても、田宮に従うの?
人の命を大切に思えず、愛をお金で買えるとまで思っている、正義のかけらもない…この人を信じられるの?」』
田宮と東条の横で苦しそうにしているSATに目線が行く。昴と千尋にも見つめられて、ハンドガンを構えた手が震えていた。
「西条、もうやめろ。お前達は俺と同じだったはずだ。俺たちの正義は変わらない。お前達も…変わっていないだろう?」
「…俺は…俺は…」
昴が呼びかけた西条が顔を伏せて、迷い始めた。
『「私がたくさん殺してしまったSATの人達も、昴と同じだったはず。
私は、私の大切な人を守るために殺したの。私を想い、心から愛してくれる人を守りたかった。
あなた達は、何のために戦うの?
何のために…その手を血に染めるの?
胸に変わらぬ正義を抱えたままで、そんな悲しいことをしないで。……もう、私は殺したくない。」』
「黙れ!ま、魔女め…人を誑かして!!西条、そこに転がっている男を盾にして構えろ!」
田宮が叫ぶ。顔を真っ赤にして怒りに染めた姿は、いっそ哀れに感じる。
『SATが動きました。全員白いハンカチを掲げています』
『私が引き受ける。下で田宮の退路を断つ』
スネークがSAT隊員達の降伏を告げる。相良さんが後を引き受けてくれたようだ。
西条が宗介を抱えて、蒼の父親に銃を向けた田宮の手首を叩き、落ちたハンドガンを蹴飛ばしてこちらに走ってくる。
「…ありがとう、西条さん」
「いえ。貴方の言葉が…沁みました」
宗介を背後に寝かせて、蒼の父親を奥に連れて行ってくれる。
蒼とすれ違う瞬間に、彼は微笑んだ。
「た、田宮!」
「東条…うるさい」
「どうするんだ!?あいつ!寝返ったのか!?」
「そうだ」
「田宮総監…いえ、元総監、あなたももうやめて」
「元…?」
蒼が頷く。
「あなたは国家反逆罪で逮捕状が出ている。もう直ぐ、防衛庁からお迎えが来るよ」
「な、な、なにを…そんなはず…」
「確かめてみたら?」
田宮が震えながら、もう一挺銃を取り出して構え、電話をかける。
「わ、私だ!応援を……は?何を言って…違う!反逆しているのは私ではなく…待て!」
通話が切れた音が虚しく響き、田宮の手からスマートホンが落ちる。
膝から崩れ、うずくまった。
「何をしてる!?おい!」
「私は終わりだ…もう、終わったんだよ」
「何を…!?何を言ってる!?」
スネークがスナイピング部屋から二人に銃口を向けた。
もう一度蒼がハンドガンを掲げて、東条を見つめる。
「二人とも、殺そうと思ってた。でも、もうその必要はなさそうだね。法の裁きを受けて」
「わ、私は何もしてない!人も殺してないんだ!」
「東条…あなたは延命薬を使ったでしょう。その結果、命の時間を巻き戻した赤ちゃんはどうしたの?」
「……」
「あなたはキキの心も殺した。死体を処理させたでしょう。その死体は誰が作らせたの?
SATの人たちを死に駒にしてしまったのは誰?……あなたがした事を、ここに居るみんなが、私が知ってる」
「……」
『「捕縛!」』
エレベーターが上がって来て、その天井から飛び降りた相良が入り口のガラスを突き破って入ってくる。SATの隊員達があっという間に二人を突き倒し、床に押さえつけた。
うん、彼女も間違いなくじゃじゃ馬だ…。
「国家反逆罪の容疑で逮捕。あー、時計がない!!」
「23時59分だよ!」
茜が遠くからニコニコして叫んでる。
「茜さんきゅ!シンデレラタイムとは。笑わすな。ガラスの靴は粉々だ!」
「クソ…相良…」
「クソはお前だ、田宮。引き継ぎのない総監がどれだけ苦労するのか、豚箱の中で聞かせてやる」
全員ほっとして、息を吐く。
ため息が重なって、吐いた本人がびっくりするほどの大きな音が広がった。
2024.06.19改稿