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はじめまして

昴side



「蒼って言うのね?」

「はい」

「はじめまして、だね」

「はじめまして、茜さん」



 ダスクのボスである茜が突然目覚めたと知らされて、俺と宗介さんが付き添いになり、白い子達も何故か全員集まっている。子供達も蒼の同期も部屋を出たら集合していた。

 クローンだという彼女たちは何かを感じているのだろうか。蒼も不思議な予感を感じていたようだし…。



 蒼はベッドサイドに椅子を置いて一人で座った。少し離れた場所で俺の周りに他のみんなが固まって、静かに見守っている。

 全員が揃いも揃って心配してる対象が蒼だと言うことに微妙な気持ちにはなる。

……誰も、茜を見ていないんだ。




「怒ってる?」

「…はい」

「どうして?」

「一言では、言えません。あの、体調は?」


 白い髪の毛は長く伸びて、肩に流されて…ほっそりした姿の茜は赤い目だ。

穏やかに微笑んで、緊張した面持ちの蒼を見つめている。

 声が蒼と殆ど同じ…。

 子供達や同期の子達よりもそっくりで宗介さんも聞き分けできなかった。

まるで蒼が一人で二人分喋っているみたいだ。



「大丈夫。今日はとっても元気なの」

「じゃあ、現状と、これからのお話をしてもいいですか」

「えぇ。あなたはファクトリーの子でしょう?そんな喋り方じゃなくていいよ」

「うん…わかった。現状から話すね」


 茜が今死に瀕していること、組織の状況、ファクトリーが潰されかけていることを順番に話す。


 


「ごめん、遅くなった!」

「お疲れさま、キキ」


 キキが息を切らして駆けつける。

 医療カバンを持って、一緒にやってきた研究者と茜のもとへ。


 茜はキキ達に体を触られても気にせず、蒼の話を聞き続けている。

 二人だけが別の世界にいるような錯覚に陥いる。鏡合わせのような二人が見つめ合い、頷きあう。

話を聞き終わった茜がため息を落とした。




「ごめんなさい…」

「起きたばかりで酷だとは思うけど、私はあなたの謝罪を受け入れられないよ。

 今の状況を打破できるのは、あなただから協力して欲しいの」


「でも、どうしたらいいかしら?私は…ここから動けないでしょう?」


 茜がキキの顔を見る。




「茜、アタシはキキ。あんた、今凄い痛みがあるはずなんだけど。大丈夫か?」

 

 ふんわり微笑んだ茜がキキに目線を合わせる。


「えぇ、いつもの事だから。痛いって口に出しても状況は変わらないでしょう?」

「そうか…。蒼、茜は体を動かすことはできない。平気な顔をしてるが、動いたら心不全を起こすよ。激痛でショック状態になると思う」



 蒼が思わず手で口を抑える。

 とても、そんなふうには見えない…穏やかな微笑みを浮かべたままの茜はキキを見てゆったりとベッドの背もたれに体を預けている。


「痛み止めを飲んだほうが…」

「いいの。痛み止めが強いから寝てしまうもの。今は蒼のお話が先」

「でも…」


 茜が悲しく微笑む。


「やっと、私のことを殺してくれる人が来てくれたの。悲しい人生に…ようやく終わりが来た。蒼がそうしてくれるんでしょう?私の死が意味を持つのよ、嬉しい」


 キキが絶句してる。

覚悟の宿った茜が蒼を見つめて、蒼も同じ色の瞳で見つめ返す。

 こんな短時間でこれか……。確かに人を惹きつける要素が強い。




「茜は…死にたいの?」

「うん。ずっとそうだったの。でも…こんな風になってしまった。あなたの命まで弄んで…もっと早くにそうすべきだったわ」 


「私もそう、思ってたの。でも、そう言われると何だか違う気がしてきた」


 はてなマークを浮かべた茜。

 ちょっと怒った顔の蒼。

 キキは頭を抱えている。

俺と宗介さん、蒼の同期達は苦笑いだ。




「新しい延命薬をキキが作ってくれてるから、長生きできるかもしれない。

 茜が起こしたことの後始末は、茜がふるべきだと思わない?一人だけさっさと死んで楽になるのは、何かおかしいなあと思う」


「えぇ…?いじわるねぇ?」 


「私だって優しくしてあげたいけど、茜はなんだか…そうしてあげたくないの」

「ふふ。面白い」


「……手伝ってくれる?」

「もちろんよ。どうしたらいいかしら」


「あなたを慕っている集団を抑えることが最優先かな。大人数だけど戦力ではなくて、一般の人が殆どみたいだから。その人たちを巻き込んで殺すのは嫌なの」


「そうね、ではスピーチ大会かしら。おやめなさいって言えばいい。その後は、…後継者を立てましょう。蒼を指名するわね」

「えっ?」


「私にそっくりだもの。みんなきっと受け入れてくれるし…みんなあなたのことが好きみたいだし。ここにいる人は蒼の事ばかり見てる。ほとんどファクトリー内部を掌握できているでしょう?私と同じで人たらしだと思う」

「…そ、そう…言われると…」


「否定できないでしょう?本当にそっくりね、わたしたち。きっと気が合うわ。それで今研究はどうなってるの?かわいいおチビさん」


 茜に言われてキキが頬を赤らめる。

見た目の違いはあれど、声も動きも段違いに似てるから蒼に見えてもおかしくはない。


「チビって言うな。アタシは蒼のために薬を作ったんだからな。

 優秀な研究員が揃ってるし、設備もアホみたいに金がかかってる施設だから思ってたよりも早く出来上がったよ」

 

「えっ!?も、もう?もうできたの?!」


 一様に驚く全員がキキに注目する。




「まだプロトタイプだけど完成してる。茜は神経を侵されて死にかけてるが、蒼と同じく細胞増殖をさらに増やすことで神経を作り変えることができるだろう。

 ラットで実験する時間がなくてさ。死に至る成分はないし、茜に実験台になって欲しいんだけど。アンタが蒼にしてきたようにさ」


 キキの目つきは剣呑だ。恨みがこもって重たい怒りを感じる。



「わかった。」

 

 茜が手を差し出して、キキがびっくりしてる。


「どうしたの?早くしないと、意識を保てる時間は短いのよ。

 飲んだら次に起きられる間隔は狭まるのかしら?」

「あ、あぁ…ちゃんと効いてれば昏睡の間隔も短くなるし、起きていられる時間も長くなる」


「じゃあ早くそうしましょう」



 冷や汗を流しながらキキがパウチを取り出して、薬を渡す。

 手のひらに乗せたそれをあっという間に飲み込んだ茜。…一瞬の迷いもなかったな。


「あっ、茜さま!?」

「そんな簡単に…」


「ちょっと眠たいの。蒼、続きを。私の後継者が出てくれば争うことは無くなると思うけれど、あなたはどうしたいの?」



 

 蒼が完全に呑まれている。固まって硬直して口が開けない。


「行ってくる」


 声をかけると子供達が輪を崩して道をつくったくれた。それを通り抜け、三人を目指して行く。

 蒼が近づく俺の姿を見てほっと息を吐いた。……最高なんだが。俄然やる気が出てきた。

 蒼の背中側から両手を肩に置いて、茜に向かって口を開く。



「蒼の夫の昴だ。茜と呼んでも?」

「ええ、どうぞ。蒼は旦那さんがいるのね……」

「うん…」


 蒼の体の緊張が少しずつほぐれて行くのを感じながら、口を開く。


「茜が生きていればファクトリー側の組織は統率できる。だが、後継を作るのは良くない。組織自体を解体すべきだ。

 俺の組織ではあの数を引き受けるのは無理だし、蒼はボスになる意思がない。

ファクトリーは丸ごとうちの組織が引き受けよう。相良が…警察側の協力者が手伝ってくれる。

 目下の問題は相良以外の警察と東条が繋がってここを滅ぼそうとしている事だ。戦力は我々の方が低い」



 

「そう…それなら、ダスクの子達に肉壁をして貰うしかないかな」

「そうだな、力のない『民衆』対『軍隊』となれば事態の解決が期待できる。

 ダスクを統率するタイミングは戦争開始とずらせるかわからない。最悪の場合同時期になる。  

 殲滅阻止のために戦闘は必要だし、それは我々の組織、ゴールデンアワーが引き受ける。その代わりにダスクの統率は茜に頼みたい。継続ではなく、終末に向けて。」

 

「わかった。…戦争は勝てるの?」

「負けるつもりで挑むわけじゃないし、本当はそれを避けたいのが本音だな。

 だが、幸いネットワークがある。ライブ中継でもすれば殲滅されても何かが世の中に残せるだろう」


「す、昴…」


 びっくりした蒼が袖を引っ張るが、じっと見つめると、気持ちが伝わったのか蒼がしょんぼり顔になった。


 

「そうしましょう。他に道がないわ。本当は私を殺して、みんなで逃げるのが一番簡単だけど」

「ダメ。それじゃ私たちは一生逃亡生活だし誰も救われない。そもそも逃げるなんて嫌。悪いことなんか何もしてない。

正義を持つものは逃げてはいけないの」


 

 蒼が呟くと、俺と茜に苦笑いが落ちる。



 

「貴方も苦労するわね」

「否定はできないな」

「昴…酷いよ」


 蒼が頬を膨らませて、茜がそれを見て微笑む。

 姉妹みたいだな。歳が離れているが延命薬を飲んでいる茜は時が止まっている。





「じゃあそうね、希望に向かって死ぬほど苦労して走っていくしかないかな。蒼の望み通り」


「そうだな。蒼は頑固だから一度決めたら曲げないし。

 全ての事を根本から解決するのが好きだから、そうしないと気が済まない」


「何だか棘のある言い方じゃない?昴のイジワル…」

「蒼だってさっき茜に意地悪しただろ?」


「茜を庇うのやめて」

「ヤキモチか?かわいいな…もっとしてくれ」

「そ、そう言うのも今はやめて。後で…その…」

「後で?二人きりならいいのか?」

 

 顔を赤らめた蒼が可愛い。

…これからもっと忙しくなる。蒼ともくっつけるのは当番の日だけになりそうだ。監視カメラを見る日々がまだ続くな。




「おい、イチャコラすんな。話がまとまったなら茜は休め。一日に一度覚醒できるようになるだろうから、その都度作戦会議でもするしかない」

「そうだね。キキ、あなたが頼りだから…よろしくね」


「茜じゃなくて、蒼に言われたいんだけど」

「キキったら…もう。…お願いします。茜を、私を助けてくれる?」


 キキが満面の笑みを浮かべて頷く。




「まぁ…蒼は愛されてるのねぇ。羨ましい」

「蒼は旦那が三人もいるんだぞ。こっちの組織の連中も、ファクトリーの中も、全部蒼の虜だ」

「そうなんだ?すごいねぇ」


「蒼は天使だから。仕方ない」

「そういうのやめてよぉ…」


 真っ赤になった蒼を抱きしめる。

 俺は蒼を手伝えて大変満足だ。




「ふふ…じゃあ私はもう寝ようかな。また明日ね、蒼」

「うん、おやすみ茜…」


 茜が静かに目を瞑り、あっという間に眠りにつく。まるで眠り姫だな。




「あんまり似てるもんだから見つめられてドキドキしちゃった。昴、浮気すんなよ」

「す、するわけないだろ。」

「はーん。昴もドキドキしただろ?」

「してない!」


 蒼が胸元からじーっと見てくる。 


「そんなに似てる?ドキドキしたの?」

「してない!!蒼にしかしない」

「本当?」

「当たり前だろ。蒼は蒼だ。茜じゃない」


 ふぅん、と呟いてぽすんと頭がくっついてくる。口元に笑みが浮かんでる。本当に可愛いな。



 

「はーやれやれ。毎回締めがこんなだとアタシも胸焼けしそうだな」

「すまん…」


「俺たちのこと、忘れてんな?ありゃ」

「ほんとにね。いいなー、わたしも恋人欲しいなー」


「明日からアプローチしようよ」

「そうだね、そうしよ!」

「あした?なにするの?」

「わたしたちもなんかするの?」


「お前達は相変わらず訓練だ。戦車にヘリに…迎撃ミサイルも使えるようにしとかねぇとな」



 えっ?迎撃ミサイル???

 蒼と二人で顔を見合わせて、宗介さんを見つめる。


「面白ぇもんがある。明日整備士がくるんだろ?こき使ってやるから覚悟しておくように伝えろ」




 土間さん…どこまでやらされるんだろう…。子供達を引き連れて宗介さんが部屋を出て行く。

 残された俺たちとキキで何とも言えない微妙な顔になった。





 

2024.06.19改稿

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