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目覚め


━━━━━━


 昴side


 カリカリ、蒼が何かを描く音が響いている。

 見ちゃダメと言われて、俺はだいぶ距離を取らされた。遠くから目を細めて見てるが全然わからない…。目が良くても役に立たん。

 なんだろうな、あれは。だいぶ分厚いハードカバーの本が三つ。それぞれに少しづつ文章を書いてるのが見える。


 青と、黄色と、白いカバーだからたぶん俺たちに書いてるんだとは思うんだが。




「昴の視線を感じますねぇ」


 蒼が背中を見せたまま、ちらっとこちらを見てつぶやく。


「み、見てない」

「嘘でしょ。私が昴の視線に気づかないとでも?」


「ストーキングは気づかなかったじゃないか」

「監視カメラまで見てるなんて思わないでしょ…」


「ふふん」



 得意げに笑うと、蒼がハードカバーを閉じて、コソコソカバンにしまう。

 むー。いつかあれを暴いて見せる。ヤンデレにかけて。





「もういいよ。あの、くっつきたいです」

「それは素晴らしい」


 ルンルンになりつつ蒼を迎えて、抱きしめる。向かい合わせで抱き合って、背中を撫でた。狭いベッドで密着率が高い。

 …小さいベッドもなかなかいいな?



「最近ちゃんと朝起きれてるか?マッサージしよう」

「うん。運動もしてるし、マッサージもしてるし…エッチなこともしてるし」

「あぁ、そう言えばそんなこと言ってたな…」


 蒼の顔が赤くなった。




「ど、どこまで夫ネットワークは共有してるの?」

「概要は全てだな。秘密にしたい事とかその辺の匙加減はそれぞれに任せられる」


「むむぅ…」

「ちなみに宗介さんとの一件はみんなの前で本人が相談してきたから夫以外も全員知ってるぞ」


「嘘でしょ!?な、何それ!恥ずかしい…」

「妻に惚れた男が旦那に相談しているのは銀が呆れていたが」

「そりゃそうだよ…銀の顔が見られない…どうしよう」


「でも面白いな。宗介さんのあの性格に蒼は感化されたんだなとわかる」

「そう…だとは思うよ。育ててくれた人だし…」


 宗介さんはあけすけでなんでもすぐに口にするし、引き出しが多い。ギャップも持ってるし、戦闘方面の技能がもの凄いし。

 純粋な恋心のまま蒼を見てる。…下心はありそうだが。




「あの人は本当に戦車が動かせるのか?」

「私も動かせるし、みんなもできると思うよ。あれはエンジンが車と同じだし動かし方もほとんど同じ。」

「なるほど、理解した」


「ふふ。私のFDちゃん、恋しいな…そう言えば、土間さんは大丈夫なの?」

「明日こちらに来ることになっている」


 土間さんにまで手が及ぶとは思わないが、危険は少ない方がいい。戦闘に巻き込むのは避けたいが…外に出しておいた方が危険だと、相良が手を回していくれた。


 


「そうなんだ…土間さんが来たらお話ししたいな」

「ん、そうしよう。総監の件はどうしたものか…無血解決は難しくなってしまったな」


「もともと血塗られた道だよ。仕方ないと思う。あの時もっとちゃんと根を絶っておくべきだったね…」


「そうだな。蒼のご両親についても宗介さんが探ってくれてる。雪乃が調べた所だと監禁されていたが警察にあった物資をそのまま移して、ラボの様な所で研究させられているみたいだ」


「延命薬しか目的はないよね…」


「だろうな。総監が狸だったのは確定だ。ただ、あれは蒼のために作っていた物だから一般人が服用したら赤子になってしまう。恐らくご両親が研究に時間をかけて引き延ばしているとは思うが…そもそも一般人向けに開発できるかは不明だ」


「うん…」


「東条の目的の延命薬とは別の、キキの薬ができたとして…作るまで時間がかかるだろうし。

 茜が起きて、組織を抑えたとしても戦闘要員は増えない。どちらにしても戦力不足なのは変わらないから…そこが問題点だ」


「延命薬を盾に脅す?でも、動きはじめた警察が止まれるのかがわからないし…」

「こちらをまとめて潰して仕舞えばどちらにしても延命薬は手に入るから難しいだろう」


「SAT相手にどこまでできるかな…」

「ファクトリーの子達や蒼の同期で対応はできるが、全員雪崩れ込んできたら難しいかもな。ファクトリーの中にある戦車や他のものを使える様にしないとならない」



「土間さんの出番だね?」

「まぁ、うん、そうだな。蒼が言う様に飛行機が水平対向エンジンで、戦車も車と同じなら弄れるだろう…」


「戦車の戦略は誰が得意だったかな…」 


 蒼が顎を摘んで考えを巡らせてる。

 真剣な顔は綺麗だが…。




「蒼…そろそろマッサージしないか?」


 難しい話も必要だが、今日は俺の当番だ。慧も千尋もしてるのに…俺だけ触れてないのは嫌だ。


「エッチなこともするの?」

「うっ、い、嫌ならしないが」



 蒼の目がとろん、と溶けて見つめてくる。


「したいに決まってるでしょ?」




 蒼を布団に寝かせて、パジャマを脱がして行く。

 マッサージと併用してもいいかな。自然由来のバームだし、たぶん…。

 千尋が持ってきたクリームの成分を確認する。


「大丈夫。中に入っても平気なのしか入ってないから」

「そういえばプロがいたんだった」

「うん」


 蒼の髪をかきあげて、顔を露出させる。

 髪の毛伸びたな。

 肩から鎖骨まで伸びた髪を丁寧に漉いて撫でる。

 パジャマのボタンを一つ一つはずして行く。

自分勝手に興奮してしまう。蒼の服を脱がす手が震える。




「昴、はやく…」

「そう急かさないでくれ。俺もギリギリのところなんだぞ…」


 服を脱がした蒼が膨らみを隠してる。

 半分脱がした上着を完全に剥ぎ取って、鎖骨にキスを落とす。

 最近の協議でキスマークは見えないところにする約束になったからな…。


 クリームを伸ばして、首から肩、腕に塗り広げて行く。

 油分が溶けてスルスルと蒼の肌を滑る。

 全身をくまなくマッサージすると、全身がほのかに桃色に染まる。

 蒼の体温が上がる時、気持ちいい時に毛細血管が拡張してこうなるんだが…。これを見てるだけで頭がクラクラする…。


マッサージをするようになって、以前よりも滑らかになった肌が薄い皮膚を通して鼓動を伝えてくる。

元から綺麗なのに手をかけたらどんどん綺麗になってしまう。

どうしたらいいんだ。こんな綺麗になって…。


太ももの付け根、脇の下…マッサージの時に触れない部分に少しずつ近づいて行く。

動きを悟った蒼の声が少しずつ変わって行く。


…マッサージの時とは段違いの色気だ。

甘い匂いが強くなる。

千尋とは違う、花のように甘い香りが自分の体に満ちて行く。

人の気持ちの変化によってフェロモンが分かるようになると聞いたことがあるが、この匂いはおそらくそれだ。


その匂いが強くなって行くに連れて、自分にも余裕がなくなって行く。


 今日は蒼の声も正しく色っぽい。マッサージだけなら我慢するが今日はしない。

 腹の上に手乗せて、唇で触れる。

 大人しくしててくれよ?


 心の中でつぶやいて、枕から目線を送ってくる蒼の顔に近づけて行く。

 臍の穴をくすぐって、びくびく跳ねる体に圧力を加えながら柔らかい胸にたどり着く。



 どいつもこいつも蒼の胸の話をするんだよな…。蒼はもともとボリュームがあるが、付き合いだしてからサイズアップしてる。自分で自覚はあるんだろうか…。


 ふわふわの胸に優しく、クリームを塗り込める。

 

「すば…る」

 胸にキスマークを残しながら首筋を這って、唇にたどり着く。

 クリームで滑るから、刺激が伝わりやすいみたいだ。先端を刺激するたびに全身に震えが広がって行く。



「蒼…かわいい」


 唇を交わらせながら呟く。

 かわいい。本当に可愛い。

 こんなに可愛い人、他に知らない。



 手の動きに合わせて蒼が反応を返してくれる。唇を深く重ねて、蒼の雫を吸い取る。

 体がずっと震えて…俺の手で気持ちよくなっているのが愛おしい。


 震える体が何度か痙攣して、蒼の体から力が抜ける。

 慧がいってたな。かなり敏感になってるって。


「ふは…はぁ……」

「本当に敏感になってるんだな…」


 頰が赤く染まって、涙ぐんでる。



「昴、キスして…」


 うっとり呟かれて、望み通りに唇を重ねる。何度も触れ合っているのに、どうしてこんなにドキドキするんだろう。


 自分自身が蒼の熱に翻弄されながらも蒼の声が口腔内から耳に響いてくる。

 瞳を開くと、必死にしがみつく蒼の赤い肌に包まれた琥珀の瞳が見つめてる。



「見てたのか?俺の顔」

「んふ…うん…昴の顔が見たいの」


 

 蒼が両手を伸ばして、体を引き寄せられ、俺の背中に熱い手のひらが回ってきた。

 お互いの指先に火が灯り、心の中が暖かくなる。

 蒼と体温を分け合って、揺蕩う波のような揺らぎに身を任せ、瞳を閉じた。


━━━━━━



「蒼…」


 汗で張り付いた自分の髪をかき上げて、唇にキスを落とす。


「ねぇ…かっこいいね、それ」

「えっ?」


 蒼が微笑みながらじっと見つめてくる。


「昴が髪の毛そうすると、ドキドキして心臓が壊れそう」

「それは困る…」

「ふふ…」



 蒼の汗を拭き取り、ベッドサイドにしまっていた清浄綿を取り出す。

小さく畳まれて水分を纏っているシート。

妊婦さんがよく使うものらしい。初めて手にしたが…これは今後使い慣れた方が良さそうだ。



「なに?それ」

「妊婦さんの体を綺麗にする物だよ。キキが持ってきてくれたんだ。除菌シートだと肌が荒れてしまうから…必要だろって」

「ありがたいけど…恥ずかしいね…」


 シーツを変えてやりたいが…ここは予備が微妙に少ないからな…タオルを蒼の体の下に敷いておいて正解だった。

 タオルを畳んでベッドサイドに置く。



 清浄綿で体を綺麗に拭き取って、蒼に布団をかける。しっとり汗をまとった肌が抱きついてくる。

 蒼がずっと見つめてるから、だんだん恥ずかしくなってきた。


「今日はやけに見てくるな…」

「昴だって見てたじゃない?だから私も見たい」

「俺の心臓こそ壊れちゃうぞ」

「昴は丈夫だからだいじょ…」


 蒼がハッとして身を起こす。




「どうした?」


「…わかんない…でも…」


 ベッドから降りて、服を着出した。

 何事だ?


「昴も服着て。なにか、何かが…」




 蒼が言い切る前にドアチャイムが鳴る。

インターホンに出ると、焦った顔の宗介さんが画面に映る。



「茜が起きたぞ」


蒼と2人で目を合わせて…呆然とその声が耳の奥に染みていった。


 

2024.06.19改稿

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