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引き継ぎ

慧side


「それで俺が言ったんだ。必要だって言ってくれって。俺は蒼に依存しちまってんだよなぁ」


 俺は今、大変困惑しています。

 昨日、蒼と話したであろう宗介さんの話を…千尋から聞く前にまさかの本人が話しているから。

 蒼と言い、宗介さんと言い、どうしてこんなに明け透けなんだろう?



「そ、それで?」

「大切だから必要だって言ってくれたが、みんなを守れ、後追いはダメだってよ。あいつが言うならそうしてやるが…蒼は小悪魔ってやつじゃねぇか?」


「それは否定できないね…」

「というか、宗介が自分で話すのか…」

 

 千尋も呆れ顔だし昴は昴で沈黙してすごい顔してる。


「いいだろ?お前達の方が恋愛経験が豊富なんだから聞いてくれたって。俺は恋愛なんかしたことねぇし、相談できる場所がねぇ」

「えっ!?宗介さんも初恋?」

「おう。そうだ」



「「「あー…」」」



 妻の初恋で、妻に横恋慕してる男がその夫に恋の相談をしてるとか…どこもかしこもおかしい。

 宗介さんは見た目が若いからつい気安くしてしまうし、蒼の事が本当に好きだからヤキモチを焼けずにいる。

 千尋もなんだか理解して仲良くなってるし、俺も今の話を聞いてそんな雰囲気になってしまう。

 絆されかけている気がしてならない。

 師弟揃って人たらしなのか。




「なんだその、あーってのは」

「初恋は実らないって…聞いたことありません?」


「ねぇな……そりゃ本当なのか?」

「世間ではよく言われる常套句ですよ」

「本でもよく見るな。俺たちは蒼が初恋じゃないしな」



 宗介さんはむすっとした顔で、しょんぼりしてる。



「俺は別に…フラれてるからって他の女なんか好きになれねぇ…」

「宗介、好きでもいいと思うぞ。蒼もそう言ってただろ?」


 千尋は応援し始めちゃったし。気持ちはわからないでもないけどさ。健気すぎる。

 


「本当は嫌なんじゃねぇのかな?」

「そうならそう言ってるよ。蒼はそういう子だ」

「…確かにな」


「おい。いつまでその狂った話を続けるんだよ。絶対おかしいだろ。間男がなんで旦那に相談してんだ?意味不明すぎる」

「銀が言うと更におかしい。て言うか、その蒼に全く近づけない~」

「桃の言う通りですわねぇ。すごい人気なんですもの…」



 だいぶ遠くに席をとった蒼は同期の子達と昼食を食べていた筈だけど、いつのまにか白衣の集団、白い子供達に囲まれてすごい人数になってる。

 真っ白白な塊ができた。


 


「ふん。今日は俺の当番だから、夜は独り占めだ」


 昴、やっと喋ったな…。


「チッ」

「千尋は昨日いちゃついたでしょ。あーあ。ここに居たら毎日こうなのかな…困ったな…」


 蒼に触りたいし傍に居たいのに。

毎日こんなに距離があるのはちょっとキツイな。



「しかし、ダスクのボスは起きねぇ、東条も動かねぇ。うちのボスは長期戦になったらどうするんだ?」

「銀の懸念はわかるが、おそらく嵐の前の静けさだ。穏やかなのは今だけだろ」

「そうだけどよ。…はぁ」 


「銀、暇ならお前ら訓練してやるから午後は射撃場に来い」

「げっ」


「もうちっと扱きてぇんだよな。スネークもここなら1km距離まであるぞ」

「うっ」


「桃は…どうする?」

「宗介さん!そこはお前も来いって言ってよ!ボクだけそう言うのやめて!」


 宗介さんと三人はこの前相良と一緒に訓練しにいったんだったな。

相当扱かれたらしく、三人ともスネークの車の中で寝てたし。運転できないほど疲れたんだろうと思う。



 

「宗介さん、三人はどうですか?」

「桃以外はいい。合格ラインだ。桃はまともに当たるようにはなったな。集弾性(グルーピング)がイマイチだが」


 へぇ…桃が?桃は近接戦闘で体を使うのには慣れてるけど、銃はセンスがなくて苦労してたんだ。当たるようになったなら物凄い成長だ。



「宗介さん、先生でうちに来たらいいじゃないですか」


 ついに昴が口にした。もう殆どうちのメンバーになってたけど。

 これは仕方ないか…。



「おっ?やっと入れてくれんのか?」

「よろしくお願いします。ぜひ。」


 昴と宗介さんが二人で握手すると、幹部のメンツが苦い顔になる。


 


「わたくしもやれと言われそうですわ…」

「オメーはハッカーだろ?俺は教えられねぇよ。武器が不必要の奴は気にすんな」

「宗介さん!ようこそわたくしたちの組織へ!」


「手のひらクルクルしてんじゃねーよ…。ちなみに雪乃は使い方知ってるぜ、宗介」

「あ?そんじゃ危なくない程度に教えなきゃならんだろ」

「銀!あぁ…私もですの?がっくし…」


 宗介さんがうちの幹部達を引き連れていくと、昴のスマホが鳴る。

スピーカーにして通話を押した。相良さんか。


「はい」

『明星、キキをそちらに連れていきたい。相談があるんだ。時間を作ってくれ』

「どうした?」


 相良さんの声が低い。若干の緊張感を感じる。




『昨晩東条がこちらへ来た。総監が相手したが…妙な動きになった。千木良と連絡がつかない』

「総監が…東条の会話内容は?」

『盗聴に失敗してる。総監は盗聴のプロだからな…とにかく、40分後にはそちらにつく。場合によっては私もそのまま残るかもしれん』

「その方がいいか…見張に伝えておく」

『頼んだ』


 電話を切って、昴が厳しい顔になる。


「千尋、千木良と連絡はついているか?」


 千尋が首を振る。



 

「昨日の晩キキの見張りについて…その後休んでいるはずだ。確かに返事は来てないし既読もないな。千木良なら寝てても既読だけは必ずつけるはずだ」


 妙な動きだ…考えられることはたった一つ。東条の甘言に総監が乗ったって事。

 警察での一件は、蒼と宗介さんが指摘した通り総監が延命薬を利用しようとしていた可能性がある。

それを研究していた、蒼の両親があちら側にいる…となれば。


 


「何かあったの?」


 蒼がいつの間にか近くに居て、心配そうにしてる。

 

「相良がキキを連れて来る。東条が総監とコンタクトして、連絡役の千木良が音信不通だ」


「それは…良くないね。癒着しそう?」

「まだなんとも言えないが…自信はないな」

「千木良さんって、どこまで出来る人なの?」


 蒼が千尋の顔を見つめて、千尋はいつも通りに微笑みを返す。



 

「SATではあったから一通りはできるが、前も言った通り決断力に欠ける。特に情が厚くて仲間だと思った奴を見捨てる事ができないんだ」

「そう…」


「とりあえず相良が来る、40分後にまた集合だな」

「うん…じゃあみんなは一旦解散しましょう。」


 蒼がそう伝えて、組織のメンバー達がバラバラに散っていく。

 俺たち夫婦は目線でこの場に押し留められる。手を握って座ったままの蒼は、しょんぼり眉を下げて千尋の顔を見つめたままだ。



「大丈夫だよ、俺だってプロだぞ?ちゃんと覚悟はしてる」

「…うん、…うん」



  

 あぁ…千尋は…嘘がつけない人ができた。蒼にはポーカーフェイスが通じていないんだ。

 蒼にずっと見つめられて、家族しかいなくなった事で…千尋は浮かない顔を隠しきれてない。俺や昴にもギリギリ見える表情の変化だから、居たとしても気付かれなかったとは思うけど。


  

 仕事の上では誰よりも冷静だった千尋が…冷たい顔でずっと過ごして来た仮面が崩れた。今まで誰も崩せなかったのに。

 

 自分の中には形容できない気持ちが広がる。どっちへのヤキモチなのか、安心なのか、落胆なのか…自分でもわからない。

 

 千尋に対して、俺が届かないところまで蒼は手を差し伸べていたんだな……。


「無事だって、信じようね」

「うん…そうだな」




 千尋と、連絡役として長年勤めてきた千木良さんはかなり仲がいい。

情に厚いのは二人ともだと思うけど、千尋は目的のために何かを切り捨てる冷たさをきちんと持っている。

 

 蒼が現れるまで、ずっとその冷たさを表に出していたけど、最近ではすっかり柔らかい顔だけは漏れ出ていた。

 仕事としては今の所支障がないと言えばないけど。きちんと切り替えはできてるし。

 潜入時の子供を説得した時の件は、話を聞いて仕方ないとは…思った。


 腕が鈍ったわけでも、何かをなくしたわけでもない…俺も含めて蒼が心の軸になってしまっているって事だ。

宗介さんから聞いた、蒼の言葉が胸に浮かんでくる。



 

『好きなら突き放すべきだったと思うけど、もう無理なの』


 その通りだと思うよ。蒼とおんなじ気持ちだ。

 もう、離れることなんてできない。それなら、この場所を守るしかない。他に道がないんだ…。

 宗介さんの気持ちと同じく、蒼に必要とされる自分の命の置き場所が心地良すぎる。

 思わず胸を押さえて、押さえきれない衝動をため息で流した。

 



「ねーえ?少しだけ時間があるでしょ?子供達が日向ぼっこする時間なの。ちょっとだけ行かない?」

「日向ぼっこ…するの?」

「温室に行くんだな」


「うん、そうだよ」


「あそこ温室なんだね?ガラス張りだし…植物すごいよね」

「慧と昴はまだちゃんと見てないもんね。みんなに紹介しなくちゃ」


 蒼が温室に歩き出す。

 いつもの服装で、白い廊下を歩く蒼。

真っ白な中で真っ黒なワンピースを着て…。


 迷いなく歩くその背中を追いかけた。


 ━━━━━━


 

 蒼が温室のカードキーを翳し、ロックを開く。

 蒼が白い子供達に囲まれていたあの時以来に足を踏み入れる。

土の柔らかい感触、温かい日差しと草木の香り。

 今日は窓が開け放たれて風がそよいでいた。


「少しだけお邪魔していいですか?」

「どうぞ!子供達も喜びます」


 


 メガネをかけた研究員の女性が、蒼にニコニコ笑顔を返しながら入り口の脇に座っている。


 蒼の姿を見つけた子供たちが一斉に集まって、俺たちを取り囲み…視線を合わせて座った蒼を見つめる。俺たちもそれに倣って草の上に腰を下ろしてみる。


 赤い目たちがキラキラ光って蒼が喋るのを待っている。本当に好かれたんだな…懐きようがすごい。




「みんなに紹介しようと思って来たの。本当は番号じゃなくて…名前をあげたいけど、落ち着くまでは待っててほしい。私たちの名前を聞いて、自分がどんな名前がいいかなって考えておいてくれる?」


「なまえ?」

「ばんごうじゃないの?」


「そう。私は蒼」

 

 いつの間にか用意していた、メモの紙。

 蒼の整った綺麗な文字。

 強弱がついて、見本の様な筆文字だ。


「あおい」

「彼が昴。私たちのボスで、私の旦那さん」

「ぼす?」

「だんなさん?」


「蒼がボスじゃないのか?」

「昴、今後の事を考えて伝えましょう。私がボスでは困るの」

「……」


 蒼がいつになく真剣な顔をしてる。

 昴が微妙な顔で顔を伏せた。

蒼が何を考えてここに連れてきたのか、わかってしまった。引き継ぎのつもりなんだ。




「ボスの昴だ。蒼の夫だよ」

「おっと?だんなさん?」

「どっちも同じ意味だな」


 みんな一様に首を傾げている。うん、俺たちはちょっと複雑だからね。




「彼が千尋。この人も私の旦那さんで、夫。ここにいる私たちはみんな夫婦なの。家族なんだよ」


「ああ!このまえいってたね!」

「さんにんだって!」

「ちひろ!だいすき!」

「わたしもー!」

「おひざにのっていい?」


「いいぞ、おいで」


 わらわらと数人が千尋の膝に乗ってる。

 なんか、子供達が妙になついてるな…?




「フッ。ドヤ顔してもいい所だろ?これは」

「何故そんなに懐いてるんだ?」

「俺はこの前蒼に紹介してもらってるからな」

「千尋だけずるくない?」

 子供にモテモテで千尋が羨ましいんだけど。




「ふふ、最後は慧。彼も旦那さんだよ。三人とも、この世界で一番大切で、大好きな人達なの」

「けい!かみのけながいね?」

「おんなのこなの?」

「ちがうよ、むきむきしてる」


 小さな子達が囲んできて、蒼によく似た仕草で話しかけてくれる。


「あはは。かわいいな…男だよ。髪の毛長いのかっこいいだろ?」

「かっこいい!」

「いけめん!」

「かみのけむすんであげる!」


 俺にも数人が近寄って来る。器用にハーフアップに結んでもらった。

 …これいいね?今度から髪の毛縛ろうかな…。



 しょんぼりしながら昴が蒼をつつく。


「俺だけモテない…」

「そんな事ないよ、見て」

 蒼に言われて、そばにいる子たちがじっと昴を見てることに気づく。

 なんとなく近寄りづらいのかな?


「昴の目、綺麗でしょう?あなたたちと反対の色なの。何色かなぁ?」 


「あお!」

「あおいね!」

「あれ?なまえのあおいと…いっしょ」


「面白いことに気づいたな。蒼と俺の瞳の青は漢字なら同じ意味だ」


 おずおずと昴に小さな子が近寄ってきて、その頭を撫でると次々に頭が差し出されて来る。


「なんか、可愛いけど…距離がある気がする…」

 千尋や俺には膝の上に乗ってるのに、頭を差し出されて昴が微妙な顔してる。




「昴は偉そうだから。先生と同じなんじゃないかと思ってるんだよ、多分ね」

「む…むぅ」


 やば。吹き出しそうになった。確かに偉そう。千尋もプルプルしてる。


 昴が蒼のほっぺを引っ張る。


「なんだか、今日は仲間はずれにされてばかりだ!」

「うぁー。ほっぺのびひゃうー」


「あっ!あおいいじめないで!」

「おっと!ご、ごめん…」 


 そばに居た子が昴をポカスカ殴ってくる。動作は可愛いが結構重たい拳に見えるね。

 と言うか蒼のほっぺがつままれた瞬間俺の膝に乗っかった子からも、凄い殺気を感じたんだけど。


 


「違うの、良いんだよ。可愛がってもらってるの」

「そう…なの?」

「うん、触ってもらえて私も嬉しいの」


「そうなんだあ」

「こうげきじゃないんだね」

「じゃあころさなくていいねぇ」


 昴を取り囲んできた数人が一様に頷いてる。これはちょっと危なかったな…昴も子供たちを眺めて青ざめてるし。


「私の旦那さん達はね、お外に出たらみんなの事を守ってくれる。みんなが幸せになるのを手伝ってくれるの。

 だから、私が居ない時は私の旦那さんたちを信じてね。私と同じ気持ちであなたたちを大切にしてくれるから」

 


 

 やっぱり、そう言うことだったのか。

屈託なく微笑んでいるけど、蒼は自分の中で優先順位をつけて…独自に動いてる。

 …これはうかうかしていられないな…。




「すばるのことまだわかんないからねぇ」

「たしかにー」

「けいはけはいそうさがうまいからいいけどー」

「でざーといーぐるがうてるなら、つよいし」

「そうだねー」

 

 子供たちに言われて目を白黒させてる昴。俺の気配察知してたのかぁ…すごい子達だな。

 でも、確かに蒼が紹介したとは言ってもほとんど話してないし、俺と違って昴は近付き難い雰囲気してるもんね。わかるよ。うん。



「ど、どうしたらいいんだ?」


「はんどがんはよかったよねぇ」

「あとはたいじゅつ?」

「そうかも。まもってくれるならわたしたちよりつよいもんね?」

「すばる!しょうぶしよ!」


「なるほど。蒼と同じ血だな…」

 

 立ち上がって、ジャケットを脱ぎ、ホルスターを外して蒼に手渡してる。

 おーおー、若いねぇ。



 

「す、昴?どうしてそうなるの?血とかそう言う…えっ?」

「蒼の潔さもありつつ、常識破りな感じは似てるよね。あとは好奇心が強い」

「思考回路が同じすぎて…ぷふ…」

「むむう…」


 蒼が頬を膨らませて、千尋と俺の間に収まる。やっとくっつけた蒼の体温に、心がホワホワしてくる。




「さて、誰からだ!?」

「わたし!」


 一人の子が出てきて、ぺこりと頭を下げる。昴が同じように頭を下げると、ファイティングポーズを取った。小さな体で威圧してる…隙がない。


「急所はダメだよー?」

「えっ?そうなの?」

「めもだめ?」

「うん。出来るだけ怪我しないようにね」

「「「はーい!」」」


 怖っ!!


「危険すぎる…」



 呟いた昴に向かって走る子の赤い目が引き締まり、動きに靡く白い髪が残像を残しながらとんでもないスピードで迫る。

 野戦の時の蒼を思い出す。左右に進路を振って側面から足が振り下ろされた。

 ホントに早い!小さい体を跳ねさせて、前後左右からやたら重たい打撃が昴を打っている。

昴の目つきが変わった。ちょっとワクワクしてきちゃってるなぁ。


「わー!あたらなーい!」



 女の子が一通り攻撃を繰り出した後、両足でぴょんぴょん飛びながら喜んでる。

 昴を取り囲んだ子達がみんなウズウズしだした。



 

「よし、いいぞ。まとめて来い!」

「きゃーっ!」

「わーい!」

「れんけいしてみよ!」

「わー!」


 複数人で飛びかかられて、昴は半ば本気で体を捌く。体が温まって、汗が流れてきてるな。

 予想外の方向から飛んでくる打撃が凄いよ。戦闘民族の集まりを見てるみたいだ。




「なんか俺もウズウズしてきた。ちょっといってくる」

 同じように上着を脱いだ千尋が参戦して行く。


「いやいや、若いもんは血気盛んで困るねぇ」

「慧だってあんまり変わらないのに…ふふ」


 蒼がジャケットを畳みながら微笑んでる。

 千尋は大勢に飛びかかられて焦ってる。昴はもう汗だくだ。


 日差しに光る汗を舞わせて、笑顔で子供達を受け止めてる二人。アツいねぇ。




「慧はいいの?しなくて」

 俺は本来密偵ですから。それに今は。


「蒼成分が欠乏してるので補充したいなって。ダメ?」

「わ、私の成分とか…あるの?」

 

 びっくりした蒼。やっと目が合った。


「蒼成分が不足すると血中酸素を運べなくなるんだ」


 酸素を運ぶかどうかはわからないけどさ。蒼不足で寂しいんだ。子供に引き合わせて、あんな事言うし。

 欠乏症にでもなりそう。

 じっと瞳を見つめると、嬉しそうに微笑んで抱きしめてくれる。


「寂しかったの?」

「うん。補充してよ」

「ふふ、わかった…」


 頬に柔らかい唇が触れて、蒼が微笑む。かわいい。…キスしたら怒るかな?

 

「はっ!抜け駆けの気配がする!」

「慧…ずるいぞ」

「昴は今日当番だし、千尋は昨日イチャイチャしたでしょ」

 

 二人にジト目を送って、蒼の唇を掻っ攫う。



「「むむ…」」


「あっ!きすした!」

「すごい!もういっかいみせて!」

「みたい!みたい!」

 


 膝の上の子供達にせっつかれて、もう一度蒼の唇に熱を落とした。

2024.06.19改稿

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