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どうしてこうなった

慧side


 救急車を見送って、全員でため息をつく。


「キキ…大丈夫かな」

「体は時が経てば回復するが…心の方は蒼が凄い勢いでキキの尻を叩き回したからな。そっちは心配ないだろう」

「もう!なんて事言うの!尻とか言わないで!」


 昴の言い方はどうかと思うけど事実だしね。蒼が昴をポカスカ叩いてる。

 キキの性格じゃ優しくしたってダメだろうし、あれは正しいやり方だ。


 

 言葉が余りにも重たくて…俺たちにもダメージがあるけど、同時に救われもした。

 あそこにいた全員が人を殺してるんだから。蒼の言葉が胸に響いたのは俺だけじゃないはずだ。




「蒼、ありがとう。キキの為に…」

「慧がお礼言うの?でも違うの。私のためだから」


 蒼がニコッと微笑む。

 自分のため?



「私は私を大切にするって決めたから。自分の事を大切にするって言うことは、私の好きな人をもっともっと大切にするって事でしょう?だからキキに言ったの」

「そっか…」



 はぁー、なるほど。…結局の意味は変わらないけどさ…そう言う考え方になったのは進歩と言えるかな。いい返事に思わず微笑んでしまう。

 蒼のいいところの一つだよね、これ。

 一緒に泣いて慰めるような事、絶対しないんだ。

 

 その人の事を見て、昴じゃないけど叱咤激励して、横に立たせてくれる。

どこまでも対等で、憐れむことをせず…常識にも囚われない。俺の時もそうだった。



「あーあ、ますます惚れ直しちゃうな」

「俺も惚れ直した。蒼はかっこいい」

「蒼だってクサいセリフ言ってたじゃないか。俺も惚れ直したよ」


「むー…照れるでしょ…」




「お前ら緊張感ねぇな」

「きゃっ!?先生?いつの間に…」


 蒼の背後に宗介さんが現れる。

 ピンキーのバイクを借りて行ったから登場が早いな。相変わらず足音がない。バイクのエンジンは手前で切ってきたのか…基本的にこの人の動きは手だれの裏稼業玄人仕様だ。




「このバイクいいな。よく整備されてる」

「そうでしょう、そうでしょう。土間さんが見てるんだもの」

「はーん。なるほどな。さて、さっさと作戦会議しようぜ。あんまり余裕がねぇ事態だ」


 宗介さんがヘルメットをバイクにかけて、スタスタ歩って行く。

 

 アレ?蒼に触らないぞ…。




「ちょっと待ってよー」

「さっさと来い」


 うーん?何か…二人の間に距離が生まれてる。

 

 俺と同じく首を傾げた昴と千尋で追いかけて、エレベーターに乗った。


━━━━━━



「さて、サクサクやるぞ。この後ファクトリーに移動せにゃならん」

「えっ!?ファクトリーに?」

「なんだそりゃ?どう言う事だ?」


 蒼と銀に聞かれて、宗介さんが厳しい顔になった。




「東条がダスクの後継者に名乗りを上げた。ボスが危篤状態だってのを、集会開いて発表しやがったんだ。

 ボスを()()()()閉じ込めて、殺そうとしてるファクトリーを潰せってな流れになった」


「はぁ?何でそうなる?」

「蒼のご両親はどちらに?」


「アイツらは監禁されてるらしいが…特に痛めつけてるわけじゃねぇようだ。

 生かして使う予定があるからな。

 東条の目的はボスになり変わる事。ボスの病気の原因を研究者たちのせいにして、ファクトリーを潰す事。俺は東条に面識がねぇから直接聞いてきた。あの、ほら、小さい医者がいただろ?」


「本人に直接聞いたの?…キキの事を何か言ってた?」


「そうだ。アレと付き合ってんだってな?んで、延命薬の研究はキキと蒼の両親である研究者にやらせて金儲け、裏稼業でも死体処理のエキスパートとしてボロ儲けしたいんだとよ。

 表向きはボスを薬漬けにしたファクトリーを潰して、ボスのために立ち上がった義士って図式にするらしい。めんどくせぇやり方だ。

 そんで、キキは東条のイチモツの虜で何でも言う事を聞くし、便利な女だと吹聴して回ってたぞ。オメーもそうする予定らしいぜ」




「……殺そう、あの人」

「「「賛成」」」

 蒼とスネーク、桃と俺で頷く。


「俺もそうしてやりてぇが、問題はファクトリーだ。アイツ全員殺すってよ」


「こ、子供達までって事?」

「そうだ。ファクトリー内でボスが亡くなったら、それを皮切りに攻め入って口封じするつもりだ。真実を残したらマズイんだろう。なぜか俺は残されるらしいが…有能な幹部がいねぇんだ。スカウトが間に合うわけねぇし。俺はダスク側の戦闘要員だろうな。給料が急に支給されたぜ。ボーナス付きで」



 全員が沈黙する。

 キキの…あの涙を…クソッタレ。

 蒼まで手にかけようとするなら容赦はできない。ボコボコにしてやる。




「ボスの容態は?」

「安定してる。ファクトリーは警戒レベルを上げて籠城の構えを整えた。外に流れてた蒼の同期も戻ってきて俺の留守を見てる」


 なっ…蒼の同期!?千尋があんなに調べたのに見つからなかったファクトリー産出の子たち…。外に出てたのか。

 当の千尋も驚いてる。ファクトリーはどうやら情報を隠すのが上手いみたいだ。宗介さんが秘密にしていたって情報が漏れてもおかしくなさそうな物なのに。




「蒼の同期は存命なんですか?」

「おう。外に出てるのが3、ダスクにいるのが6。全員戻ってんぞ。アイツらはファクトリーが故郷だし東条の嘘を見抜いてる。蒼と同じで頭がいいからな」


「そ、そんなに?」

「元々は蒼と同年齢は100人いたが残ったのはたった10人。シャーレが同じ命が生き残ったんだ。その中でも大変優秀だったのがこいつだってワケ」

「…ここは照れるところ?」


「ふん、好きにしろ。見てたのは俺一人だから間違いねぇよ。蒼よりは劣るが、兵隊としては優秀だ。誰かさんと違って怪我しねぇしな」

「むぅ」


 蒼の頭をポンポンしようとして、宗介さんの手が引っ込む。

やっぱりなんかおかしい。ファクトリー潜入時に何かあったみたいだけど…。




「というわけで籠城戦と洒落込まなきゃならん。兵力的には対人間ならオーバーキルだ。こちら(ゴールデンアワー)の方が上って意味でな」

「そうなるよねぇ?東条は知らないの?」


 あっ、蒼が奴のことを呼び捨てにしてる。東条の名前を口にする時にすごく嫌そうな顔になってるし。




「知らせてねぇんだよ。俺が内情を知ってる唯一の組織人員でな。残ってる子供は使い物にならんと言ってある」

「先生…もしかして全部計画通り?」


「そんなワケねぇだろ…俺がお前を待つ為にそうしてただけだ。今回はそれが功を奏した」

「そうなの…ふぅん…」


 はいはい、ちょっと変な空気にしないで。


 


「ボス、どうする?」

「ちょっと待て、こっちも新しい情報があるんだ」


 銀が慌てて立ち上がる。


「あのぉ、東条のデータを探っていて…お金の流れを見たのですけれど…ダスクは、宗教団体ではありませんか?」


 えっ?なんで?と言うか何故お金の流れを見たんだ?

 


「金の流れを見た?どう言う根拠でそうなったんだ?」

「東条の履歴を調べたのですが、データが全くありませんでした。

 どこかに紛れているのかと思って組織メンバーを探っていたら、上は90、下は赤ちゃんから構成員ですのよ。おかしいでしょう?桃がお年寄りの方も給料もらってるのかと聞いてきて、調べたら逆に納めていて、そこから辿りましたわ」


「宗教団体って、何を祀ってるの?」

「ダスクのボスです。彼女を神様のように崇めているそうじゃありませんか」


「…なるほど」



 

 蒼にそっくりのボスが、神様のように崇められている宗教団体…。


「ここと同じじゃねえか?」

「ちょ、銀は何言い出すの?!」


「あんまり変わらない気もしますわねぇ。わたくしたちも蒼を崇め奉りたいですわぁ」

「それいいね?銅像でも作る?」 


「雪乃も桃も何言ってるの…もう」


 蒼が額を抑えてプルプル首を振ってるけど、うん、俺も何にも言えない。

 狂信者なもので…。




「そういうこった。あっちは信仰で金を集めて、デカい組織になって、悪いことして金儲けしてた。俺はそこで働いてるやつに拾われて裏稼業をしてたんだよな。

 東条は裏家業では見てねぇ。宗教で入った奴らの方じゃねぇのかな。

 そういう言うもんに興味はねぇが……わからなくもねぇな?」


「先生までやめて…もう。それならダスクのボスと話をしなきゃ。彼女に止めてもらうのが一番でしょう?東条の企みを伝えて、ボスが教祖なら一言『やめなさい』って言えばいいじゃない」


「まあ、それが最善だろうな。本人が起きれるかどうかは怪しいが。とりあえず武装してファクトリーに戻った方がいいと思うぜ。いつポックリ行くかわからんぞ。それが戦の始まりだからな。今度は俺が聞いてやる。どうする?ボス」


 みんなの視線が昴に集まる。




「妙な展開で頭が痛い。千尋、千木良に連絡して警察と連携、ファクトリーを攻められる前に関わらせないとならん。全員戦闘準備の上30分後に集合。…蒼はご飯を食べよう」


「おい、間の抜けた指示はよせ。途中までは良かったのに…」

「展開がおかしいんだから仕方ないだろ。さっさと準備して来い。」




 微妙な顔をした幹部たちが部屋を出て行く。

 千尋が冷蔵庫からお弁当箱を出して、レンジに入れながら電話をかけはじめた。…確かに間が抜けてる。


「あぁ、すまんが…いや、こっちだってよくわからん。相良はまだ病院だろ?総監は?休みか。呼び戻して対策本部でも立ててくれ。また連絡する」


 レンジアップしたお弁当箱がいくつも机に並ぶ。昴も微妙な顔をしながらソファーに座った。




「わぁ!こんなに沢山?」

「俺たちも一緒に食事しようと思ってたんだ。宗介さん、ファクトリーって食べ物あります?」


「すげーな、このまま進むんだな…。オートミールなら腐るほどあるぞ」

「他には?」

「ねぇ。俺は自分の食糧が山ほどあるが、プロテインが主食だ」


「途中で買い物しよう」

「そうだな」

「冷蔵庫くらいあるよね?」


「そ、そんな遠足みたいなノリでいいの?わたしオートミールでもいいのに」


「「「ダメ」」」

「むむぅ…」

 


 

 3人で声を揃えて蒼にダメ出し。

 妊婦さんなんだから絶対ダメ。ちゃんと食糧を買っていこう。なるべく今までと同じように生活していかないと。


「千尋、マッサージのクリームは?」

「持ってきてるぞ」


「なんで持ってるの?!」

「今日は俺の当番だから」


「当番も続行なの!?」

「当然だろ。俺は蒼の独占権を手放す気はない」

「えぇ…???」




 うーん。流石だね。千尋はクッキーも持ってきてたからなぁ…。それも持っていこう。


「蒼、お弁当冷めちゃうよ?」

「なんか…どうしてこうなったの??」

「「「わからん」」」

「やべえ…お前らおもしれぇ…」


 今までもそう言う感じだったしね。これから先もきっとこうだろう。

 神様の差配ってやつかな。




「うまそうだな」

「先生も食べていい?」

「沢山あるからみんなで食べようか」

「すごい目がギラギラしてるけど…」


 宗介さんが涎を垂らしそうな顔してる。

ファクトリーはオートミールをやめた方が良さそうだ。


 みんなで手を合わせて、いただきますとつぶやく。宗介さんが恐る恐る真似してるのがちょっと面白い。




「召し上がれ」


 千尋が笑顔で言うと、蒼と宗介さんが卵焼きに手を伸ばす。


「うまい!うまい!」

「先生!卵焼きばっかり食べないで!」

「あんだよ、いいだろ?シャバの食い物はうまい」


「シャバじゃなくて千尋の手作りなの!」

「なんだと!?…お前…こんな美味いもん作れんのか?」


 宗介さんは箸が止まらない。放っておいたら食べ尽くされそうだ。自分の分避けとこ。




「はぁ、まぁ…昴もできますよ。慧は鍋ならできるよな?」


「俺は簡単なのしかできないよ」

「慧のおうどんおいしかったよー。出汁の味が強めで…千尋のお出汁ともまた違うし」


「出汁なんか粉でやるんだろ?同じじゃねぇのか?」

「違うの。千尋のおだしは昆布が多い、慧はカツオが強め。昴は海鮮系が上手だったなぁ」


「お前ばっかうめぇもん食いやがって…唐揚げよこせ!」

「ちょっ、まだあるのに!なんで食べかけ持ってくの!もう。」



 妙な展開だし急に進んでいくし。

 ファクトリー壊滅目標が籠城戦になるし。

 一体何が起きてるんだろうね。

微笑み合う食卓は、戦前とは思えぬ暖かい空間になった。

2024.06.19改稿

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