あいる、びー、ばっく
宗介side
「じゃあ何かあったら、すぐ呼んでください。心電図はつけてるので呼ばなくても来ますけど、お気軽にどうぞー」
「おう、あんがとな」
看護師が笑顔を振りまきながら部屋を出て行く。
俺は窓のカーテンを避け、空気を入れ替えるために窓を開け放った。
良い天気だな。しばらく降り続いた雪が止み、それがすっかり溶けた。
冬の雪解けの後の独特な匂いが立ち込めている。冷たい雪が溶けて水になって流れ出し、大地が水を得て匂い立つようだ…春の訪れを告げている。もうすぐ、あったかくなるだろう。
窓から身を乗り出すと、研究棟やら住居群から顔を出した奴らが手を振ってくる。どいつもこいつもキラキラした笑顔しやがって……。
人に馴染むためについた同調癖のせいで、俺もにやけてしまう。別に…違う。俺まで浮ついてなんかねぇ。
旦那達が俺の住まいをいつの間にか引き払い、千尋の家に新しい部屋を開けて……そこに寝泊まりしてるとか。
子供達が『指輪、買いに行かないの?』『宗介パパ、アタシ次は男の子がいい!』『そうすけも、パパァ?』とか言っている事とか。
銀には『おめでとうと言っておく』って言われたとか、相良には散々ボコボコに殴られて『抜け駆けしやがって!長生きしろ!ばぁーーーか!!』って言われたとか…桃やスネークに恨みがましい目で見られたとか……別にウキウキなんかしてねぇからな。
蒼のそばのパイプ椅子に腰掛け、長い髪を撫でる。戦争やり始めた頃の長さに切った髪は…きっとまた伸びるだろう。栄養が足りてねぇからちっと栗色がくすんではいるが、そのうちにまた艶やかな色に戻ってくれる。昴達が散々蒼のために買い物ばっかしてるからな。ケア用品を見て怒られねぇといいが。
「お前、本当に生き残ったな……いや、一度死んだか。最期まで俺には言ってくんなかったじゃねーかよ。日記にこんなに書いたくせに。……生きてるうちに言えよ」
いつも抱えて持ち歩いている蒼の書いた日記は、そりゃーもう熱烈な告白の羅列だった。
『愛してるなんて今更言えない』とか…テレビドラマか?コイツの頑固さ加減にも程があるよな。
昴達や仲間たちが言うように、俺が蒼とくっつくのは…そうそううまくは行かねぇだろ。こいつは、死ぬ間際まで完璧だった。そのままサッパリ逝っちまいそうなのを、キキが止めてくれなきゃ間違いなくあそこで死んでた。
ここ一ヶ月の間に昴は規則正しい生活に戻し、千尋はタバコをやめ、慧は心臓に負担がかかる薬を飲むのをやめた。
どんだけ言っても聞かなかったし、殴ったって止めなかった物をあっさりやめやがって。……まぁ、そうだよな。蒼が生きてるなら、死ねねぇよ。
蒼が目覚めたら、俺はどうしたらいいんだろうな…告白のし直しか……時間をおいて徐々に行くか…俺が一番年上だから、死ぬまでに間に合うといいんだが。
「ん…ん…」
「はっ!?お、おい…?」
「ふぁーーーぁ…む…おお、未来の義父上。おはようさん」
「おま、お前!キキ!!待ってろ、今ナースコールを…」
キキがベッドの上で起き上がり、目を擦っている。寝たきりだったのにそんな、普通に目が覚めたミテェな…。
「宗介、蒼の様子を見たい。すまんけど持ち上げてくれー。足が重たいんだ」
「は?…だから今…」
「うるさいな。さっさと持ち上げろ。蒼の目覚めを他の奴に譲ってたまるか」
「……何言ってんだ?」
「いいから早くして」
「おう…」
あまりの剣幕に、仕方なくキキを抱えて蒼のベッドの上に乗せる。
半分下がった目のままで蒼の瞼を開き、瞳孔を確認して…手首に指先を触れて脈を測り始めた。
聴診器は流石にねえから、そのまま頭を胸の上に乗せて心音を聞いている。
「ん、OK。宗介、アタシをそこの椅子に戻せ。アンタがここに座んな」
「……おう。」
「うむ、ご苦労。蒼の手を握ってやれ。もうすぐ目が覚めるぞ」
「…はぁ?…キキ、お前すげえな…いや、目が覚めるってんなら昴達を呼ばねぇとだろ?」
蒼の手を握った瞬間、思いもよらぬ力で握り返される。体に電流が走ったみてぇにビリビリして、俺は蒼を見つめた。
「……け」
「は?な、嘘だろ!?マジで目が覚めたのか!?」
「ほーらな!あ、目を瞑っててやるからな!どーぞ好きにチュッチュしてていいぞ!!」
「いや、いやいや…意味わかんねぇ」
パニックになった頭は何もかもを吹き飛ばして、頭を真っ白にする。俺の髪の毛より白いんじゃねぇか?
顔だけ露出して、包帯に包まれた蒼の瞼がひくり、と動いた。
唇がはくはくしてる……。思わずそこに耳を近づけると『むぅ』と唸り声が上がった。
「蒼…蒼?目が覚めたのか?どっかおかしいとこはねぇのか?」
顔を遠ざけようとした瞬間、蒼の両手が動いてがっしり顔を掴まれる。
そのまま引き寄せられて、唇に唇が触れた。
「………んふ、あいる、びー、ばっく」
「……………………」
「ん、もっと」
「……お、俺は…違う、旦那達じゃねーぞ。今、連絡してきてやるから待ってろ」
「んっ…ん゙…けほっ。そーすけ、間違えるわけない、でしょ」
「は……は……?」
混乱の中で、動く蒼の唇が囁く。
『キスして』
訳のわからないまま、俺は考えるのをやめて…ただ言われるがままに蒼の唇にキスを落とした。
━━━━━━
「…………」
「ん…次、慧ね」
「蒼〜ぐすっ…良かった…本当によかった…」
旦那達と、子供達が交代で蒼にハグアンドキスしてる。みんな涙を流して、蒼に「おかえり」と囁き、抱きしめあって喜びを分かち合っていた。
俺はただ、それを呆然と眺めている。
「宗介、そろそろしっかりしな。」
「本気で意味がわかんねぇ」
「あ?キスする意味なんか一つしかないだろ?」
「どう言う意味だか教えてくれよ…」
「……蒼、宗介が頭の中身まで真っ白になってる。ちゃんと言ってやりな」
「うん…宗介、こっち来て」
旦那達と子供達がみんな離れて、キキのベッド側に集まる。……何が起きてるんだ?
「あのね、宗介。私は茜と約束して来たの。全部ちゃんとやり直して、今までやってきた事をやり続けるって。
じゃないと、『蒼を乗っ取ってやる』って脅されちゃった」
「茜…ああ、脳みその話か?死にかけて会ってきたのか?」
「うん」
蒼がそろそろと俺に向かって手を伸ばして、プルプル震えている。思わずその手を握って、支えた。
指先から暖かい体温が沁みてくる。
……生きてる、生きてるな……。
「日記は読んだでしょ?」
「……読んだ」
「ん。そう言うわけでその、宗介も旦那さんになって欲しいの。」
「だ、旦那って…どう言う意味だ?と言うか、お前どこまで記憶があるんだよ」
ふわふわ微笑む蒼は、一度黄泉の国への道を渡りかけて、戻ったって言ったって…1ヶ月も寝たきりだったんだぞ。
「頭が混乱してるんじゃねーのか?そんな急に色々しなくたって…あとで後悔しちまうぞ」
「混乱してないし、後悔もしません。私、ちゃんと見てたの。宗介が私に鍼をしてくれたでしょう?戦友にしたのと同じようにして私を救ってくれた。
茜がね、サイテー。って私に言ったんだよ…すんごい怒られた」
「な、何でだ?」
蒼の手を握り、その小ささに泣きそうになる。
「私は、見栄を張ってた。少しでも長く生きるって言ったのに、オムツとかそういうの、恥ずかしかったから無駄にちからをつかってた…だから怒られたの。
それから、宗介のことが好きなのに、そう言わなかったから。私の勝手な気持ちで、宗介を遠ざけたから。……だから、やり直したいの。
宗介、私の旦那さんになってください」
「……………………」
「あっ、もう…私のこと、嫌いになった?」
「な…るわけねぇだろ…頭がおいつかねぇんだ。俺は待ては得意だ。だがヨシはされたことがねぇんだよ」
「……じゃあはじめて?」
「初めてだが…そうじゃねぇって。旦那達はいいのか…?」
「お引越しを済ませたって、聞いたよ。海外のハーレムなら、現在の妻たちが認めて住居が移ったらもう受け入れた事になるんだけど?宗介は違うの?」
思わず旦那達の方へ目線をやると、三人とも頷く。……何でだよ!
「宗介…愛してる」
「…………」
「宗介と結婚したいの」
「…………」
「宗介の赤ちゃんも、欲しいの」
「………………」
「そうだな、早めに頼む。男でな。産み分けはアタシがしっかり教えてやるからな。」
「キキは何言ってんだよ!」
ぐるぐるする頭の中で、こんな熱烈な言葉は初めてで嬉しいやら、旦那達はどんな気持ちでこれを受け入れたんだ?と言う疑問やら、蒼が子供が欲しいって、そう言う事していいのか?やら次々に湧いてきて、ちっとも考えがまとまんねぇ。
「宗介…一生そばに居てくれるでしょ?ダメなの?」
「い、いる。約束…したし。……お前、茜への義理立てとか……」
「私が義理で宗介にこんなこと言うと思う?いいこと教えてあげる。
私が『愛してるから結婚してください』って、口に出してお願いしたのは初めてなの」
「………………」
「旦那様達にはプロポーズしてもらったの。だから、私からは言ってない」
「腹立つな」
「決闘だな」
「今のうちにヤる順番決めとこう」
旦那達の不穏な囁きを受けながら、冷や汗が出てくる。
俺の返事を待っている蒼の目が、じっと俺の顔を見て逃してくれない。
「俺…何も準備してねぇ。花も、指輪も」
「ん…そんなのいいよ」
「…………でも」
「宗介パパ、これどうぞ」
いつのまにか背後にやってきた成茜が折り紙でできた花と、おもちゃのでっけぇ指輪を渡してくる
「アタシのお気に入り指輪ちゃんなんだから!ちゃんと返してね!これは貸しよ!」
「翠、新しいの買ってあげるから。シー。今大事なところだからね」
「んむ…慧パパ、ごめんなさい」
「うちの子達はちゃんと分かってくれてるんだよ…パパ達のお陰だね」
「…………」
成茜がくれた、赤い薔薇の折り紙を蒼に手渡し、蒼は俺のスポーツウェアの胸ポケットにそれを挿す。
じわじわとそこから熱が広がって、俺の手が勝手に動いて、おもちゃの指輪を掴む。
おもちゃの指輪は緑色の石がついてんだ。翠がやたらキラキラしたもんが好きだからな…いっぱい持ってるのは知ってる。
俺の指先が震えて、歯を食いしばってそれを抑え…蒼の右手の薬指に通す。
包帯でぐるぐる巻きになった指の太さにぴったりな、でかい石を冠したそれが嵌まった。
「あ、蒼が好きだ。…俺も、旦那にしてくれ」
「はい…」
「本当にいいんだな?キャンセルは…そうだな、1年くらいは見てやってもいい」
「しないよ、そんなの」
「……キスしても、殴らねぇのか?」
「試してみたら?」
「…………」
蒼の頬に触れて、そっと唇を重ねる。
両手が首の後ろで組まれて……蒼が深く重なってくる。
夢を見てるんじゃねぇのか、俺。
蒼が生きてて、俺と結婚してくれるだなんて。
ちゅうっと音を立てて吸われ、慌てて唇を離す。とろんとした琥珀の目が細くなって俺を見つめている。
「ね?大丈夫だったでしょう?」
「…蒼、離してくんねぇか、俺は確かめなきゃならん」
「??」
蒼から体を離して、立ち上がり、握り拳で思いっきり自分の顔を殴った。
「「「あー、やったな……」」」
「なっ!?何してるの!?宗介!?」
「いてぇな」
「当たり前でしょ!!!ばか…あぁ…赤くなって…キキ!キキー!!」
「へいへい!ナースコール」
キキがナースコールを押して、俺はヘナヘナとパイプ椅子に座る。
まじか、夢じゃねぇ。マジか……。
「私が殴るより酷いじゃない…もう。よりによって右手で殴って…こっちきて、ほら」
「お、おう」
蒼が差し伸べた手に顔を寄せると、ティッシュで唇を拭われる。赤い血がそこに滲んでいた。……やっぱ夢じゃねぇのか。
「どうされましたかー?わ、流血沙汰ですかっ!!蒼さんもキキさんも目が覚めてる!?」
「す、すみません、あのー…口の中切ってるっぽくて」
「蒼の診察は済ませたから心配ないよ。宗介のだけ診てやって」
「は、はいっ!すぐに道具持ってきます!蒼さんも、キキさんも後で診察しますからね!!」
「本当にすみません…もう、何してるの。痛かったでしょう…」
蒼の小さな手のひらが俺の頬を撫でる。それに思わず擦り寄って、目を瞑った。
「蒼が俺の、お嫁さんになってくれんのか…そうか、そうか……」
「そ、宗介?」
「嬉しい。俺…生きててよかった。蒼が戻ってくれて、嬉しいんだ。それだけじゃなくて、俺のことが好きだって言ってくれた。」
「…………そ、すけ」
「言ってくれ…もう一回」
蒼の手を掴んで乞い願う。蒼の顔が赤くなって…俺変なこと言ったか?
「………そ…宗介の事が好き。愛してるの。旦那様になってくれるの…私も嬉しい。これからよろしくね」
「……う、…」
返事を返そうとして、唇が震える。何も、でてこねぇ。
「抱きしめたいけど、出来ないねぇ…」
「蒼…っ」
そうっと蒼を引き寄せて、なるべく力を入れずに抱きしめる。小さな蒼は俺の中にすっぽり埋まっちまった。
胸の中から生まれた熱が、喉を通って、鼻を上って、目から溢れた。蒼の言う通りだな、人の命ってのは…ここにあるんだ。
「よく、帰ってきてくれたな。」
「うん……」
「もう俺を置いてくなよ」
「うん……うん。」
腕の中にいる、ずっとずっと好きだった人が、俺の想いを受け止めてくれた……その事実だけが今までの全部を掬い上げてくれるような気がした。
蒼が生きていくなら、俺も100まで生きてやるからな。
「……あらぁ…旦那さんが増えましたねぇ」
「あっ、わわ…すみません」
「ふふふ…おめでとうございます♡落ち着いたらすぐに来ますよ。宗介さん、とりあえずこれで冷やしてくださいね」
「……すまねぇ」
「本当に…ごめんなさい……」
蒼のくぐもった声を聞いて、看護師が部屋から出ていく。気が効く奴だよな…。慌てて作ってくれたであろうビニールの中に入った氷を頬に押し当てる。口の中は血の味がした。
俺の横に千尋がやってきて、蒼の体制を整える。反対側からは昴と慧が座って、蒼の腰にクッションを置いた。
「お前たちにも……すまねぇな…」
「ふ、宗介はあれだな。蒼の前だと少年になるんだな」
「身に覚えあるやつー。でも少年っていうよりワンコっぽくない?」
「確かにそうだな。蒼の前だとみんな本性が曝け出されてしまう。蒼には宗介が一番晒されている気がするが」
「そんな事ないでしょ?旦那様達は…私の唯一の拠り所だもの。でも…そう言ってくれるなら早く元気にならなくちゃね」
蒼を手放し、ベッドを起こして背中をそこに置いてやると、大きなため息が落ちた。
「蒼…疲れたか?少し休もう。今はしっかり寝て休息するべき時だ」
「……ん…けが、宗介の…」
「うん。あとは任せていい。」
「そうだねー、どうせ増えるしね」
「ん……?ん?むにゃ……」
蒼が眠気に負けて目を閉じると…ぽん、と千尋が肩に手を置く。嫌な笑顔だな。
「さて、宗介。実質的にはお前さんは新人だ。これから当番の順番を決めるわけだが」
「宗介はレースでほとんど蒼と一緒の生活になるから、ちょっと拳で語ろうか」
「……レースなんか当分無理だろ?それに、復帰したてでそんな無茶な事しねぇよ。死にかけたんだぞ、コイツ」
「宗介……甘いよ。蒼が許してくれないよ、そんなの」
「……そうなのか?」
お互いひでぇ顔だった、あの日の面影はない。全員が笑顔でツヤツヤしてやがる。俺一人であれこれ考えてウジウジしてたのがバカみてーだ。
でも、そうだな……。蒼が居れば、後のことはどうだっていい。
「で、当番ってのは何で決めるんだ?俺も本気出していいって事だよな?俺もちっと運動不足だから久々にガチでやりテェな」
「「「…………」」」
「お前らー。看護師さんの仕事増やすなよなー。せめて蒼が全快になってからにしてくれー」
「「「そうしよう」」」
「あんだよ、つまんねーな……」
ひそやかな笑い声が耳に沁みる。これからは、毎日何も心配することはねぇ。
蒼のことだけ考えてりゃいいんだから。本当の幸せってのは、ここからなんだ。
「宗介、アタシが欲しいのは男の子だからね?アタシは女の子でもいいが、蒼に孫を見せなきゃならないんだ。生えてないと困るからな」
「…………オメェもロリ…ショタコンになるのか…」
キキがニヤリ、と嗤って蒼と同じく目を瞑り、突然『ぐごー!!』といびきをかきだした。…何だかなぁ…縁のある女は気が強いのしか居ねぇ気がする。
「とりあえず指輪買いに行こう。あの指輪じゃ危ないし、翠がへそ曲げるから」
「そうだな。あ、宗介に交代した分俺が残る」
「はいはい。じゃあ千尋とおチビ達はお留守番しててね。組織のみんなが来るだろうから、対応ヨロシク」
子供達と千尋を置いて、昴と慧に挟まれて…俺は微妙に居どころがない。
二人に背中をバンバン叩かれてるんだが、へこんじまうだろ。私怨を晴らすのはやめろ。
「背が高いから肩が組めないんだ。仕方ないな」
「本当だねー。宗介身長高すぎだよ…所で、指輪買うお金ある?」
「あぁ、まぁ足りると思うが。うちの…何代前か知らんが、家に伝わる石がある。ちょうど緑色だぜ。あれを使いテェな」
「ほぉ?宝石か?俺たちが作ったところなら、加工してくれると思うからデザインは揃えよう」
「あぁ、そうだな。俺の誕生石でな、ツァボライトってんだ。日本だと灰礬柘榴石だな。」
「くっ、腹立つな…宝石言葉は不変の愛、忍耐力、寛容。ぴったりだ…」
「はーヤダヤダ…お仕着せすぎない?
と言うか、宗介の誕生日っていつなの?」
「俺ぁ蒼の次の日だ。一月一日だぜ。めでてぇし、なんだか運命を感じるだろ?」
「「…………腹が立つ」」
「なんだよ…怖ぇな…。お手柔らかに頼むぜ、先輩」
苦々しい顔になった二人は、さっきよりも力が込めて背中を叩いてくる。痛えっての……。
だが、こう言うのもいいな。俺は嫁さんだけじゃなく兄弟みたいな、家族まで手に入れた。
それもこれも、みんな蒼のお陰だ。
晴れやかな気持ちでファクトリーのドアを潜り、青空に向かって手を伸ばす。
それをギュッと握り締め、三人で歩き出した。