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万古闘乱〜滅ぶのは人間か吸血鬼か〜  作者: 骨皮 ガーリック
己骨万皆
89/92

九十話 ゴリ押し

 全国津々浦々で腐鬼と吸血鬼の対処に奔走する聖童師たちの裏で、不老都市レッドオーシャンでは傲慢率いるレッドオーシャンと嫉妬率いる酷天(こくてん)の戦いが始まっていた。



 憤怒 落合(おちあい) 頑鉄(がんてつ)


 前の憤怒であった厳目(いかつめ) 銀次(ぎんじ)とは正反対で自分を表に出さない性格。

 その類稀な体躯は二mにも及びしっかりとした筋肉に覆われている。

 大きすぎる体をいつもすぼませ申し訳なさそうに立っている。

 無口で誰かと関係を構築しようとするような素振りを見せないおかげで孤立している。



 吸血鬼になっても臆病で気弱な落合は喜怒を溜めて溜めて溜めて、一人で抱え込み抑えきれなくなった時、全てを吐き出すように理性を置いて暴れ出す。



 酷天の一人、柏木(かしわぎ) 明人(あきと)

 スーツ姿ですらっとした爽やかな男、基本的にポケットに手をしまっている。


「あーなに?もしかして戦いに自信無い感じ?無理やりこの場に連れ出された感じ?

 嫌なことは嫌って言わなきゃダメだよ。

 体でかいから期待されちゃって引っ込みつかなくなっちゃったんだよね。いいよ、見逃してあげるから逃げなよ」


 落合が喋らないのをいい事に、逆撫でするような事を言いまくる。


「もしかしてプライド高い系だった?それなら逃げづらかったよね、ごめんごめん」



 落合(おちあい)は生まれながらの短気であった。

 プライドが高い訳ではなく、こだわりが強い訳でもなく、神経質な訳でもない。

 単純に好き嫌いが激しく、嫌いな人に対しては全ての行動に苛立ちを覚えてしまう。



 それで幾度となく失敗を経験してきた結果、全ての感情を表に出さないように訓練をした。


 吸血鬼になってすぐ、感情の制御を誤り怒りに身を任せたことがあった。

 そして全てが終わった後に気づく。


 これが吸血鬼の生き方なのだと。本能で悟った。


 人間時代の癖で感情を表に出せないが、怒りだけが気持ちを奮い立たせてくれた。



 目の前の男は燃料を撒き散らし、あまつさえ自ら被ってるようにしか見えなかった。



(その顔、その声、その話し方……全部全部腹が立つ)


落垂曝頭骨(しゃれこうべ)


髑髏(どくろ)落とし (つみ)


 そのつぶやきの直後、柏木の上空三メートルに黒鉄の髑髏(どくろ)が現れた。

 その大きさまるで大仏、即座に落下を始めた。


(ズゥンっ!!)


 髑髏は空気を潰して落下を始め、柏木を潰しにかかる。



「うーん、強引だね。もっと柔軟に行こうよ」


(ズドォンっ)


 軽く後ろに跳んでこれを回避する。

 そこへ、第二の髑髏。さらに、避け続ける柏木の頭上に髑髏が次々と現れる。



髑髏(どくろ)落とし (つみ)


 何か対策をするようなことも無く淡々と落とし続け、気づけば地面は髑髏で埋まっていた。


(ズドォンっ)


 四方を大量の髑髏に囲まれ、露出している地面も柏木が立っているところを残すのみ。

 そしてそこを埋める最後の髑髏が落とされた。



「少しは工夫、小細工、思考を凝らせられないかね」


 落ちてくる髑髏に対して右手を伸ばすもそのまま潰され。


(グイーン)


 地面との衝突音は響かず、袋から取り出したばかりの紙粘土のように髑髏の下顎が勢いよく伸びた。



 柏木の童質。由柔(ゆうじゅう)不断(ふだん)

 手で触れた物を柔らかくする。



 十分使える駒は揃ったしそろそろ攻撃開始と行こうか。

 死にたくないならその無駄にデカい(からだ)を少しでも小さくするんだなっ。


(ふんはっ)


 俺が体を捻るとそれに追いつこうと髑髏が遠心力を使ってよく回る。


 チューイングガムみたいな練り消しみたいな、指がどこまでも食い込むけど絶対にちぎれることは無い。

 それが俺の童質の影響を受けた物の特性。


 あいつは俺の武器をこんなにも用意してくれた。その好意を無駄にしないで全部お返しするから覚悟しろ。


 回転していく中で十分に伸びた下顎から手を離す。その勢いのまま髑髏は飛んでいく。


 手から離れた瞬間、伸びた下顎は縮み元来の硬さを取り戻す。


(ブォンっ)



 一直線に飛んでいった髑髏は落合に勢いよく迫る。


髑髏(どくろ)落とし (はじき)


 そのつぶやきの直後、落合の隣には横向きの髑髏が現れた。


 そこからスイング運動で動き出し、前から来る髑髏と衝突し弾き飛ばした。


(ゴゥンっ)


 破片が飛び散るも、2人は微動だにせずやり過ごす。



「めんどー。童質めっちゃ使うじゃん。

 これ絶対持久戦になるって、汗かきたくないなぁ」


 てゆーか、ポテンシャルは俺より高いよな。あれだけの髑髏を出しておいて疲れた様子ないし容量えぐいぞ普通に。

 能力格差を感じるなぁ。


 なんで俺の相手がこいつなんだよ。お姉さんを手玉に取りたかったのに、大男て。

 マイクロビキニのお姉さんが良かった。

 シラケるわぁ。


 前後左右、巨大な髑髏に囲まれて良い気はしないよ。だって目が俺の背よりでかいもん。縦ですっぽり入れるよ。

 


 地獄の入口ですか?黒すぎて影も見えないし。ここは骨董品屋ですか?髑髏専門店の。


(ブォンっ)


 言ってる傍から追加仕入れが来たよ。


 野球…テニスかな。来た玉を掴んで十分に伸ばして相手にはじき返す。


 精密な操作は出来ないっぽい。むしろ俺の方が操れてる。


 さっきから落とすか振り回すの一方通行で終わってる。


 髑髏単体の性能を見てもそれだけ出来れば十分な性能だよな。

 大きさは十mあるかないか。重さは数トン。


 脳筋かよ。どうせ今までパワープレイで勝ってきたんだろ?それじゃあ俺には勝てねぇよ。





 数分後。




(待て待て待て待て待て待て待てっっ!!)


 馬鹿だこいつ。ありえねぇ。


 脳があるやつの戦い方じゃねえぞ、こんなの。



 あれから数分間、ずっと髑髏を落とし続けやがった。それもペースが上がって今じゃ四つ同時に落ちてくる。


((((ブォンっ))))


 対処しきれねぇ。こちとら腕二本だぞ。シャツが汗でびっしょりだ。ふざけるな。


 こんなの戦いじゃねぇ。


「うぉぉぉああああああ!!」


 逃げ場が無い。腕が上がらない。

 いくら避けてもいくら投げ返しても際限なく落ちてくる。




 死ぬ。



 こんな最後あってたまるかぁ!なんでこっちが狩られる側なんだよぉ。そんなのあっちゃならないんだよ!こなクソォ!



 腕を前に出せば柔らかくなるからダメージは無い。それでも腕力は消耗するし、髑髏の上から髑髏で押し込まれると間接的には柔らかく出来ないから衝撃がグッとくる。



 やめてくれ。



 癇癪を起こして泣きじゃくりおもちゃを投げる子供のように俺は腕を振るった。

 がむしゃらに振るった。


 髑髏が指先に触れた瞬間、指にひっかけ投げ返した。終わらない作業を繰り返し、ついに腕が下がる。



 天を仰いだ。



 その間、体は無意識に動き髑髏を跳ね返す。

 スーツの袖を引っ張り、出来上がった布のシールドが全てを跳ね返す。


 破れないということは壊れない。


 それでも消沈した意識は戻らない。雨あられと落ちてくる髑髏に囲まれ、視界に広がっていた青空が塞がれた。



『童質改変。生絶(はえたえ)折衷(せっちゅう)取次筋斗(しどろもどろ)


「柔軟にいこう」


 死とは何か。それは魂や肉体の喪失。

 魂や肉体があればそれは完全な死とはならない。


 魂と肉体の繋がりを柔らかくこねくり回し、生と死の概念をあやふやにする。


 浮かび上がった魂は傍にある髑髏へと吸い込まれ、形を変えた。




 上の空だった意識が戻った時、俺は髑髏になっていた。


(ハッ!なんだこりゃっ?)


 さっきまでの全身の疲労が嘘のように無くなって……って、俺の体が倒れてる。

 落ち着け、記憶にはある。


 なぜか俺は童質改変をしたんだ。無意識の内に何かを構築してたのか、今まで童質改変はできなかったのに、死の淵に立ったことで何かのトリガーを引いたのか。



 そんなことよりこの状況、一切動けない。

 無意識の内の俺の計算だと魂の形に押されて髑髏も変形してくれるはずだったんだけど。


 今の俺に出来ることはわかる。


 それは、魂の移動。


 物から物に魂だけを移すことが出来る。感覚的にわかる事だけど、



 とりあえず乗り切った。ここからは長期━━。


(ゴゥンっ!!)


 突如、訪れた浮遊感。そして正面しか見えないはずなのに、青空が見えて。



(俺は今、弾き飛ばされたのか?)


 微かにあいつの声が聞こえてた気がする。たしか。


髑髏(どくろ)落とし (くずし)



 風切り音が聞こえる。視界の端には俺と同じ用に弾き飛ばされた髑髏が同じ速さで動いてる。


 飛ばされる事十秒。


(ザッパァァン!!)



 海だ。それに髑髏の中になぜか海水が入ってこないから浮いてる。動けない。




 終わた。



 童質解除したところで十秒も飛ばされたんだ、泳いで行ける距離とは思えない。


 十月の海。ひんやりと体を包んでくれてなんとも気持ちがいい。

 吸血鬼になってからというものこんなにもゆっくり頭を解放したことなんて無かったな。

 いつも周りを気にして行動してた。


 俺は海だ。




 全ての髑髏と柏木が弾き飛ばされたのを確認した落合は、すぐにその場を後にした。


七転(ななころ)六起(むお)き。くたばれ負け犬」


 移動中にそうつぶやき、たどり着いたのは不老都市レッドオーシャンの住民が使用する防災シェルター。


 その警備役として落合は仕事に就いた。

 ボスの力に恐れ、逃れるためレッドオーシャンに入った落合は一人でいたい。



 柏木(かしわぎ) 明人(あきと)、海の藻屑となり戦闘不能。

 藻屑というにはあまりにも清らかな心であった。

ちくしょうっ!

こんなに期間が空いてしまうとは思いもしませんでした。過去1番、遅い投稿ですみません。


盛り返せるのか、自分。

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