八十九話 兄弟の招来、ショータイム。
まずは自己紹介から始めよう。
たかしでご存知、高橋兄こと高橋たかし。
生まれは夜空で育ちは月光、天の川の流水で喉を潤し、食べた星屑は数知れず。着飾る衣は銀河系。
恵まれた出生と環境によって星降る夜に姿を見せる俺こそ宇宙の王子様。
みなの期待に馳せ参じ、海の藻屑をお見せしよう。
『星のささくれ』
「気まぐれの戯れ。俺の心は今もやさぐれ。
天丼食べたらこれは胃もたれ、勝負の前にはカツ丼だバカタレ。
波打ち際に射し込む夕暮れ。死者の行方は大方黄昏ぇ。
開幕任され超辛ぇ。期待に応えるso great。星を降らせる俺強ぇ」
「上げてけ太平洋っ!!腐乱な俺たち起こすぜ波乱!」
ビビっと脳汁吐き出すビートをリード。
ウインク合図でto shink。イェァ。
数秒後、数千の星が不老都市レッドオーシャンに降り注いだ。
兄ちゃんが自己紹介したなら俺もしよう。
たけしで名を馳す、高橋弟こと高橋たけし。
三歩進めば兄がいる。進退一身兄の影道。
見参称賛ご覧あれ我が道先は修羅の墓。
修羅に転じて仏に候う。
我が兄たかしを奉れ、さすれば鐘を鳴らす槌となる。
「兄ちゃん。この音届けるよ」
「星打小槌っ」
小槌のサイズに見合わない程に両手で大きく野球のバッターのように構え、一拍置いて振り抜いた。
(ブォブォブォブォブォブォブォブォンッ!!)
一周、二周、三周。その場で回転するたけしを他所に小槌は大槌では収まらない程に巨大化した。
たけしの体躯を優に超え、クルーズ船と見まごう程にまでなっていた。
そして降り注いてきた星を叩く。叩く。叩く。
(カァン!カァン!カァン!)
打ち飛ばした星が建造物を砕き、降り注いだ星に地面を砕かれた。
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(ドカァァァァン!!)
なんだよ!何が起きてんだよ!
「安堂っ!」
くそっ、ソファで寝てる場合じゃない。
ともかく、起き上がって窓の外を覗くと遠くの建物から黒煙が上がってた。
「ボスっ。また何かやったんすか?照っちには自分で謝るんすよ?」
「違う!これはボクじゃない、襲撃だよ。
北西から仕掛けてきてる!」
クソっ。ボクらの縄張りだってわかってやってんだよな?
「ちょっ、ボス!?ちょまっ」
悠長に玄関から出てる場合じゃない。
(バコォンっ)
過ぎてく視界に崩壊した建物が映り込む。
北西の港まで一直線で跳んで着地すると、一隻の小型船がこっちに向かってきてる。
さらに沖の方に二隻の小型ボートがゆらゆらと波に揺られてる。
「こんなとこまで侵入されちゃってるよ」
船首に立ってる見知った顔。会ったことは無いけど写真で目に焼き付けた顔。攻め込もうとした組織の幹部、その二人。
「高橋兄弟……そっちから来るとはね、予想外」
戦う準備はできてたよ。
それよりも撮影のためにスーツを着てて良かった。こんな戦いにパジャマじゃ格好つかないし。
「レッドオーシャンただいま到着。王が来るまでしばらく膠着」
「兄ちゃん、今日も最高だよ」
「だろ?」
「舐めてるだろ」
遠くても波の音が遮っても聞こえてんだよ。生統はまだ来てないのか?だったら来る前に全滅させて泣きっ面拝んでやるよ。
(((((スタっ)))))
「やっと来た、みんな遅いよ」
「火の消し忘れは怖いっすから」
「電源消しておかないと情報が流れますからね」
「もぉ最近言い訳多くない?」
ここまでフランクに話してくれるのは安堂と照っちの二人だけかな。やっぱり幹部といってもこの二人は明確に他とは立ち位置が違う。
組織の中には完全な上下関係が作られてるけど、二人だけは対等に感じる。
敬語だけどどこか砕けた雰囲気がある。創設初期メンバーって事で括られてるんだよね。
なんだろ、他の人はボクが突き放しちゃってるのかな。組織にはなれてるけど仲間にはなれてない気がする。
「それよりエプロンは外してよ」
「すいやせん。なにぶん急いでたもんで」
「いいけどさ」
(バサっ)
スーツの上からチェック柄のエプロンを着けてるのはさすがに許容出来ない。戦場なんだから。
んー律儀に畳むのも違う気がする。脱ぎ捨てて風に飛ばされるのを期待してたんだけど。
せっかく港で風もあるんだから。
「そっちの考えは知ってるよ。言わはこれは吸血鬼という種族の未来をかけた前哨戦」
共存か支配か。レッドオーシャンか酷天か。
人間への挑戦権をかけた戦い。
「さぁ行こう!ボクは勝つよ」




