八十八話 二極
月日が流れ、2021年紅葉満開の季節。
太平洋にて、不老都市レッドオーシャン誕生。
海上に浮かぶ要塞、広さ二千k㎡。東京ドームおよそ四十三個分。
そのほとんどが童質によって造られた人工物。
半年前。
拠点が決まらないまま、一年半も経っちゃったよ。ずるずるともうここでもいいんじゃないかと思うようにもなってる。
「もう、いっそのこと海に造っちゃう?
日本海とか色々アクセスしやすそうじゃない?」
「それは無理なんですよ」
「なんで?」
「日本海には近づくな。それが世界の決まり事ですから」
「なんで?」
「怪物がいるんです。
正一位 水聖 海原 始乃。
童質は至ってシンプルな『水』です。
それ以上でもそれ以下でもない水の生成から操作まであらゆることを可能とする童質。
在り来りなそれを支えるているのが、彼女のセンス。
はっきり言って水場では最強です」
水場最強ね。世界最強のボクからしたらその強さは胡散臭いね。
最強を名乗るならどこでどんな時だろうと強いのが当たり前。
当然、水場でも最強はボクだよ。
「日本海から動かないならいいや。太平洋でいいじゃん」
「そうですね。律儀に世界の法を守る必要ないですからね。なんせ、俺たちは世界と戦うんですから」
「照っちノリノリじゃん」
「そうですか?少しボスの傲慢が伝染っちゃいましたかね」
「嫌そうに言わないでよ」
ウイルスじゃないんだから伝染らないでしょ。それに傲慢はボクの特権だし!
そうして出来上がった不老都市レッドオーシャン。
生に屈っするな。
レッドオーシャンに住む者たちの権利を主張し、尊厳と権利を普遍的なものにする都市。
俺じゃなきゃダメなんだ。力を持つ俺が、誰よりも強くなって勝ち取るんだ。平穏と安らぎのある生活を。
吸血鬼を裏の世界に陥れた人間が許せない。
口で諭せないなら拳で悟す。
ボクが生まれた意味はそこにある。
レッドオーシャンの中心に建てられた円柱の建造物にはボスと幹部が生活している。
その周囲二百mは白いタイルが敷かれた平地で、それを囲うように多くの建造物が建ち並び吸血鬼たちの生活圏となっている。
そのほとんどが非戦闘を望む者たちだ。
働く対価に金銭を得て不自由の無い暮らしを送る。
吸血鬼というだけで日々を怯えて送らなければならなかった者たち。
衝動に駆られて人を殺してしまうかもしれないという恐怖を抱え、常に何かと戦っていた。
そんな者たちにとっての楽園。
不老都市レッドオーシャン。
巨大犯罪組織 酷天。
一年半前に立ち上げ、何やら大きな計画を遂行している。
そして、準備段階を終わらせ本格的に動き出す。
酷天を率いる者の名は。生統 大牙。
七つの大罪が一体 嫉妬 生統 大牙。
大人しい吸血鬼を刺激し暴れさせ、腐鬼の大量生産を行い、吸血鬼の暴走を引き起こす。聖童師の目を誘導するために。
騒ぎによって捉えられた者、狩られた者は足切りされ、組織との繋がりが見つけられなかった。
そして、老人の行方不明者が昨年の三倍となった。今もなお増え続ける行方不明者。
鹿児島県霧島市。
ホテルの一室に佇む上下白服の少年。
その少年の傍には二人の男が侍っている。
「順調だよね」
「もももももちろんっ、順調以外のなにものでもございません。
二十代の女100、男300を三箇所で捕らえてます」
「ほっほ…時が満ちましたかな」
少年の言葉に慌てふためき肯定する青年と顎髭を撫で下ろし窓の外を覗き意味深なことを言う老人。
「邪魔なやつらが動いてる。分かるよな?
僕たちにとって邪魔なやつらだ」
「こっ殺しましょう!そんなやつら殺してしまいましょう!」
「もちろん見えておりますとも。早速行かれますかな?」
「僕は成功させなければならない。父と母からそうなるように産み落とされ、棚橋からその計画を託された。
僕が生まれた意味を世界に刻む。明日、世界が僕の手に落ちる。
吸血鬼は生物を統べる存在でなければならない。人間との共存を考えてはならない。
共存を望む吸血鬼は世界の癌であり悪だ。
人類家畜化計画…。レッドオーシャンを潰して最終段階へ移行する!
突撃せよっ!目標は太平洋に浮かぶ不老都市レッドオーシャンっ!
先陣は高橋兄弟に任せる。必ず落とせ…」
2021年10月1日。
不老都市レッドオーシャンにて、不老結社レッドオーシャンと酷天が衝突。
二年前の悪夢再来。全国津々浦々に腐鬼が大量放出、これに聖童師が対応。
行方不明者が増え続ける。
ぶへらっ。
もうすぐ最終章。




