八十六話 地下都市襲撃っ
ゴールデンウィークが終わったけど休み疲れが取れない。動きたくない。
「あんど〜。今日の夜ご飯なぁにぃ?」
「ボスゥ。朝からずっとそこにいません?陽の光を浴びないと体に良くないっすよ」
「平気だよぉ、だってボク吸血鬼だもん」
「気持ちの問題っすよ」
むー。親みたいに口うるさい、親じゃないのに。
「で、夜ご飯なに?」
「んー、肉と野菜を炒めたやつと魚とか」
「なんて名前?」
「名前なんて無いっすよ。冷蔵庫の残り物でやってるんですからテキトーっすよ」
「んー」
なんか最近の安堂は初めて会った時と比べてかなり態度が…んー、変わってないな。
そういえば最初っから恐れてるのか敬ってるのかよく分からない態度だった。
口では色々言ってたけど普通にボクをぞんざいに扱ってた。
なんやかんや最初はボスっ!てよいしょされたけど今はもう、親戚のお兄さん…いや、母親くらいまできてる。
だってこの前なんか朝寒くて起きれない無理やり時に起こされたしポケットにティッシュ入れて洗濯機に入れちゃったのも怒られて掃除やらされたし部屋が汚いって怒られた。
安堂またの名をミスターママ。と呼ぼう。
「ほら、この時間ならあれやってるんじゃないっすか?ボスが好きなやつ」
「ほんとだっ!もっと早く言ってよ」
「なんで俺がボスの番組表にならないといけないんすか。そんくらい自分でやってほしいっす」
「もういいよっ!」
外が完全に暗くなる頃、テレビを観てたら照っちが来た。
珍しいな、いつも部屋にこもってパソコンカタカタやってるのに。それでご飯に毎回遅れてくるのを安堂に怒られてる。
「探しましたよボス」
「何かあったの?」
照っちとは日常会話はするけどそこまで頻繁に話すわけじゃない。話すのも大抵安堂がいる時だし仕事の話が多いから、何か新しい情報でも入ったのかな。
「地下都市は知ってます?」
「うん。ボクと同じ大罪の怠惰だっけ?その一体がそこにいるってやつでしょ?」
「そうです。なんとその場所が判明しました」
「おぉ、よかったね」
「それでですね、ちょうど今聖童師が乗り込んでやり合ってるんです。
気になりません?」
「別にあんまり」
「そこに学生最強がいるんですよ。ボスと同じく特禍の力を有してます」
「学生最強ね。ボクを差し置いて随分崇高な二つ名してるね」
「確かにボスはこの春中学生になった年ですからね。
今後の事を考えて見ておいた方がいいかと思います」
「今のうちに殺しとけってこと?」
「その判断をするために見ておいた方がいいかと」
「うーん…」
「あんまり心踊らないって感じっすね」
「わかる?」
「そりゃ、何年一緒にいるかって話っすよ。
俺は見といた方がいいんじゃないかって思うっすよ。人を従える器を持つ者の姿を」
「ボクに不満あるってこと?」
「そうじゃないっすよ。ボスはボスがやりたいようにやればいいんす。
天才を知る努力をし場を整えるのが我々凡人の仕事。
凡人は天才の土台になるのが使命なんす。
天才には天才の。凡人には凡人の使命がある。
その生まれ持った吹けば飛ばせる力、使いこなさなきゃダメなんす」
「最近つまらないんすよね。張合いのある相手がいないから無理もないっすよ。
だからこそ、今は動く時なんすよ」
「うーん。そこまで言うなら行こうかな」
「行っちゃいやしょう!そんでボスの強さを知らしめてきてやりやしょう!
これはボスにしかできない暴力の仕事っす。一発かましちゃいやしゃう!」
「それにボス自身もそうだと思いますが、我々もボスの強さがどれほどか知っておきたいです。いざって時に自陣営をどう割り当てるかっていうのは重要ですから」
確かにね。この日本の聖童師のレベルがいまいち分からない。本当に強いやつと出会ってないのか、その程度なのか。
早く知っておきたいっていうのはある。
「できることならボスと同等以上の者に会いたいですね。ボスの為にも」
部屋を出ていくボクの後ろからそんな声が聞こえた。
これはレッドオーシャンの仕事で行くわけじゃない。単なるボク個人の暇つぶし。
だから正装を着る訳にはいかない。
そして相手に舐められない格好にしなくちゃならない。
ってことで、古代ローマの人が着るような白い貫頭衣。
頭から足先までジャラジャラと豪華なアクセサリーを引っ掛けていく。
クラウン、ピアス、ネックレス、ブレスレットにアンクレット、指輪。
歩く度にそれぞれがぶつかり合ってジャラジャラと音を出す。
ぼくは逃げも隠れもしない、正面突破だ。
教えてもらった住所に行くと、どこにでもありそうな工場の敷地。
でも、分かる。下からプンプン小汚いネズミの匂いがしてることに。
絡まったイヤホンを丁寧に解すように、匂いの線を辿れば行き着く、地下都市に。
まるで遊園地の敷地みたいな広さの地下空間。奥にある建物に突っ込む。
部屋に入ると違和感が体を襲う。
「うっわ。頭の中に何かが入ってくる」
見えない何かが頭上を駆け巡る。それも一度や二度じゃない、獲物を見つけたスズメバチのよつうに、通り過ぎては折り返してを繰り返してる。
鬱陶しいことこの上ない。
「照っちの言った通りにしておいて良かった」
「ボス、敵と向かい合う時は必ず童質で自分の身を守るのが鉄則です。
無条件、出会い頭に童質をぶつけてくるのが定石ですから」
おかげで頭に入り込もうとしてる何かがスルスルと通り過ぎてく。
ボクに触ろうだなんて少し傲慢じゃない?
それに無防備に転がってる人たちがボクと同等かもしれない力を持ってるって?
頭にくるね。こんなヤツらが強いって言われてる聖童師のレベルに腹が立つ。
だからボクはソファに寝っ転がって、そいつらを生かして言ってやった。
「聖童師っていうのも案外大した事ないね。
そんな雑魚にやられるんだから笑っちゃうよ。
アハハハハッ!!」
ちょっと前までボクがいなかったからこれだけ弱くてもイキがれたんだ。
夢の時間はもう終わりだよ。
分不相応な肩書きに押しつぶされるんだね。
「吸血鬼たちがこぞって敬遠する奴らがどんなもんか見に来たらこれだもん。
ガッカリだよ。
大罪も大したこと無いじゃん?あれ、ボクが強すぎるのか。
さてさて、次にいつ会うかわかんないけど、それまでにはボクと戦えるくらいには強くなっておいてよね聖童師。
こんな雑魚を支配して何が楽しいんだか。
こう見えて嬲り殺すのは趣味じゃないんだ」
吸血鬼が権利を掴むのも時間の問題だ。
そうとなればこんなところに用はない。
収穫無しっ!
ボクは地下都市を出て家に帰った。




