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万古闘乱〜滅ぶのは人間か吸血鬼か〜  作者: 骨皮 ガーリック
己骨万皆
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八十五話 死んじゃえ

 不老結社 レッドオーシャンとして動き始めて一年が経ったけど未だにひもじいアパート暮らしが続いてる。

 というのもみんなが納得する拠点を見つけられてないから。


 みんなボクが良いと思ったところならどこでもいいって言うけど、肝心のボクの心にズドンとくる物件が見つからない。


 ファンドマリンのおかげで資金にはかなり余裕がある。


 そんなわけで今日はレッドオーシャンの正装を決める買い物に来てる。


 照っち、安堂、ファンドマリン、スパイシー。


 スパイシーは半年くらい前にできた新しいチーム。

 資金調達のファンドマリンに対して諜報活動をメインに動くスパイシー。


 メンバーは石辺(いしべ) 禁吉(きんきち)とその部下の大源(たいげん) 総悟(そうご)の二人だけ。型はめ石辺とホラ吹き大源。


 こんな正反対なのにいつも一緒にいるんだよね。

 眉間に皺を寄せる石辺と口と頭が緩い大源。



「俺が着るとなんでも似合っちゃうから石辺さんをマネキンにして選んだ方がいいですね」


「そうだな。私は中肉中背で顔もパッとしないから基準になるにはちょうどいいな。っておい!誰が自分から声掛けないと気づいてもらえない影の薄いおっさんだっ!!」


 ペシっと、いつも通りのマニュアル通りのノリツッコミが決まった。



「とりあえず各自で一式揃えてもらって見せ合いしようよ」


「いいですね」「気合い入りますね」「自信ないっすね」「ついに見せる時が来ましたか、この敏腕を」「真面目にやれよ?」


 みんながそれぞれ歩き出す。ボクは安堂と見て回る。



 大体三十分くらいでみんな揃った。



 悪くは無いっていう評価が続く中で、大源がお披露目した衣装にビビビビっときた。


「それがいい!」


 迷うことなく飛びついた。


「やっぱり選ばれちゃいましたか。知らず知らずの内に開花してた自分のセンスが恐ろしいです」

「溺れて死ね」


 スマートに辛辣な言葉を放つ石辺。堅物だけどこういうところに関しては軽く一線を超えるんだよね。

 こんなこと言うのは大源にだけだけど。


「どぅわっ!」


 大源が試着室に戻ろうとした瞬間、大源の手元に大剣が現れた。

 その驚きようから見て意図してない事なのがわかる。



「ちょっ!なにしてんのっ」

「俺にも分からないんですけどね。分かってるのはいつも何か達成したときに手元に出てくるんですよ。

 俺はそれを『報酬』って呼んでます、これが俺の童質だと思うんですよね」

「とりあえずしまおうか」


 こんなの見つかったら大事になっちゃう。


 大源は大剣を胸ポケットに収めると綺麗に無くなった。

 これはボクも知ってる、収納ポケット。

 なんでもしまえる巾着を内ポケットに入れてる。これも報酬でもらったやつなのか。



「心に聞くと分かるんですよ。

 『座奪(ざだつ)』統べる者を降ろす剣、らしいです。ふふっ、俺にふさわしい剣ですね」


 とまぁ、正装が決まって良かった。


 上下黒スーツに赤シャツ黒ネクタイ、サスペンダー。

 キュッと引き締まりつつ、ボクたちのカラーを出しながらも正装として成り立ってる。




 正装を纏った初仕事は聖童師の間引き。

 今回は意図せず向こうからやってきたのを返り討ちにする。ボクとスパイシー。



 目の前には大勢のいい歳した大人たちが、少数のボクたちをこぞって狩ろうと息巻いてる。


 総勢三十人。聖童師っていうのはホント血も涙もないヤツらだよ。

 やだなぁ、ボクまだ十一歳だよ?



 そんなことを考えながら立ってたら向こうから動き出した。


「子どもながらに立ってるだけでこの存在感。

 そうか、貴様が傲慢の夜道羅(やどら)か」

「っ!?」


 なんでその名前を。これまでボクは頑なに名前を言ってこなかった。

 ボクの黒歴史。このキラキラ…おどろおどろネームにどれだけ振り回されてきたか。

 なんで知ってる?どこから情報が漏れた。


 相手は聖童師だ。可能性としては情報を抜かれたの方がありえるのか。そういう童質を持ってるやつがいる。


 ぶっ殺す。ボクの名前を知ったやつは全員ぶっ殺す。


 石辺と大源にも聞かれちゃったけど、大源の記憶修正テープで消せばいい。


「夜道羅って言うんですね、ボス。吸血鬼とはかなり相性がいい名前じゃないですか」

「大源、それ以上喋ったら殺す」


 どいつもこいつも心の内では笑ってんだろ?ボクなら笑う。こんな醜い心になったのも全部この名前のせいだ。



 目の前の聖童師たちはグレイトフルアーミー。

 従一位二十人、正二位十人で構成された聖童師の組織として最大人数を誇る物量殲滅隊。

 後ろの二人は一目見てそんな情報をくれた。



 この半年で結構聖童師にちょっかいかけてる。だってねぇ?ウザイじゃん。

 周りをブンブン飛び回って我が物顔で吸血鬼を殺していくんだよ?

 ボクが聖人でも殴るよ。


「その歳で何人聖童師を殺したっ」

「さぁ、どうだったかなぁ。

 戦って死んだのに文句言われたくないな。勝者は生きて敗者は死ぬ。考えなくても分かるよねっ」

「お前のような悪は監獄で一生を棒に振るってもらう。我らグレイトフルアーミーによってな」

「一人じゃ何もできない人たちの集まりでしょ。そもそも名前負けしてんじゃん。

 聖童師ならワンマンアーミーを名乗るくらいじゃないとね。それでよく今日まで生きてこれたね」


「たった三体で我らに勝つつもりかっ。

 我らは百を超える吸血鬼を狩ってきたのだっ。

 今日は祝杯だ。大罪を狩れる機会に出会えたのだからなっ」


「そっか、運がいいね。ボクに殺されたのはまだ十人もいないから、キミは特別だ。

 まぁでも、今日で四十人に増えるからプレミア感は薄くなっちゃうけどそれを知る前に死ぬから関係ないよねっ」


 全員が戦闘態勢に入った。中には既に攻撃態勢に入ってる人もいる。


「二人は手を出さないでね。やってみたかったんだよね、大量虐殺」


 いつもはじっくりコトコト一人ずつ殺してきたけど今日は殺人バイキング。

 やり放題に近い。



 まずは飛びかかってきたこの男。

 えいっ!


(ズシュっ)


 男の首が飛んでった。


「あの馬鹿野郎っ。いつも口を酸っぱくして言ってたのによぉ、聖気の纏いがあまっ━━━」

(ズシュっ)


「わかんないかなぁ。量より質だって。

 あぁ、死んじゃうよぉ。お前もお前もお前もみんな死んじゃえっ」


「真剣勝負っていいよね、無条件で本気を出してくれるから試し甲斐があるよ。力の制御」


 吹けば飛ばせる力を持ったボクに必要なのは手加減。パンチで頭を飛ばさないようにする絶好の機会だ。一人たりとも無駄にしないから安心して死んでいいよ。

 ただもうちょっと頑張ってくれないかな。



「くっ…甘く見たつもりは無いが子供でもやはり大罪か。その力は強大。

 しかしっ、もとより我らの本領は少数精鋭。


 やれ!お前たちっ!」


 声出し係が死んだらまた違う人が声出し係になる。

 そういえば照っちから考えながら戦えって言われてた。殺す順番も大事なんだって。

 誰から…。



(((デュクシっ)))


「「「童質改変っ!」」」

花櫓(はなやぐら)

風櫓(かぜやぐら)

月櫓(つきやぐら)


三帳(さんちょう)結界(けっかい) 月下(げっか)大輪(たいりん)留旋風(りゅうせんふう)


 一番後ろにいた三人が自分の胸を突いて何かを叫んだ。

 途端にボクは光に包まれた。


 花?つぼみかな。その内側にボクがいる。お昼なはずなのに真上にある穴から見えるのは満月。



(ダンっ!)


 試しにつぼみの壁を殴ってみるもビクともしない。まさか植物にパンチが防がれるとはね。と言いたいところだけど壁まで拳が届いてない。

 壁と拳の間に空気の壁がある。


「いいじゃん。こういうのを待ってたんだよ」



(ピカンっ!!)

「まぶしっ!?」


 満月から差し込む光…じゃない。高速で光の柱がボクに落ちてきてる。

 避けるのは間に合わない。そもそもつぼみから出られないんじゃ避けようがない。


 ボクの童質。『不確かなこと水の如し(ホロホロ)』は全ての事象において優先される。

 万に一つも焦りは無い。


 ボクの蹴りはあらゆる物質を壊す。ボクの拳はあらゆる物質を壊す。


 その法則は光でも変わらない。


(プヒュンっ)


 一蹴が上から迫る光を切断した。と同時につぼみが開いた。


 それだけだった。他も似たような結界だったり範囲攻撃。そのどれもがボクの拳に壊された。


「命を置いてくなら自由をあげるよ」


 ボクも技が欲しい。かっこよく叫びたい。

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