八十三話 ブンブーン
「どお?どお?いい感じじゃない?」
ボクは今、舎野んと舎野んの知り合いの敷地内で車の運転をしてる。
ボクが運転席で助手席には舎野んが座ってボクを見てる。
「いいよぉいいよぉ。こりゃ、ボスは天才だなぁ。ドリフトやっちゃいます?」
「おい!いい加減帰ってくれよ。何時だと思ってんだ」
「うるせぇ!うちのボスの成長を妨げる気か?あ?黙ってカメラ回してろ!ピントずれてたら承知しねぇからな」
「舎野ん、今日はもう帰ろ。みんな待ってるから」
「そうですね。
おい!ボスのお帰りだ!タクシー呼んどけ!」
「ったく。ニュースみてついに捕まったかと思えば今度は子守りか?」
車を運転してみたいと相談したらすぐに頷いて連れてこられたのがここだった。
タクシーに乗って家まで帰る。あの日から舎野んと石川鹿島も一緒に住んでる。
石川鹿島とはほとんど話してない。ボクのことめちゃくちゃ嫌ってるから近づかないようにしてる。
「ねぇ、これどうかな?」
「すごいですよぉ、ボス!もしかしてこれも?」
「うん、あげる」
「いやったぁ!ああ、どんどん部屋が豪華になっていく…」
「前の部屋に比べたら全然でしょ」
「いんや、気持ちの問題ですよ。ボスが作ってくれた物はお金に変えられないものですからね。心が満たされていくんですよ」
「そーなんだ」
最初は折り紙だった。手裏剣から始まって鶴、それを見せたら態度が一変。
くれくれと、せがまれあげると部屋に飾りだした。
それからあやとり縄跳びDIYを始めると全部教えてくれた。
ボクが作った物は全部舎野んの部屋に置かれてる。いびつな本棚に口が小さすぎる小物入れ。
ボクのやりたいを叶えてくれる。
「ボス、明日はバイクを運転しましょうか」
「うん!」
舎野んがボクと仲良くしてることにいい思いをしない石川鹿島。いつも一緒にいた三人はもうしばらく見ていない。
まぁ、この変わりようはボクもどうかと思うけど、ボクに害は無いからどうでもいい。
それより毎日が楽しい。今までできなかった事ができるようになるのがめちゃくちゃ楽しい。
仕事ではボク、照っち、安堂。
舎野ん、石川、鹿島。で別働隊になってる。
ボクたちが世間を揺るがして舎野んが資金調達。
資金調達チームの名前はファンドマリン。
「オヤジ!なんであんなガキに……尻尾を…振ってるんですか!いくら見逃されたからってこんなオヤジ見たくなかったですっ」
ドア越しに荒だった声が聞こえた。見えなくても想像できる。石川鹿島が舎野んに怒鳴り込んでるんだろう。二人の気持ちもわからなくはない。
突然、久舎野会が潰れそのほとんどが捕まった。逃れたのは舎野んと幹部二人だけ。
そして、慕ってたオヤジが崩壊の元凶である新しいボスと仲良くしてるのを見たら反発されるのも当然だ。
「馬鹿野郎!滅多な事を言うんじゃねぇ!」
「でも…」
「でももクソもあるか!いいか。俺たちはボスに助けられたんじゃねぇ、拾われたんだ。
この違いがわかるか?
使い道があって益をもたらす内は大丈夫だろうが、必要無くなればいつでも切り捨てられる、そういう存在なんだ。
あいつらには悪いが二人を守るのが精一杯だった」
「オヤジ…」
「だからってあんな媚び売ることないじゃないですか!資金調達が俺たちに課せられた仕事でしょ!」
「そうだな。仕事をしてれば大丈夫だろう。
だが、だがよぉ…可愛いじゃねぇかよ」
「「は?」」
「折り紙で作った鶴を見せに来てくれた時、あまりの可愛さに腰抜かしたぜ。
だってよぉ、小ちゃな鶴を両手で見せてくるんだぞ?いい歳してハートを撃ち抜かれちまった。キラキラが見えちまった。いい歳だからか無性に可愛がりたくなっちまったんだ。孫みたいで可愛いだろ、ボス」
「そ、そんなのオヤジらしくないですよ!」
「そうです!どんな時でもいぶし銀!俺たちゃそんな背中に憧れてオヤジに着いていったんだ!
ガキと目線を合わせるためにしゃがみ込んで丸まった背中なんて見たくなかった」
「俺らしさか。すまねぇがお前らが見てきた背中はもうここにはねぇ。
俺はボスに惚れたんだ。見せる側じゃなくて見る側になっちまった。
知ってんだろ?俺は昔っから不器用だからよ。ひとつの事しかできねぇんだ。
俺はもう久舎野会の久舎野じゃねぇ。レッドオーシャン、ファンドマリンの久舎野だ。
ボスへの貢献が今の俺にとって一番重要なんだ」
「「オヤジ…」」
「落胆させて悪いな。こんな俺が嫌だったら仕事だけの関係で構わねぇよ」
「バカ言わないでください!一生オヤジに着いていくと決めた時から月だろうが太陽だろうが着いていく覚悟できてますから!
俺のオヤジ愛をナメないでくださいよ」
「そ、そうか。月と太陽って石川、俺の事なんだと思ってんだよ。普通そこは地獄とかだろ」
「俺だって…俺だってオヤジの顔と体と性格愛してますから!」
「鹿島ぁ。それはちょっと許容できねぇぞ」
「男としてです!憧れですから!」
「そ、そうか。勘違いして悪かったな。ただ、言い方が紛らわしいぞ」
「覚悟の上です」
「どういう意味だよ」
「…おい、答えてくれよ鹿島ぁ!鹿島ぁ!」
「オヤジの気持ちはわかりました。ボスに対しては俺たちは俺たちのやり方で接します」
「おう、わかった」
えーっと、なんか恥ずかしい場面に遭遇しちゃったな。人から好かれるって経験ないからむず痒いな。
二人も吹っ切れた感じかな。仕事さえしてくれればどうでもいいけど。




