八十二話 着々と
指定暴力団 久舎野会。検索したら普通に出てくるしかなり有名らしく詳細まで載ってた。
安堂がスマホを買ってくれたおかげでどんどん知識が増える。
「くしゃにょ会っ。くしゃにょ会っ。んん!って何で稼いでるの?」
「ボスにはまだ言いづらかったっすか、久舎野会は」
「笑うなっ!」
「すいやせん」
「で、どうなの?」
「どうなんすか?」
「違法薬物の密売、賭博、用心棒がメインですね。ゴリゴリの武闘派を謳ってます」
「ふーん」
そのうちボクも似たような感じになるのかな。
巨大組織を束ねるボスはなんと小学六年生の少年!?その真相に……つづきを見る。
的な感じでネットに載るかもしれない。
「こりゃへんな妄想してるっすね」
「してないよ!」
なんでわかったんだ。顔に出てたか?
それにしても安堂は身の回りの事をなんでもやってくれる。炊事洗濯掃除に遊びから相談まで。
おかげで自堕落な生活に引き込まれそうになる。
なんでもやろうとしてくれるのも考えものだよな。過保護ってやつだ。成長の機会を奪って人に頼りきるようになっちゃうからな。
少し前までは全部一人でやってたから狂っちゃう。
「それでは行きますか、久舎野会壊滅作戦」
「今回成功すればお金がたんまり入ってくるっすからね、レッドオーシャンの門出を祝して景気よく行っちゃいやしょぉお!!ボス!」
「よっしゃぁ!終わったら焼肉行くぞぉ!!」
「「おお!」」
最近は安堂の手作りヘルシー料理が続いてたからな。早朝と夕方、一日で二つも仕事をするんだ、今日はガツンと食べよう!
もう焼肉を食べることを想像してお腹が準備を始めてる。気のせいかヨダレが焼肉の味になってる。
ここまで安堂の運転で、助手席では照っちがパソコンをカタカタやってる。
船を襲ってから運転しっぱなしで疲れないのかな。一応サービスエリアで昼休憩はしたけどそれから三時間も経ってる。
市街地に入って一軒家が建ち並ぶ中、目の前にあるT字路の先には石垣が積まれた敷地が広がっていた。
松の木が生えた門前に車を停めてボクたちは降りた。
「立派だなぁ」
門の前に立ったら自然と声が漏れてた。
「それじゃあ俺は近くに車停めてそこのカフェでブレイクタイムしとくんであとはよろしくっす」
「俺の分のテイクアウトよろしく」
「うっす」
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
窓を閉めてブーンと去っていく。
「どうやって入る?」
「飛び越えますか」
石垣を飛び越えて敷地内に入り込んだ。
「片っ端から壊していけばいいんだよね」
「ほどほどでお願いします」
「おっけー」
照っちと別れて屋敷の中を走り回る。
どっひゃー!廊下は長いし入り組んでる。何個部屋あるんだよ。
(ズンっ)
いきなり目の前から巨大な手が迫ってきた。
さながら、ボクはところてんで廊下の壁が筒で巨大な手が押し込む棒だな。
なんて思ったけど焦りはしない。
「そんな大層なものじゃないでしょ。その手」
(ズシャっ)
逃げも隠れもせずに正面から殴り飛ばした。
ふふーん!力勝負なら負けないよ!
強い存在感を放ってるやつのところへ。力の発散にうずうずしてる。朝は砂場遊びみたいなものだったからな。
きっかけはなんだったのか、部屋から人が大量に出てきた。
(((スパっ!)))
襖を勢いよく開けて廊下になだれ込んでくる。
その中をボクは突っ切る。パチンパチンっと腰を平手打ちで弾いていくと襖を突き抜けて部屋に吹っ飛んでいった。
「ほう!やあ!そら!」
楽しい。梱包のプチプチを潰してる感触に近いかも。音といい弾け具合が気持ちいい刺激。
「もっともっとぉ!きゃはは!」
「うお!」「くわっ!」「やめっ!」「どぉっ!」
アクション映画のように嘘みたいに飛んでいく。見事なやられっぷり。
(スパンっ)
そして強い存在感を放ってやるがいる部屋の襖を開けた。
「まさかここまでくぶはぁっ!!」
掛け軸に刀が置いてある部屋で座布団に座るおじさんをそのまま蹴りあげた。
「へぇ、耐えるんだ。あんたがくしゃにょしゃん?ちっ。言いづらいんだよこのやろうっ!」
(バフンっ)
立ち上がろうとしたところにグーパンチ。
「なんだよ吸血鬼じゃん。これどうすればいいんだろ」
久舎野あらため舎野ん、は吸血鬼の匂いがした。
どうやって押さえばいいんだ?気絶刺せられるかな、そこらへん加減できるかわからないや。
「強い…が未熟。戦闘経験が浅いと見た!油断大敵」
「油断なんてしないよ。脅威じゃないからね。
そのレベルですらないもん」
全方位から数十の手が襲いかかりボクを捕まえた。
関節は掴まれ、目鼻口耳が塞がれた。
「これのどこが油断してないって?ガキがイキんな」
「んーだって聖気の壁超えれてないじゃん」
ふんっ!と力んだだけで身体中の手が吹き飛ぶ。
「なっ!?」
「いつまでボクの時間を潰すの?もういいよね?歴然だよね?」
(バチュンっ!)
一番被害が少なそうな左腕を殴ったら吹き飛んだ。いや、待てよ。
聖気での傷じゃなければ回復するんだよね。なら。
「とう!ほっ!へいや!どう?サンドバックになれて満足?んー、耐久力が少し物足りないかな」
(バチュンっバチュンっバチュンっ)
舎野んの体が吹き飛び再生、吹き飛び再生を繰り返す。
ただ、一撃で吹き飛ぶのは物足りない。
「くっ、ころせぇ…」
ゼェハァと息を吐きながら懇願する。どうすればいいのやら。照っちに聞いてみないとわからない。
「待ってくださいボス」
見てたんじゃないかというタイミングで照っち登場。
パソコンをカタカタし始める。
(シャンっ)
「これが油断ってやつだぜガキぃ!!」
「照っち!」
目を離した一瞬で部屋に置かれた刀が空飛ぶ手に握られて照っちに振り下ろされた。
(ポニョンっ)
「「…え?」」
ボクと舎野んの驚きが重なった。
無理もない。振り下ろされた刀の勢いは確実に頭をかち割るほどだった。
のに、頭に当たるとスポンジ製の刀かと思うような曲がり方をした。
それを流してカタカタパソコンを打ち続ける。
なんじゃそりゃ!
((((((パァンっ!!))))))
続けざまに部屋の外から発砲。
(プスンっ)
照っちに全弾命中したが、これもスポンジ製のような音がした。
おもちゃ…なはずはないよな。てことは照っちの童質。
「ボス、俺に攻撃は効かないんで安心してください」
「う、うん」
さすがに呆気にとられた。キーボードを叩く音だけが部屋に響いてボクたちは動けないでいた。
「はい、あらかた終わりましたからもういいですよ」
二、三分でパソコンを閉じるとボクにそう言った。
「殺すの?それとも放置?」
「ボスのやりたいようにどうぞ。我々はボスに従いますから」
なんか今までと雰囲気が違う。形だけボスだったのに今はボクが一番偉い人みたいになってる。
「人を増やしたいよね?」
「そうですね。将来的には人数の拡大も考えてます」
「じゃあ仲間にしようよ。吸血鬼だし」
「やめろ。殺せ…」
「えー」
「俺の首ひとつで他の奴らは見逃してくれ」
「久舎野会の崩壊は決定事項です。部下の皆さんには警察に捕まってもらいます。
証拠も既に警察に届けましたので」
「やめろ!頼む…」
「もう手遅れですよ」
「なんでこんな…」
「もー、サンドバックになるか仲間になるかどっち?」
「殺してくれ」
「吸血鬼は他にいないの?」
「…二人いる」
「じゃ、その二人も仲間にするから仲間になってね」
「くそぅ。なんでこうなった…恨むぜ一生。
助かるのは二人だけなのかよ」
「うん。人間に興味無いし、最低限役に立ってもらわないと」
「わかった。それで頼む。仲間にしてくれ」
「よぉし!帰るぞぉ!焼肉だぁ!」
「許さねぇからな。寝首を狩かれてねぇように気をつけな」
「お?サンドバックも希望なんだ。弱いなりに役に立ってよ?」
「資金はこれで暫く安定ですね。御舎野の使い方次第で資金調達はなんとかなるかもしれません」
「でしょ?それも考えての仲間!」
「さすがボス」
「ふへへ」
舎野ん、それから吸血鬼の二人の石川と鹿島が新しく仲間になった。
あの家を拠点に支度もあったけどさすがに無理だった。
焼肉屋から出るとサイレンが鳴り響いてた。




