七十七話 大型討伐依頼
三芸貞から徴収されて結構な数の聖童師が集まった。
十二月も折り返しに来ていて手袋無しだと結構きつい。今年の冬は特に寒いってニュースで言ってた。
隣で手を擦り合わせている弾間は時折自分の手に息を吹きかける。
それはそうと三十人近く呼んで何をするのかと思えば大罪の狩り。
それも千年以上吸血鬼をやっているらしい。さらにそれは始まりの聖童師なんだとか。
始まりの聖童師と呼ばれている人がまさか吸血鬼になっていたとは想像もしていなかった。
戸津 始雨日。吸血鬼を殺す事に快楽を覚える変人。
糸を使った戦闘方法は攻防に秀でて隙間を掻い潜るのが指南の技。
糸の強度はワイヤーにも匹敵し容易に骨を切断する。聖気を纏うのをやめれば即座に死ぬ覚悟をする必要がある。
中でも厄介なのがその隠密性。
開示された情報はこんな感じ、と言っても僕たちが戦うわけじゃない。はるか格上だし、一族のケジメとして三芸貞が直接対決すると決まっている。
僕たちはそのサポート役、始雨日以外の排除と状況のセッティングが仕事。
戸津家の代表と少し話をしたけどどこまでも上から目線で好きになれなかった。
多分、そういう家で育ったんだろう。格式ある家ってそういうのしがらみがあるって聞いたことあるし。
下の者に示しがつかないとかなんとかで愚痴もこぼさない立派な人を演じないといけない。
僕には到底出来ない。
僕たちサポート組は三班に別れて森を歩く。
「おい坊主たち、大型は経験無いんだったよな?前と後ろは俺たちに任せて最初は真ん中で動き方を見てな」
「了解です」
この班の仕切り役になった深川さん。今年で三十五歳になるベテラン聖童師。
十年前、当時シングルマザーだった奥さんをナンパして、結婚まで一直線で走りきったらしい。
道中、ラブラブ話を永遠に聞かされた。息子と同じ年ぐらいの相手に話すことかね。
この感じからして家では尻に敷かれてそう。
見栄を張ってる人ほどそういう印象を受ける。
歩きながら深川さんは色々と教えてくれる。経験談は助かるな。地域によって吸血鬼の傾向も変わることがあるんだとか。方言を使う吸血鬼とはやり辛いという為になる情報をもらった。
方言のなまりに気を取られて集中出来ないんだとか。
「結局は便利な聖域を使えるやつが索敵係にされるんだけどな、この中だと須藤さんな。
空中だろうと地中だろうと死角は無い、半径二十m内での聖気の動きが丸わかりになる。
便利だろ?侵入者がいたらすぐにわかる。
おっと他人の聖域をペラペラ話すようなやつは信じるなよ?生死を分ける重要な情報だ、自分の身を削ってるようなもんだからな。だから大抵がハッタリだぜ。
ただし、俺を除いてな」
キランと白い歯を見せてるけど、人の聖域をペラペラ話す最低野郎だこの人。
でも班をしっかりとまとめあげてるから優秀なんだろうな、口が軽いだけで。
もっとも、口が軽いのは致命傷だけど。
少し偏った見方をしていると深川さんが動き出した。それに合わせて他の人たちも動き出す。
「おいおい、どんなヤツらが聖気の行進してんのかと思って来てみれば聖童師かよ。
ちょうどいい、むしゃくしゃしてたからサンドバッグになってくれよ」
枝を伝ってここまで来たのか上空から吸血鬼が現れた。
こいつ状況わかってるのか?
わかっててやってるのか、ただのマヌケか。
単なる異常なマヌケであってほしい。
十対一だぞ、十分な役割分担で男は散った。
驚くほどマヌケなやつだった。一対一だったとしてもこの中で負ける人はいない。それくらい手応えが無かった。
「これ報酬とかってどうなんの?」
「早い者勝ちでいいだろ。来たとしてもどうせアホなヤツら二、三体程度だろうし」
依頼によってそこら辺は変わるらしい。規定が無い時は話し合いで、総取りか山分けを決めるという。
確かに乱戦の時なんかいちいち数を数えてたりしたらそっちに気を取られそう。
それにトドメを刺したかどうかで揉めたり。
ってことで、やりたい人がやるって感じでいいのかね。
そんなことを考えてた時期がありました。
「ここから先、私たちの領域に無断で入れると思わないでよねっ」
次々と吸血鬼が現れては屠られていく。
ちょっとしたパンデミックなんだけどぉ。索敵とか以前に聖気を迸らせて迫ってくるやつまで出てくるし待つ。なにがどうしてこうなった。
「妙だな。どっかの組織が崩壊してバラバラになったとかか?にしては色んな方角から来るよな」
「そんな情報回ってこなかったよな、てことは吸血鬼同士の争いか、増やして放ったか」
短時間にこんだけの吸血鬼と出会うのは初めてだな。弱すぎて逆に怖い。
量より質なのは聖童師の中で常識。こんな命を粗末にするような特攻になんの意味があるのか。
「なぁ、手袋してちゃ戦い辛くないか?」
「ええまぁ、わけアリなもんで」
「そうか、余計なこと聞いちまったな」
「いえいえ」
僕は手袋を外せない。少しめくると手の甲の肌の一部が異様に白い。周りの肌の色と比べてかなり浮いてる。
それもそのはずで、この白いところは僕の肌だから。ややこしいけども、白くない部分は僕の肌じゃなくて随分前にあったショッピングモール火災事件の時の潜行男のものだ。
『屍着嫉』でもらった肉体の傷を再生させると元の僕の体で再生してくる。
試しの実験で手の甲の皮を剥いだらこうなった。男の体は小麦色でさすがに目立つから手袋をするようにしてる。
ただね、春くらいには衣替えをしたい。最低でも夏までには。
夏に手袋は黒歴史が蘇る。
だからもっとスペックのいい肉体への衣替えを狙ってこの数ヶ月は依頼をこなしながら各地を放浪しているのだがなかなか巡り会えない。
というかこの男の肉体のスペックが異様に高い。
そんなわけで上物を手に入れるべく今回の大型依頼に参加した。




