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万古闘乱〜滅ぶのは人間か吸血鬼か〜  作者: 骨皮 ガーリック
万行一助
69/92

七十話 休息

『万古闘乱』にタイトルを戻します。

 五日間のサバイバル生活が終わった。

 一番の苦労は空腹だったけどそれも三日目で解消した。あれが転機で残り二日もニョロリニョロリと吸血鬼を狩りることができた。

 おかげでヘビでの生活が当たり前になって手放せなくなったのは誤算だった。

 やっぱり人は安心を得るとその次は快適さを求めるんだなって。

 でも、これで良かったのかは分からない。この五日間で僕の能力を見るって言ってたけどあれで良かったのか。


 ただ、僕の最善はあれしか無かった。サバイバルなんて習って無いし食料調達もまともにできなかった。

 そこはまたの課題だな。これから必要になるかもしれないし。



 有機(ゆうき)睥睨(へいげい)(かま)エの姿でそのまま森を抜けて門の前に降り立つ。

 二人はわざわざお出迎えしてくれたみたいで僕を見つけると手を振ってくれた。

 たったの五日間だけど随分と久しぶりに感じる。まだ住んでも無いのに懐かしいと思った。


「おう、随分珍妙な格好してんな」

 サバイバル明けだっていうのに随分な挨拶を。もっと労りを感じたい。僕のすり減った心は再生しないんだから!


「おつかれ兵頭くん。キンキンに冷えたかき氷できてるよぉ」

 福先輩の存在をすっかり忘れてたけど一目見ただけでガッツリ記憶が蘇った。こんな人もいたなと目を背けたくなる現実に疲れる。

 それとさっきまで食べてたのか舌が青い。

 で、冷えてないかき氷なんてあるのか?この人といると頭が休まらない。


「この後はなにするんですか?」


「とりあえず休め。で、明日は俺と戦え」

「本気なやつですか?」

「マジなやつだ」

(ごくり)

 思わず神妙な表情しちゃったけど威圧感がすごい。190は超えるその巨体、その肉体に内包するエネルギーはいかほどか。

 疲弊しきってるはずなのに待ちきれない。今すぐ戦いたくてうずうずしてる。僕はいつの間にか戦闘狂みたいな思考になってた。


「気になるね。ぜひとも見物させてもらいたい」

(チラ…チラチラ)

 様子を伺うようにおじさんの方へ小刻みに何度も顔を向けてアピールしてる。

 この人あれか。暇なのか。

「構わねぇよ」


 おじさんの許可が降りて満足そうに屋敷の中へと戻って行った。

 それに続いて僕たちも敷居を跨いだ。



 お茶の間で待っていたのは知らない女の人。

「浄静司さんに頼まれて臨時家政婦として参りました林です。何かあったら言ってください。掃除、洗濯、炊事、などなど任されています」

 黒髪がビシッと後ろで纏められてたるみが無い。前髪も耳まで一直線に流していて、白Tにハイウエストのロングスカートで大人の上品さを感じる。満島さんとは違った真面目さ。

 自己紹介が事務的で遊びが無い感じ、常に真顔で福先輩とは真逆だな。


 よろしくお願いしますと挨拶をしていると背後から福先輩が音も無く近づいてきている。何かしようとしてるのが顔のニヤつきで何となく察せる。

 初日と合わせてたった数十分の付き合いだけど、そういうことする人だってことは知っている。だってイタズラ好きって顔に書いてるから。


 気づかれないようにか浮遊を始めると林さんの真後ろまで来た。どんな童質なのかわからん。普通に空中を歩いてる。

 林さんの頭から福先輩の上半身が生えてるみたいになった。それでもその存在にまだ気づかない。


(バサっ)

「ひぇぇぇっ!!」

 上から覗き込むように体を折ると、林さんの視界は福先輩の逆さの顔で埋まったと思う。

 大きな叫び声をあげると、林さんはポスンっと尻もちをついて浮いている福先輩を放心状態で見上げる。


「さてと、また後で」

 ちょっとぉ!と手を伸ばす林さんを置いてそそくさとどこかへ行った。


 「ぐぬぬ、今日も今日とて私で遊ぶな…」そう呟いて眼鏡を拭きながら部屋を出ていった。


 二人は何日も前からここに来てたのか。おじさんが気を使って夏休み入ってから誘ってくれたのかな。

 兎にも角にも一休みしたい。



 軽食を済ませてふかふかの布団で安眠した。

 埋まって包まれるような沈み込みに気づけば意識を失っていた。


 目が覚めたのは温かい匂いが食欲を掻き立て睡眠している場合じゃないと脳が判断したからだろうか。茶の間に行けば彩り豊な料理がテーブルに並んでいた。


「起きましたか。もうすぐ起こしに行こうとしましたがナイスタイミングです」

「匂いに誘われて目が覚めました」

「久々のまともな食事ですからてんこ盛りにしておきました」

「ありがとうございます」

 配膳をしている林さんと話していると玄関を開けて誰かが帰ってきた。


 襖を開けたのは福先輩で相も変わらずニヤついている。やっぱり暑いのか革ジャンの袖を捲ってる。それでも着てるのはポリシーがあるのだろう。譲れない何かが。

「わお、タイミングバッチし」

「お疲れ様です?」

「おつかれおつかれだよ」

 そのまま廊下に出て歩いていった。

 一人残されてポツンと座ってるけど何か手伝ったほうがいいのかとソワソワする。


 そんなことを考えていると誰かが帰ってきた。まあ、十中八九おじさんだろ。

 襖を開けたおじさんの体からは蒸気が立ち上っていた。タンストップでタオルを肩にかけてる。一際威圧感が出てるよ。


「あー、飯できてたか。シャワー浴びてくっから先に食べてていいぞ」

「あ、はい。お疲れ様です」

「おう!」

 その歳でまだ研鑽を積むのか。これはあれか、この先何十年と聖童師を辞めるまで鍛えなきゃいけないってやつじゃん。

 実際問題いつまで聖童師をやるとか何も決めてないな。もっとこう、将来設計をしておいた方が気分的にはやりやすいのかな。





 翌朝、広すぎる白石の庭で僕はおじさんと向かい合う。


「そんじゃあ…やるか」

「はい」

 地球温暖化の影響か今日はいつもより汗が出る。

 わかってる。これは緊張と高揚で落ち着けないんだ。心拍数だって吸血鬼を狩る時はなんてことないのに今はもう、鼓膜を破る勢いだよ。

 今日の朝、目が覚めた時から既に体は出来上がっている。


 従一位トップの力ってやつを教えてくださいよ。当然、伸ばせば届くようなところにはいないでしょうよ。

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