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万古闘乱〜滅ぶのは人間か吸血鬼か〜  作者: 骨皮 ガーリック
万行一助
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六十七話 煩悩屋敷

「細すぎるから童質だけじゃなくて体も鍛えるか」

「はい、師匠」


 兵頭君と別れてからも師匠による扱きは続いた。


 強さとは何か。

 師匠にあって俺に無いものは何か。

 それは他者を屈服させる圧倒的な力だ。力を植え付け、力で押しつぶす。立ち上がる気力を削ぎ落とす。

 気まぐれに他者の身を心を壊す。法律も倫理も場所も時間も意味をなさない。それが強者に許された権利。


「強者とは他者を屈服させる者の事だ。いいか、私の弟子たるもの常にこの言葉を心に引っさげておけ。

 強者であれ」


 俺が目指すべき強さを持つ人が目の前にいる。



「どこで手洗えますか?」

「そっちの突き当たりに洗面所がある」


 玄関で靴を脱いで左の廊下を歩く。細長い廊下だ、これもまたおばあちゃん家を彷彿とさせる。昼間だから問題ないけど夜になったら明かりが無いからとか余計な事考えちゃうくらいの廊下。



(ガチャっ……バタンっ)

 突き当たりの部屋にある洗面所のドアを開けて閉じた。

 洗面所に入らず、俺は振り返ってそのまま歩き始める。

 何も無かった…。何も無かったんだ。振り返るな、早くこの場から去らねば。

(ガチャっ)


「おい」

 ひいぃぃぃ。

 聞き覚えのあるハキハキとした低い声。

 自然と歩く足が速まる。


「おい待てよ」

 二度目の警告で足が止まり振り返る。


 ショートカットの青髪に眼鏡。俺よりも身長があって大きなおっぱいに細い腰、肉付きのいい太もも。

 中村先輩がバスタオル姿で目の前に立っている。


「逃げることないだろ」

「で、でも」

「裸ぐらいで動揺しすぎだ。女の吸血鬼に足元すくわれるぞ」

「はい…」

 ドアを開けた時、中村先輩は裸で髪を拭いていた。だから見える所は見えていたし見るものは見た。

 絵麻ちゃんのも見たことないのに。

 当然、眼福ものでした。鮮明に記憶に残っています。

 恥ずかしくて目を見れない。それでも目線を下げるとおっぱいがあるから目のやり場に困る。

 なんでこんなに童貞ムーブしてるんだ?俺には彼女がいるんだぞ。

 真実はいつだって単純さ、童貞だからだ。


「弾間も師匠に呼ばれたんだな」

「え、はい。まさか中村先輩もいるとは思いませんでした」

「これからよろしくな。てことは私は姉弟子か」

「はい」

 イケメンだ。裸を見られてこの対応。格の違いを見せつけられたぜ。


 洗面所(風呂場)に戻る中村先輩はバスタオルがめくれておしりが丸見えだった。

 引き締まった良いおしりだ。

 俺のキャパはとっくに限界を迎えていた。


 青髪は地毛だったのか。



 確かに師匠とひとつ屋根の下ってことで少しくらいは想像したさ。ラッキースケベの一つくらいあるんじゃないかって。

 それがどうしてラッキーというかド直球すぎてセンタースケベだよ。


 出鼻をくじかれたというかなんというか俺は絵麻ちゃん一筋なんだ。

 これはもしや試練なのか。女性に囲まれた環境で自制できるのか、ぶれないのか。

 先が思いやられるぜ。




 夜になればお腹が空く。インターホンが鳴ったと思えば出前を頼んでいたようで夜ご飯がテーブルに並んだ。


「これは…」

「夜ご飯だけど」

「お祝い事とか?」

「ただの夜ご飯」

「毎日出前ですか?」

「そうだ」

「自炊は?」

「やらんしできん」

「これから毎日出前ですか?」

「そうだ」

「俺が料理担当になります」

「できるのか」

「はい。師匠、これじゃあ健康状態が不安で修行に支障がでます」

「なら頼んだ」

「はい。頼まれました」



 まさかまさか、師匠も中村先輩も料理はからっきしだという。

 はっきりいって将来が心配だ。誰か家庭料理を振舞ってあげて!糖分塩分過多でどうにかなっちゃうよ。

 ということで俺が料理当番になりました。

 お金があるなら雇えばいいのに。って言ったら自衛出来ない奴を近くに置きたくないと。

 吸血鬼から襲ってくることも少なくないらしい。それは怖い。


 食後にトレーニングがてら近く(走って二時間)にあるデパートで日用品を揃えた。

 夜道は虫の鳴き声が騒がしい。



 それぞれに部屋が割り当てられていて、和室に布団を敷いてぐっすりと眠りについた。

 夢に誰が出てきたかは誰にも話せない。予想通りと言いますか昨日の一番の刺激的場面が降臨しました。夢の中では正直に生きていいんだ。誰にも咎められることは無い。



 日が昇ってすっかり明るくなった五時にすっと目が覚めた。

 台所を借りて昨日買っておいた食品でちゃちゃっと朝ごはんを作る。


 テンプレ的な朝ごはん。

 白米にお味噌汁、卵焼きに焼き鮭。


 二人はまだ起きてこないのか。

 七時を回った頃に声を掛けに行く。



 部屋の外から声を掛ける。部屋の中からは物音一つ無く、返事も返ってこない。

 襖をそーっと開けて部屋の中を覗いてみる。


 未だにすやすやと眠っている師匠。

 布団はめくれ、浴衣もはだけている。

 首元がガバッと開き、谷間からおへそまで見えてしまっている。片膝が立っていて股関節辺りまで白い脚が見えている。

 昨日から引き続きラッキースケベというやつだ。

 待て待て、師匠は四十一歳。お袋よりも上だぞ。なのにどうして…目が引き寄せられる。

 この屋敷は呪われている。


 と、一つやってみたいことが閃いた。ちょっとしたイタズラだ。



 爆弾を創りだして師匠のそばに下手投げで放り投げた。

 投げられた爆弾はゆっくりと放物線を描いて落ちていく。

(ポコロンっ)

 畳にワンバウンドして眠っている師匠へと視線を戻した時。

 俺の首筋に冷たい何かが当たっていた。

「ふぇっ!」


 みだらに寝ていた師匠の姿は無く、顎を引いて下を見れば扇子の先が見えていた。

 背後からしがみつかれ身動きできない。


 まじか。まじでこの人やりやがった。

 これってあれだろ?


「何してんだよ」

 ぎょえっ。血の気の無い声が耳元で囁かれた。振り返ることもできずに怯え声を出す。


「すみません、ちょっとしたイタズラ心で…」

「イタズラで偽物の爆弾を私に投げたのか?」

「はい」

「弁明は?」

「よくあるじゃないですか。寝てても殺気とかを感じて反撃しちゃうとか」

「それを私に試したと」

「はい…」

 だってやりたくなっちゃったんだ。聖童師の高みを知りたかった。どれだけ人間離れしたことができるのかと。


「そうか……いつでもいいぞ。

 これからいつでもどんな時でも受けてやる。就寝中、食事中、排便中、入浴中、やりたくなったらやってみろ。

 お前にもいつかここまでできるようになってもらうからな」

「マジですか」

「いや、できるかどうかじゃないな。やれ」

「はい、師匠」

「さてと、いい匂いがするな。朝食できたのか」

「はい」

「それじゃあ食べて修行するとするか」

「はい」

「ふぁ〜あ。ったく、朝から騒がしい弟子だな」


 それにしてもさっきしがみつかれた時の背中への柔い感触が離れない。

 もしかして直に当たってたりするか?いや、これ以上はやめよう。落ちてはいけないところまで落ちる気がする。


 真摯な教えに紳士に向き合う。俺が今やるべき事だ。

 エロに屈服してしまうなど言語道断。


 その後、中村先輩を起こしに行ったら猫耳パジャマを着て寝ていた。目を覚ますと猫みたいな伸びをした。

 どうしてそんなに可愛い事をするんだ!ギャップで頭がおかしくなる。

 ここにいたら煩悩が絶てない!いつまで経っても覚悟と煩悩のイタチごっこだ。

 覚悟を決める度に煩悩が唆してくるぞ。


 きっとこれを乗り越えた時、俺は修行僧にでもなっているだろう。そう確信できるほどにここには煩悩が溢れかえっている。

 ここは悪魔の屋敷だ。

 俺のアイデンティティ(変態)の喪失もそう遠く無いだろう。


 修行の日々は進んでいく。

 ただひたすらに実践訓練。下手すれば俺の心が砕かれる。それほどまでに圧倒的な実力差。乗り越えた先に待っているのは強者の称号。

 必ず掴んでみせる。

次話からは兵頭に戻ります。

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