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万古闘乱〜滅ぶのは人間か吸血鬼か〜  作者: 骨皮 ガーリック
些事万起
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五十二話 ナイトメア

 戻った僕たちを待ち受けていたのはお互いの仲間たちだった。


「うそ…満掛が負けた?

 それもこんな子供に」

「信じらんねぇよ」

「満にぃ負けちゃったんだ」

「ぉ、これで俺も怒られなぃ」

 いつの間にか集まっていた知らない者たちが満掛の敗北を知ってワラワラと呟いていく。


 そんな中、僕に近づいてくる人がいた。

「名前を聞いてもいいかな?」

 戦闘後なのに疲れた様子も無く、随分と余裕のある満掛。すっと握手を求めてくる。

 どんな情緒なのかわからない。さっきまで死闘を繰り広げてた相手にこんな。


 これが拳を交えればなんとやらってやつか。


 手を差し出して握手に応える。

「兵頭です」

「兵頭くんね。いつか下の名前も聞かせてくれたら嬉しいよ」

 イケメンスマイルが飛んでくる。

 なんかさっきまでとキャラ変わってる。


 友情を芽生えさせてると横槍が入る。

「おいおい、私たちには敬語なのに随分と仲良くなったんだ?

 それでわざと負けたとか?」

 これまたどっしりとした気の強そうな女だ。

 てか、見るからに強さが滲み出てる。


「私がわざと負けた?ネムル様の前で?

 ネムル様を守るためなら私は命を捨てる覚悟がありますよ」

 なんとも頼もしい言葉だ。

 それも真っ直ぐと芯のある目をしている。さすが僕と戦った相手だ。


「たった今負けたのに生きてんじゃん」

 そういえばそうだ。

 まあ、条件が降参ってなってたから殺す必要は無かったからね。


「別れの挨拶せずに死ねるわけないじゃないですか。バカですか?」

 なんとも純真な眼差しで揺らぐことの無い意志をその瞳に宿している。

 その堂々とした立ち居振る舞いは有無を言わさぬ…。

「お前がな」

 言われました。





「そんなことよりあんたらは私たちの邪魔をしないんだよな。そういう条件で戦ったんだ」

 (たゆ)先輩が本題を切り出して場の空気が変わる。


「そうですね。敗北した我々は道を塞ぐことをできません。通るものを阻めば罰が待っています。

 なので邪魔は致しませんが、一言。


 ネムル様にちょっかいをかけるのはおすすめ致しません。

 このまま帰ることが、みなさんにとっては最良の選択だと言っておきます。

 我々は手出し出来ませんので、あくまで提案。あなたたち自身で決めることですが」


 不穏な物言いだが、ネムルってやつはどんだけやばいんだ。

 脅しで言ってるのか、親切心で言ってるのか。ネムルの強さへの絶対的な信頼か。


 焦りが全く見えないのが一番不気味だ。

 これからボスと思われる者のところに突撃しようって言うのに、誰一人として懸念する様子を見せていない。


「行くに決まってんだろ」

 さすが弛先輩。切込隊長、雷の童質なだけはある。


「根性あるか見に行かんとなあ!」

 何しに行くのかよくわからない熱血教師。

 あんた目的忘れてない?しかも敵を担いでるし。多分熱血教師にやられた可哀想な吸血鬼だろう。


「当然僕も行きますよ」

 ここまで来て引くなんて出来ない。ちゃんとこの目で見るんだ。この地下都市を運営してるボスの考えを。


「あ〜、俺はここの人間たちの様子を見てくるからお前らだけで行ってくれ」


「あ、(すばる)先輩も勝ってたんですね」

「あ?たりめぇだろ。

 殺られる前にやる。これ鉄則だぜ。

 わざわざ相手の土俵に立つ意味なんざねぇからな」

 そういえばと、最初満掛の隣にいたおじさんを見ると気絶してた。


 一体何をしたんだ昴先輩。

 心を読んだりするだけであんな酷い状態にまで持っていけるのか。

 この中でも一番のやられっぷりだよ。



「生きては帰れませんよ?

 兵頭くん。せっかく仲良くなれたのに残念だな」

 再度忠告をしてくる。



 そうして僕と弛先輩と熱血教師が部屋の前に案内された。


「ネムル様のお部屋はこちらです。

 最期のひとときをどうかごゆっくり」

 僕たちは死ぬのが決まってるのか?

 言い切るあたりそういう童質なのか。そもそもこんなにすっと、僕たちを案内するのもどうかしてる。


 それだけネムルってやつの強さを信じてるのか。



 扉が開かれ、最大限の注意を払って僕たちは部屋に入った。


 目の前に広がるのは部屋の半分以上も埋め尽くす程の巨大な天蓋付きのベッド。


 部屋に入り、歩きながら観察する。


 するとベッドの上に人影を見つ━━。




 けた。



「「「!?」」」


 確かベッドで水色の髪をした少年が寝ていたのを見た。





 そして今、青空の下でその少年が僕たちと対面している。



「な、なんだこの格好」

 僕たちはおかしな戦闘服を身に纏う。

 股間キワキワのファンタジー物でよく見るボディースーツ。


 一方で少年は全身タイトな赤色のボディースーツを着ている。さながらヒーロースーツのような。



「ようこそ、僕の夢の世界。

 望憬の夢見鄉(ユートピア)へ」


 夢の中!?


 そうか、こいつがネムル。

 夢の世界に引きずり込む童質。こういう場合は大抵ろくな能力じゃないんだよな。

 やりすぎインチキ能力な可能性が高い。


 それはすぐに、身を持って実感する。

「なっ!童質が使えない!」

 倒すべく、触腕を出そうとしたがなんの手応えも感じない。

 聖気があるのはわかってるのに、それを動かせない。

 今まで無意識でやっていた事を意識してやろうとした途端、違和感を感じるような。水を持とうとしてるような。

 なんとも奇妙な感覚だ。


 夢の中で翼を持ってるのに上手く飛べないとかそんな感じ。


「当然だよ。

 君たちは僕の引き立て役なんだからさ。

 さぁ、演出通り惨めに散ってよね」

 元気よくネムルは手を掲げる。


「とうっ!お前らを倒すのはこの僕だ!!

 正義のヒーロー。ジャスティスネムル!ここに見参!


 僕が来たからにはもう心配ないよ。悪い奴らは僕が倒すから」

 後ろに観客がいるように、振り向いて声を送る。

 

 向き直ったネムルは足を大きく開き、腰に手を当て大きく前に腕を伸ばす。


(ビュンっ!)

 突き出した手から謎の光線が飛び出る。


(ジュっ)

「ぐあっ!」

 動くことも出来ずに太ももを貫かれた。


 童質が使えない今、傷は再生しない。

 そしていつぶりだろう。はっきりと痛みを感じる。これは感覚までも支配されてるのか。


「僕の力は世界の平和のために!

 とうっ!やあっ!そいやっ!」

(ビュンビュンビュンっ!)

 今度は光線が三連続。それぞれ三人のお腹を貫いた。

「「くっ…」」


「ふぅ、まだまだ!こんなものじゃ市民の怯えは拭いきれない!」

 先輩たちも手出し出来ず、されるがままに。


「はっ!」

 大量の光線が手のひらから撃たれた。

 直線では無く、弧を描いて時間たっぷり使って迫る。



「「「ぐわぁーっ!!」」」

 僕たちは何も出来ず、体の至る所を貫かれた。

 不思議な事にこれだけの傷を負いながら一切血が出てこない。



 既に立つことすらままならなくなり、せいぜいが四つん這いになること。


 たとえ、これが夢の中の出来事であろうと、命の終わりを感じる。

 童質というのは、そういうものだ。



「ここでクライマックスの一番盛り上がるところ!戦闘用BGM!

 いくよ!」


 こんな所で僕たちは死ぬのか。


 僕と弛先輩と熱血教師、三人で顔を見合わせる。

 声を出す事もできやしない。

 この夢の世界では自由に動く事が出来ない。


「僕の最強必殺技!太陽の力を宿したこの拳で!」


「行くぞ!ソーラーキャノンっ!!」

 理不尽すぎる…。


 巨大な光がネムルの拳を覆う。


 最後の瞬間、目は逸らさない。

 しっかりとこの目に焼き付ける。自分を殺す技を。


 満掛げ言っていたのは真実だった。僕たちに太刀打ちできる相手しゃなかった。

 元々、可能性すら無かったんだ。僕たちを案じてくれたのか、無謀な死を哀れんだのか、ほんとの所はわからない。


(ズッ)

 ネムルは地面を蹴って向かってくる。


 目の前の強大なエネルギーを前にして、色んな思いが込み上げてきた。


 そして段々とこんなあっけない死に方で良いのかと思えてきた。

 聖童師っていうのはもっと死闘の末、お互いがボロボロになりながら満足した死に方をするって想像してたけど。

 これはあまりにも非情。何も残らない虚しい死だ。


 ネムルと目が合う。手を伸ばせば届く距離。何も出来ない絶対的な力の前で、ただ死を待つことしか出来ない。


(僕は死━━)

(ブグシャンッ!!)


「「「!!」」」


 殴られる直前、ネムルが血を吐いて吹き飛んだ。



 それと同時に元の部屋に戻った。

 体には異常が無く、夢の世界に行く前の状態のままだ。


 でも、目の前で何が起こったのか理解出来ない。

 理解出来ないことの連続で頭がおかしくなりそうだ。


 さらに、ベッドで眠っていたネムルはシーツいっぱいに血を吐いていた。

 とにかく一旦この部屋から出て。


(ガチャっ)

「ネムル様!!」

 勢いよく扉を開けた満掛が焦り顔で入ってきた。


「な、なにをしたんだ?兵頭くん……」

 ネムルを見た満掛は呆然とした様子になりながら、事態の顛末(てんまつ)を知ろうと言葉を絞り出した。


「僕だって何が何だかわかりませんよ。殺されそうになったかと思ったら突然血を吐いて現実に戻ってきたんです」

「なん……だって?

 いったい何が起きたんだ。どうやってネムル様に……ネムル様ぁぁ!!」

 膝から崩れ落ちそうになるも、何とか耐えてネムルのそばに駆け寄る。


 声をかけるもネムルには反応が無い。



「どうして。誰がこんなことを……」

 誰も何も出来ない。この場を支配しているのはいったい誰なのか。

 誰も真実を知らない。



「僕だよ。わかんないの?」

「「「「!?」」」」


 予期せぬ者の声。僕たち意外、誰もいないはずの部屋から知らない声が聞こえてきた。

 恐怖を感じながらも、その方向を四人が一斉に振り返る。


 部屋の片隅、ソファの上に何者かがいる。


 小柄な少年。古代ローマの人が着るような白い貫頭衣。

 頭から足先までジャラジャラと豪華なアクセサリーを身に付けている。

 クラウン、ピアス、ネックレス、ブレスレットにアンクレット、指輪。


 薄暗い部屋の中で異様に散りばめられた宝石が燦然と輝き、その存在を主張する。


 そんな豪華な物を身に付けている少年が気だるそうに、ソファに寝転がっている。


 声を聞くまで、その存在に気づかなかった。

 それは他の三人も同じようで同様に驚き、動けないでいる。


「聖童師っていうのも案外大した事ないね。

 そんな雑魚にやられるんだから笑っちゃうよ。

 アハハハハッ!!」


 まだ声変わりもしていない幼い声。無邪気な笑い声には狂気を孕んでいるように思えた。

 そして、少年が纏うオーラは僕たちの足を竦ませる。



「吸血鬼たちがこぞって敬遠する奴らがどんなもんか見に来たらこれだもん。

 ガッカリだよ。


 大罪も大したこと無いじゃん?あれ、僕が強すぎるのか。


 さてさて、次にいつ会うかわかんないけど、それまでには僕と戦えるくらいには強くなっておいてよね聖童師。

 こんな雑魚を支配して何が楽しいんだか。

 こう見えて嬲り殺すのは趣味じゃないんだ」


 誰も何も出来ない中、満掛が動く。

「もしかしてあなたは、突発的規定外特異災禍ですか?」

 突発的規定外特異災禍?初めて聞いた単語だな。

 いかにもヤバそうな単語が並んでるけど。こんな子供が?


「よっと。

 なぁにそれ知らな〜い。それじゃあもうここに用は無いから。バイバ〜イ!」

 少年は起き上がると僕たちへの興味が失せたように、僕たちには一切目もくれず扉から出ていった。

 廊下の方からジャラジャラと鳴っているのが少しずつ遠のいていく。


 とりあえず危機は去ったって事でいいのか?

 汗どっしり出てきた。


「こほっ!」

「ネムル様!!」

 呼吸を取り戻したネムルに満掛が声をかける。

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