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万古闘乱〜滅ぶのは人間か吸血鬼か〜  作者: 骨皮 ガーリック
些事万起
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四十九話 惨敗

 森で戦う弾間と茶摘。


「これが終わったら彼女と初めての旅行に行くんだ」

「ねぇ、それわざと言ってる?

 戦う前にそんなこと言われたら殺したくなっちゃう」

 嗜虐心(しぎゃくしん)を孕んだような笑顔を見せ、弾間を煽る。


「だから負けられないんだ。負けられない理由があると強くなった気がするんだ」

 前髪が揺れて隙間から除く瞳には意志の強さが宿っている。

 負けられない理由、引き下がれない理由。

 わざと背後を断崖絶壁にすることで覚悟の気持ちを力に変える。


 自ら危機感を煽り、生への執着から来る生物の根源的な強さを引き出す。

 まさに全身全霊で戦いに挑む。

 既に集中力は最高潮。


 息を飲む音が全身に伝わる。


(やばい。俺、いつの間にか女の人とこんなに会話出来るようになってる)


 この雑念こそ、状況の整理がついた証拠。



 森の中。初めて使った時とシチュエーションは似てる。

 だからこそこの短時間で掌握した。


盤上(ばんじょう)全面(ぜんめん)万辺(ばんぺん)領域(りょういき)完全(かんぜん)支配(しはい)!』


 半径五m、完全死角無し。


(やれないことは無い。俺のポテンシャルは高い)



 範囲内に不用意に踏み込んできた茶摘に先手必勝、指向性爆弾をお見舞する。

(ボォォン!!)


 一直線に飛んでいった爆風。

(モォワン)


 確かに直撃したはずの爆風はなにかにかき消され、茶摘の衣服に乱れが無い。


 そして茶摘の目の前にはプワンと手のひらサイズの気泡が浮いてる。


 気泡の中をモクモクと黒煙が漂う。


(防がれた。気泡で包み込まれた?

 どれだけ出せるかな)


 上に跳んだ弾間の視界は広がり目下には木々と茶摘を捉える。


遮二無二(しゃにむに)御前(ごぜん)(とどろき)瀑布(ばくふ)

 弾間の足元、茶摘にとって空いっぱいに広がる手榴弾。

 重力に従って一斉に落ちてくる数百の手榴弾。




天地(てんち)安包(あんぽう) 一撫(ひとなで)(こう)

 茶摘が空を一撫ですると数百の手榴弾がたった一つの気泡に包み込まれた。


 青く澄んだ空が顔を見せる。


「自然破壊は良くないよ」

 空中にいる弾間を見上げて落ち着いた様子で諭す。

「うそだろ…」



(あの範囲を容易く一掃するのかよ。

 なら対応出来ない速さでぶっちぎる!)


 森に落ちる弾間は枝を伝って茶摘の周囲を高速で移動する。

 それを横目で追って様子を見る茶摘は静かで不気味だ。


 全く攻撃態勢を見せない茶摘の頭の中が読めず、密かに焦る。


(見られてる?脅威じゃないってことか)


 移動中、そこかしこに爆弾を仕掛ける。

 それを悟らせないために移動中も茶摘への投擲を忘れない。

 その全てが気泡に包まれるが、これが無駄では無いと考える。

(もう少し)


 思い描くのは爆発の連鎖。一つの起爆が連なって四方から大地を焼く爆発の連鎖が呼び起こされる。


快感(かいかん)占領(せんりょう)連鎖(れんさ)爆線(ばくせん)


 一つの爆弾が爆発し、散りばめられた爆弾が順々に誘爆する。

 クモの巣状に予期せぬ方向、意識の外から連鎖する爆発。



 俺さえも予測不可能だから聖域に侵入したのを確認したら手元の爆弾で相殺、俺が新たに爆弾を創り出して連鎖を補う。かなりの力技。


 幾数の爆風が襲いかかる。


 しかし、それでも茶摘に届くことは無い。


 全ての爆風が茶摘に届く前に、気泡に包まれてしまう。


「ダメダメ。それじゃあ威力が足りないよ。

 もっと殺意を込めて」


 茶摘の聖域は童質とリンクしていて、茶摘の周囲を無数の気泡が覆っている。


 即座に反応して対象を包み込む仕組みになっている。

 全方位を囲む気泡に死角は無い。完全自動防御システム。


 弾間のように本人のスペックで底上げされた聖域ではなく、ただただ高性能な聖域。

 よって本人の疲労、集中力の低下で狭まるような不安定な聖域ではない。


 正真正銘、防御に特化した難攻不落の聖域だ。




(くそっ、爆風便りの爆発じゃあ、威力に限界があるか。

 仕方ねぇ、こっからは非道になるぜ。

 火傷じゃすまねえぞ!)




 普段戦闘で使ってるのは攻撃手榴弾。コンカッションと言われる爆風なんかでの殺傷目的で使用する手榴弾。

 それに指向性もと持たせている。

 周囲への被害が少なく重宝してる。


 こっから使うのは防御手榴弾。フラグメンテーションと言われる味方がいない所で使われる手榴弾。

 爆発時に破片を飛び散らせ周囲を血に染め上げる仕組みになってる。


 俺にまで被害が及ぶからとか、そんなこと言ってられねぇ。


 破片の威力で正面突破だ。


「とりゃっ!」


 空中に跳んだ弾間からボウリング玉程のサイズの手榴弾?が投下された。

(カチカチ…ボガァンッ!!)


 落下中に手榴弾が爆発し、鋼鉄の破片が雨あられと勢いよく周囲に降り注いだ。




「凌ぐのは私の専売特許なんだ。

 天下泰平(てんかたいへい)。私の手の届く範囲は平穏が約束されてる」


(ダメじゃんか…)


 くっ、アレを試したいが、さすがにこの距離だと俺も無事じゃ済まない。

 それにこの空間から出られたとしても、ここの空気が地下空間と繋がったらどっちみちアウト。

 二次被害を考えたら個人での判断じゃ使えないな。


(これ以上の攻撃をなにかしてくるつもりか?)





「俺の負━━━━」

「彼女との約束はその程度?

 それで本当に彼女のことを愛してるって言えんの?死に物狂いで来なよ。

 聖域は消してあげるからさ」


(舐められてるって訳でもないか。いや、舐められてるな)



「それでもダメです。これ以上となると地下都市にも影響を与えかねないので」


(爆弾の生成。上限が底知れないな)

「そうか。君の本気と戦ってみたかったというのが本音だが、残念だ」


「俺の本気が見れるとしたらそれは世界に危機が訪れた時ですよ」

「それは困るな」

「俺の負けです」


 景色が地下都市に戻る。

茶摘の童質は『泡沫沈包』。あえて読み方は書きません。

 コンプライアンスというか、本人が人前では言えないような命名をしてしまい、誰にも言えずにいる。

 童質を使う度に昔の自分を何度も叱っている。


 実は戦いが始まる時、気持ちを入れるために心の中で名前を叫んでいる。


 決まった瞬間は収まりの良さに感動していた。



 聖域の仕組みは基本他人には見えないです。知覚は可能ですがはっきり捉える事は出来ません。聖域に使われてる聖気を感じてるだけです。

 聖域広いなぁ、狭いなぁ、程度です。

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