四十八話 六者会敵
満掛の指示のもと、B地区に向かう神保と茶摘。
ピアスだらけで黒髪ツイストパーマの神保。
おでこを出した茶髪ロングでガタイがいい茶摘。
二人は横並びでA地区の石壁を飛び越えた。
急いだ様子も無く、たらたらと向かう。
「太った?」
「は?太ってないし!むしろ痩せたし!服のせいで太ってるように見えてるだけだから。ほら、私痩せてるから!」
腹部の布を後ろに引っ張って絞る。
(ギュッ)
「……」
「何か言ってよ!」
「恥ずかしいからやめとけよ」
「は?……ンっ!」
引っ張ったことにより胸が強調されてたことに気づいて直ぐに直す。
「…狙ったな」
顔を赤くする茶摘。
「は?お前の体なんて興味ねーよ」
「なっ!それは言い過ぎじゃん。私肩幅あるだけでスタイルめちゃくちゃいいから」
「聞いてねーよ」
「くっ」
頬を赤く染めながらスタイルの良さをアピールするもスルーされる茶摘。
「そもそも枕頭預で女は私一人だって言うのに誰も興味を示さないのはおかしい」
「雄雄しいからだろ」
「おっ!!雄雄しい!?なにそれ!
私はどっからどう見ても雌雌しいだろ!って雌雌しいってなんか嫌だな。そう!女々しいだろ!」
声を荒らげて抵抗するも意に介さない様子の神保。
「環境が悪すぎたな。ここには生物界で頂点の愛くるしさを持つ若がいるんだ。
若の前じゃ天女でさえ霞むぜ。俺たち枕頭預はそういう集まりだろ?」
「確かにそうだな。若と比べたら棒人間も同然」
神保の言葉に頷くしかない茶摘。
「モテたいならここを離れるしか無い」
「くっ、若から離れるなんてできるはずが無い」
「そういうことだから諦めな。雄雄しい茶摘さん」
「雄雄しい言うな!
舌を出すな苛立たしい。ピアス引きちぎって二股にするぞ」
舌を出す神保に向かって指をクイッとする茶摘。
「見た感じ侵入者もあんま強くねーな」
「わざわざ来てくれたんだ。労ってやるのも私たちの仕事だ。
それに満掛が担当のタイミングで良かった。若の寝顔自慢がうざいからな」
「あー、あれな。興奮するとすぐ視野が狭まるからな。来週は俺の担当だからパパっと終わらせてぇ」
歩きながら話していると前から歩いてくる二人に気づく。
青髪ショートカットの長身女と黒髪で目元が隠れてるヒョロ男。
『『聖契臥房』』
二人は問答無用で亜空間に引きずり込む。
場面が森へと移り変わり、相対するのは弾間と茶摘。
草原では中村と神保。
鬱蒼と木々が生い茂る森。
「弱い方か。強そうな女の子の方と戦いたかったんだけどな。神保に取られたか」
つま先をトントンと地面に突いて残念そうにむくれる茶摘。
弾間は地形の把握に注意を注ぐ。格上との勝負、使えるものは使いたい。
「閉じ込めさせてもらったよ。暴れて地下都市を壊されたら困る。
B地区は特に注意してって満掛に言われてるからね」
「び、びーちく!?」
「ビーチクじゃない、B地区。発音違うから」
「おおう…びっくりした」
冷静に状況の把握をしていた弾間だったが、茶摘の発言に驚いて、茶摘の胸に目が釘付けになった。が、訂正されたことで頭を振って冷静さを取り戻す。
「B地区は地下都市の心臓と言っても過言じゃないからね。B地区だけは死守しろって言われてるんだ」
「あの、ビーチクって連呼しないでくださいよ。気が散っちゃいます」
「だからビーチクじゃなくてB地区ね」
実は茶摘の口からビーチクを聞きたいだけの弾間。窮地に追い込まれようとも変態は変態にしかできないことをやり遂げる。
「俺たちだってここを壊しに来たわけじゃないですよ。ここには一般人がいっぱいいますからね」
「じゃあ何しに来たの?」
「見極めに来たんです」
「へぇ、面白いね。
万が一、私に勝てたら存分に見学していきなよ」
「はい。そうするつもりです」
「ふふっ、悪いけど男に負けるほどヤワじゃないよ。私」
地平線まで続く緑の大平原。
「君、結構強いでしょ。女の子なのにすごいね。でも残念ながら俺より弱いかな。
女の子を傷付ける趣味は無いんだけどさ。良かったら火曜日の彼女になる?ごめんね。他の曜日はもう埋まっちゃってるからさ」
「は?イキってんじゃねぇよ皮被り。
ビビってんならそう言えよ。痛み無くしてやるからよ」
(ピキっ)
神保のこめかみに血管が浮き出る。
「ナメんじゃねぇぞクソガキ。その体穴だらけにしてやるよ。
『撓れ!不撓弓』」
神保の左手に握られた黒鉄の弓。異常な太さなのが見て取れる。通常の弓よりも二回りほどの太さで曲がる姿が想像出来ない。
「せっかちだな。モテねぇだろ。
『雷装操者』」
ビチビチと中村の全身をイナズマが駆け巡る。
C地区を歩く暮慕岬と熱血教師。
マンションとショッピングモールの間で様子を伺う。
「おう、見ない顔だが新入りか?ってマジかよ。
お前ら聖童師か?」
二人の後ろからいきなり声をかけてきた一人の男。
「どうしてそのことを」
暮慕岬は警戒する。熱血教師が何も言わないということは大丈夫なのか。あくまで付き添いだから口出しをしないということか。
とりあえず自分一人でこの場を乗り切る事を考える。
「おいおい。見てわかんねぇか?この体に漲る聖気を」
見られたいのか、聖気を解放する。
確かに一般人とは違って聖気を操ってる。
「あなたも聖童師なんですか?」
「俺の質問に答えて欲しい所だが、今のでお前らが聖童師なのはわかった。
そうさ、俺も聖童師だ。いや、正しくは聖童師だった。だな」
おちゃらけた雰囲気の男は次から次へと疑問を増やしてくる。
「だった?」
「ああ。もう二十年も前の話だ。
あ、長くなるから覚悟しとけよ?」
「とまあ、そんな感じで狩りに行ったら狩られたってわけ。
それから二十年。この地下都市を支えてる。
今では発電おじさんで名が通ってる。こう見えてここでは超有名人だ。
地下都市の電気は全て俺が賄ってる。俺様様だろ?俺がこの地下都市を支えてんだ。
つまるところお前らはこの地下都市を見つけてぶっ壊そうって魂胆だろ。
やめてくれよ?ここは俺の楽園なんだ。人生の半分以上をここで過ごした。
故郷と言っても過言じゃねぇ。がははっ!」
男の笑い声が響く。ショッピングモールの入口からは少し離れているため、誰も気にしない。
(ストンっ)
「おい、まさかお前がこいつらを手引きしたんじゃないだろうな?」
またも突然現れた黒髪の少年が男に向かって歳不相応な言葉を吐く。
男はその声に振り返り少年の顔を見ると血相を変えて地面に膝を着いた。
「め!滅相もございません!
こいつらは勝手に入り込んだんです。今追い出そうと説得してるところでして…。
おい、おまえら!とっととここからいなくなれってんだ!」
少年に気づいた男は取り乱しながらも身の潔白を証明する。
「ふん。裏切るような真似をしてみろ。命は無いぞ」
「もちろんでございますよ!私めはあなた様方に生かされてる分際ですので、そのような愚かな考えをした事もございませんでございますよ。
あはははは……」
「そうか。ならとっととここから去れ」
「仰せのままに」
土下座をするような形になってからスっと立ち上がり、暮慕岬に近づく。
「おい、俺は無関係だからな」
屈んでから男はそう耳元で呟いてきた。
「何をしてる!」
「はいぃぃぃ!」
少年に責められ脱兎のごとく逃げていく男。
「で、俺たちはお前らを排除するために来た」
「……」
いつの間にか少年の隣には顔を覆うほどに伸び散らかした黒髪の男が少年の言葉に頷く。
「当然。私は抵抗するよ。
無抵抗は私の趣味じゃないからね」
「生徒の前で引くわけにいかないぞ!当然抵抗させてもらう。まあ、そっちが抵抗する側だけどな!体のぶつけ合いで語ろう!!
元気が無いぞ!無口な青年君!」
「……」
『聖契臥房』『ぇぃ…ぉぅ(聖契臥房)』
ゴツゴツとした岩が並ぶ海岸で、暮慕岬と汐干岩(少年)が手足を地面に付けて戦闘態勢に入る。
両者、鋭い牙に鋭い爪、上にとんがった耳と荒ぶる尾を持っている。
白い狼と黒い狼がぶつかる。
岩に囲まれてジメジメとした暗い部屋には、熱血教師と屋敷木。
時折、ポチャンポチャンと天井の岩から水滴が滴り落ちてくる。
熱血教師が発する熱で空気が蒸していく。
ネムルの事を満掛だけがネムル様と呼びあとの五人。
和司、神保、茶摘、汐干岩、屋敷木は若と呼びます。
『雄雄しい』は今回、悪口みたいなニュアンスで使ってるので強調してオスオスにしてます。
本来は雄雄しいです。




