四十七話 遭遇
地下都市突撃から十分。
僕たちは二人ペアで三組に別れて別々に行動した。
昴先輩と僕。弛先輩と弾間。熱血教師とくれぼん。
僕たちは城を目指して最短距離をゆっくりと、地下都市の情報を集めながら進んでいく。
ウーパールーパーをテキトーに飛ばして周囲の状況を確認する。
少し集中するとウーパールーパーの位置が把握できて干渉できるようになった。それによってウーパールーパーとの視覚を共有できるようになった。
色んな視点に変えて地下都市を観察する。
一体が既に城付近に到着しているがそこから先には進む事が出来ない。
ウーパールーパーの視覚を通して目に入ってくるここの住人たちの表情は笑顔が多い。
ショッピングしてる人たちは商品を手に取って迷う仕草をしたり、カゴに詰め込んだり。
カラオケにボウリング、映画館、飲食店。
聞いてた通り地下都市を満喫してる人ばっかりだ。
しかし、ここの住人は全て犯罪者と債務者。
本来の扱いとは程遠い。
働いてお金を貰って。まるで普通の人のように。いや、それ以上に生活を謳歌している。
苦しい表情をしてるのは極わずか。通帳とにらめっこして少しずつ借金額を減らしている者も少ないがいる。
最初に先輩が言っていた己の正義。
この地下都市は必要悪なのかもしれない。
決して表に出すべきものでは無いが、ここがあるから笑顔でいられる人たちが大勢いる。
地下都市の設立理由がどうかわからないが、間違いなく救われてる人たちがいる。
その数は僕が救ってきた数よりも圧倒的に多い。
誰かが必要としている以上、ここはあるべき場所なのかもしれない。
そう思ってしまった。
体が重くなる。他の人はどう思っているのか。もしここを潰したら、ここの人たちにとっては僕らが悪になるのかもしれない。
罪悪感が芽生えてくる。
今まで吸血鬼に対しては何も思うことが無かった。
しかし、相手が何も知らない者だったならば。
それは一方的な悪になるのではないか。
善と悪、それぞれ人によって在り方が違う。受け取り手によって善にも悪にもなりえる。
考えれば考えるほど頭の中で糸が絡まる。抜け出すことの出来ない思考の沼。
(パタッ)
「考えろ。迷え。
それが唯一の解決への道だ」
僕の不安を感じ取ったのか、昴先輩が振り向いて肩に腕を回してきた。
「だが、そんなに悠長に考えてる時間は無さそうだがな」
「それって……」
「ああ、既に中村たちは戦ってる」
「っ!!」
全然気づかなかった。ウーパールーパー飛ばしてるけどなんの変化も感じ取れなかった。
なんで気づけるんだよ。
「恐らくこっちにも来るだろうな。なんせ向こうも二人ずつ動いてる」
「城に行くんですか?それともここで迎え撃つんですか?」
「街にはなるべく被害を出したくねぇ。
地下だから何がきっかけで崩れるかも分からねぇからな。
万一崩れたらこの数の人間を助けるのは無理だ」
「ですね」
およそ二千五百人。たとえ時間が止まったとしても無理だ。
「城に駆け込むぞ」
「はい!」
マンションの屋上を駆けて城の区域に飛び込む。
優に石壁を超えて庭らしき所に着地する。
(ファサッ)
着地と同時に正面に二人、飛び込んできた。
その軽やかさに遥か格上であることを悟り、躊躇わずに触腕を出し戦闘態勢に入る。
(吸血鬼…そうなるよね)
茶髪の美形男と重量級のスキンヘッドおじさん。
『聖契臥房』
「なっ!?」
突然、景色が変わる。
城の前にいたはずが、今は荒野だ。どこまでも枯れた土地が広がってる。太陽は見えないが光が届いてる。
童質?転移か幻覚か。
土の感触が足に伝わるしカラカラの空気が喉を通っていく。
目の前には茶髪の男。何か呟いたように聞こえたけど。
昴先輩とは離されたか。
「おや、驚いているね。もしかしなくても今の状況を理解できていないのかい?それなら驚くのも無理は無いね。ははっ」
「……」
飄々とした語りが鼻につく。
「沈黙ということは肯定と捉えてもいいかな。初めての体験だ。私がしっかりとレクチャーしてあげよう。
『聖契臥房』というのはね、聖気を練り上げて創ることができる部屋なんだが、そこで最も重要になってくるのがイメージ。
そう。頭でイメージした情景を創り出せるんだ。
そしてここは亜空間であって外へ干渉することが許されない。
どこまでも広がっているように見えるが実際には壁がある。
そして、二者間で取り決めた条件完遂以外でここから脱出する手段は無いんだ。もちろん壊すなんてことは出来やしない」
「取り決め…」
「そう。今から私と君でその取り決めを行う。準備はいいかな?」
てことは相手の独壇場って訳でもないのか。このフィールド自体に何か特殊な能力があるわけじゃない。
聖気の延長線上、単に聖気で創られた亜空間部屋。
「その条件とはっ!?」
男が人差し指を立てる。
「とは?」
(デデンッ!)
「ずばり…どちらかの降参宣言」
「それなら━━」
「ただしっ!!降参した者は脱出後、相手の目的の邪魔をしてはならない。でどうかな?
そっちからしてもこの条件はいいんじゃないかな?」
……結局は勝てばいい。戦って降参させれば後も動きやすくなる。
僕は頭が良くないから抜け道なんてすぐに思いつけない。
だったら乗るしか無いでしょ。
「それでいいですよ」
「よし決まりだね。それじゃあ早速バトルフェイズに移行しようか」
(ボフンッ!)
男の聖気が目に見えて大きくなる。茶色の髪がファサッとなびく。
「ふふっ、ここなら周りの心配をしなくてもいいからね。存分に生死の掴み合いをしようか。
ほら、秘めた力の解放をしても構わないよ?」
「あいにくそんな都合の良いものなんて無いですよ」
「そうか。その状態で挑むのか」
「やってみればわかりますよ」
目一杯触腕を広げる。
なんか動物の威嚇みたい。
「私はあまりお喋りが好きじゃないんだ。慈悲なんて期待しないでね」
めちゃくちゃ説明してきたじゃん!




