四十三話 地下都市
地下都市。
「ふぁ〜〜〜。今日も働いたぜ。
この後飲みに行くか?」
「いいっすね。もちろん先輩の奢りですよね?」
「バッカヤロウ!先輩が奢んのは当たり前だろ?だせぇから一々確認すんじゃねぇよ」
「すんません。あざ〜〜っす!」
毎週末は仕事終わりに必ず誰かと飲みに行くのが俺のルーティンだ。
(ゴトンッ)
「んあ?なんだこれ」
道の隅に何かが落ちた。拾い上げると四角い黒い板。
カチカチと叩いたりひっくり返したり観察する。
「なんだこれ、結構硬いな。うあっ!めっちゃ光るじゃん。」
黒い板が突然光だした事に驚く。
「どうしたんすか?……ってそれスマホじゃないっすか」
覗き込んできた後輩はどうやらこれを知ってるらしい。
「スマホ?」
「あ、先輩はここが長いから知らないっすか。ガラケーの後に出てきたやつっすよこれ」
ガラケーの後?
「ああ、これがスマホか。
俺がここに来る前になんか話題になってたな。
あのタッチパネルで操作するやつだろ?操作性を疑うな、絶対ボタン操作の方が楽じゃん。
俺は一生ガラケーだ。ま、ここじゃ携帯を持てないけどな。」
「その考え古いっすよ。今は大人から子供までほとんどの人がそのスマホ使ってるんすから」
「まじかぁ…時代だな」
「それはそうとどうすんすか、それ」
「どうもこうも持ち帰るしかないだろ。ポイ捨てなんかしたのバレてみろ。減給されっぞ」
「っすね」
後輩にせがまれてスマホを渡すと何やらポチポチしだした。
「あ、これパスワード設定してないじゃないっすか。使えるっすよ」
「まじか!で、何ができんだ?」
「なんでもっす」
「なんでも!?」
なんでもかぁ。
それから飲み屋の後にボウリングしてカラオケで歌いまくってパチンコしてから家に帰った。
家に着いたのは日を跨いで午前三時。
「こんな生活出来るのもここだけだよなぁ。
借金まみれになって良かったぜ」
ここには娯楽が揃ってる。そのせいで一向に借金は減らないけどな。
「ったく、めんどくせえな。わざわざ俺を呼び出すなんて何事だよ」
山本 昴は防衛管理委員会から呼び出しを受けた。防衛管理委員会とは防衛大臣の直属の部下たちが在籍していて聖童師へ仕事の斡旋、後処理する者たちだ。
故に彼ら無くして聖童師は無い。自由にやれてるのも彼らが裏で動いてくれているからだ。
そんな者たちに呼び出された山本はイカしたリーゼントに学ランという古風なヤンキースタイルで街中を歩いている。
すると道の端でうずくまってる少年を見つけた。
「坊主どうした?迷子か?お母さんとはぐれたのか?」
「うん…」
こんなところで迷子か。車が結構通るから危ねぇな。近くにいねえのか?
「ちょっと待ってろ」
弟にあげるやつだがそんなこと言ってられねぇ。胸ポケットから出したそれを少年に渡す。
「ほら、これやるから落ち着け。男だろ?」
「くまさん…」
くまの人形でどこか表情も落ち着いた気がする。
っし。そんじゃ、こいつの母さんを探すか。
「ほら乗れ」
「いいの?」
人を肩に乗せるのは久しぶりだな。弟を乗せた時以来だ。結構力ついたか?軽いぜ。
肩車をして街中を歩く。
「ママっ!!」
「おっ、見つかったか」
しばらく歩いてたら少年が母さんを見つけた。
肩から降ろすとすぐに母さんの所に駆けつけて行った。
少年と抱き合ってから俺に気づく。
(ビクッ)
まっ、ビビるのは仕方ねえ。そういう格好してるからな。
「お母さんですか。すみません、落ち着かせるためにぬいぐるみをあげちゃいました。本当は残らないお菓子が良かったんですけどアレルギーが怖かったんで」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
何度も頭を下げられると逆に気まずい。
少年と目線を合わせる。
「たくよぉ。もうママを心配させんじゃねーぞ?」
「うん!!バイバイ!お兄ちゃん!!」
「おう、バイバイ」
立ち上がって背筋を伸ばす。
ふぅ、少し遅れそうだな。走るか。
目的の建物に辿り着いた。
グンと存在感を出して建っている三十階建てのビル。その地下二十階にある特別な部屋。
この部屋は完全に聖気を抑える結界が張られてる。
俺と会う時は必ずこの部屋だ。普段は電話でのやり取りだから、今回わざわざここに呼び出したってことは普通じゃない事を頼まれるのか。
俺に頭の中を見られたくないから委員会の奴らはここ以外での接触を拒絶する。
(ガタンッ)
「こんちわ〜」
重厚な扉を開けて中にいる人たちに挨拶をする。
中は黒で統一されててとにかく暗い。真ん中に設置された円形のテーブルには四人座ってる。
「で、今回はどんな事をするんですか?」
「ふむ。今回君を呼んだのは人知れず開発された地下空間の調査に赴いてもらうためだ」
「地下空間?」
「ああ、先日聖童師の一人がスマホを落としたようでね。GPSを辿ったら何故かありもしないはずの地下空間で使用された形跡があったんだ。我々すら知らない謎の地下空間。場所だけはわかっているがそれ以外は何も知らない。
だから君に現地調査をお願いしたい」
「んー。危険度はどのくらいっすか?」
「未知だ。我々は何も知らない。
あるはずのない地下空間で誰かが確実に生活している。既に監視を始めて一週間、スマホが同じ場所で使われている。
秘密裏に頼む」
「わかりました。中村を連れて行ってもいいっすか?」
「中村君か。そうだな、彼女なら問題無いだろう。許可する」
「ただの調査でいいんすよね」
「ああ。君が持ち帰ってきた情報を我々で精査してから次の指示を出す」
「俺の感ですけどこの件、相当デカいっすよ」
「そうか。報告期待している」
(ガタンッ)
はあ、あそこはいつ行っても空気が重いな。終始、淡々と最低限の会話だけが繰り返される。
忙しくなりそうだ。中村暇だといいけど。
そして、
「あ?空いてるな」
「よっし。それじゃあ明日から始めっか」
「了解」
二つ返事でオッケーしてくれて助かった。
中村がいれば大抵の事はなんとかなる。こいつ以上に頼りになるやつを俺は知らない。




