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万古闘乱〜滅ぶのは人間か吸血鬼か〜  作者: 骨皮 ガーリック
些事万起
42/92

四十二話 スマホを落としたら

 ゴールデンウィークが明けて吸血鬼を狩る日常に戻った。


 勢いよく教室の扉を開けて入ってきた熱血教師。

「お前ら!緊急で仕事が入った!!

 吸血鬼による誘拐事件だ!お前らやれるな!人質を無事に救出してこい!

 今回は暮慕岬も一緒にやる事になった!協力して励め!

 こういう機会は滅多に無いからな。しっかり経験してこい!」


 なんてことがあって僕たちは大急ぎで現場に向かってる。


 なんでも吸血鬼が現場から逃走する時に人間にはありえないような動きをして遠くに逃げていったと証言が入ったらしい。

 それで今回の犯人は吸血鬼だということになり聖童師が駆り出された。


 銀行強盗以来だな、こういう仕事は。


 人質はIT企業の社長でここ数年で日本屈指のIT社長になったらしい。美人で優秀ということでメディアへの露出も結構してるらしくテレビにも出てるんだとか。


 現場を見ていた副社長が警察に電話。大事にしないで欲しいとの事。信用が大事な業界ということでこの事件は表に出したくないと言っていたらしい。



「これって普通に殺しちゃっていいのかな。情報とか聞いたりするために生け捕りにした方がいいのかな。聞くの忘れてた」

「やば、聞いといた方が良いやつじゃん。俺聞いとくよ」

「よろしく」

 目的の場所に着く前にそんなことを思った。

 弾間が仕事用に貰ったスマホで先生と連絡をとる。



「できるなら捕獲だってさ」

「「了解」」


「テキトーに手足ちぎっておけばいいよね。それなら私得意だよ」

「じゃあ、僕たちはその援護か」

「オーケイ」

 今回は翼を使う場面じゃないかな。室内だと思うし。

 やる気満々のくれぼんを中心に動くことになった。


 そんな感じで現場に着いた。廃ビルに閉じこもってる吸血鬼と社長。


 下でたむろしてた下っ端を蹴散らして上に上がる。


 二階はワンフロアになってて階段を上がったらすぐにバレる。



「僕と弾間がゆっくり歩いて行くからくれぼんは隙があったら飛びついて」

「「了解」」


 びっくりしたのがくれぼんの童質の進化。

 前は拳と前腕が白い犬の顔で覆われてたのに今は全身が覆われてる。もう完全に獣と化してる。ちゃんと獣耳もついてる。

 だからか、四つん這いになって後ろを着いてくる。



(コツンコツン)

 階段を上がりきると目の前には吸血鬼と椅子に縛り付けられてる女社長。確かに生で見ても美人だ。


「それ以上近づくな。この女を殺すぞ」

 吸血鬼からの要求通り僕たちは足を止めた。

「何が目的でこんなことしてるんだ?」


「目的?俺はただこいつを殺したいだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 俺はただ、こいつを殺すだけだ」

「そうか」

「助けて!早く私を助けなさいよ!!私を助けに来たんでしょ!!」

「黙れ!!」

 大人しかった女社長が突然大声で叫び出した。それに対して吸血鬼が怒鳴りつける。


「早く!!なんでこんな子供なのよ!警察はどうしたの!!」

「うるさい黙れぇっ!!」

「お金ならいくらでも用意するから早くしてよ!あなたもこんなことで人生台無しにしたくないでしょ!!今なら大事にしないであげるからこれを解きなさい!!」

「いい加減にしろ!!ほんとに殺すぞ!くそつ!」

 取り乱す女社長とそれを抑え込む吸血鬼。

 チラチラと腕時計を確認する吸血鬼。



 これはどう動くべきだろうか。


「お前らは動くなよ。動いた瞬間俺はこいつの首に噛み付いて吸血鬼にしてやる」

「吸血鬼?なにっ!?なにを言ってるのっ!!

 いくら欲しいの!一千万?それとも二千万?ああもう!三億までなら出してあげるわ!

 これでいいでしょ!」

「金なんかいるかっ!!そういう話をしてんじゃねぇよ!いいから黙ってろ!」

「じゃあなに!あなたたちは何がしたいの!」


 あなたたち?下のやつらのことか?女社長は下の奴らのこと知ってるのか。


「ちくしょうっ!声がキンキン響くんだよ!」


 いけるか?強さがわかんないな。視界の端に映るくれぼんはいつでもいけそうだ。しっぽが天井に突き刺さりそうな程にピンと上を向いてる。湧き上がる白い狂犬。



「もぅ待て……ぞ。や…か…」

 ボソッとしっかりとは聞こえない声量で何かを言う吸血鬼。

 向こうが動く前に何とかしたい。何かきっかけを待つか?


「もうこれ以上は無理だ。時間切れだ聖童師。

 仕事は失敗だ」

「なにをっ!」

(ガブッ…「きゃっ!」ゴクリ…)

 吸血鬼が女社長の首にかぶりついた。


「弾間!」

(くそっ!遅かったか)

 振り返ると既にくれぼんが飛び出して僕たちを通り過ぎて吸血鬼に飛び掛っていった。


(ぐじゅっ!)

「ぐあっ」

 くれぼんが吸血鬼の左腕を噛みちぎった。

「ペッ!」

 ちぎった腕を吐き捨てるくれぼん。


 吸血鬼が離れて項垂れる女社長。

「痛い…なにこれ……?」

 かぶりつかれた首筋を指で撫でながら困惑する女社長。特に異変が無いってことは……。

((((処女っ!!))))


 みんなの思考が一致する。

 そこからの動きは一瞬だった。



 眷属化の行為をしたのにも関わらず吸血鬼にならなかったということでこれ以上近づけさせなけれ安全なことがわかり、三人で仕留めに行く。

 弾間は吸血鬼と女社長の間に入って警戒する。


「なっ!」

 吸血鬼の姿が目の前から消えた。

 前触れもなく突然、姿を消した。


「そこにいるっ!」

 くれぼんが叫びながら突っ込んでいく。

 けどその先には何も無い。


 何も無い空間でくれぼんが戦ってる。

 透明化か認識阻害か。くれぼんだけには見えてるのはなんでだ。


 認識阻害の人数制限?そんな中途半端な童質なのか。

 くれぼんには透明化を見破ることができるてのか。


 可能性としては後者。


 僕がとる行動は。

 このままくれぼんに任せるか。

 女社長を連れ出して弾間に範囲攻撃してもらうか。


 くれぼんが不自然な止まり方をするから確かにそこにいるんだろう。


「だぁっ!」

 四つん這いから飛び込んで殴りかかったり後ろに飛んだり。

 血飛沫も透明化するのか。


「がぅっ!!」

 最高速の飛びつきで何かをかじって天井を足場にしてからゆっくり床に着地した。


 終わったのか?

 スパッツ丸出し状態から立ち上がってこっちに歩いてくる。


「やった」

「狩ったの?」

「うん。手強くて手加減できなかった」

 今も透明なのか既に塵となって消えたのか。


「なんでわかったの?」

「匂いは消えてなかったからそれを頼りに首に噛み付いた」

「なるほど。身体能力だけじゃなくて嗅覚も獣並なんだ」

「獣って言い方酷くない?」

「ちょっ、ちょっと!いい加減私を助けなさいよ!」


 椅子に縛られながらも元気に暴れる女社長。



 縄を解いて自由にする。


「はぁ、酷い目にあったわ。なんなのあいつ…それにあんたたち」

「詳しいことは言えないです。

 でもあなたの会社の副社長からこの件を聞いて大事にしないように動いたんで気にしないでください。僕たちの事も忘れてもらえたら助かります」

「そう。アイツが…」


「私はもう行くから。どこに振り込んでおけばいい?」

「いえ、それは大丈夫です」

「あらそっ」


 コツンコツンとヒールを鳴らして階段を降りていった。

 こんな目にあったのに何事も無かったように帰っていくなんて肝が座ってるな。これが社長になれる人の器か。



 女社長もいなくなってさっきまでの緊張感が解ける。

「なんかいかにも女社長って感じだったよね」

「うん。あれじゃあ社員からも嫌われてそう」

「いくら美人でも性格が悪すぎるよな」

「うん。まさかこの俺に嫌いな女性ができるなんて…信じられないよ」


「ちょっと…聞こえてるわよ。

 沢山酷いことを言ってごめんなさいね。

 もう怖くてどうしようもなくて。でも、あれが私の本心なの。頑張っても込み上げてきた思いが抑えきれなかったの」

「いいですよ。謝らなくて」

(この人嫌いだし)

 いつの間にか戻ってきてた。


「あなたたちまだ子供よね。助けて貰って何もしないっていうのは非常識だからね。大の大人が子供にお礼もしないなんてみっともないから。

 って言っても何か買ってあげられるわけじゃないからこれを。何かあったら連絡して。私なできることなら力になるから」

 そう言ってジュースと名刺を貰った。




「一つだけまだ言い残してた事があるの」

「はぁ…?」

 女社長が頭を深く下げてから真っ直ぐ僕たちを見る。




「ありがとう」




 信じられないくらい優しい声音で発せられた感謝の言葉。

 その表情はどこまでも柔らかく、大人びていて艶やかだった。

 しばらく目を離せなくなるほどに。これが大人の女性の魅力か。


「堕ちた?」

「堕ちた」

「堕ちちゃったか」

「美人はやっぱ強すぎる」

 弾間と顔を見合せて正直な感想が飛び出す。


「はぁ、これだから男子は…」

 やれやれと首を横に振る。



 学校への帰り道。

「体も血も聖気も透明にできるの強いな」

「くれぼんいて良かった」

「でしょ?私だって強くなってるんだから」

 確かに攻撃力とスピードは僕以上かも。弾間に続いてくれぼんにも置いてかれそう。

 いや、僕には翼がある。


「でもズボンにした方が良くない?色々と」

「?スカートの方が私には合ってる」

「ならいいけどね」

 あれでいいのか。

 スパッツは下着か下着じゃないか問題。


「先生に連絡しなきゃ。ほんとに殺しちゃって大丈夫だったか」

「そうだね」


「あっ」

(ゴトンッコツンッ……チャポンッ)


 弾間がポケットからスマホを取り出そうとしたら手から滑り落ちた。

 スマホはそのまま側溝に落ちていった。


「ちょっと待って」

 触腕を側溝の中に入れて水の中を探る。


「んー。ダメだ届く範囲に無いや。結構流れ強いから流されてるかも」

「まじか……」

 触腕も流されるくらい水の流れが速かった。


「新しいの貰えるかな」

「貰えるでしょ」

「どんまい!」



 学校に着いて報告が終わって授業に戻る。

 スマホは新しいのが貰えることになった。


 それと女社長誘拐事件の真犯人は副社長だった。

 あの後すぐに戻ったら社長室で副社長とばったり会っちゃったらしい。

 パソコンの中身をUSBにコピーしてるところに社長が現れたんだとか。まさかこんなに早く帰ってくるとは思わなかった副社長は完全に終わった。


 副社長は会社のデータを売ってそこの会社に乗り移る計画を企てていて、副社長とその会社の一部の関与してた人間が捕まったと。


 社長も大変だな。





 スイスイと水路を流れていくスマホが辿り着いたのはとんでもなく広い地下空間。


 そこを通りかかった男がスマホに気づいて拾った。

「なんだこれ?」


 地下にいるこの男は一体何者なのか。

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