三十九話 世にも奇妙な少年
閑話です。
本編とは関係ないです。
俺の名前は早乙女 大我。勉強も運動も普通。好きでも嫌いでもない。
平々凡々な男、それが俺。
それでもみんなには無い俺だけの力がある。
時を止める力。
ではなく、時が止まってるのがわかる力。
最初はちょっとした違和感。この数年で確信を持った。
みんなには無い俺だけの特別な力。
高校三年の今の俺には幼馴染が三人いる。
出会いは幼稚園。
幼稚園のバス停が一緒だったことで毎日一緒に遊んでた。それが今も続いてる。
朱里と香織とすみれ。
そう、幼馴染の三人は全員女なんだ。
最初はそんなの気にならなかった。小学校、中学校とずっと一緒にいて、ずっと仲が良かった。
ただ、一回だけ三人とは離れるようになった。
それは中学の時、俺がクラスの男子からからかわれてた時。
ずっと女子と一緒にいるからという理由でオカマだのオネエだの言われた。俺はその男子に反抗せず、収まるのを待った。
なんで俺がそんな事を言われなきゃならないんだと思ってたが、一つ思い当たる節があった。俺をからかってくる男子は香織の事が好きだという噂が広がったのを思い出した。
そんなの八つ当たりだと思いながらも、なら少しの間香織たちとは距離を置こうと思った。なんでわざわざそんな事をしたのか、今でも分からない。
そのタイミングと重なるように俺は超能力に目覚めた。
ほんの一瞬、時間が止まるのを実感した。それが一回だけじゃなくて連続だったりと勘違いじゃないことはわかった。
ただ、不定期にそれが訪れるから頭がおかしくなる。
別にそれが何かの役に立つ訳でもなく、電話で朱里に、たまに時間が止まることあるかと聞いたら笑われたからそれから誰にも言わずに心にしまっておくことにした。
三人と距離を置いてから一週間、俺は三人に呼び出された。
なんで私たちを避けるのか、と聞かれたが俺にも分からないと言うとそこから喧嘩が始まった。頻繁に喧嘩はするけどこの時以上の喧嘩はしていない。どんなことを言ったかほとんど覚えてないけど、最終的にはみんな笑ってた。
それからも今まで通りずっとに一緒にいることになった。高校はみんな一緒だ。
すみれは一つ下だから遅れてやってくる。
俺たちはいつまでも友達だと思ってた。
きっかけは些細なことだった。朱里と香織は部活で俺とすみれが二人で帰ることになった時。
いつも通り他愛も無い話で盛り上がってたらいつもみたいに時間が一瞬止まった。今回はそれが連続して起こり、若干イラついた。
ふと、後ろを向くとそこには車が走ってた。
電気自動車で音も無く、歩道に突っ込んできた車を避けるために動く。
連続で時間が止まってコマ送りみたいな感覚になりながらも、すみれを抱えて車の直線上から逃げるために横に飛び込んだ。
そのタイミングで時間停止が収まり、普通の時間の流れに戻った。
車は歩道に突っ込んで大破、すみれを抱えて飛び込んだことで俺の制服は擦れ、腕と腰を盛大に擦りむいた。でもそのおかげですみれに傷は無かった。
その後、別れ際に告白された。
そして俺たちは付き合うことになった。
秘密にするのはなんか違うと思って二人に話した。もちろんすみれに事前に話すことは伝えた。
二人は自分の事のように喜んでいて嬉しかった。
それでも、何か今までと変わるというようなことは無く、俺たち四人は一緒にいた。
少しだけすみれと二人で帰る回数が増えたかもしれない。
昔から朱里にはなんでも相談していた。男勝りな所があって一番仲が良かったというのもあった。それ故に距離感が近く、頻繁に肩を組んできたりする。
何回かやめるように言ったが直らなかった。
すみれにもそのことについて言ったが、全然今まで通りで良いと言われて、すみれが良いならいいのかと俺は気にしなかった。
香織は俺たちのまとめ役でお姉さん的な立ち位置なのだが、少し天然な所があり距離感を間違えることが多い。それもすみれは気にしなかった。
すみれが一つだけ大きく変わったのは付き合い始めてから極端に俺に甘えてくるようになったことだ。
俺たち三人が受験期間に入ってから放課後に集まることが減った。大学はそれぞれ違った。
俺は勉強をとにかく頑張った。予備校にも行くようになってますます会う時間が減った。
そして、センター試験が終わった。
俺に気を使ってここ数ヶ月で数回しかすみれとは一緒に遊ぶ機会が無かった。俺の要領が良ければすみれともっと沢山色んなところに出かけられた。
センター試験を前に不安になる俺にそっと寄り添って、でも寄り添いすぎずで、その瞬間は何ものにも変え難いロマンスでスウィートな時間だった。
友達としてではなく彼女としての存在が大きかった。
節介焼きな上手な母さんにも励まされたけどすみれの励ましはダンチ。
母性。母親以上に上手くに使いこなす者はいないと思っていた。
だが、すみれの励ましは母さんの母性を軽く凌駕してしまった。
母さんは夜食を作ってくれたり、必要な教材を買ってくれたり。
それでもすみれとの限られた短い会話が何よりも癒された。
すみれの声、表情、そのどれもが俺をお花畑に連れて行ってくれた。
甘え上手なすみれは甘やかし上手でもあった。
そんな聖母を体現するすみれとどうしても結婚したくなった。受験期間中、その事で頭がいっぱいになったこともあったけど、こんなに頑張ってくれたすみれのためにも受からなきゃいけないって思いが強くなった。
そして俺の特別な力を駆使して無事に終わった。普段、体育の授業なんかで時間が止まるとその間に脳が周囲の状況を整理して、時間が動き出すと同時に最適な動きをする。ボールがどこに落ちるか、速さに角度を計算して導き出される。感覚でわかってしまう分、物理が苦手だったりする。
人の重心移動、表情、目線を見ると次の動きの予測は簡単だ。
そんなこんなで時間が止まってない時でも脳の高速処理が行われて、集中すれば自分で時間を引き伸ばすこともできる。実際には時間はゆっくりになってないけど、脳がそう錯覚させる。
そんなわけで試験時間も十分足りた。問題文を読んでる時に止まってくれたり、ただ計算中に止まるのはいただけない。計算は勢いでいきたいから途中でつっかえるとやりづらい。
とまあ、来年は俺がすみれを全力で支える。そう心の中で誓いながら約束の場所にたどり着く。
俺は今、すみれの家に来ている。
家でお疲れ様会をやってくれるそうで手作り料理を振舞ってくれると言っていた。
無論このことが試験中の俺の心を乱したのは言うまでもない。
実は今日、俺は大人の階段を上ることを決意してすみれの家に来ている。準備は万端だ。身だしなみはきっちり整えてきた。
すみれの手作りご飯をお腹いっぱい食べてデザートも食べた。
受験という緊張から開放されたからか、食べ終わったらぐっすりと眠ってしまった。
起きたらすみれのベッドの上だった。
リビングの方から声が聞こえたから行ってみると三人いた。
すみれと朱里と香織。
「なんでいるの」
そう聞かずにはいられなかった。
「呼ばれたからに決まってんじゃん」
朱里がそう言う。
「夜から二人も参戦するはずだったのに寝ちゃったから、私たちだけでパーティーの続きしてたの。ごめんねっ」
聞いてないぞ…すみれ。可愛く謝られると許してしまう。
「え、昨日の夜?」
昨日の俺の覚悟は最初から無駄だったようだ。
「そうだ、ずるいぞ。二人だけで楽しもうとしてたなんて、私たちはずっと一緒だろ?」
「そう。私たちはずっと一緒だよ」
今、俺の全身が鳥肌で覆われている。
怪しげな意味を含んでるような言い方をして三人から怪しげな目で見つめられている。
「も、もちろん。ずっと一緒に決まってんじゃん。あははっ…」
そう言う他に無かった。
右手を朱里、左手を香織に引っ張られ、背中をすみれに押されてクッションに座らされる。
「私たちずっと一緒だから……」
この時初めて女を怖いと思った。
そして俺はまだ大人になりたくないと願った。
この男、空間の認識が異常。
超常的な視力を持っていて普通は見えないものが見える。これにより、脳が超常的な発達をして、いつからか周りとは違うものを認識していた。
停止世界や空間を識別可能。
天道の天敵である。
スポーツをやっていれば天下を取れていた。
神様のいたずらか、彼の周りではスポーツをやる人間がいなかった。周りは女子だらけ。姉二人に妹一人。幼なじみ三人が女。
よって、興味も無く本気で取り組むような事はなかった。
神は恐れたのかもしれない。彼がスポーツの世界に関わるのを。
この時天道は『惑星』のみんなとゲームをしていました。
ゲームは遊びでも本気で真剣に。




