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万古闘乱〜滅ぶのは人間か吸血鬼か〜  作者: 骨皮 ガーリック
波乱万丈
37/92

三十七話 イカレ狂い

今回途中からグロシーンの玉手箱なのでやばいと思ったらブラウザバックしてください。

かなり生々しいかなと思いますので。

目先(めさき)三寸(さんすん) ()れぬ(なか)れ。一事(いちじ)万事(ばんじ) 九死(きゅうし)一生(いっしょう)

 禁域(きんいき)(おか)すは(これ)蛮勇(ばんゆう)なり。御構(おかまえ)(いた)すは死神(しにがみ)息吹(いぶき)

 膚浅(ふせん)()られ(らん)()り、(たちま)奇心(きしん)()えるばかり。

 ()(とり)()とす業火(ごうか)なりける」



「童質改変 『全面(ぜんめん)万辺(ばんぺん)地雷(じらい)(もう)』」



 聖域と童質を組み合わせて相手を殺す事だけを考えて創り上げた禁域。


 元の聖域となる球体を拡張してその中を聖気で満たす。改変した童質は聖域内に充満する聖気を爆弾に変え侵入者を観測次第起爆する。


 直径十mの無差別爆撃空間。

 これが今の俺の限界。完全に把握出来るのは直径十mまで。それ以上広げると穴ができる。

 だからこそ、この範囲なら自信を持って断言出来る。死角は無いと。



 これが俺の出した答え。一人で敵を圧倒する強さ。

 だけど莫大な量の聖気を放出し続けるから短期決戦用になる。




 突然の乱入者から意識を戻した二体が俺に迫るが既に手遅れだ。

 禁域に立ち入る者は容赦なく爆撃の渦に飲み込まれる。


 俺が一歩前に出れば青髪(将吉)が禁域に入る。

「死ねぇっ!」

 青髪(将吉)は弓を射ようと右手を前に出した。

(ズドォン!!)

「ぐわぁっ!」


 右の手の甲にグレネードが出現すると同時に爆発した。

 青髪の右手は綺麗に吹き飛んだ。


 それを皮切りに青髪の周囲をグレネードが取り囲む。


 複数の指向性を持った爆発が青髪の体を焼き穿つ。



 吸血鬼の特性上死体は粉々になって消えるが、今回は爆発により全身が黒焦げの灰となって散り散りになった。


 息を飲む暇もなく、弾間は黒髪(翔太)の方へ足を向けた。


 咄嗟に流れ星を飛ばす。

 が、弾間には見えている。

(ボフンッ)

 禁域内では通常時よりも早く爆弾の生成が可能であり、相手の攻撃に対しても迎撃可能。


「ひぃ!いや……嫌だ!まだぼ━━━」


「完了。ふぅっ」

 禁域を消す。と、同時に童質も戻る。


 一気に聖気を消費した反動がどっと来る。

「疲れたぁ。ぶっつけ本番だったから上手くいってよかった。想像以上に聖気持ってかれたな。

 どう?兵頭君」


 二体を呆気なく狩った弾間は兵頭の下に歩み寄る。


「また強くなったね」

(また差が開いた)

 兵頭は素直に称賛を送るが微妙な面持ち。

 強くなったつもりでいたがそれは弾間も同じである。時間は平等に与えられており、どちらも同じく研鑽を積んでいた。

 距離を縮めるのは簡単じゃない。


「それよりも気を抜いたらダメだよ。

 まだ終わってない」

「もちろん。わかってる」

 乱入者の事もそうだが、この戦いをずっとそばで見ていた者がいる。何故か手を出さずに見守っていた。


「マリアだっけ?なにが目的だよ」

 少し声を張らないと聞こえない距離にいるマリア。兵頭は疑いから入る。

 三体から母親と呼ばれていたにも関わらずこの惨状を前に依然として微動だにしないという謎の状況。


 ただそこにいる。

 立っているだけで絵になるその美貌に目を奪われる弾間。



「君たちのおかげでわかったのぉ。なんで母親になりたかったのか」

「は?」

 耳に張り付くような粘度のある色っぽい声。張ってもいない声が風にまとわりついて運ばれる。


「ワタシがまだ人間だった時のこと。

 突然母親になりたいって思ったの。

 でもなんでかわからなかった。ただなりたいと思った。

 で、この前君たちに子供を殺されてやっとわかったの。



 ワタシは周りも見ずに自分ばかり見て生きてきたの。それで良かった。

 自分の為に働いて自分の為に自分にお金使って。


 何がきっかけかはわからない。

 ワタシ以外の人はどんな人生を歩んでいるのか。

 そんな事を知りたくなった。


 そんな時にタイミングよく母親になったワタシが夢に出てきた。

 それで思ったの、母親になればいいじゃんって。

 自分で子供を産んでそばで成長を見守ることが手っ取り早いんじゃないかって。子供の人生を見ようって。


 それをこの前思い出した。

 子供が好きで母親になりたかったんじゃない。母親という立場がちょうどいいから母親になりたかった。


 てっきりワタシは子供が好きなのかと思ってた。そうじゃないってわかってからなんかどうでも良くなってね。吸血鬼って成長しないし。



 そしてワタシは君たちを貰う。今は支配欲が止まらなくてうずうずしてるの。

 ペットとして可愛がってあげるぅ」


 なんだか長い自己紹介が終わった。

「吸血鬼は片っ端から狩るだけだ」

「非常にそそられるが俺には彼女がいるから断る!」

(女に対して強気に出るなんて変わったな弾間。前なら無言で通してたのに。

 彼女が出来たからか?いいことだ)


「残念。なら力づくで従わせるわ」

 そして戦闘に入ろうとした時。


 さらなる乱入者が現れた。


(天道!!どうしてこんなところにっ!)


 公園に現れたのはガストとの戦闘を終えてたまたま聖気を感じたから通りかかった天道だった。


「こっちは君たちに任せて大丈夫か?」

 何故かシャツ姿の天道に困惑する二人。

「は、はい!」


「では私は向こうの加勢にでも行くとするか。

 かなりやばそうだからな」

「は、はぁ…」

 キョトンとする二人を置いてさっきの乱入者のところに行く天道。

((そんなにやばい相手なのか?))

 今はまだこの二人には測れない厳目の強さ。





「お前たち大丈夫か?」

 海柱たちに声をかける天道。

 声に気づいて振り返ると三人の顔が晴れる。

「「「リーダーっ!!」」」


 その奥にいる厳目(いかつめ)は天道を見て笑う。


「私が変わるからお前たちは下がって━━」

「どけっ!!」「「「うわっ!」」」

 飛び出した厳目(いかつめ)が三人を殴り飛ばして天道に殴り掛かる。

(ズンッ!!)


 時を止めた天道に軽く避けられ、勢いよく地面にめり込む厳目の拳。


「ハッ!いいじゃねぇか!!お前強えなあっ」

 振り返って天道の強さに興奮する。

「お前は私よりいくらか弱いがな」

 低く冷たい声が突き刺さる。

「やる気満々って面だな」

 自然と笑みがこぼれる厳目。

「部下がやられたんだ。面目を保つためにお前を狩らせてもらう」

「お前、最高だなぁ!」

 ボルテージがメモリを振り切る。


三回死んだらマジで死(ファンキーファイト)ぬ」

 十m四方の石版が台となって現れた。

 上に立つのは厳目と天道の二人。


「既に俺の童質が発動した。

 今から俺たちは殺し合いをする。

 ルールは簡単。先に相手を三回殺した方が勝ち。一回死んだらこの状態に戻る。

 三回目の負けが確定。すなわち死と同時に実際に死ぬ勝った方は始まる前のこの状態に戻る。

 そして重要なのはこの戦いでは聖気を使うことが出来ない。わかってると思うが既に聖気は無い。

 これがルール」

 つまりここは闘技場である。

「随分と頭の悪い童質だな。使い主の顔が目に浮かぶ」

 こんな場面でも取り乱さない天道。




「ラウンドワン開始だあっ!」

 宣言と同時に厳目は飛び出し天道に掴みかかる。

 時止めを使えない天道はシンプルに体術で何とかするしかない。時止めを使った戦闘に慣れている天道には厳しいか。


 天道は掴みかかってきた右腕を払って脇腹に体重の乗ったパンチを放った。

(ズンッ)

 タイミングが噛み合い最高のカウンターとなった。ファーストヒットは天道。


 しかし、ビクともしない厳目の脇腹。

 やはりこの体格差では厳しいか。力の差は歴然。

 人外の体格を持つ厳目に対して常識的な女性の体格である天道。

 一撃でどうにかするパワーを持ち合わせていないか。


 一瞬の怯みもなく左手で掴みかかるもこれまた避けられる。速さでは天道有利か。

 とにかく厳目の一撃を耐えられるかどうか、そこがかなり重要だ。

 体格差という大きなハンディキャップを背負っている。


「フンッ!」

 厳目の拳が天道の頬を切り裂く。

(シュッ)

 鮮血を飛ばすが躊躇いなく踏み込んでカウンターを決める。

「ん!」

(バフッ)

 先程と同じ箇所を殴る。


「軽すぎるぜ!」

 笑顔で受ける厳目。必死で躱す天道。

 空気を割く音が全く違う。

 空気を押しつぶすようなパンチと空気を切り裂くようなパンチの応酬。



 そしてついに厳目が天道のカウンターに合わせるようにして拳を撃ち出した。

(ズグリュッ)

 拳同士がぶつかったが、押し勝ったのは厳目。

 天道の拳に厳目の拳がめり込んでいく。

(ニュグリ)

 潰れひしゃげて肘の手前まで完全に砕けた。

「んくっ!」


 さすがの天道でも痛みを隠せず、声が漏れる。

 その怯みが決定打となる。


 右拳が天道の胸を貫いた。

「こっ…」

 目を見開く天道。既に光は消えている。




「ラウンドツー!」

 暗闇から一瞬で帰ってきて第二ラウンドが始まった。


「まさか死を経験して生きてられるなんて思いもしなかった。特殊すぎる経験だな」

「手応えねえぞ!おらっ!本気でこいや!!」


 劣勢のはずの天道だが、態度は一貫して落ち着いている。

 燃え盛る厳目。熱い戦いをしたい。そんな表情をしている。

 果たして天道は期待に応えられるか。



 今度は用心深く近寄らせない天道。

 細かなステップワークで翻弄する。アウトボクサースタイルだ。

 対して猪突猛進、とにかく近づいて殴るをしようとするインファイトスタイル。懐に入るまでは行かず一歩手前で全力の一撃を放つタイプ。


 厳目のダッシュ力に上手く対応出来ている天道。


 さっきとは違って静かな立ち上がりだ。

 開始から一分、未だファーストヒットは無し。



 時折、追いついた厳目のパンチが空をきり天道の後ろ髪がチラリと散っていく。


「逃げてばっかじゃねぇか!ああ?怖気付いたのかよ!向かってこいや!」

 ここに来て大ぶりのパンチに合わせてクロスカウンターが厳目の顎に入った。

「くぁっ」

 揺れる脳を根性で耐えようと目をかっ開く。

(ギッ!)

 しかし体は言うことを聞かずに膝が落ちる。

 落ちた頭を捕まれ膝が首に入った。

「アギィャッ」

 膝立ちから上半身が後ろに倒れ、貫手で心臓を抉った。



「ラウンドスリーッ!!

 俺の目に狂いは無かったぜ。やっぱり強ぇぜ!!このやろう!」

 殺された事にテンションを上げるイカレ野郎。

 本当の意味での殺し合いで徐々に頭のネジが緩んでくる。それは天道も同じである。



 今度は超近接戦。腕の取り合いだ。

 先に掴んだのは天道。引き寄せて投げようとするも岩のように動かない厳目。

「あっ」

 取り返しのつかない絶好の隙。

(ブゴォン!!)


 脇腹を殴られ吹き飛ぶ天道。

 口元を拭いながら再び攻め込む。


 腕の取り合いだ。


 またしても天道が取った。

 投げる動作に入ると厳目は反対の手で殴り掛かる。

(ブゥン!)

 腕に飛びつき拳を避ける。

「同じことすると思った?」

 そこから体全体で腕を反対方向に折り曲げる。

「んっ!」


 さらに首に足を巻き付け三角絞め。


「んー!落ちろ!!」

「ん!くくっ!んがっ!」

 首に巻き付いた足を殴りつけた。

「があっ!」

「いてっ!」

 勢いは止まらず自分の首にもダメージが入る。


 ぶらんぶらんの左足がちぎられる。

「んぎゃあっ!」

 ちぎった左足を遠くに投げ飛ばす。


 離れたら活路は無いか、片足を失ってもしがみつく天道。

 首に齧りついて噛みちぎる。

(ブシャァァ!)

 首から大量の血が吹き出す。


 後ろに倒れ込む厳目。


「ラウンドォォォ…フォー!!ハイヤー!!」

 一段と増したイカレ具合で発狂する。

「随分と不味い筋肉だな」

 既に綺麗な体に戻っているが感覚が残っているのか口元を拭う。

 両者イカレ具合は最高潮。


 歩こうとして躓く天道。さっきの感覚の名残か、左足を触る。

「くっ、イカれてるな。感覚が麻痺してたきた」


「リーチ取られてテンション上がるぜ!!なぁ!」

 ドラミングを始める厳目。理性は残っているのか怪しいところである。

「ヒャッハー!!こんなに殺されたのは久々だぜよぉ!」

「私もいい経験をさせてもらった。私こう見えて死ぬのは初めてなんだ」

「おお?そうなのか。珍しいな。俺は今まで何回もあるぜ」

「ある方がおかしいだろ。私の周りでも聞いたことないぞぅ」

「そりゃあ…勿体ねぇなあ」

「ああ。人生半分損してるな。経験しておかないと勿体ないぞ」

 急に仲がグンと縮まる。

 死を乗り越えた者同士何か通ずるものがあるのか。


「それでは行かせていただきやす」

「おう!」

 泥酔者同士の会話なのかもしれない。


 しかし、体は一級品。

 無駄の無い動きで相手を翻弄する。


 厳目は落ちてきた木の葉をパンチで粉砕。


 天道は落ちてきた木の葉をチョップで割く。


 正しく達人の動き。



「ここまで緑の葉をパンチで粉々にできるのは俺以外いねえな」

「ここまで緑の葉をチョップで綺麗に割けるのは私しかいないな。定規に使っても支障はない」

「俺のはふりかけにしてもバレねぇぜ」

 ふらふらと近づいた両者はお互い間合いに入ると流れるように攻撃に入った。


 厳目の拳は天道のまつ毛に触れ、天道の指先は厳目の喉仏に触れる。


「「遊びは終わりだ」」


 パチン!パチン!パチン!ものすごい速さでパンチが飛び交う。


 間合いの見極めは済んでいる。服にはかするが肉体には当たらないスレスレをお互いに知り尽くしている。


 本当に素の身体能力だけなのか。異次元の体捌きをしている。


 お互い既に死を恐れぬ悪魔と化している。

 恐怖などとうの昔に失った。


 しかし、いつまでも最高潮でいられるわけでは無い。必ず肉体の衰えがやってくる。


 先に訪れたのは天道。

 首を伸ばして避けたはずの拳を正面から受けた。

「ぶはっ!」

 一度止まれば波は起きない。


 上半身を滅多打ちにされ頭が吹き飛んだ。



「ララララララァァァウンドォファァァァァァイブゥ!ファイナルルルルルルラウンドォ!」


 お互い体は全快。脳は全壊。

 この戦いに常識なんてものは無い。

 勝つか負けるか、生きるか死ぬか。

 あるのはそれだけだ。



 開始から動きがスローモーションになる。

 死ぬ直前の走馬灯かビクトリーロードか。


 全てが見える。


 一歩下がれば目の前で拳が止まる。汗が相手の拳に乗っかり弾ける。


 腕を伸しきる前に当たらないのがわかり腕を引く。それに吊られて出てくるが勢いで脇をすり抜けてカウンターを回避する。


 両者見えすぎている。

 相手のまつ毛の数も牙の数も見える。


 滴る汗が目に入り避けるのが遅れた。間に左腕をねじ込んで何とかガードした。

「ぐあっ!」

(ボキボキッ)

 前腕が中間で折れる。


 厳目が拳を引くのと同時に前に出る天道。


 すぐさま出てくる厳目の左腕に折れた左腕の上腕部分を掴ませる。


 これには厳目も驚くが折れた左腕を囮に使ったと考えて引き抜こうとする。


 天道はそれに合わせて左腕の前腕部分を右腕で掴む。

 自然と引き合いになり、左腕はちぎれた。


 予想した動き故に天道は迷いがない。



 むき出しになった前腕の骨をそのまま厳目の心臓に突き刺した。

(ジュッ)

「かはっ!」


 そのまま背中から出てくるまで押し込む。


 天道にのしかかる厳目の体。

 耐えきれず後ろに倒れ込む。




 目を開いた時、天道は土の上に立っていた。


「おわった…」


 目を瞑り天を仰ぐ。

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