二十九話 残虐
主人公たちは修行中です。
金平 星成。職業アイドル兼殺し屋。
アイドル名はSENA。
甲冑系アイドルグループ NA五に所属。
NA五ファンを通称 騎士と呼ぶ。
ペンライトは剣を模している。
KANA、HINA、RUNA、SENA、YONAの五人グループとなっている。
今日も元気に楽しくレッスンをしている。
数時間後にはライブを控えている。
金平も同様にレッスンに勤しんでいる。
(いっけな〜い。今日殺しの予定入ってたんだった〜)
忘れてはいけない事を忘れていた。
「みんなごめん!今日までにやっておかないといけないのがあったの忘れてた!一時間だけ席外すねっ!
ライブには間に合わせるから!!」
「相変わらずSENAはおっちょこちょいだなぁ。ライブには遅れちゃダメだよ。
ファンのみんなが待ってるんだから」
「もちろんだよ!ファンを悲しませるのはイケてないからね!」
金平はレッスンでかいた汗をシャワーで流してスタジオを飛び出した。
「あ、もしもし?
松下 広人って今どこにいるか分かる?」
『まだやってねぇのかよ』
「そんな事はいいじゃん。急いでるから早く教えて〜」
『たくよぉ。
あー、駅前だな。そっから商店街に向かって歩いてる』
「りょーっかい!ありがとねっ!」
『しくじんじゃねぇぞ』
「誰に言ってんの」
そう言う金平の顔にアイドルの面影は一切無い。特徴的だった大きな目も今は半分ほどしか開いておらず、黒目も半分以上が隠れていて冷たさを感じる。
逆に口角は今までよりもさらに上がっていた。美しいことに変わりは無いがなんとも不気味な顔である。
(見つけたっ)
さっそくターゲットを捕捉した金平はまっすぐ近づく。
「おにぃーっさん!」
初手、何の断りも無しに勝手に松下の腕に体を寄せて話しかける金平。
そこにはあどけない表情をした金平がいた。
上目遣いで華奢な姿を相手の頭に刷り込ませる。
「ちょっとお話しませんか?
お茶でも飲みながら……だめですか?」
瞳を潤わせて大きく瞬きをして仮初の誠意を押し付ける。
第二ボタンまで開いたシャツからは魅惑の谷間が視線を吸い寄せる。
既に優しい匂いが周りを包み込んでいる。
非力で可愛い淫らな女。
一瞬にしてこの三つの術を魅せられた男の思考力は格段に落ちるといっても過言では無い。
「近くにいい店知ってるよ。良かったらそこで飲まない?」
「いいんですか!?やったぁ!」
ギュッとさらに距離を詰める。
男の鼻の下は熱したチーズのようにどこまでも伸びる。
「もちろん」
商店街から少し外れ、ビルが建ち並ぶ裏路地は人通りが少ない。
「おにぃさんどこ連れていく気ですかぁ?」
「え?良いお店って言っただろ?」
その表情は下心に溺れた醜い動物。何を期待しているのか、顔に血が上って赤みがかっている。
「松下 広人さんで合ってますか?」
「なっ!!俺の名前!なんで知ってる!」
さすが正二位、今の一言で金平との距離を空けて構える。
「もう遅いですよ。から
呪縛 絡巻黎地蔵」
松下の服の下から緑の茨が飛び出し、みるみる伸びていき松下の体を包み込む。
「ぐわっ!なんなんだ!やめろっ!」
手足を暴れさせるが既に関節は動かない。きつく縛り上げられ、動くことすら叶わない。
金平の周りから出てきた新たな大量の茨が絡みつく。
「己の罪に抱かれて死ね」
「んー!!」
ついに全身が包まれ、巻きついた茨が急激に縛り上げ松下の体を圧し潰した。
(ぐしゃっ!)
茨は松下の血で黒く染まり、肉は潰され圧縮し、五十cm程の縦長の塊になる。
幾許か人の形を保っていて、それはまるで黒く染まった茨の地蔵のようだった。
「私の抱擁に拒否権なんて無いから」
染み出た血は全てそばにある側溝にたらたらと流れ込んでいく。
「よぉーっし、時間は十分!
ゆっくり帰ろう」
数時間後。
胸部と腰周りを甲冑で覆う五人がステージの上に立つ。
アイドル仕様になっていてギリギリ甲冑と言えなくもないデザイン。実戦で使うとなったら防御力は皆無で甲冑の意味を成さない、見栄えに全振りした悲しき装備。
会場を包む光は短剣サイズの五色に光るペンライト仕様の剣。赤、青、緑、紫、黄に輝く会場。
「みんなまだまだいっくよーっ!」
「「「「「「「わぁーーー!!!」」」」」」」
「次は私たちのデビュー曲!!
『騎士道精神なんのその!』」
「「「「「「「わぁーーー!!!」」」」」」」
会場のペンライト(ソードライト)が白一色になる。
『可愛くないなら着たくない〜
常在戦場オシャレ衣装〜
真っ赤に染まる君の顔〜
心音止まった?それ恋煩い!』
「「「「「「「あなたが王で俺が騎士ー!!」」」」」」」
さらに高くソードライトが突き上げられる。
「「「「「「「守るためなら剣捨てるー!!」」」」」」」
そして会場のソードライトが全て消える。
「「「「「「「あなたの剣に俺はなるー!!」」」」」」」
会場のソードライトが一斉に光りだす。
それぞれの王(推し)の色に。
「はぁっ、はぁっ。
みんな〜!!今日もありがとぉ!
すっごい楽しかったよぉ!
でもでもぉ!次はもっと楽しくなるからぁ!
みんな絶対また来てね〜っ!!」
「「「「「「「わぁぁ〜っ!!」」」」」」」
「ぜったいいくよぉぉぉ!!」
「あはは!今めっちゃ声聞こえたんだけどっ!
あ、あの人かな。ありがと〜!!
私耳良いからねっ!ちゃんと聞こえてるよ!
なんてったって第一種狩猟免許持ってるからね。些細な音も聞き逃さないよぉ!」
「「「「「「「うぉぉぉ!!」」」」」」」
「それじゃあみんな、今日はありがとっ!
良い夜を〜」
「「「「「「「グッドナァァイトッ!!」」」」」」」
ステージの上にいる五人も、会場のみんなも親指を立ててつきあげる。
ライブも終わり、控え室に戻る五人。
「楽しかったぁ!」
「ねっ!」「最高だよ」
それぞれが喜びを伝え合う。
「スンスン。
なんか鉄の匂いがする?気のせいかな。血なまぐさいというか
鼻が良すぎるのも嫌だよねぇ」
「私全然わかんない」
「私じゃないよ?」
「私も違うよ?」
「そんなに酷い?」
「まあ慣れてるからいいけどっ!
それよりもSENAぁ」
「ん?」
(ぎゅーっ)
KANAがSENA(金平)に抱き着く。
「いい匂いだよォ。SENAの汗の匂いは世界を救える!」
「ちょっとやめてよぉ。汗がいい匂いな訳ないじゃん!傷つくんだけどぉ」
「いやーん。もっと嗅がせてぇ」
(ごちんっ)
「いい加減にしなさいっ。怒るよぉ」
「いたぁ〜い。もうおこってるじゃぁん。
SENAの怒りん坊っ」
「KANAにだけだよぉーっだ。
私KANA以外に怒ったことないもん」
「えー、私だけ特別なんだぁ。照れちゃうなぁ」
(ごちんっ)
「いったぁ〜」
(ごちんっ)
「なんでぇ〜」
「離れないからでしょ。
これからは鉄拳制裁することにした」
(ごちん)
「ゆるしてぇ〜。なんでもするからぁ」
「なら離れろ!」
「ブヘラッ」
湘南聖童高校。
「童質の理解。
まだまだ浅い。もっとだ、もっと深く…。
弾間…僕はそんなに弱いのか?置いていかれるほど弱いのか?
もう、しばらく会ってない。
待ってろ。すぐ追い抜いてやるから」
今日もう一話投稿したいです。




