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万古闘乱〜滅ぶのは人間か吸血鬼か〜  作者: 骨皮 ガーリック
波乱万丈
24/92

二十四話 倫理

 四月十日 午後九時。奈良県奈良市郊外。



「今日で三日目だ。昨日と一昨日は空振りで終わったからそろそろ終わらせたい」

「寒いなぁ」

「弾間がこの格好しようって言ったんだろ」

「そうだけど夜は寒い。この二日間夜から朝まで外に潜むなんて地獄だな」

「僕なんて初めての昼夜逆転だよ。そろそろ頭おかしくなってるんじゃないかな」

「俺はゲームしてたら朝になってたことが何回かあるからいける」


 弾間の提案で僕たちは頭の先から足先まで黒に包まれてる。

 今回は隠密が重要ということで、物陰からヒソヒソと探っていて、この二日間人攫いの情報を掻き集めた。


 一ヶ月くらい前から周辺で人攫いがあってしばらくしたらまた攫われて、それが断続的に続いた。既に十人に達していた。



「こんな時、(すばる)先輩の聖域があれば見つけるの簡単だよね」

「あれは反則でしょ。

 聖気を放射状に飛ばして二百mはやりすぎ。かくれんぼ最強だよ」

「僕のは八mしかないからなぁ。それも地面に沿ってないと無理だし」

「いやいや、俺なんて九十cmだから」

「弾間のは特殊じゃん」

「これが隣の芝生は青く見えるってやつか。

 まあ、俺は俺の聖域が一番だけど」

「そうだよ。僕のは微妙なんだよね」

 夜も深くなり、ポツポツと街から明かりが消えていく。

「ふぁ〜ぁ。いくらお昼に寝ててもやっぱり夜は眠いな」

 我慢出来ないあくびがでる。

「そろそろ鉢合わせしないかなぁ」

 弾間は通称フラグマンである。




「!?」

 広げていた聖域に聖気を纏う何者かが侵入した。

「あの二体を追おう」

「了解」

 この数ヶ月の吸血鬼狩りで吸血鬼と人間の区別はつくようになった。


 前を歩くのは黒髪短髪で襟足がスッキリしてるスウェット姿の男。

 その後ろを金髪ひょろひょろの三下みたいな男がついて行く。


 人通りも少なく、気をつけないとバレそう。尾行の訓練なんてやってないからとにかくギリギリの距離を保って追いかける。

 バレてないことを願う。


 それから五分くらい歩くと大通りに出た。すぐそばには公園があって、学生に見える人たち数人がたむろしていた。

 嫌な予感は当たり、二体の吸血鬼は公園に入っていった。


 二体が異様に接近してきたため、学生たちの注目が集まる。

「なんすか?」

「なに、この人たち」


 無言で近づいてくる異常事態にざわざわとしだす学生たち。中には二体に詰め寄ろうとする者もいた。

 男女合わせて八人のグループでみんな制服姿だ。お巡りさんに見つかったら補導されそうだけど気にしないのかな。





「今日はあの集団にしよう」

「了解っす。一人やった時から覚悟は決めてるっす」

 公園で夜遊びしてる健康優良児八人を見つけた。


 この一ヶ月、何人もの人を殺した。殺された人たちにも大切な人たちがいることを知ってる。私はもう戻れない。

 だから血を啜った。自分勝手な理由で命をいただく事に感謝して余すことなく自分の血肉に変えた。


 十人分の血を啜ると今まで感じたことの無い愉悦感に支配された。

 吸血鬼こそが食物連鎖の頂点。地球の支配者。

 そんな考えが頭をよぎるようになった。それほどまでに得た力は大きい。たったこれだけのことで人間が生涯到達することの出来ない領域に足を踏み入れた事を実感する。

 改めて自分は人間じゃないんだと認識した。

 人間を超越した存在。それこそが吸血鬼。

 しかし理性がそれを拒絶する。



 目の前にいる人間は全員エミリーの贄となる。人が生き長らえるために動物を殺すのと何ら変わりは無い。この十年間の人としての生活でより理解が深まる。

 人間は業の深い生き物だと。

 不自由無い生活をするために自然を、動物を環境を壊していった。ただ、弱肉強食の世界では当たり前の事なのだ。

 だからこそ、今の私に迷いは無い。


 人間は吸血鬼の為に繁栄するのだと。

 エミリーの為に生まれてエミリーの為に死ぬ。エミリーが生きている限りは生存が約束されている生物。つまりは共存共栄だ。

 生活の安定を手に入れるために一つの動物を支配するというのはおかしな事だろうか。

 しかしこの考えも理性が拒絶する。


「君たちには贄になってもらう」

「あ?いきなりどうした。あんた頭おかしんじゃない?もしかして薬やってる?」

「ギャハハハッ!それは言いすぎっしょ!」

「ちょっとぉ!やめなよ」

「無視しよ、無視」


「ダニエル。頼む」

「了解っす。安心して欲しいっす。楽に殺すから」

「ギャハハッ!こいつら完全に頭イってるってぇ!」

「ちょっ!やめなよ、ホントにやば━━━」

 突如、金髪の女が消えた。

 否、突如金髪の女がいた場所にアクリル板の箱が現れた。アクリルの箱の下にはデコデコとしたデザインの台があり、台には↑と→の矢印が付いたボタンとチュッパチャプス型のレバーが付いていた。

 その形はゲームセンターなどで見かけるUFOキャッチャーと酷似していた。

「おい!何し━━」

 そして隣の赤髪の男も消えた。


 よく見るとUFOキャッチャーの中に小さくなった二人の姿があった。

 これはいったいどういうことなのか。


「うるさいっすねぇ。叫ばれると困るんすよ」

 金髪のひょろ男が気だるさを帯びた声で言う。

「騒がないで欲しいっす。痛くないっすよ」

 残り六人となった学生たちは声も出せずその場から動けなくなり、次の瞬間UFOキャッチャーに入っていた。

 公園には静けさが戻り、ヒューヒューと冷たい風が駆け抜ける。




「そこまでだ!!」

 二体が歩き出したタイミングで、UFOキャッチャーとの間に割り込んできたのは二人の青年と思しき黒ずくめだった。


 二体の足が止まる。


「なんすか?君たちは」

「僕たちは聖童師だ。お前らを狩りに来た。

 いや、そこの学生たちを助けに来た!!」

(ばさっ!)

 黒ずくめの服を脱ぎ捨てる。

「え、狩りに来たんでしょ?」

「ちょっ!そこはいいから。

 この状況なんかヒーローっぽいじゃん!」


「聖童師。そうか、君たちは聖童師か」

 二体の纏う空気が変わる。

 それは嫌悪、軽蔑、怨嗟、憤怒のような敵意の感情を孕んでいた。

「ちょうどいい。君たちもエミリーの贄になってもらおうか。聖童師」


 ジリジリと両者の距離が縮まる。


 深夜の公園で戦いが始まった。


「でりゃあ!」

日付が変わったくらいにもう一話投稿します。

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