二十二話 始まりの聖童師
春休みは吸血鬼狩りに勤しんでた。
タコ足が想像以上に優秀で強くなったのを実感した。
「ょぉーし!俺はお前らの担任だ!
童質は熱。体から超高温の熱を出す!そのせいで血が溶けてすぐに貧血になる!
というわけで俺は熱血教師と呼ばれてる!お前ら強いと聞いてるからな!楽しみだ!」
春休みを終えて僕たちは晴れて二年生になった。しかし隣にいるのは弾間だけ。
くれぼんは白鳥先生のところにいる。どうやらクラスが別れたらしい。なんでも方向性の違いでこのクラスじゃない方がいいんだとか。詳しくはよく分からない。
そんなわけでクラスメイトが一人減った。
「今日は二人がどのくらいやれるか見たいから俺と戦え!
それと明日は三芸貞に挨拶に行くから心構えはしとけよ!以上!
着替えてグラウンドに出ろ!」
熱血教師?はスポーツ刈りでもみあげが太くて長い。
体もゴツゴツしてて身長は少し上の180くらいなのにそれ以上に大きく感じる。腕なんて僕の四倍くらいあると思う。そして声がでかくて語尾が強い。
赤ジャージに竹刀を持ってるから多分そういうのに憧れてるんだと思う。体育の熱血教師か。
「なんか強そうには見えないんだけど」
「教師ってことは強いんじゃないの。弱かったら受け持たないでしょ」
「それもそうか。俺、熱血教師嫌いなんだよね」
「まだ熱血教師かわかんないじゃん。
熱を出して貧血起こすから熱血教師なわけで、熱血だから熱血教師って訳じゃないんじゃない?」
「はぁ、だといいな」
「よぉーし!準備はいいか!どっちからでもいいぞ、かかってこい!」
(バァン!!)
一瞬にして空気が変わる。
両手を叩いてどしりと構えるその姿は大木の様だった。地面に深く根を伸ばした数百年生きた大木。雨風に晒されても決して倒れることは無く、並大抵の事で揺らぐものでは無い、
目の前に立ちはだかるでかい木の壁。
そんな存在感。
「まずは俺から」
弾間が前に出る。
「弾間からか。ふっ、かかってこいやぁ!!」
(ブオンッ)
突如熱血教師の体から立ち昇る熱気。周囲をゆらゆらと揺らして空気を熱していく。
それは空気と大地があまりの熱さに悲鳴を上げている様に見えた。
熱血教師の熱は触れた物に伝播していく。
その一歩が大気を揺らし、大地を揺らす。
全くの見当違いだった…。
この存在感は紛れもなく僕たちよりもはるか格上。この場を支配する空気がひしひしとそう伝えてくる。
「く…遠慮無く行かせてもらいます」
弾間のスイッチが入った。
初手から爆弾を放り投げた。
ダメージが入れば御の字、最低でも煙幕になる。
熱血教師はその両方を粉砕する。
ダメージは入ることなく、煙は熱気に吹き飛ばされる。丸裸の弾間は繰り返し爆弾を投げ続けるがその悉くが無為に帰す。
一瞬も目を離してない。にも関わらず今、熱血教師は弾間の目の前にいる。数mの距離を一瞬で詰めたのだ。
熱血教師の拳が空気を弾く。
(パァァンッ!)
押し出された空気が弾間の腹部に当たった。見えないけど、そこに衝撃が飛んだのは間違いない。
弾間の爆弾をものともしない、そのデタラメな肉体強度。体内から熱を発してなお、普通に動けるのはどうしてだろうか。
「どうした!一撃貰ったくらいで終わりか!
男だろ!根性見せろ弾間!!自分に負けるな!
昨日の自分に勝って明日の自分を見つけるんだ!」
あっ、この人完全に熱血教師だ。
全身全霊、持てる力を全て使って弾間は負けた。
「さぁ!次は兵頭だな!来い!!」
「貧血は大丈夫なんですか?」
「?ちょっと動いただけで貧血になるわけないだろう。なんのために鍛えてると思ってるんだ」
「いや、てっきり数十分で貧血になると思ってました」
「はっはっは!確かに最初はそうだったな!
だが、鍛えれば限界を越えられる。当たり前だろ?今は最低八時間だ」
(ただの化け物じゃねーか!)
「なら遠慮なく行かせてもらいます」
「おう!どんどん来い!ばんばん来い!じゃんじゃん来い!」
八本のタコ足が社畜よろしく働きまくる。まくる。まくる。まくる。まくる。まくる。
なぜなら一度止まれば焼かれるから。
触れたら最後、足先からジュワッと燃え上がり茹でを通り越して焼き目が付いて灰となる。
弛先輩と似たような触れただけでそれが攻撃に繋がる攻防一体の童質。
タコ足機動力も馬鹿げた身体能力の前ではただのタコ。
突き出した拳は空を焼き、踏み出した足は地を焼く。
そして弾間も僕は手も足も出なかった。
僕たちは地面に寝転んで春の澄み切った空を見る。
(この人と戦えば僕はもっと強くなれる)
「気合いだ気合い!!こんなんでへこたれてたら聖童師なんてやってらんないぞ!聖童師辞めるか!!辞めちゃうか!!辞めちまえ!!」
((熱血うぜぇ))
二年になって最初の行事。それが三芸貞への挨拶。京都にある屋敷、間壁家で開催される。
実は三芸貞だけじゃなくて他にも聖童師の偉い人たちが来るらしい。
というわけで僕と弾間は、はるばる京都までやってきた。
初めての京都。中学の修学旅行であったけど休んだ。理由は聞かないでくれ。
そんなわけで初めての京都だけど僕には風情が分からない。歴史の授業ちゃんと受けてなかったからかな。ただ立派な建物なのは僕にも分かる。
観光途中に熱血教師から三芸貞の話を聞かされた。
なぜ三芸貞と呼ばれているのか。
三芸貞は聖童師の始まりと言われいて、言い伝えでは聖気は神から授けられた力とされている。
当時、突然発生して人間を脅かしていた吸血鬼。人間より遥かに強い力で為す術なく殺されていった。
そんな時代が数年続いたのだが、そこに満を持して登場したのが今の三芸貞である戸津家、間壁家、應永家の三家だった。
その人ならざる力を行使する者たちは吸血鬼に対抗する手段を持つ特別な人間となり、その者たちは聖童師と呼ばれた。
それから時代と共に聖童師は数を増やしていった。
創造、回復、結界が童質の始まりとされ、他の童質は全てこの三つから派生したものとされている。
そのためいつの時代も三芸貞が聖童師を代表することになった。
しかし、なんで突然吸血鬼が出始めたのかも人間が聖気を使えるようになったのかも詳しくはわかってないため、神から授けられた力とされている。
(吸血鬼も神が生み出したんじゃないのか?人間と競わせるように仕向けたとか。それならそいつは神じゃなくて悪魔だな。ははっ)
「そして現在、その三芸貞の代表をも従える存在がいる!
三芸貞統括 戸津 環。またの名を大奥。
御歳百十五歳だ!大奥の決定には童帝でさえも逆らえない!」
「かっこいいな僕も総括とか呼ばれてみたい」
「それじゃあまず組織を作って部下を持たないといけないな」
「そっか。難しいな」
ひっそりと統括と呼ばれる未来を想像する。
(悪くないな)
「着いたぞ!失礼の無いようにな!」
「「はい」」
大きな屋敷の周りには不穏な空気が漂ってる。屋敷の前にはベンツが十台くらい停まってるし門の大きさも吸血鬼が住んでるような城の門くらい貫禄がある。
「やっぱ聖童師って儲かるんだな。俺聖童師になって良かった。将来、絵麻ちゃんと東京のタワマンに住むんだ。その為に今は頑張る」
彼女が出来たなんて未だに信じられない。しかも相手は有名女優。
聞いた時は驚きすぎて下半身がタコになった。ファミレスだったから周りから見られることは無かったのが助かった。下手したら騒ぎになるからな、タコ人間て。
いつか二人のデートを覗きたい。
案内人?の人の後に着いて行って廊下を歩く。ギシギシと音が響く。廊下から見える庭にはししおどしがあったり大きな池もある。曲がりくねった木も生えてる。地面には石が敷き詰められてて時代劇に出てきそうなところだ。
いかにも日本家屋って感じがする。
そして、突き当たりにある部屋の前で止まり、案内人の人が襖を開ける。
(ス…スー)
「ただいまお着きになられました湘南聖童高校のお三方です」
襖の先は横長の広い部屋で中にいるいかつい人たちが一斉に睨んでくる。
品定めされてるような嫌な感じがする。
部屋に入って手前の席に案内されたが前を歩く弾間の足が止まった。
「どうした?」
小声で聞くが反応が無い。弾間の視線は一箇所に釘付けになっててそのまま固まってる。
美人なお姉さんでもいたか?
「お、お、お、お、親父ぃ!!」
「ば、ば、ば、ば、漠ぅ!?」
「なんでここに!?ってここにいるってことは親父その年で童貞!?」
(((((((((((((!?)))))))))))))
その無神経な一言で室内の空気が一瞬にして凍りつく。
室内全域を巻き込む殺傷能力の高い広範囲に届く大規模な爆弾が投下された。
室内にいるのは全員聖童師。すなわち童貞である。
と、その前に。
「弾間って父親のこと親父って呼ぶタイプだったんだ」
「ん、ああ。家ではヤンキーで通ってるから」
「まじか。内弁慶ってホントだったんだ」
「まあな」
「待って。てことは俺と血ぃ繋がってないの!?」
「あーまあ、そうなるな。すまん。高校卒業したら話すつもりだったんだが、まさかこんなところで知ることになるとは。てか聖童師になってたなら言ってくれよ。そんな事一言も聞いてないぞ」
「いや、言えないでしょ。聖童師になるなんて」
「…それもそうだな」
「血が繋がってないってのもなんとなくそうなんじゃないかって思ってたんだよ。」
「そ、そうだったのか」
「うん。だって全然似てねぇよ俺と親父。
見た目も性格も」
確かに黒髪天パの弾間(子)とは違って若干茶色ががっててストレートだ。前髪は真ん中から両サイドに流してる弾間(父)。
親子かって言われるとうーんて感じ。一目見てわかる人はいないと思う。
それにいかつい体に目つき。
「実はガキの頃は少し荒れててな。まともに学校も行かずに遊んでたんだ。
そんな時に聖童師に拾われてな。これしかないって思った。まともに社会に出てもどうせすぐに腐って辞めると思ってな。
俺はコミュニケーションが苦手でよ。拳で語るこの世界はうってつけだった」
いや、似てるんじゃないか?聖童師になった理由はまんまだぞ。
「聖童師として働いて母さんと結婚したんだが子供が欲しくなってよ。母さんと話したら養子を迎えようって言ってくれたんだ。あの時は嬉しかった。
そんで漠を見つけた時、俺と母さんはビビッと来たんだ。この子供を育てたいって。
あとはまあ知ってる通りだ。こんな親嫌だって思ったらすまん。ずっと黙ってて悪かったな」
「嫌だなんて全く思わない。所詮血が繋がってないだけでしょ?
俺は親父もお袋も好きだし。血が繋がってなくても愛という鎖で親父とお袋と俺は繋がってんだ。そしたらもうそれは家族でしょ。
俺はそれを知ってる。
それに親父とお袋は俺を選んでくれたんだ。親は子を選べないなんて言う人がいるけど親父とお袋は俺を選んでくれた。
むしろ恵まれてるって俺は思うよ」
「漠…」
弾間がいい事言ってるとこ初めて見た。
「こほん。せっかくの所申し訳ないですが時間もあまり無いので進めさせてもらいます」
「あ、すみません」
「すみません」
僕と弾間は改めて席に着く。
順番に紹介されていって、三芸貞の人と五貞、防衛大臣とその関係者の人たちがこの場にいる人だった。
大奥は隅っこに座ってる。
白髪を短く切り揃えておカッパ頭。顔には生気があり上品さもある。白を基調としてところどころ赤の線が入った上品なデザイン。
四十代でも全然通ると思う。
一回だけ目が合ったけど目を逸らすことがでかなかった。多分呑まれてた。それくらいの覇気があの目には宿ってた。
弾間の父親は五貞の付き添いで来てたみたい。
そうして何事も無く挨拶が終わった。かに思えたが戸津家代表に呼び止められた。
戸津 弾十郎。態度からわかる通りにずっと偉そうにしてる。まあ実際偉い人なんだけど。
「おい若いの。ちと頼まれ事を聞いてくれぬか?」
「?はい」
よく分からないけど話は合わせた方がいいと思った。
「実は最近奈良の方で人さらいが出没しているんじゃがその対応を主らにしてもらいたいんじゃがどうじゃ?」
「それって僕らに務まるんですか?」
「やるんか?やらんのか?こっちが聞いておるんじゃから聞き返すな」
「分かりました。僕たちが対応します」
「そうか。なら頼んだぞ」
そう言うと興味が失せたようにどこかに消えていく。
「大丈夫か?」
「今のはやるしかないでしょ。聖童師って絶対縦社会じゃん」
「こういうのは兵頭君に全部任せる。俺は会話が苦手だから」
「今は別にいいけどいつかは克服しなきゃダメだよ。武田さんからも頼りないって思われるし」
「そ、そっか。確かにそうだ」
ああいうおじさんって誰からも慕われないんだよな。いつか後ろから刺される。
自分の言葉が絶対だと思ってる典型的な厄介ジジイ。
僕は社会的強者が一番嫌いなんだ。
弱者を踏みにじる害獣が。
やられたらやり返すのは自然の摂理だよな。今までだってそうしてきた。
戸津 弾十郎。嫌いな相手は徹底的に。それが僕の流儀だ。今は大人しく従ってやる。
「あんな子供に任せていい案件じゃないですよね?何考えてるんですか」
「早めに知っておいた方がいいじゃろ。社会の厳しさというやつをな」
「相変わらず性根が腐ってますね」
「今更じゃわい。それにこのくらいの逆境を跳ね除けられんならこの先やっていけんじゃろ」
「それはごもっともですね」
「主も大概悪じゃろ」
「否定はしません。くっふっふ」
よく分からない展開だと思いますが私もよくわかってません。
次回から新章ですかね。




