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万古闘乱〜滅ぶのは人間か吸血鬼か〜  作者: 骨皮 ガーリック
入 学
19/92

十九話 童質のその先

 両者一歩も引かない剣戟を繰り広げる。

「くそぅ。一向に当たらん!」

「あんたを狩る準備をしてここに来てんだ。あんたを狩れないはずがない。時期に終わる」

(生意気だが言い返せん。力の差は明白じゃ。

 周りの石は無視するか。聖剣全部で刺しにいった方が良いのかの。

 これくらいなら余の聖域でカバーできる。

 本体を狙った一点突破じゃな)

 法麗院が聖域を広げた。

 球体状に闘技場内を覆うように出来上がる。それと同時に法麗院の纏う聖気の量が減った。


「こりぁ、第二フェーズ開始だな」

「?」

「セカンドストリーム。いわゆるゾーンてやつだな。隔絶した聖気コントロールで体を覆う聖気を厚さ僅か0.01以下までに圧縮する超高等技術。さすが数百年生きてるだけはあるな」

「そうなるとどうなるんです?」

「身体能力、情報処理能力あらゆる機能が爆発的に上昇する。

 一段階、いや二段階はスピードが上がる。

 ついてこれるか?」

「…」

 その言葉通りになった。


(シュパンッ!)

 先程までとは一線を画す程に戦闘スピードが上がった。交差する瞬間衝撃波のようなものが見える。

 両者剣をしまい肉弾戦に入る。


 道楽は手足二本で法麗院の手足と十の剣を捌かなくてはならない。

 それに道楽はまだセカンドストリームに入っていない。その差はどうなるのか。

 

 どんよりとした分厚い雲が青空を侵食していき、重い空気が流れ始め次第にポツリポツリと雨が降り始めた。



 その拳は空気を裂き雨を穿つ。

 しかし、道楽を狩るにはその拳はあまりにも軽すぎる。


「だいぶ体が動くようになったのぅ。数百年ぶりのガチ戦闘が正しく死闘になるとはの」

「ここまで暴れたのは久々だ」

「この老骨との戦闘で喜んでもらえるとはの」


(しかしこれでもまだ届かぬか。恐るべき身体能力じゃ)

 前後左右上下から来る十本の剣を最小の動作で弾き返す。童質の発動も間に合わないほどに速く。

「はっ!」

 ゆったりとした構えから一閃。剣の腹を叩き撃ち落とす。

 童質よりもむしろ体術の方が抜きん出ている。

(キィン!ガキィィィン!)


(剣だけなら動きが単調で読みやすい。下手に動きすぎるとその隙をつかれかねない。

 死角は石畳に守らせる。あとは剣先だけに注意。にしても意外とパワータイプなのか。パンチがずしりとくるな。いや、これは聖具による身体強化か?銅鎧は結構硬いな。正攻法で壊すのは無理か)


 徐々にスピードを上げる道楽に押され始める法麗院。

 掌底が鳩尾に入るが鎧で防ぎきる。しかし多少の反動はある。その間に剣の隙間を掻い潜り迫る道楽。そのまま法麗院の脇腹に蹴りをいれて吹き飛ばす。

「グァッ!」

 聖剣シャイニングメテオに拾われ距離を取る。


(はぁ…はぁ…くぅ。こうなれば仕方あるまい。どこまで迫れるかわからんがやってみなくてはもうしばらくで余が押し切られる)

「すまぬが卑怯と思わんでくれよ」

「手があるなら持ってこい。その全てを終わらせてやる」

「来い!」

(パシャンッ!)

 所々水溜まりができている闘技場に突如として現れた十の影。


「余の傀儡を使わせてもらう。お前にとっては雑輩かもしれぬが」

「いいや。知ってるやつがいる。とびきり面倒なやつがな」

「そうか。では行くぞ!」


 十体の女それぞれが聖剣を手にし道楽に襲いかかる。

 風が荒れ吹き波が発生し、砂が舞う。体が重くなって視界が悪くなる。

(厄介童質のオンパレードじゃねえか!)

 十体が十体、法麗院に選ばれた者たちだ。弱いはずがない。

「偽聖棍 福禄(ふくろく)茶柱(ちゃばしら)

 身の丈ほどある緑色の棍棒を出して振り回す。

(ブフォォォン!!)

 囲むように群がってきた女たちをその一振りにて一掃する。


 飛ばされた中の二人は持っていた武器が壊された。

「ははっ、運が良かったぜ」

 聖剣 福禄(ふくろく)茶柱(ちゃばしら)

 福禄茶柱は運が良いと触れた物を破壊する。


 それ以外にも数人服が無くなっている。破壊するのは武具だけにとどまらない。


 近くにいる者からなぎ倒されていく。童帝と戦うには完全に力不足だ。

 一人、また一人と闘技場の壁に埋まっていく。いくら傀儡と言っても気を失えば動かない。

(ブフォン!フフォン!)

 その棍棒捌きは他者を寄せ付けない。


(傀儡には援護に徹してもらうしかない。しかしこれは聖剣を創っておるのか!幻で。

 なんという恐ろしい能力。余のゼウスカリバーはしばらく使えぬな。

 こうなればやけを起こすしかあるまいて。

 余の可能性に賭けよう。

 数百年生きたのじゃ。たかが数十年の小僧に負けておれるかぁ!)

 気づけば大乱の嵐。視界を霞ませるほどの豪雨となっていた。遠くでは雷も鳴っている。

 山では天候が変わりやすいとはこの事か。


 無手の法麗院が突き進む。

 道楽は十分に見据えて薙ぎ払うが上体を反らしてスレスレで避ける。

(大物を振り回したらその後は隙が出来る!)

 深く懐に潜り込んで渾身の一撃をかます。

 が、突然横から顔面を殴られる。

「ぐあっ!」

(なぜじゃ!はっ!棍棒を持っておらんじゃと!?

 出し入れ自在か!それもそうじゃった…。完全に忘れておった。

 しかしまだじゃ!)

 法麗院は殴られながらも足の踏ん張りでその場に留まり続ける。


(ふん!蹴り上げじゃ!)

 金的を狙った強襲は未然に防がれた。

(なんじゃと!)

 蹴り上げるはずの右足は道楽に踏みつけられ、逆に動きを止められた。

(ダメじゃ…)

 手に握られていたのは先程見た緑の棍棒。

(コツン)

「ガキィィン!!」

 銅鎧を棍棒で小突くと盛大に壊れた。

 それから、全力の突きが鳩尾に入る。

「ぐわぁぁぁぁあ!!」

 地面に叩きつけられ口から吐瀉物が吹き出す。

「ごぼぉっ!」

 ゆっくりと巡る時間。跳ね上がる体。新たに道楽が手に持つのは最初に見た聖剣 毘沙羅紗。それが迫り来る。命の終わりを感じる。

 それでも諦めてはいけない。視界の端に映るのは石牢で雁字搦めにされた虎の姿。


(気力を振り絞るんじゃ!!来い!大和っ!!)

 呼んだのは十剣の中で最も細いレイピアの大和。

 その性能は風を貫くほどの速度と貫通力を持つ。

 嬉々として駆け出す大和。しかし、大和が貫くよりも速く毘沙羅紗が法麗院の体に届いてしまう。覆らない現実。

 法麗院の後方から最速で差し迫る大和。


 ビリッと大気を弾く音。



(ドゴォォォォン!!)

(ズシュッ)

 轟音と共に目の前が光に包まれる。

 雷に撃たれた一寸先の道楽は一瞬体が硬直する。


 音を捨てて法麗院を抜き去る大和。

 動けない道楽の胸に大和が飛び込んだ。その勢いは失われず、道楽を連れて彼方に飛んでいく。

(ドゴォォン!!)

 闘技場の壁に激突した事でやっと止まった。

 石壁が崩れ土煙が立ちのぼる。



 しばらくして煙の中から人影が出てくる。

 道楽は大和を胸に歩き出す。


「悪いのう。天気に助けられて」

「いや、天気を味方につけてこそ一流だ。それに屋外で戦う以上五分と五分、天気を言い訳に出来ない。一瞬の硬直だったにも関わらずやられたんだ。

 諦めずにこいつを飛ばしたあんたに天は味方したんだろ」

「随分と器が大きいのう。それに心臓を刺してもさしてダメージが無いのか?」

「ああ、これくらいならかすり傷だ」

「ははっ、そうか」

「あんたに監獄への片道切符をくれてやる」

「全力で断る!」

 道楽は大和を胸から引き抜き三度、毘沙羅紗を消す。

 光の無いその瞳は何を映しているのか。





童質改変(どうしつかいへん)。『改幻独歩(かいげんどっぽ)現灼(うつつあらたか)』」



(デュクシッ)

 道楽は右手を自分の胸に突き刺した。


次回で終わると思います。

思いのほか長くなりました。

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