十八話 開戦
今回色んな側からの視点になってます。
読みづらい場合は私の力不足です。以降精進します。
(っ!?)
「虎っ!!今すぐここを離れるのじゃ!!」
席を立ち、屋敷に響く声量で法麗院は叫ぶ。
「いえ、そうはいきません。我輩は虎である。
虎がしっぽを巻いて逃げるなんてありえませんよ。それに、あなたの傍から離れるつもりも毛頭ありません。最後まで傍にいさせてください」
「虎…余は殺されないかもしれぬがお前は…」
「わかっております。伊達にあなたの傍にいた訳ではありません。覚悟してずっと傍にいるんですよ」
「そうか。ならば余は勝つぞ!
傍で見ておれ。余の聖具が火を噴くぞ。明日の朝日を共にみるぞ!」
「はっ!」
並んでゆっくりとその時間を噛み締めるように歩き、屋敷を出た。
屋敷を出た先に立っていたのは一人の髪の長い男。銀髪を風に揺らしてこちらを見ている。
虎乃尾を止まらせてさらに前に歩き出す。
男との距離およそ十m程のところで止まると一際強い風が吹く。
上下繋がってる猫の着ぐるみパジャマを着ている法麗院。
「しばし待て」
そう言って前面のファスナーを下げて脱ぎ捨てる。
下着姿になった法麗院は。
「聖衣 アテナの羽衣」
法麗院が淡い光に包まれた次の瞬間、古代ローマの人が着ているような半透明の白いワンピース姿になっていた。
「聖鎧 アルテミスの胴鎧」
胸部と腹部の上半身を覆う銀色の鎧。
「聖装 ヘラの髪飾り。聖脚 アフロディーテの御脚。聖腕 デメテルの麗腕」
次々と新たな鎧を纏いだした。
太もも上部まであるノースリーブワンピース。その上から上半身を覆う銀鎧。色鮮やかな宝石で造られた髪飾り。膝上までを覆う銀の脚鎧に肘までを覆う銀の腕鎧。
(余は神話も履修済みじゃ。しかし、まだオリュンポスシリーズは揃えられておらんのじゃが仕方あるまい)
(報告通りすげぇ数の聖具を持ってんな)
(かっこいい…)
(太ももと二の腕を晒すとは…わかってるな。えろい。
それに鎧に覆われて無いワンピースの裾が風に煽られる。えろい)
(あれ、いいなぁ)
(……)
「舞台。闘技場」
道楽がそうつぶやき、地面に手を当てる。
(ビュドンッ!)
それは嘘か幻か。
一瞬にして周囲の景色が変わり、ローマの闘技場を彷彿とさせるような場所に移り代わった。
強制着席させられた四人と一体は強制的に闘技場を見守る席に座らされた。
それは確かに、ひんやりとした石の感触。お尻の肉は確かに潰れてる。
幻ではなく物理的に実在している現実。
開幕前から規格外さに戦慄する傍観者。
しかし、まだこれだけでは終わらない。
「これが正真正銘、余の聖具。
聖剣 ゼウスカリバーじゃ。
悲しいのう。これが初お披露目じゃと言うのにこれが最後になってしまうとはの」
「わかってんじゃん」
「当たり前じゃ。
じゃが、この前学んだのじゃ。
負けるとわかっておっても戦わなければならん時があるとな」
「その気概、テンション上がるわ」
「さっきからふてぶてしいのぅ」
「狩りの時間だ。早くやろう」
法麗院の周囲をさらに十の剣が舞う。
まさにこれから始まる戦闘はコンマ数秒の世界。瞬きしたら戦況が変わってるなんてことがありそうだ。
二体の化け物がぶつかる。
(ガギィィン!!)
拳と拳がぶつかり合う。
闘技場の石畳が立ち上がり意思を持って法麗院に襲いかかる。びっくり箱から出てきたような勢いで伸びてくる。
石畳は周囲に舞っている聖剣に壊され、細かくなった瓦礫が再度法麗院に襲いかかる。
更には上空から十五m級の大仏が降ってくる。
「このクソォ!!」
そう叫ばずにはいられない。
周囲の聖剣は瓦礫を処理し、法麗院は大仏に向かって飛び込み持っている聖剣を振るった。
(バゴォォォン!!)
砕き割ることは出来たが再び瓦礫に取り囲まれる。
「うぉりゃぁぁ!!」
片手を大きく振り下ろすと背後に舞ってる一際大きい聖剣が法麗院を軸に一回転した。
(ブフォォォン!!)
たちまち火が立ち上り取り囲んだ瓦礫は燃えて灰となり消え落ちた。
「聖剣 シャイニングメテオォ!!」
(噂には聞いておったが理不尽が過ぎるぞ!!年配者を敬えこのガキィッ!!)
は、速い。目にも止まらぬ速さで次から次へと怒涛の攻めあげ。
理不尽に物を創り出し、あらゆる事象を引き起こす。
「あれが千尋の童質、幻を実在するものとして現実に持ってくる。
虚栄慢侮。
想像したものが現実となり、全てを意のままに動かす。無敵だ」
「天下の大罪様が防戦一方じゃねぇか!かかってこいやぁ!」
「ほざけ鼻たれ…無論こっからじゃ!」
(シュンッ!)
道楽は簡単に法麗院の接近を許す。
至近距離で聖剣を振り回すが道楽には当たらない。全てスレスレで避けられる。
(くそっ!身体能力も負けておるのか!)
道楽は避け続ける。
(触らない方がいいよなこれ。聖剣って言ってる以上何か童質を持ってんのは確かだ。
発動条件が触れるだけだったら笑えねぇ。つうかめんどくせぇ。
とにかくうじゃうじゃ飛んでる聖剣が厄介だ。童質が分からない以上攻めるのは良くないか?)
「偽聖剣 毘沙羅紗」
道楽が突き出した手には真っ白な剣が握られていた。
(凍らせれば何とかなるか?とにかくこれで様子を見るか)
(ガキィィン!!)
聖剣ゼウスカリバーを毘沙羅紗が受け止める。が、特に変わった様子は無い。
ならばと攻めに転じる道楽。
童質だけでは無い。剣の扱いも一級品だ。
(ガキィィン!ジャキィィン!ガキィィン!)
さすがに法麗院も弱い訳では無い。剣の扱いに関しては五分か、やや法麗院が有利。
宙を舞う十本の剣には思考だけで対応している。土がまとわりついたり、岩をぶつけたり、石畳や大仏も奮闘している。
「やっぱり大罪相手に規制があるのは厳しいか!」
「規制?」
「ああ、危険すぎる千尋の力は国から規制されてんだ。あらゆることを禁止させられてる」
「そんな状態で戦ってるんですか!」
「ああ。くそっ!」
今でも十分チート染みてるがこれはまだ力の一端なのか。
そして、戦いの規模はさらに大きくなる。
闘技場外全方位から土の濁流が流れ込んでくる。高さ十mを超えた高波が押し寄せてくる。
(こんなのがいつまで続くんじゃ。一向に終わりが見えてこん!どうにかこの剣で一撃を与えたい。憂いてても仕方あるまい。
兎にも角にも攻めるのじゃ。
焦るのはいつぶりかの。近くの川の底が思ったよりも深くて溺れた時以来かもしれん。あの時は虎がおらんかったら危うかった。
いや、新宿でガングロギャルに絡まれた時じゃったかのう。
ダメじゃ。余計なノイズが多い!
しかし長年の経験でこういう時は大抵、後に波に乗れるんじゃ)
「聖剣 滝壺流」
一番小さい聖剣が闘技場の端の地面に突き刺さる。
(ズザァァァァ!!)
土の濁流は道を見つけたか如く、聖剣が作り出した穴に入り込んでいく。全ての濁流が。
明らかに質量を無視している。
「あんたも大概チートじゃねぇか」
「余の力では無い。余の傀儡の力じゃ」
「そうかよ!」
俄然テンションを上げる道楽。
まだまだ未知の聖剣が残ってる。それに聖具がこれだけとは限らない。傀儡だっているはずだ。
周囲の警戒はやめられない。
(少し舐めすぎてたな。強いじゃねぇか大罪。
いや、法麗院!)
未だ両者共に底を見せていない。
「なんか道楽さんの人格変わってませんか?
昨日はあんなに穏やかだったのに戦い始めてからずっと笑ってますし。口調も荒くなってますよね」
「ああ、まあ。昔事件があってそれから二重人格になっちまったんだ」
「二重人格…それじゃあ」
「ああ、こっちが本当の姿だ」
(((ガタッ!)))
「「「こっちかい!」」」
そう言わずには言られなかった。三人ハモったし。
まあでもそれもそうか。童帝を引きずり下ろすような人だもんな。逆にこっちで良かった。穏やかな感じで引きずり下ろしてたら余計怖い。
「聖童師ってのはとにかく死が近いからな。狂ってて当たり前だぜ。てか、狂ってないとやってらんねぇよ。頭のネジが二、三本外れてて正常なんだ。そういう世界なんだ。ここは」
そう言ってる吉田さんの横顔は少し暗かった。




