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万古闘乱〜滅ぶのは人間か吸血鬼か〜  作者: 骨皮 ガーリック
入 学
17/92

十七話 童帝

「はい。私が来たということはそういうことですね」

 朝の挨拶、白鳥先生が教室のドアを開けたと思ったら知らない人が教室に入ってきた。

 長い銀髪が軌跡を描き、透き通るような白い肌に引き締まった腰、スラッと長い手脚をスーツが際立たせている。

 そして教卓に手をついてさっきのセリフを吐いた。

(だれっ!?)


「突然でびっくりしたかな。私は道楽(どうらく) 千尋(ちひろ)

 童帝をやってます」

(童帝!!)


 最強の聖童師。高校卒業後直ぐに童帝の座を奪い取ったという長い歴史の中でも数少ない偉業を成し遂げた稀代の利己主義者。

 何故そんなことをしたのかと聞かれ、とりあえず何か役職が欲しいと思ったから。最強の称号がかっこいいと思って貰っておいたと言ってのけ、見事な傍若無人っぷりを見せつけ聖童師界が一時期荒れたらしい。

 反対する者。便乗する者。尊敬する者。

 三者三様の意見が飛び交った。


 童帝となってから最初にした仕事が大罪の二体を監獄に入れたことだ。

 その働きであらゆる声を黙らせた暴君。


 そんな人が今目の前にいる。聖童師界のトップ。キングオブキング。その童質の前では全てが無意味。


 そんな大物がなんでこんなところに。

「まあ、簡単に言うと職場見学。

 私が戦ってるところをみんなに観てもらいます。強くなりたいなら早いうちにその目で観ておいた方がいい。


 頭に体に魂に刻み込み想像するんだ。自分の成長した先の姿を」

(((パチパチパチパチパチパチ)))

 三人が三人、席を立ち手を叩いていた。

 無意識無条件のスタンディングオベーション。

 そこにあるのは歓喜。ただそれだけ。

 立ち居振る舞い、纏うオーラ、その全てから強さが滲み出ている。

 その姿だけで僕たちはわからされた。


 その強さに心躍ることはあれど心折れることは無い。


 この出会いを生涯忘れることは無い。

 最強で最高のファーストインプレッション。

 ただ、見れば見るほど天道と似てる。両者隔絶した強さを感じさせる。


 片や褐色銀髪の強堅な強さが感じられる天道と片や白皙銀髪の強靭な強さが感じられる道楽。

 その二人は対称的な強さを持ってるように思えた。


「「「よろしくお願いします!」」」

 これは野球少年がプロ野球選手を前にした時のような感覚か。

 頭が体が魂が奮い立つ。


「対象が今になって急に暴れ始めたみたいで本来は来週だったんですが明後日行くことになりました」

「「「はい」」」


 どうしても聞いてみたいことがある。

「道楽さんは天道って人を知ってますか?」

(ゾワッ!)

 瞬間。道楽さんの目が僕を殺した。

 見られただけで心臓が跳ね上がり、しばし機能を停止した。

 我に返って漏らしてない事が分かり安心した。

 視線で殺すってのはこういう事なのか。


「天道がどうかした?」

 柔らかな笑みを浮かべるが目が全く笑っていない。

 その目に怯えながらもスッキリしたくて話を続ける。

「同じ正一位って聞きましたけど、どっちが強いですか?」

(言った…言い切った)

 安堵して大きく息を吐いた。肺の中を空にする程に。

「私と天道、どちらの方が強いか…ね」

 声の圧にドキリとする。


「もちろん私です。私ですよ。十中八九私ですね。アイツに負けるなんて天地がひっくり返らないとありえない。

 つまり私の方が絶対に!強いです」

 一転、柔らかな口調で早口に最後はニッコリと言い切る。何か訳ありなのかあまりこの話題には触れないでおこう。

「で、ですよねー」

 ここは波を立てずにやり過ごそう。

「それでは明後日、覚悟して来てください」

 その言葉の意味をこの時は本当の意味で理解していなかった。





 二日後。

僕たちはお昼から道楽さんと共に長野県にある御嶽山へと向かった。

 神奈川から長野の御嶽山まで車で片道およそ五時間。運転は吉田さん。

 前髪を全部後ろに持ってってサングラスをかけてる。何個か指輪も嵌めてて見た目がイカつい。

 道楽さんの運転役らしい。もちろん聖童師だけどもっぱら運転に明け暮れているんだとか。

 それでいいのか吉田さん。


 ともあれ吉田さんのおかげで外の景色を眺めてたら着いた。既に日が暮れて今日は旅館に泊まって明日職場見学になる。




 男湯には四人。僕、段間、道楽さん、吉田さん。女湯にはくれぼん一人。


 うん、どっちか迷ってたけど声的に男だと思ってた。中性的な見た目でもしかしたらって思ってたけど予想が当たってた。

 道楽さんはその長い髪にタオルを巻いて髪を湯船に浸からないように湯船に浸かってる。


「吉田さんは道楽さんといつからの付き合いなんですか?」

「もう十五年くらいかなぁ。千尋が高校卒業してからだからなぁ。もうそんなになんのかぁ」

「どういう関係なんですか?」

「どういうって、それ聞いちゃう?」

 ぐぐっと近づいてくる。

「え…」

「実はこういう仲なんだっ」

 と言ってガシッと道楽さんを抱き寄せる。

「ばかっ、ここではやめろ」

 道楽さんが少し恥じらいを見せながら反射的に腕を解いて離れる。

「……」

 これは。そういうこと?

「じょーだんだよっ!ははっ!信じちゃった?」

「もー、道楽さんの反応がなんともリアルで」

「はははっ!ただの雇われ運転手だ。まぁ、荷物持ちみたいなもんだな。

 俺のドライブテクに惚れ込んだ道楽からのスカウトよ」

「そんなにすごいんですか」

 そういう類のスカウトもあるのか。


「ああ、昔は国道ののぞみN700系って言われてたっけな。あの時はやんちゃしてたな。新幹線と間違われるくらいにやんちゃしてた。あぁ」

 マジなのか冗談なのか分かりづらい。


「そんなわけ無いじゃん。びっくりするくらいに安全運転だからスカウトしたんだよ」

「ちょ!それ言っちゃあ俺の威厳が保てないでしょーが」

 嘘だったみたい。

「この人見た目とのギャップすごいでしょ」

 なんて、道楽さんが微笑みながら言ってくる。「やめろよ、営業妨害だぞ!」「嘘つく方が悪いんだよ」二人に対する最初の印象とのズレに戸惑う。

 こんなに笑う人だったんだ。想像してたよりもだいぶ人間だ。


 その後、吉田さんはお酒を飲んで暴れ回った。ワイン一杯で酔っ払う人だった。

 早々に道楽さんが吉田さんを眠らせて静かな食事に戻った。


 だいぶ緊張が解れて色んなことを聞いた。


「明日の相手はどんなんなんですか?」

 流れでそんな質問をしてしまった。

「七つの大罪が一体、強欲の法麗院」

「「「大罪っ!!」」」

「ちょうど時期が被ったからね。相手は強い方がいい。それに君たちのおかげで強欲の居場所がわかったからね」

 言葉も出ない。結局僕たちだけじゃ倒せなかったんだけども。先輩たちが来てなかったらどうなってたか。


 吸血鬼の中で最上位の存在である七つの大罪。

 「勝てますか?」と聞くのはやめた。

 だって勝たないと僕たちも死ぬから。

「最近被害がすごいからね。ヒーロー登場って感じさ」

「おー!」

 強欲の見た目は分からない。どんな戦い方をするのかも分からない。今の僕たちじゃあ、絶対に太刀打ち出来ない相手。

 最強と謳われる童帝の道楽さん。どんな戦い方をするのか分からない。どれだけ強いのかも分からない。


 明日は頭が疲れそうだ。置いていかれないように頑張ろう。この戦いを自分の血肉にするために。



 童帝(どうらく)強欲(ほうれいいん)の戦いが始まる。

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