十六話 法麗院
法麗院 小百合は戦国時代に生まれ、政略結婚の後五人の子供を産んでしばらく、吸血鬼に屋敷を襲われる。
ちょうどその時食事中だったため、一家が揃っていた。騒ぎを聞いて家族を守るために部屋の奥に隠れさせ、刀片手に様子を見に部屋を出たその時吸血鬼に襲われ吸血鬼になった。
瞬時に目覚めた法麗院は部屋に入ろうとする吸血鬼の体を掴み引き込んで刀を刺し捻る。
二十七歳という若さで死んだ。
法麗院は吸血鬼になったが、人間だった時の記憶は完全に残っており、家族との大切な時間を過ごして数十年、夫と子夫婦を看取りその家から出ていくことを決めた。
一切老いることの無い法麗院を家族だけは人として接してくれた。一生色褪せることの無い大切な記憶。
家族を失った法麗院は村を転々としていると聖童師という者たちに追われていることを知る。対抗するために力を求め祈った。
そんな時に自分の童質を知る。
接吻で唾液を送り込むことで口内で特異な虫が生まれる。その虫は口内を突き破り脳を食べる。その虫から出る特殊な分泌液は宿主の体を作り替え完全な生きた傀儡となる。
以来、聖童師に追われながら聖気の扱い方を学ぶ。有り余る膂力で聖童師を返り討ちにし、童質で傀儡にしようとしたが躊躇った。
政略結婚だったが確かに愛し合っていた。死後他の男とまぐわうのは裏切りではないか、そう思い中々使うことが出来なかった。
そんなある日、何とか聖童師を討ち倒す事が出来たのだが村の外れで意識を失った。
目が覚めたとき、知らない天井を見て不安になったが、柔らかい布団の上にいることに気づき、そばには同い年くらいの女性が看病していたのか寄り添うように寝ていた。その寝顔は法麗院を安心させた。
そんなことがきっかけだった。
自分の中に好みの女性という枠が出来上がっていて、愛する対象として見ていた。
想いを伝えたところ拒絶され、居づらくなって村を出た。
それからはなにか吹っ切れたように襲ってくる好みの女聖童師を殺し、傀儡にした。
童質の名は。
百合草は宵越しに芽吹く
数を増やし、みるみると勢力は拡大していった。凶悪な吸血鬼としての噂は広がりついには童帝とやり合うことになった。
結果は惨敗。傀儡を囮に瀕死になりながらも何とか逃げ出すことが出来た。
それから表立った行動を控えるようになり、屋敷を構え静かに生活するようになった。
傀儡と過ごす日々は幸せではあったが退屈でもあった。指示をしなければ動かない傀儡。感情が出ない傀儡。
そんな時に屋敷の前に倒れた奇妙な吸血鬼。
その吸血鬼、番丈 虎乃尾との出会いで退屈な日々に色が戻った。
なんでもするから住まわせてくれと言われ、ちょうどいいと思って身の回りの事を全て任せた。意外にも家事をこなす虎のことがだんだん気に入ってきた。
普段は従順だが、たまに反抗的な態度をとったりからかってきたり、そんなやり取りで昔の家族の事を思い出して悪くないなと思うようになった。
腕が鈍らないために虎をサンドバックにするも段々と対応するようになってきて、それが楽しくなってくる。いつしか毎日のように戦うようになった。
たまに来る聖童師を殺して虎と遊んでを繰り返す日々。
傀儡の研究をするようになって色々な発見をした。
殺す前に付けた傷は傀儡にすると完全に修復すること。
数十年の時を経て、傀儡の持つ武器が聖具へと成り代わる。それがわかってからは全ての傀儡に武器を持たせて過ごさせた。
聖具が四十を超えた頃、強欲の名が与えられた。
そんなある日、とある山で童帝と出会った。前回とは違う人物で大地を割るほどの力を持っていると有名だった。
会話を交わすことなく戦闘に移った。
幸い装備は万全で複数の聖具を持っていた。
聖剣 神背の触り。聖剣 剛快天開。聖剣 大和。聖剣 肋間刺し。聖輪 十剣の主。聖輪 常世の契。聖具 蛇足の雲走り。聖具 大喰い蟆。
十剣の主の能力によって触れることなく操ることが出来る四本の聖剣は童帝の命を狙い縦横無尽に駆け回る。
虎のおかげで近接戦闘にも磨きがかかり、前回の童帝戦ほどの焦りは無かった。
空を駆け時に剣を振るう。横を過ぎ去った拳は地面に叩きつけられ大地を割る。
激化する戦闘の中、突如大地が揺れた。
童帝の能力かと空に逃げたが何も起きない。それ以前に童帝本人が揺れに対して焦っていた。
その時が来た。
(ドガァァァァン!!)
戦場となっていた山が噴火しマグマを撒き散らし、火山灰が立ち上る。
一目散に山から離れ屋敷を目指す。
空高くに上がった火山噴出物が太陽の光を遮り夜となる。
屋敷は無事だったが世界では大飢饉が起きた。火山灰により農作物はダメになり餓死者が大勢出ることになった。
時間は経ち、初めて他の大罪に会った時、対話は不可能だと察した。読み通り即座に殺し合いが始まり、三日三晩続いた。
聖具を使い捨てにして何とか切り抜け大罪から引きずり下ろした。
平穏を壊す者に情け容赦は無用。
時代は進み現代。
聖剣造りに精を出し、着々と数を増やしている。刀よりも剣が好き。刀は家族を守るために使ったのあの時が最初で最後。
叩き斬る方が性に合ってる。
死体の保管もできるようになり必要以上に傀儡を増やすことはやめた。
今一番の傀儡は先代の戸津家代表だった戸津 菜乃花。十五で戸津家代表になり、名実ともに戸津家の柱であった。瞬く間に多くの吸血鬼たちが狩られていった。
しかし十八の若さで死んだ。歴代でも群を抜いて才能があって強かった。しかし相手が悪かった。
美しい黒髪は顔の左半分を隠している。目は半分ほどしか開いておらず目の下には凄い隈があり、瞳からは生気を感じられない。
猫背で力強さを感じさせないゆらゆらとした歩き方。その不安定さとは裏腹に圧倒的な強さに心惹かれた。
戦った時も上下ジャージ姿にサンダルで面食らった。
今の流行はヤンデレだ。
十の聖剣を携え待ち構える姿は魔王。




