表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

冒険者


冒険者…まずはそうね、先立つ物が必要よね。

部屋を見渡して見るけど、大してお金になるものは無さそう…一応貴族なのに。


まぁ、本や着替えの服くらい持ってけば多少のお金にはなるかしら。


庭に出て、お茶用のテーブルに掛けてある大きめのテーブルクロスを拝借する。


それに本や着替えを包んで背負い、夜逃げスタイルでこっそり裏口から脱出よ。


「なんか、ワクワクしてきたわね?」


ヴァン君にそう問い掛けると、満更でも無さそうな感情が伝わって来る。


屋敷から離れて暫くすると、人がどんどんと増えていく…中世のヨーロッパのような街並み…

市場のような所には、沢山の出店が出ている。

果物を木箱に山積みにして上にテントのような布が張ってる、いかにもな果物屋さんでさえ、キラキラと輝いて見えた。


さぁて、どうしよう?

先ずは情報収集ね。


「すみません、冒険者になりたいのですが何処に行けば良いですか?」


早速果物屋さんのご婦人に聞き込みよ!


「それならこの道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドが右に見えてくるはずだよ。剣とドラゴンの看板の建物さ。」


「ありがとうございます!」


途中から夜逃げスタイルの私を怪しそうに見だしたから、ささっと切り上げて教えて貰った道を行く。


…20分程歩くと、確かに剣とドラゴンの看板の建物を見付けた。

意外と遠かったわね…。


ドアを開けると、まず目に付いたのは4人の可愛い女の子が等間隔で座ってるカウンター。


その横には酒場が併設されてるみたいで、筋骨隆々な荒くれ者と言った感じの……前世の私に近い体格の男達が昼間から酒を飲んでいる。


その光景を暫く眺めていたら、ヴァン君からキラキラとした感情が伝わって来た。


「あら?ああいうのが好み?」


そう問い掛けると激しい否定と焦りの感情。


「うふふ、冗談よ。さ、行ってみましょ!」


そのままカウンターの1番端の女の子の前に行く。


「こんにちは、冒険者になりに来ました!」


「ようこそ、冒険者ギルドへ!あらボク、何歳?冒険者は12歳からって決まりがあるのだけど…」


「大丈夫、丁度12歳です!」


「そうそれなら登録出来るけど、冒険者は命を掛けて魔物の討伐等をします、有能な魔法やスキルは賜わりましたか?」


ヴァン君の身体は確かに同年代と比べると細いし小柄だし肌も真っ白。戦いとは無縁そうに見えるけど、中身はゴリゴリよ。


「はい!生活魔法を賜わりました!」


そう言うと、心配そうな顔をする受付の女の子。

ちょっと、そんな顔しないで?ヴァン君が落ち込んじゃうじゃない、ほら…。


「まぁ、採取などのクエストもありますからね、無理のない範囲で活動しましょう。字は書けますか?」


「はい!大丈夫です!」


「ならこの紙に自分の名前と年齢とスキルを書いてください。」


言われた通り、サラサラと書いていく。

生活魔法もそうだけど、不思議とヴァン君が身に付けた物は自分の物のように使えるのよね。


名前って偽装出来るのかしら…

流石にクレインって名前お尻に引っ下げてるのは良くないわよね…


「はい、ありがとうございます。ではヴァニラ君、血を一滴貰うから手を出してくれる?」


ついでに名前の方も偽装しちゃった!

通るか分からないけどね。


手を出すと、指先に針を刺されてチクリとする。

そのまま、その血を持ってカウンターの奥に行ってしまった。


暫くすると戻ってきて、錆色の金属で出来たドックタグの様なものを渡してくれた。


「それは冒険者証、身分証にもなりますので無くさないでくださいね、再発行にはお金が掛かります。詳しい事はこのガイドブックに書いてあるので、時間のある時は目を通して下さい。」


「はい!」


なるほどね…。

偽名で身分証が作れるって凄いわね…

まぁ、それより冒険、冒険!

日が落ちる前に宿代位は稼がなきゃ!


ヴァン君の本の知識だと、冒険者って魔物を狩るのよね?

その為にはまずクエストってのを受けなきゃいけないはず…


「クエストはどうやったら受けられますか?」


そう言うと、分厚い本をカウンターの下から出して、広げて見せてくれる。


「Fランクで受けられるクエストはこちらになります。初めてなので、この薬草採取か畑の草むしり当たりがお勧めですよ。」


そう言われて見てみる。

薬草採取、10本で銅貨5枚。

草むしり、3時間で大銅貨1枚


これが高いのか安いのか分からないけど、微妙そう…

他には…あ!これ良いじゃない。


ゴブリン討伐、1匹毎に銅貨6枚。


「これにします!」


そう言うと女の子はギョッとした顔をする。


「戦闘系の技能を持っていないのにそれは流石にお勧め出来ません。せめてもう少し大きくなったり他の経験を積んでからでも…」


気持ちは分かるわ。

私だって同じような子がそんな事言い出したら止めるもの。

でも、大丈夫だと思うの。

ヴァン君の体、筋肉は無いけど柔らかいし凄くいいバネを持っているの。

それに生活魔法まであるし。

日本だと熊くらないなら行けるんじゃないかしら?


「受ける権利はありますよね?お気持ちは有難くちょうだいします、ですがどうか受けさせて下さい。」


頭をペコりと下げると、本当に気が乗らなそうにうなづいてくれた。


「では、受注しました。ゴブリンは街の南にある二レアダンジョンの一層で出てきますので討伐時に出てくる魔石を納品してください。」


「分かりました!行ってきます!」


私は逃げるようにギルドから出て行く。


さぁ、冒険の始まりね!

まだ日は高いけど暗くなる前に急がなきゃ!


「ポッケ、フロー!」


先ずは風呂敷を異次元に収納して、南に向かう私の背中に風を吹かせる。


凄い凄い!

やっぱり凄いわ!生活魔法!

追い風に身を任せ凄い勢いで駆けていく。


生活魔法は誰でも覚えられる魔法らしいけど、スキルを持ってないと結構魔力を持ってかれるみたいなのよね。

だから気軽にとはいかないみたいだけど、私はスキルがあるから使いたい放題。

ヴァン君の知識を頼りに魔力の消費を確かめようとしたけどあれ、減ってる?くらいの感覚。


他にも、スキル無しで覚えられる魔法には身体強化とかもあるらしいけど追い追いね。


暫く走ると、運動不足だったヴァン君の身体が悲鳴をあげる。


「プチヒール!」


かすり傷を治す魔法だけど、全身に掛けたら肺や身体の痛みが消えた。

これも殆ど魔力を消費した感覚がない。

凄すぎるわ…!


武道を歩んだ者として、興奮せずには居られない!

思わず高笑いしそうになるのを堪えて居ると、街の門に到着した。


「おや坊主、何処に行くんだい?」


門番さんが声を掛けてくる。


「二レア洞窟まで!これ、冒険者証です!」


「そんなちっこいのに冒険者か…無理だけはするなよ?ちゃんと無事に帰って来てくれ!」


あら、優しい。

ギルドの受け付けの子と言い、この彼と言い…普通に優しい人達ばかりじゃない!

本当に家の家族達って何なのかしら!!


「どうもありがとうございます、二レア洞窟にはどうやって行けばいいですか?」


「ああ、そんな事も知らねぇで行こうとしたのか?この道を暫く真っ直ぐ行くと右に曲がる道があるからその先だ。」


「ありがとうございます、行ってきます!」


「あ、おい坊主!そう言えば武器は?!」


門番さんを置き去りに、フローで背中を押しながら走り去る。


そう言えば、生活魔法って名前言わなくても発動出来たりするのかしら…


……出来ちゃったわ!


凄い!

でもちょっと難しい感じがするわね、練習はしないと…


10分ほど走ると、右に曲がる道が見えてきたので曲がり、更に15分走ると洞窟が見えて来た。


結構遠かったわね…

かなりのスピードで走って来たのだけれど。


洞窟の前で一息つく。


「クリアクリン、フロー、ウォータ!」


体をさっぱりさせてから、水を出す魔法を使うと目の前の空間から水が出てきたので、喉を潤す。


…うん、甘みも何も無い水。

そんな感じだわ。


さぁて、どんなものかしらね?

一応柔軟体操をして身体をほぐす。


そう言えば、まだ使ってない魔法があったわね…


「イグニ!」


ボッと私の指先に火が点る。

凄い…指が全然熱くない。


もっと大きいのも出せたりする?


「イグニ!!」


今度は大きめのをイメージしたら、拳が燃え上がった。

でも、全然熱くないの。


生活魔法…ハンパないわ…


これが不遇何て言ったの誰よ、最高じゃない!


浮き立った気分を頑張って鎮めて、洞窟の中に入る。


結構暗いわね…でも、大丈夫。


「ライト!」


唱えると、光の玉が出て来て辺りを照らしてくれる。

でも、そんなに明るいって訳でもないからもう2つ追加で出すと十分な光量になった。


「さて…気を引き締め無きゃね。」


洞窟の中って、ジメッとしてるわね…

それに少し変な匂いもするわ。


そう思いながら5分程歩くと、小さな緑色の小人が居た。

小人って程可愛くないけどね。

私より少し小さい位で、ギザギザの歯がむき出している。

耳はとんがっていて、身に纏っているのは茶色の腰布1枚。


ゴブリンで間違い無さそう…あれくらいなら全然行けそうね。


殺すのは少し可哀想だけど。


そう思ってると、ライトの魔法でキラキラしている私に気付いたようで、ギャーギャーと鳴き声をあげる。


あら、3匹もいたの。

いいわ…行くわよ!



背中をフローで押し出して急接近すると、1番手前にいたゴブリンの鳩尾を心臓に向かって抉りあげるように殴る。


フワッとゴブリンが宙に浮きあがっている間に、フローで体を押し出して現実では有り得ない慣性の蹴りを2匹目の首元を狙って繰り出す。

見事に命中し、脚に首の折れる嫌な感覚が伝わった。


宙に浮き上がった1匹目を呆然とまだ見上げている3匹目の正面に移動すると、拳にイグニを纏わせて鳩尾に正拳突きを放つ。


すると、驚いた事にお腹に穴が空いて拳が貫通してしまった…



一応少し距離を取って様子を見ると、ゴブリン達はサラサラと黒い粒子の様なものになって消えてしまう。


後には小さな黒曜石みたいな黒い石が残った。


ヤバいわね…

何がって、やっぱりフローが壊れてるわ。

人間の可動範囲の限界を越えさせてくれる。


それと、一方的過ぎて全く戦った気がしないわ。


クリアクリンで汚れを落とすと、地面に転がる石を拾い上げる。


これが魔石ってヤツね?ポッケの異次元空間にポイポイと投げ入れると、気合いを入れ直す。


さぁ、ドンドンいくわよ!




「ハァ!!ヤッ!!」

洞窟を奥へ奥へと進んで行く。

途中からゴブリンちゃん達は出なくなって、代わりに剣を持った骨の魔物や大柄なブタっぽい顔の魔物が出て来るようになった。


骨は本当に骨って感じで、とりあえず殴ればバラバラに吹き飛ぶし、ブタっぽいのも急所にイグニを纏ったパンチやキックをキメてあげれば一撃で黒い粒子になった。


たまに骨が剣を落としたり、豚が生肉をベチャッと落としたりもしたけどお肉は不衛生だから剣と魔石だけポッケへ。


手加減無しで武術を振るえるのが楽し過ぎるわ。

前世じゃ人に当てたら一撃で死んでしまうような技ばかりだったから、寸止めに手加減は必須だった。


父も祖父も、どうして使い道の無い殺人拳を受け継いで行こうと思ったのかしら…理由は分からなくも無いけどね。


型に気持ちいい動きが多いし楽しかったもの。

お陰でゴリゴリ体型になるまで私もハマっちゃってた訳だけど、まさかここに来て出番があるなんてね…


そんな事を考えつつ、生活魔法を駆使したノンストップ進撃でアドレナリンドバドバしてたら、明らかな毛色の違う大きな扉が出て来た。


…あら?何かしらこの扉。

大きいわね…巨人用?


そう思って近付いて触れると、ゴゴゴ…と音を立てながら扉が開く。


あら、この見た目で自動ドアだなんて…。


少し感動しながら中に入って行くと、広い空間に出た。

その中心には…あら、大きい豚さんじゃない。


今までの豚さんの3倍くらいありそうね。

他には大きい斧を2本持ってるし、鉄で出来た鎧っぽいのも着てる。


「…手応えありそうで嬉しいわぁ。」


猛る気持ちに押されるように、大豚の前まで歩く。

…全力でお相手しないとね。


『ブモォオォ!』


大豚が雄叫びを上げながら、2本の大斧を私めがけて振り下ろしてくる。

それを抜き足で横に躱すと、振り降ろされた腕を目掛けて鞭のようにしならせた脚を更にフローでブーストして蹴りあげる。


すると、斧から手を離してバンザイの体制になったのですかさずガラ空きになったボディにイグニキックを放つと、くの字に折れ曲がった。


そのまま倒れ込むタイミングに合わせて飛び上がり、足先にイグニを纏いつつ、フローで落下の慣性をブーストして首元を狙うと、首の肉が弾ける。


…流石に一撃とはいかないかしら。

でも、今ならもう1発入りそうね。


飛び上がってもう一度イグニ急降下キックをお見舞いすると、今度は骨ごと粉々に粉砕した感触。


一応飛び退いて距離を取って様子を見るも、サラサラと黒い粒子に…。

後には大斧が1本と大きめの魔石が1つ。


…あら、終わりかしら…


少しがっかりしながら近寄って、大斧をポッケにしまおうとしたけど異次元空間的にもう入りませんって感覚が伝わって来た。


どうしようかしら…


とりあえずスケルトンの剣2本を捨てるとギリギリ入りそうだったので大斧と魔石を収納。


ウォータで水を出して喉を潤してから部屋を良く見渡すと、奥の方に木で出来た宝箱がある。


凄いわ、宝箱何て生まれて初めて見る…

あ、近所の雑貨屋さんにインテリアで置いてあったから2度目かも。


そんなくだらない事を考えながら、宝箱を開けてみる。


…何これ?ネックレス?


青い宝石がハマったネックレスが入っていた。

青か…あまり好みじゃないかも。

ま、貰って置きましょ。


宝箱を開けると、部屋の奥にあった魔法陣の様なものがキラキラと輝き出した。


何あれ、ステキ…!


近寄って見ると、クルクル回る魔法陣が緑色の輝きを放っている。

綺麗ね…そう思って何となく触れて見ると、シュッ!と身体に変な感覚が走る。


驚いて警戒しながら状況を確認すると、洞窟の入口にいた。


…あれ?何で?

暫く考える。

これ、瞬間移動ってやつ?不思議だわ…


途方に暮れていると、空が綺麗な茜色な事に気付く。

そろそろ帰らなきゃね…


私はフローとプチヒールを使って街に向かって疾走した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ