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お目覚めよ


『ウォーターボール!!』


バシャッ!!


向けられた杖の先から放たれた水球が着弾し、倒れ込む。


ーー何、コレ?


その瞬間、強烈な衝撃が電流のように脳内を駆け巡った。

過去の記憶……と言うより前世の記憶がものすごい勢いでフラッシュバックして、思わずうめき声を上げる。


『オイオイ、ちゃんと避けろよ〜?練習になん無いだろ?これだから出来損ないは…』


そう言って鼻で笑った目の前の男は、気分が良さそうだ。


その間に記憶の統合が完了したようで頭痛も無くなり、落ち着いた。


顔を上げて、改めてその男を見る。



「…あなた、イイわ…とっても好み。」



元々の人格…伯爵家3男のヴァン・クレイン君は妾の子だった。

母はヴァン君を産み落として直ぐに亡くなってしまったみたい。

それからは、物心ついた時には兄弟や本妻、果ては使用人にまで虐められる始末。


まったく、大の大人達がみっともない、何も出来ない小さな子供を虐める何て。


『あ?』


目の前の男、3つ上、15歳次男のライアス・クレインは眉間に皺を寄せて睨み付けて来る。


金髪緑目でスっと鼻筋の通ったイケメンで、少し生意気そうな目元をしているけど、まるで王子様みたい。


前世では身長196cm、体重100キロのゴリラ体型だった私には縁もゆかりも無かった類いの人種。


その見た目に反して溢れ出るダメンズ臭が堪らなくツボだわ。


でも、こんなにか弱い弟を虐めるのは許せない。


私は母親譲りの、彼とは違う水に濡れた黒い髪をかき揚げて立ち上がる。


「もう1度!」


そう言うと、ギョッとしたように私を見たあと杖をまたこちらに向けて来た。


「何だよ、急に…生意気だな!!」



途端、杖の先に渦を巻くように水が集まって放たれる。


魔法って本当に不思議ね…


そう思いながら抜き足で軽く右に避けると、ギリギリ横を水球が通過して後ろで弾ける音がした。


「は……?」


今まで、魔法を避ける訓練と称してヴァン君に水球を当てる虐めをしていたみたいだけど覚えている限りこんなスマートに避けた試しは無かった。


いつも泣き叫びながら逃げ回り、ビショ濡れの泥だらけにされていたのだ。


…まったく、本当に酷いことするわよね。


「もう終わり?」


ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしていた兄は、キッと私を睨み付けるともう一度水球を放ってくる。


しかし前世では一応、一流派を極めた私には到底当たらない。

弾速があまりにも遅すぎる。


「な、なんだよ…何で当らない!!!」


顔を真っ赤にして、水球を連射して来る兄。


だけど、そんな物に当たる筈もなくジリジリと距離を詰める。


兄の目の前までたどり着くと、その綺麗な顔を歪ませた。

私は抜き足でサイドに回り込むと、膝裏に蹴りを入れる。

兄がカクンと膝を折り、地面に四つん這いの体制になった所にお尻目掛けて強烈な蹴りをプレゼント。


「悪い子ね、お仕置よ!!」


「あいぃぃい〜!!」


ドッと言う鈍い感触と共に少し宙に浮き上がった兄は、普段からはとても想像出来ない悲鳴を上げた。

お尻を押さえてピクピクと悶絶する兄の耳元にそっと口を寄せる。


「弟にイジワルする男の子はモテないわよ?後でママに可愛いお尻を治して貰いなさいね。」


そう呟くと踵を返して自室に向かう。

まずは服を着替えないとね…。

ヴァン君の記憶をおさらいしながらそんな事を考えていると、胸の辺りから驚いたような感情が伝わって来る。

これは…ヴァン君の感情?

そう…まだアナタはアナタとして、ちゃんと私の中に存在しているのね?

じゃ、前世を思いだしたって感じじゃなくて憑依したって感じかしらね?

不思議だわ…そもそも、前世何て言ったけど私死んだ記憶何て無いしね。

まぁ、なるようになるでしょう。


そう考えているうちに部屋に付いたので、着替えを用意する。


「クリアクリン、フロー」


ヴァン君の記憶の中にあった魔法の呪文を唱える。

すると、身体に付いていた汚れは消え去り、心地良い風が吹いて一瞬で髪まで乾かしてしまった。


本当に凄いわ!

初めて自分で使うと流石に感動せずにはいられないわね!

汚れを綺麗にするクリアクリンって言う魔法はついつい独特のリズムで言ってしまいそうになったけど。


服を着替えて、ベッドに座る。


「さて、これからどうしよっか?ヴァン君は何かやりたい事とかなりたいものはある?」


独り言のように呟くと、胸の中から僅かに思念が伝わって来る。諦めと、消えてしまいたいと言う感情。


12歳の子供が感じるにはあまりにもネガティブ過ぎる…でも、記憶をおさらいしてるとそうなってしまった理由にも納得せざるを得なかった。


物心付いた時から、妾の子ってだけで疎まれて守ってくれるはずの母親は既に居ない。

父も忙しい人で酷い時は1ヶ月に1日帰って来るか来ないかって感じで、目の届かない事をいい事に、屋敷の住人たちはこぞってヴァン君を虐めた。

家族だけならまだしも、使用人にまで手をあげられるのは本当に許せない。


それでも、子供が6歳の時に行われる昇華祭と言う式典でスキルを神様から頂く儀式がある。

そこで優秀なスキルを貰えたら家族も無碍には扱えない筈と一縷の期待を抱いていた。

貴族は魔力って奴が多いらしいし、良いスキルにも恵まれやすいみたいだしね。


でも、結果は魔力量はその歳の子達の中では1番だったけれど与えられたのが生活魔法って言うスキル。


生活魔法って言うのは、さっきやったように物を綺麗にしたり、火を灯したり、物を乾かしたり、異次元に物をしまったり、水を出したり…かすり傷程度なら治せちゃったりね。


私は中々凄いと思うのだけれど、この世界では使用人や雑用向けの微妙なスキルと言う認識だ。


武力至上主義に寄ってるこの国だと、ゴミスキル扱い。

特に貴族には過去1人しか発現した事が無いくらいの事で、出来損ないと尚更扱いが酷くなった。


それからは、部屋に閉じこもって本ばかり読みながら怯えて生活してきたみたいだ。


本当に…許せないわ、この家。


改めてヴァン君の意識に集中しても、諦めと消えてしまいたいと言う感情以外やはり伝わって来ない。

私もこの世界に詳しい訳じゃ無いから、ヴァン君の記憶を必死に漁る。


「…冒険者って言うのになりたかったのね?」


そう問いかけても、やはり諦めの感情が伝わって来る。

生活魔法なんかじゃ…って。

物語の中の冒険者は、皆英雄や賢者と言った強いスキルを持っていたみたいね。


「良いわね、英雄。私も昔ヒーローとかライダーに憧れたものだわ…ね、私なりに英雄を目指して冒険者になってもいいかしら?」


ヴァン君の意識に集中すると、一瞬の驚きとやはり諦めの感情、そしてどうせ無理だから好きにすれば良いと投げやりな思いが伝わって来た。


「よし、なら目指しちゃうわ!今夜この家を出発よ〜!」


この子の意識は希薄で、まるで今にでも消えてしまいそうな気がして…

痛みと悲しみだけの辛い人生のまま終わるを黙って見ているだけなんて私には出来ない。


冒険者?英雄?それがこの子の夢なら上等、なってやるわよ!


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