#8 出場審査
「名前はエルメスとガウルだな。よし、ではこれから出場審査を行う。会場に移動してくれ」
受付を終えると二人は審査員に連れられ、草地のだだっ広い空き地にやってきた。
「審査は実技と容姿の二つに分けて行う。支持者である男は何もしなくていい。エルメスと言ったか。君が次期精霊姫にふさわしいかどうかの審査になる。まずはあそこにある岩を隣の穴に落としてみろ」
「え……」
縦と横、それぞれ三メートルはある巨大な岩。そのすぐ側には岩がすっぽり入るであろう大穴がある。
当然、女一人が手で押したところでびくともしないだろう。しかしそれを可能にするのが精霊術。
要は精霊術の強さを試されているのだ。
「どうした? 動かしてみろ」
いつまでも動こうとしないエルメスを審査員が急かす。
「……は、はい」
「エルメス、お前ならできる。頑張れ」
ガウルに肩を叩かれ、エルメスは頷きながら一歩前に出る。とても固い表情だった。
緊張が滲み出た彼女は、意を決して精霊術を唱える。
「〈ウィンド〉!」
風が、エルメスの手から放出された。控えめな竜巻が大岩を包み込む。
あとは持ち上げて、隣の穴に移すだけ。
しかし――大岩は端っこだけ浮いたものの、すぐに落ちてしまった。
「……弱いな」
そう呟いたのは審査員。エルメスの精霊術について言っているのだろう。
「エルメス! もう一回だ!」
ガウルが呼びかける。
「う、うん」
エルメスは再度試みるも、結果は同じ。
自分の精霊力が弱いことは知っていた。おそらく性別のせいだろう。
男。
いくら可愛くても、エルメスは男である。
精霊術の威力は昔から弱かった。重い物を動かすとなると補佐がいる。
崖から落ちそうになっている馬車を助けた時は――前に進もうとする馬が居たから、荷車を軽く浮かすだけでどうにかなったのだ。
「もういい、君の力は分かった」
審査員は厳しい声で告げた。
「エルメス。君の精霊力は弱い。残念ながら実技審査失格だな」