#5 商人、宙を飛ぶ
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」
エルメスが喉を高らかに震わせる。それは完全に女性の悲鳴だった。
「お、おお女じゃなかったのか、君は⁉︎ そ、その顔で男だって⁉︎」
目を白黒させる商人。エルメスを指差す指はぶるぶると震えている。
裏切られた、という感情が強かった。
美しい黒髪も虜にされる幼顔もスレンダーな肢体も庇護欲をそそり、どこから見ても欠点のない美少女だったのに、それなのに――!
「ゆ、ゆゆしき事態だ……そ、そうだっ、これをガウル君は知っているのか⁉︎ 彼も君に騙されているんじゃないかっ⁉︎」
矢継ぎ早に咎める。
「だとしたら今すぐに男だって告白するべき――」
「エルメスは男じゃねえええええええッ!」
直後、商人は宙を舞った。え? と困惑する目は景色をゆっくり映していく。どうやら駆けつけたガウルに投げ飛ばされたらしい。離れていく地面に驚いた。先程まで見上げてやっとだった木々が遥か下にある。空を羽ばたく鳥とほぼ変わらない高さ。
商人は恐怖よりも、人の力でここまで飛べるんだという感心のほうが強かった。
「ぐへぇ⁉︎」
やがて商人は地面に落下――はせずに、高い枝木に服が引っかかって、吊るされるような格好になった。
下には怒りの形相で顔の怖いガウルがいる。
「――キサマ、コロス」
「ひぃぃぃぃぃ⁉︎」
彼の手にはリンゴくらいの石が握られており、準備運動とばかりに右肩を回していた。
「ガウル! ガウルってば! とりあえずタオル持ってきて! あと人殺しはダメだからね⁉︎」
「……ちっ」
エルメスの訴えが通じて、ガウルは腕を下ろした。商人が安心した束の間――耳横の空気をすごい勢いで何かがえぐり、後ろで砕ける音がした。
「へ……?」
おそるおそる見ると、木の幹に当たった石が粉々に散っているところだった。
ガウルが投げたのだ。
「次はないぞ?」
商人は顔を恐怖一色に染め、コクコクコクッと何度も頷いてみせた。