#2 水浴び
ガウルとエルメス。
二人は今朝、生まれ育った村を出てきた。
昔交わした約束を叶えるために――。
「とうとうかぁ……」
森に囲まれた湖で。
白い陶器のような裸身に水をかけながら、エルメスは独りごちた。
もう体に豚のニオイは残っていない。果物の香りがするソープとシャンプーを使ったら、その匂いにすっかり変わった。
崖で落ちそうになっていたおじさんは商人で、馬車に乗っていたものをくれたのだ。
「ボク、精霊姫になれるのかな」
この大陸には昔、精霊を駆使する神がいた。大陸各地に生える精霊樹は神が生やしたと言われ、精霊術を唱えるうえで必要な精霊力の根元、供給場所となっている。
そして精霊術は、女にしか使えない。どういう仕組みなのかは謎であるが――言い伝えとして、神は清らかで美しい女性を好んで神秘の力を授けた、とされている。
身だしなみが悪いと力は弱まるし、使えなかったりもする。だから清潔感や容姿は大切で、精霊力が強い女性は誰が見ても美しい傾向にある。
精霊姫とは、首都で一番強い女性のことを示す。首都では年に一度「精霊姫決定戦」という大会が開かれ、女性とその支持者である男の二人組で戦う。大会はトーナメント形式だ。優勝した者が現在の精霊姫と支持者に挑戦でき、そこで勝てば「精霊姫」と呼ばれ首都を治める権利が与えられる。
エルメスは美容に関して努力をしてきたつもりだ。
成人を迎え、大会への参加資格を手に入れた今、ようやっと夢だった精霊姫の座に挑める。
「そろそろ上がらなきゃ」
膝辺りまで浸かっていた湖を岸まで歩き、水浴びを終えたエルメスはそこで気づいた。
「あっ、タオル忘れちゃった」