悲しき評価
『わかるよー魔王をさー倒さないといけないんだってことはさー』
キュウは不貞腐れていた。
「うん」
森の中でミバルの声だけが響く。
『でもねー魔王はねー普通のモンスターとは格が違うんだよー?』
「うん」
『私たちねー魔王をさー倒したわけじゃないよー』
「うん」
『でも互角の戦いをして! 全員が生きてる状態で、魔王を封印するところまでやったんだよ! だから今は世界はまだ少し平和なんだよ!? なのに「勇者パーティーの勇者は勇者じゃない」とか「勇者パーティーより俺たちが強い」とか! あんまりじゃないかー!!』
「うん……」
たまには町に出ていたミバルと違い、ずっと魔王城の前の森にいたキュウは、町で広がる世論を知らなかった。
魔王を仕留め損ね、世界に平和をもたらせなかった勇者パーティーなど、勇者ではない。
魔王を倒したものこそが勇者なのだ――と。
さすがに、勇者パーティーの始まりでもあるニオン国ではどうなのかわからないが、「真の勇者」による魔王の打倒を望む声についてはミバルも知っていた。
『……一年も経ってるから、勇者パーティーの活躍なんて、みんな忘れちゃったのかなぁ……』
キュウは怒り、騒ぎ、そして――今は落ち込んでいた。
(励ましたいけど、どう声をかけていいのかわからない……)
ミバルもおろおろとするばかりだった。
ミバルも、勇者パーティーが一年前に魔王ごと封印されてからの、評判の変化くらいは知っていた。他人事だと思って気にしたことはなかったのだが、反論さえ誰にもできないキュウの悲しみを見ると申し訳なくなってくる。
彼らは文字通り、命がけで魔王を封印して世界を守ってくれたのに。
『勇者様ってね、ニオン国の王子様で、「最初の勇者様」の子孫で、剣は強いし魔法も使えるし性格はいいし顔もよくてどこにいっても女の人がたくさん集まってきて聖霊さんたちにも私ほどじゃないけど好かれててすっっっっっっっっごく嫌な奴なんだけど』
「嫌な奴!?」
意外な言葉が出てきたので、ミバルもつい驚いて声をあげた。
『誰にでも好かれてて、非の打ち所がなくて嫌いだったよ。初めて会ったときはね』
そう言って頬をふくらませる姿は子供のようだった。
『でもね、ものすごく努力して身に付けた強さだとか、生まれたときからずっとみんなに頑張れって言われてきたこととか、苦労してるのもわかってね。見た目だけじゃなくて本当にいい人だった。だから私は、十六才からって決まってるモンスターハンターの資格を十五才で取って、勇者パーティーについていったんだよ。他の仲間だって、いつだって頼りになる最高の仲間だった。ずっと一緒に、魔王を倒すために戦った。だからみんなを助けたい。あんなこと言ってた連中みんなが束になっても敵わないくらい、私たちは強いんだって証明してやるんだ!』
一通りグチを言い切ったからか、キュウにいつも通りの元気さが戻ってきた。何も言えなかったがミバルは少しほっとした。
「そのために、ニオン国でキュウの知り合いに助けを頼むんだろ。ただ、俺の練習よりもさっさと知り合いのところに向かった方がいいんじゃないのか?」
『だって、今のところミバルしか私のことがわからないでしょ。魔王と一緒に封印された私たちを解放するには、ミバルも魔王を本当に討伐するときに来てもらわないといけない。……という以前の話で、ミバルがしっかりと強そうになってくれないと、あの人に会うことすらできないだろうからね』
「その知り合いって、どんな人なんだ?」
『私のお姉ちゃんだよ! 私以外の妹分たちがしっかり守ってるだろうから、弱々しいままのミバルだと話をするどころか、あの子達に箒でお掃除されちゃう』
(掃除……!?)
ミバルは謎が深まるばかりだった。