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旅に出る

『そいつらの言うこと、デタラメだらけだよ、ミバル』


 キュウはニコニコと愛想よく、ミバルにささやいた。


 効果は抜群だった。

 山育ちで、あまり女の子との接点がないまま育ってきたミバルには、天使のように慈愛に満ちて見えている。


(母さんが出ていってから、こんな風に優しくされるの、いつぶりだ……?)


戦力戦力戦力戦力戦力(ぜったいににがさない)


『私にまかせてよ! 本当に魔王と戦えるくらい強くしてあげる!』


「……そんなにうまくいくか?」


 仲間に手酷く捨てられたのはついさっきの出来事だ。ミバルは(うつむ)いた。


『心配ないよ! だって私が――勇者パーティーの一人に選ばれた、最高最強最年少の聖霊術士(せいれいじゅつし)のキュウがついてるんだから!』




 ――それから二人は、勇者パーティーの出発の地である、ニオン国の王都「ショーカ」へと旅を始めた。


 軍資金は、勇者パーティーの所持金である。彼らは魔王との対決を前にして、戦闘に必要のない物資を洞穴に置いていっていたのだ。


 一文無(いちもんな)し状態のミバルは、木こりとして使っていた斧の他には着ている服しか持っていなかった。このまま旅に出るわけにはいかないと、キュウから提供されたのだ――が、しかし。


「うおおおおおおおおおお!!!!」


 勇者パーティーの所持金は、金貨など見たことのない庶民のミバルには刺激が強すぎた。


『勇者様はニオン国の王弟の息子なんだよ。だから旅でお金に困ったことというと、迂闊(うかつ)に金貨を出すと「お釣りを用意できない」って相手を怖がらせちゃうことくらいだったかな~』


「金貨や銀貨といった通貨以外にもいっぱい物があるぞ……! こっちが予備だって装備品? こっちはなんだ……なんとなく『王子さま』っぽい豪華な服だな……宝石のじゃらじゃらくっついてるなんか小さいのはなんだ?」


『ブローチって飾りだね。そっちのは勲章っていう飾りだよ。勇者パーティーのみんなが一個ずつもらったけど、戦ってる時に壊したら怒られそうだってここに捨てて――置いていったんだよね』


「宝石を……捨て……て……?」


 他にも、ミバルは聞いたこともないような貴重な薬など、まさに宝の山だった。


 あまりにも圧倒的すぎる景色に、ミバルは目の前に広がる富があれば何でもできる気がしてきた。


「これで最高の斧と最高の盾とすっごいいい服とすっごいいい宿と乗り物に乗れるぞー!!」


『無駄遣いするんじゃな~い!!』


 ミバルが叫んだとたん、頭蓋(ずがい)にゴズン! という音と衝撃が降ってきた。


『君みたいな初心者さん丸わかりな素直な人が、いい物を選んで買えるわけないでしょうが!! お金をたくさん持ってるカモ扱いされて、変なのを高く売り付けられる結果に終わるよ!』


 ミバルの足元に落ちた薪が、何の前触れもなく起きた風によって洞穴の外へと転がり出ていった。


『いい宿なんて泊まっても、格好が不釣り合いだから怪しまれるよ。それにね、乗り物であっという間に王都に着いたら強くなれないでしょ』


「そんな……じゃあ、このお金は何に使うんだ?」


 一瞬で夢が砕け散ったミバルに、キュウはさらりと命令を下した。


『武器などの装備は私がいい物を見つけてあげるから、お店の人の口車に乗らずに買い物すること。宿は豪華じゃなくて安くても、安全なところを判断してあげる。そして移動はもちろん、モンスターを討伐しながら!』


 そもそもこれ、あげるんじゃなくて貸してあげるだけだから、とミバルの夢にきっちりと止めを刺すことも忘れない。


『あんまり散財すると返せなくなるよ。あと、私――訓練は厳しくやるから、覚悟してね?』


 ()くして、ミバルの修行の旅が始まった!

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