確かに雑用係は務まりそう
小さな枝とたくさんの薪を集めて燃やし、濡れた服を乾かす。
近くの小川で獲った魚も焼けるいい匂いを漂わせ、川沿いに実る小さな果実のデザート付きである。
モンスターの気配はなく、空気が澄んでいるのは、キュウによると『聖霊さんたちの遊び場で、聖霊さんが認めてくれないと近寄れないし聖霊さんの魔力で満ちているから空気もきれい』とのことだった。
……のだが、ミバルは聖霊が見えないのでとりあえずわかったふりをして頷くしかなかった。
危険のない場所、満足できる量の食料を手に入れて、ミバルはひとまず満足していた。
そうして下着一枚の姿で火の前に座って魚の焼き上がりを待ちながら、キュウに尋問されていた。
『そのへんに落ちてる枝とか虫とかだけで魚が釣れるものなの?』
「山育ちだからちょっとは慣れてるよ。モンスターだらけの森にも普通の虫がいてよかった」
『火をつけるのも、今どき魔法じゃなく木を擦り付けて摩擦熱でやろうなんて人がいるなんて思わなかった。聖霊さんにお願いするつもりだったんだけど……』
「山育ちだから枝で何かをするのは慣れてるんだ。ただの木こりの家に生まれたから、魔法なんて使えないからな」
『というか一番とんでもないのはその木こりのスキルだよ! 木こりって、おっっっっきな木の根本に斧を何回もコーンコーンコーンって打ち込みまくって木を折るものなんじゃないの!? あれじゃまるで……』
「山育ちの代々木こりの家だからな。山でもたもたしてモンスターと出会ったりしたら命が危ないだろ? だからすぐに切ってすぐに家に帰れるように技を磨いてきたんだ」
『いやもうあれは山育ちなんて関係ないよ……』
ミバルとしては聞かれたことへ普通に言葉を返していたつもりなのだが、キュウは「理解できない」という顔をして、頭を抱えて上へ上へと浮かんでいき、とても小さくなってしまった。
ちょうど魚もいい焼き加減なので、ミバルは魚を食べ始めた。
(うん、うまい)
食欲のままにミバルは食べ物を平らげていった。
『おかしい……本気じゃなくてあの威力の一撃を出せる人を、戦力外扱い。まともな判断じゃないよ……』
ミバルが甘酸っぱい果実を楽しんでいる時、頭を抱えるのをやめたキュウがゆっくりと降ってきた。
『……あれかなぁ。あのパーティーがミバルを雑用係としてしか使うつもりがなかったから、ミバルが斧で戦うのを見もしなかったとか?』
「見せたことはある。でも特に何も言われなかったな。戦士ならまずは剣だろって。最初に武器はあるのか聞かれて、斧を持っていると言ったら笑われたし、あのくらい大したことないってことなんだろうなって」
『……ミバルは、「まずは剣を使えるようになってから」って話を信じたんだね?』
「え、うん。戦士ならそうだよなって。リーダーがすごい剣を使う戦士で、剣が使えない奴は戦力にならないってはっきり言っていたんだ」
――キュウは悟った。ミバルは山育ちと言うが、つまり「世間知らず」なのだということを。
そして同時に、世間もまたミバルを知らないのだということを――
『青田買いすべき男!』
「え?」
ミバルは前途有望である。その上でまだ誰の影響下にもいない、フリーな男なのだ。
これはつまり――大チャンス!!!!
(ミバルに恩を売り、鍛え、仲間の封印を解き魔王を倒す! よーしやっちゃうぞ!!)