木こりの家のミバル
「無理だ!! モンスターハンター登録所では初心者だからって誰も相手にしてくれなくて、やっと仲間にしてくれた人たちにもすぐに俺は強くなれないって見限られたんだ。結局その通りで、雑用しか役に立てなかったから捨てられたんだ! 魔王と戦えるくらい強くなんてどうしたらなれるんだ!」
ミバルは叫んだ。仲間に見捨てられた身であるのだ。半ば自棄になっての言葉だった。
が、キュウは全く動じない。
『もしかして、そのモンスターハンター登録をした登録所って、この森から一番近いところじゃない? この森のモンスターは他の場所に生息するモンスターとは格が違う、強敵ばっかりだよ』
元々魔王城があった場所から最も近い森であるため、当然といえば当然である。
魔王が封印されている現在は、腕に覚えのあるハンターたちの修行や報酬稼ぎの場なのだ。
『だから登録所に集まるのは熟練のハンターばかりで、初心者の相手なんて誰もしてくれないよ』
「そ……そうだったのか……!」
『あとね、仲間にしてくれたっていうパーティーも、君を戦力にしようなんて最初から考えてないと思う。パーティーに入れてあげたって恩を着せて、雑用をさせるつもりだったんだよ。どうせ最初にちょっと訓練っぽいことだけして、強くなれないって決めつけてきて、それっきりだったんでしょ?』
「そ……そういうことだったのか……!」
ミバルはショックを受けて頭を抱えた。
『騙されちゃったね~。世の中には悪い奴がいっぱいだから、信じる君が悪いんだよ。……さすがにこんな森に捨てていくなんていうのは、ひどすぎるけど』
キュウが言った、その時。
「っくしゅっ」
ミバルが小さく、くしゃみをした。
『あ。そういえば沼から出たけど服は濡れたままだったね。服を乾かさないと! こっちに私たちが休むのに利用した洞穴があるからついてきて!』
キュウの案内で着いた洞穴はモンスターの気配もなく、近くから川のせせらぎが聞こえてくる安全な場所だった。洞穴の前には火をつけるのに十分すぎるスペースが広がっている。
『前にこの辺りで火をつけたはず……あ、この窪みだ。あとは聖霊さんにお願いすれば小枝くらいは集めてもらえるからもう少し待ってて! ここは森だし、小枝でもかき集めてもらえばそれなりの量が集まるはずだよ。あー、でも薪にできるような、大きなものは見つからないかもしれな――』
そう言いつつ急ぐキュウに、ミバルは声をかける。
「薪なら木こりだから、俺が自分で用意するよ」
『木こりっていっても、素手じゃ薪は用意できないでしょ?』
「いや、斧はちゃんと持ってるよ。使い古しでボロいけど」
そう言ってミバルが汚い布袋から小振りな斧を取り出す。
ミバルはずっとその布袋だけは唯一の私物として抱えていた。だがあまりにもボロボロだったために、キュウは存在に気が付いていなかった。
『なんだか小さい斧だね。君みたいに大きい男の人には使いにくそうだけど』
「子供の頃から使っているから、確かに小さいかもしれない。でも俺は使い慣れているし、持ち運ぶのに邪魔にならないんだ」
そう言ってミバルが持ち上げた斧の刃はピカピカに光っていた。使えないことはないだろう、とキュウはミバルに薪の用意をまかせることにした。
『火をつけるための小枝と、切った木を乾燥させるのはまかせてね!』
「お、助かる。そらよっと!」
ミバルが洞穴を背に、森に向かって斧を振り上げた。
『――!?』
その瞬間、キュウは場の空気が変わったような気がした。
ミバルによって斧が必殺の一撃を放つ!
視界に広がる森が、あっという間に遠ざかっていく。一帯の木々が一撃で根本から切られて倒れる間に、ミバルによる二撃目、三撃目、四撃目が放たれる。
そうして地面は木片に覆われた。
「しまったな……。服を乾かしたいだけなのにやりす……ふえっくっ!!」
キュウはくしゃみをするミバルの後ろで呆気にとられて沈黙していた。