愛し子本人ではないので(パート2)
――あの勲章を、見知らぬ男が差し出している。
ジューンは驚きのあまり見つめることしかできなかった。
「これは、まさか……キュウの……」
忘れるはずがない、妹の持ち物だ。
だが、言葉がなかなか口から出てこない。男の口から「キュウ」の名前が出てきたのも、混乱に拍車をかけた。
(あの子が助けを求めている……!?)
とても信じられないが、そうに違いなかった。
(魔王や勇者様たちと封印されて、封印が解ける半年後の救助の準備を進めているのに……それでは、何かが間違っているの?)
と、その時。
「この不審者〜!!」
目の前の男に三つの人影が飛びかかる!
「水!」
男の真上から大量の水が落下する!
「土!」
「風!」
男を中心に風が起こり、急激に盛り上がった周囲の土が巻き上げられる!
「ブハッげっほげほげほごほごほごっほ」
水浸しになった体に土がくっつき、視界を塞がれ、土が風によってぶつけられるので息がし辛いという、牽制の攻撃がミバルを襲う!
「姉さまに何かしようとするならただじゃおかない!」
「姉さまから離れろー!」
「や、やめさない! ナナ! ハチ! この人のブローチは――」
魔法を使える妹たちの暴走に、ジューンは我に返った。
だが、今度は木刀を構えた三人娘が突撃してきた。
そしてその後ろに、大きさのばらついた箒を持つ新手の三人もついてきた。
「姉さま〜! 下がって!」
「姉さま逃げて! こっちだよ!」
「あの人が持ってるのってキュウお姉ちゃんの――」
「お姉ちゃんたち、それはやりすぎだよ!」
「あの人たちは!? あの三人も危ない人じゃないの!?」
「あの、でも、話はきいた方が……」
『あーあーあーもう! 違うって! あの子達は姉さまに何かあると、私より物騒なことをするんだから!』
大混乱の姉妹たち。各自の行動もバラバラである。
ジューンたちは気が付いていないが、キュウは呆れている。
『冷静になりなさーい!!』
――そうして、ちょっとだけ本気を出したキュウによって、騒動は収まった。
具体的に説明すると。
土を巻き上げる強風が吹き荒れていたのが無風となり、ミバルの全身に綺麗な水が大量に浴びせられ、ジューンとミバルたち四人だけが空へと飛び去ってしまったのである。
精霊の力だとわかって「あらぁ〜」との言葉を残すジューン、急な出来事に悲鳴を上げるケンとミライ、楽しそうなジャック、水浸しでぐったりとするミバルの後を、慌てて姉妹たちは追いかけていった。
その一部始終を見ていた民衆の間に、
「精霊の力は借りることができているので、精霊の愛子なのだろう。だが乱暴に水をかけられただけの様子は、精霊に愛されているようには見えない。むしろ嫌われているのでは……」
と、精霊の愛子らしき謎の男への同情が漂ったのであった……。




