一つの約束の記憶
「キュウお姉ちゃん!」
「おかえりなさい!」
「みんなただいま! あ、みんな背が伸びたね! あんなに小さかったイチカも!」
「育ち盛りだから!」
キュウへ妹たちが飛びついた。ジューンはその様子を微笑ましく見ていた。
キュウは一年前の旅立ちの時、同じように妹たちに抱きつかれていた。その時と全く同じ状況のはずだったが、妹たちの外見の違いから時間の経過がはっきりとわかる。
その変化の分だけ、姉妹たちはキュウに話したいことがたくさんあった。
(今日だけでは、きっと話し足りないでしょうね。私の話は無事に魔王討伐から帰って来たら、にしましょう)
そう思い、ジューンは妹たちの談笑を見守ることにした。
「宝石がいっぱいついてる!」
「きれーい!」
「本当にキュウお姉ちゃんの名前がある!」
再会の言葉もそこそこに、年頃の娘らしく、宝石のたくさんついたブローチが話題の中心となった。
「でも、壊したりしたら……」
「もしかして……精霊協会の寄付金なんかじゃ足りないくらいすごいお金がかかるの……?」
「キュウお姉ちゃん! 絶対! 壊しちゃだめだよ!」
「命がけで戦ってる時に、壊れるんじゃないかって気にするのは無理だよ」
「無理でもダメ〜!」
「もう出しちゃダメ! つけちゃダメ! しまってて!」
「えーっ! まだ私ちゃんと見てない〜!」
一年ぶりの再会は、一年という空白があったということなどなかったかのようににぎやかだった。
「精霊さんたちに戦ってもらっているから、あんまり怪我したり、物を壊したりはしないから大丈夫だよ! ……でも、魔王との戦いでは命がけになるだろうから、どこかに置いていきたい……だけど勇者様には肌身放さず持っていろって言われちゃったし……」
「何かがあって、誰かに助けてほしいときに見せるのに使うんでしょ? 街の偉い人とかに協力してもらうのって、外国では難しいって手紙に書いてくれてたよね」
「そういえばそうだった。助け、かぁ……。魔王と戦うんだから、魔王候補なんてハンパなモンスターとは違って、ピンチになることもあるのかもね。私が動けないときは、他のモンスターハンターに届けてもらったりとかして……」
キュウが心から守りたいと思い、心から信じている姉妹たち。
彼女たちの共通点は、同じ日に精霊協会へやってきたという点だ。出自も、精霊協会へやってきたきっかけも年齢も、みんなバラバラだった。ただ「同じ日に出会った」ということを理由に、十人は姉妹になった。
キュウが誰かに助けを求めるという出来事は、あまりない。大体は精霊がなんとかしてくれる。そして大抵、(手段を選ばなければ)精霊に解決できない問題はなかったりもする。
でももしキュウが、人に頼りたいと思うとしたら――誰よりも大事な姉妹たちに頼ろうとするはずだった。
「じゃあ、この勲章を持ってきて『キュウがピンチだ』って教えてくれる人がいたら、力になってあげてね」
それは小さな約束だった。
(私たちが負けるわけないけどね!)
キュウは内心ではそう思っている。
だからそれは、キュウから姉妹たちへの信頼を滲ませる、それだけの言葉になるはずだった。




