きらびやかなブローチ
これでわかる! ざっくりあらすじ!
ミバルは代々きこりの家に生まれた、新米モンスターハンター。
ところがパーティーを組んでいた仲間に、危険地帯で置き去りにされてしまう!
命の危険にさらされたその時、勇者パーティーの一員であるキュウに出会う。
キュウに助けられ、助けを求められたミバル。道中で得た仲間と共にキュウの姉である聖女ジューンとの接触に成功する!
聖女ジューンがそのブローチ――勇者パーティーへの「勲章」を見たのは、一年ぶりだった。
キュウが魔王の討伐へと向かう前、最後に会った時だった。
「勇者たちよ! 一年をかけ、全ての魔王候補を討伐したその功績を讃える! 今ここに、ニオン国の勇者の証を授与する!」
魔法で空に映し出される授与式に、歓声を上げる民たち。
「センドー国の森に残っている、最後の強大なモンスターが今代の魔王であると、モンスターハンター協会が正式に認定した。歴代の魔王と同様に、モンスターがモンスターを操り、一つの軍のように人間の国へと攻めてくるようになるまでは今しばらくの猶予があるとの予想だ。今日は久しぶりのニオン国で羽を伸ばし、魔王討伐へと向かうのだ!」
勇者パーティーへの期待を込めた発破に観衆が盛り上がる。
勇者パーティーの胸にある輝きは、彼らの未来を祝福しているように見えた――
「これ、ここに置いていっちゃダメかな?」
「ダメよキュウ。持っていきなさい」
――肝心の勇者パーティーには、きらめく宝石で出来た高価なブローチも、ただの荷物扱いなのだが。
「いらない! 邪魔!!!! こんなの用意するお金があるなら! モンスターの襲撃のせいでずっと家に帰れない人たちに使えばいいのに!!」
授与式では「若き天才精霊術士」と呼ばれて大人しかったキュウだったが、今は久々の帰宅とあって好き放題に騒いでいた。
精霊協会の聖女専用として用意されている居室での再会だった。ここでならどう振る舞おうと話が漏れることはない。
やや空は暗くなってきていたが、街中の賑やかさはずっと聞こえてくる。授与式の興奮は人々をまだ熱狂させていた。
そんな熱狂などどうでもいいといううんざりした表情を浮かべ、熱狂の中心人物の一人であるキュウが気怠げに摘むブローチ。色とりどりの小さな宝石に飾られ、キュウの名前が中心に配された勲章はもちろん、特注品だ。
それをジューンは間近で見たのだった。
「困っている人々のために――そう言いたくなるのはわかるのだけど。宝石がいくら高価であっても、欲しいと思う人が買ってくれなければお金にはならないのよ。その大きさの宝石だと、お金持ちのお眼鏡に叶わないのではないかしら」
ブローチの宝石は確かに美しく、数もたくさんあるが、その一つ一つはかなり小さい。勇者パーティーへの贈り物にするために献上する方が、使い道としては大きい効果を持つかもしれないとジューンは思った。
「あなたたちの功績を讃えるために、お金ではなく、食べられるわけでもない宝石が使われるのであればいいのではないかしら?」
「そう……かな……」
「そういうことだ。それに、大きな財を持たないながらも、自領から掘り出した宝石を是非とも俺たちに贈りたい、と献上してくれた貴族たちもいる。だから捨てようとはしないでくれ」
「まあ。やっぱりそうだったのですね、殿下」
――そして、勇者パーティーの中心人物でもある、勇者もその場にいた。ニオン国王弟の息子だ。
ニオン国の先祖は、異世界からやってきた「最初の勇者」であるという。その先祖の特徴だと言われる黒髪を備えた好青年だ。
「一年ぶりだね、ジューン。姉妹の団らんを邪魔したくはなかったんだが、明日にはもう出発だから時間がなくてな。無理を言ってすまない」
「いいのです。殿下はいつもキュウとともに旅のお手紙を送ってくださっていましたから、手紙ではなくこうして話す機会が得られて嬉しいです。あれほどお手紙をいただいたのに会わないだなんて薄情なことは言いませんよ。キュウともこうして打ち解けている様子が見られて安心いたしました」
「おねえちゃ……姉さま、もう勇者様は悪い人じゃないってわかったって、そう書いたでしょ……」
クスクスと笑いながらキュウを見つめるジューンに、キュウは恥ずかしくなってそっぽを向く。
「呼び方を無理に大人っぽくしなくてもいいのよ? 私がキュウのお姉ちゃんなのは変わらないんだから。あなたの成長もわかっているわ。半年前から、別々に届いていたキュウと殿下の手紙が一緒に届くようになったのは、殿下が悪い人じゃないってわかって仲直りしたからなんでしょう?」
「初めて会ったときは、精霊の力で精霊協会から追い出されたんだよな……今となってはいい思い出だよ、キュウ」
「だから話も聞かなくてごめんなさいって謝ったでしょうが!」
二人に満面の笑顔を向けられたキュウは、クッションで顔を隠してしまった。
「こんな頑固な妹ですが、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、大事な妹を借りている。必ず魔王を倒し、キュウを無事にここへ送り届けよう」
「……もちろん、殿下も無事にお帰りになってくださいね」
そのやりとりを、扉の隙間から八対の眼が覗き込んでいた。勇者様、あるいは王子様がいる場所に踏み込めないと思いつつも、そろそろ久々の姉との再会が待ちきれないのだろう。
「大丈夫だ。勝利の凱旋を楽しみに待っていてくれ」
そう言って彼が去ると、八人が入れ替わりに部屋へと突入し、にぎやかな笑い声が響いた。




