これが目に入らぬか
みるみるうちに四人の体が地面へと迫ってくる。受け止めるには勢いがありすぎて、イチカはおろおろとするばかりだった。だが、四人が再び精霊の力によって飛ぶ様子はなかった。
(彼らの「愛し子」は、気まぐれ程度にしか精霊に構ってもらえないとか、そういうことなの!? ああ落下が止まらない! 箒じゃ受け止められないし、ナナお姉ちゃんとハチお姉ちゃんの魔法でも四人を浮かせるなんて無理だし! どうしようどうしようどうしよう――)
周囲の人混みからも悲鳴が上がる。
姉妹たちも、落下だと気が付いた者と気が付いていない者で動きがバラバラだ。
そこでただ二人だけが冷静だった。
「こちらへ降ろしてください!」
『さすがは私の自慢のお姉ちゃんだ!』
ミバルの耳に、二人の声が続いて届いた。
イチカの目の前で、ジューンに向かって四人の体が落ちていく。
だがジューンの頭上で、見間違いかと思うほどの一瞬だけ、四人が光に包まれた。
その輝きの瞬間から、四人の落下は緩やかな降下に変わった。落下中は体勢も整っていなかったが、自然と着地できるように体がゆっくりと傾いていく。
「精霊様が聖女様の願いに応えてくれたんだ!」
「聖女様があの人達を助けたんだ!」
「よくわからないけど、聖女様に助けてもらえてよかったー!」
「聖女様はやっぱりすごい人だなぁ!」
すっかり歓声の中心となった聖女は、人々に笑みを浮かべて応えている。
……これほど四人を助けたことを支持されてしまうと、姉妹たちは不審者な四人の着地を邪魔できない。聖女の慈悲を無下にしたと騒動が起きかねない。
しかたなく姉妹たちは、何かが起きてもすぐに飛びかかれる位置で見守っている。
『ほら、姉さまはちゃんと助けてくれたでしょ?』
そういう問題ではない。
(キュウ! あとで説教だ!)
『私をなんだかすっごく見てるけど、そんな場合じゃないよ! 姉さまに声をかけるチャンスはもう、これが最初で最後なんだから!』
(そうだった! あとで覚えてろよ……!)
この時のために、ミバルがジューンと顔を合わせるような配置で飛ばした(そして落とした)のだ。
キュウの姿も声もわかるミバルが四人の代表だ。
「あなたが、空を飛ぶ力を精霊さんにお願いした愛し子かしら? 精霊さんったら、あんな高いところに連れて行ってくれたのに、落とすなんてどうしてしまったんでしょうね」
そしてミバルたちが待ち望んだチャンスが、ついにきた。
ミバルの後ろで「本物の聖女様だ……」「神秘的……」とすっかり目的を忘れた様子の兄妹の呟きが聞こえてくる。「すごい癒し系美人だなぁ」という呟きも混ざっている。
「……」
顔を強張らせたミバルが、何かを差し出した。
見守っている姉妹たちの間で緊張が走る。
(大丈夫だ、キュウのお姉さんへの挨拶はちゃんと考えてきた! ちょっとあやふやだけど、昔に、酒屋の店主が娘婿さんにされてた「大人の挨拶」ってやつをちょっと変えればいい! ……はず)
「これは、まさか……キュウの……」
差し出された何かを見た聖女の顔色が変わり、姉妹たちがミバルへと突撃する!
「はははじめまして! きゅっキュウさんといいお付き合いをしさせてもらっていますですのでそのこれを見てほしくて信じてほしいです!!」
――百点満点なら10点程度の公開挨拶だったが、この時、重要なのは言葉ではなかった。
ミバルがジューンに差し出したのは、キュウが魔王との対決前に「置いていった」と言っていた物。
大量の宝石による飾りが素晴らしい、キュウの名前入り勲章だったのだ――




