大きな障害
キュウはショーカの町をどんどん飛んでいく。
街に入る前からその大きさでミバルたちを圧倒した王城が、どんどん近づいてくる。聖女ジューンがいるのは、街の中でもかなり奥の方らしい、
「ところで、聖女様にはどう会うって話なんだ?」
ケンがミライに声をかける。
「キュウさんが知る限りでは、いつもこの日時で聖女様が民衆に向けて言葉を贈る会があるんだって。その会は誰でも参加できるから、まず会場に向かってるってワケ」
「おい、あの人だかりがある場所が会場なんじゃないか? さすが聖女、大人気だな!」
「すごいな! でもあれだけ人がいたら、キュウはともかく俺たちは進めないぞ!?」
ジャックがはしゃぐ横でミバルが人の多さに怖じ気づく。
だが無理もない。
人の数も多いが、何より気迫が違ったのだ――
「ジューンさまあああああああ!!!! うおおおおおおおおおおおおお!!!! ジューンさまあああああああああ!!!!」
「聖女様あぁ!! あ、もう、ダメ……」
「こっちでも人が倒れたぞー!! 早く来てくれー!! 『聖女様の威光に感激し過ぎ倒れ』がこっちでも起きたぞー!!」
「遠すぎてはっきりとお顔が見えないわ! 声をかけても聞こえないし……。ああ、たくさんの障害に阻まれ引き裂かれる……でもそれが聖女という偉大すぎる宿命を背負ったあの方に焦がれる私への試練なのですね、精霊様……」
「聖女様あぁー!!!! 素敵ー!!!!」
「聖女様、精霊様、どうか今日もニオン国をお守りください……」
「うおおおおおおおおおお!!!! あなたのためならモンスターがたとえ百体、いや千体押し寄せようともおおおおおおおおおおお!!!!」
「ぎゃあああああああああ!!!! うづぐじいいいいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「――こいつら、ヤバいんじゃないか?」
ジャックの呟きに同意するミバルであった。
熱狂。
絶叫。
それらは、礼賛、敬仰、崇敬――個々で形を変えながらも、間違いなく「聖なるものへの祈り」だった。
が、ヤバいものはヤバいのだ。とても「ちょっと通してください」などと声をかけられる様子ではない。
この興奮ぶりと人だかりでは、ミバルたちでも彼らを押しのけることなど不可能だった。
聖女の姿もほとんど見えないのだが、人々にはそんなことは些事であるらしい。
「聖女に声をかけるどころか姿すら見えないな。これからどうするんだ?」
そう言いながら、ジャックがキュウに視線を向けると――
『ジューン姉さま〜!!!! 素敵〜!!!!』
「お前もか!!」
ミバルはツッコんだ。自らと同様に半透明な大きな布を両手で掲げて、キュウは興奮状態である!
「おい、あの布ってもしかして、魔王討伐の時も持っていたってことか?」
(魔王との戦いにいらないものは洞穴に置いていったと言っていたはずなのに……!? あれは戦闘に使わないものだよな……!?)
ジャックの言葉に、ミバルはますます驚いてキュウを見つめた。
(まさか腰につけている小さなバッグの中身がそれだったとか、そんなことない……よな……?)
ミバルが疑いの眼差しを向けているが、キュウは気が付かない。
『姉さま〜!!!!』
「キュウさん、この人たちくらいかそれ以上に、聖女様が大好きなんだね」
声だけでもそれがわかるので、ミライが苦笑いする。
「噂だとキュウが好きなのは勇者だってなっていたが、この様子だと姉のことが一番好きそうだな」
ジャックがぼそっと呟いた。
「キュウさんが落ち着くまで、とりあえずはぐれないように気をつけようか」
キュウの様子がわからないなりに察したらしく、ケンが話をまとめたのだった。




