勇者パーティーの噂話
「こんなに人がいるってことは、今日は何かの祭りなのか?」
ショーカの賑わいぶりに真面目な顔で言うミバル。ケンとミライは顔を見合わせて笑う。
「これがこの街の普通だぞ! すごいだろう! ここが俺たちのニオン国だ!」
「……と言っても、私達もショーカに来るのはまだ二回目だけどね」
「あ、こらミライ、バラすのが早いぞ」
「だって、物知りですって顔をしたいのはやまやまだけど、ショーカの街のこと何も知らないからできないし、キュウさんが一番詳しいから」
「う……そうだけど、ちょっとくらいいい顔したかったな……」
『仲がいいなぁ』
キュウは二人の様子を楽しそうに眺めている。
「年子の兄妹だから、言いたいことはお互いに遠慮なく言うよ。ケンカも多いんだけどね」
仲がいいと言われ、ミライは満更でもなさそうだった。
「キュウさんのお姉さんは、ニオン国を守護する聖女様のことだよね?」
『そうだよ! ジューン姉さまは精霊協会でずっと一緒だったんだ』
「キュウさんも聖女様も、精霊協会の元で育ったの?」
『私や姉さまは流行り病で両親が死んじゃったから。モンスターのせいで家族がいなくなった子も、そういうのじゃなくて親に置いていかれちゃった子もいたよ。でもみんな家族だって言われて育ってきたから、結構楽しかったな〜』
「聖女様の昔話、すごく聞きたい! でも……これからその聖女様に会いに行くって、緊張する……! ショーカの街を中心にニオン国を守る、歴代でも優秀な聖女様なんでしょ!?」
『昔から頭がよくて優しくてしっかりしてて、みんなのお姉ちゃんだったよ! 美人でかわいくて、私と同じくらい精霊たちに好かれてて、――勇者パーティーにも、本当はお姉ちゃんが入るって話だったくらいだよ』
つまり、キュウの姉である聖女ジューンは、非の打ち所のない完璧な女性であるらしかった。
「キュウさんだって、モンスターハンターの年齢制限を超えて勇者パーティーに加入した実力者じゃない!」
「そういえば聖女様が勇者パーティーに加入しなかった話って、しばらく言われてたよな。勇者のファンが勇者と聖女様が親しくならないようにパーティー加入の妨害をしたとか、聖女様を王都から離したくない王族の邪魔があったとかって噂がさ」
『そんな噂があったんだ……』
キュウとミライ、そしてキュウの表情も言葉もさっぱりわからないケンの三人が、奇妙な会話を成立させている時――
「……ミバル、今の話はキュウちゃんの前でつっついたりするなよ」
「へ? なんでだ?」
ジャックがミバルとひそひそ話をしていた。ジャックはニオン国の出身ではないからか、キュウや勇者パーティーの話題への向き合い方が、ケンたちよりもゆるい。
「聖女じゃなくて、キュウちゃんが勇者パーティーに加入したことの噂は他にもあるんだ。キュウちゃんが勇者を好きだから、聖女を押しのけて加入したというものがな」
「キュウが勇者を好き!?」
「ほら、キュウちゃんって勇者の話をするといつも褒めてるだろ。ありうるぞ」
「言われてみれば……」
(キュウは勇者が好き……? 考えてもみなかった……)
ミバルはなぜかショックを受けた。予想もしなかった噂を聞かされたせいだろうか。
「……ところで、キュウちゃんの様子がなんだか妙じゃないか? 久しぶりに姉に会うって顔にしては緊張してるな」
「そういえば、キュウのお姉さんを守っているっていう人に、追い払われるかもって言っていたような……」
「守っている? ムキムキ筋肉男の護衛がたくさんいるのか……?」
「それが、他の妹たちだって言ってたんだ」
「ムキムキ筋肉女の護衛!?」
「いやムキムキなのかどうかは知らないぞ!?」
『ムキムキって?』
会話の最後だけキュウに聞かれてしまったようだ。ジャックとミバルは慌てて「なんでもない」と誤魔化し笑いするしかなかった。




